フィロソフィア

藤冨 幹臣

第五話

シュポッ。
『アッティラ』

「……あ、アッティラ?」

ゆらゆうすけはこんらんした!!

          〇

そして、翌日である。
今日は土曜日ということもあり、美奥(とみおき)町時計台の周辺は沸き上がるような活気と熱気に包まれていた。さながら祭りである。

「あっ、豆助っ」
「……」

本当に居た。

昨日の夜、母に強制的に『是非、私の家で遊びましょう』と打たされた。ひどいものだと思わないか。強制的にだぞ、強制的に。そのメッセージに対して、由良は『うん!!』とキャラを忘れ大喜び。

本当に一人が好きなのかなあ? 聞きはしない。聞いたところでおおよそ返ってくるであろう答えはわかっている。
もう、そういうものなのだと諦めてしまおう。

時計台を見て、何か不思議な感覚に陥る。
夏バテだろうか。いいや、それはない。ちゃんと夏バテ対策にノーパンで来たのだから。

何かが頭の中で疼くような感覚。
無理矢理這い出てくるような。

―――眼が痛い。
痛い、激しく痛み始める。

チクタク……と時を刻む音だけが妙に賑やかだ。

「―――すけ」

痛い……何かを思い出しそうだ。

『由良、俺はお前を―――』

「豆助ッ」
「ハッ!? ハァッ……ハァ…ハァ…」
「大丈夫か…豆助」

『―――愛しているよ』

全て。全て、思い出した。

私は、目の前の男を見やった。私の事を心配そうに見つめる、昨日からの戀人。
以前の私が求めてやまなかった『戀人』というものを、今の私は持っている。
全て、思い出した。
由良の将来も。全て、全て……。

「由良…」
「な、なんだ?」
「心臓には気を付けてくれよ」
「し、心臓? わかった…気を付けよう」
「それに、事故」
「ああ」

それに、それと…あと…涙が溢れてくる。再開できたのだと、私は、時計台近くのテントから流れる夏のひどく憂い曲をBGMに涙を存分に流した。そして一言。

「由良…ッ」
「な、なんだ? 今度は」
「愛している」

ずっと、言いたかった言葉。お前が亡くなってから、もう言えなかった言葉。

「…ああ、ボクもだ」

由良は心底嬉しそうに、そう言ってくれた。

          〇

中身に二十一歳時の記憶があるのですが、精神年齢は変わりますか? という誰かが言いそうな質問に対して、答えよう。やあ、私だ。

その答えは簡単。変わらないよ。事実、私は、ずっと変わらなかったね。

良いね、変わらないとは。

それにしても、私が由良を殴らなかった世界だ。
ここで私は、由良を取り戻した。うむ…どうやったのかはわからないが、ここは私の願いが叶ったとでも思っておこう。

チリンチリン……と風鈴の音が私の心を爽やかなものへと変えていく。

「目の中に時計がある…ようにしか見えないな」
「…これでは、まともに学校へいけないじゃないか!」
「学問に一切の興味がないお前でもそう思うのだな」
「一切は言い過ぎだ!! 馬鹿草薙!!」

 ここは私の家の、バラックである。私の家は無駄に庭と母屋と小屋が広い&でかいのでバラックの一つや二つ有ってもおかしくはない。

「カラーコンタクトにするというのはどうだろうか」
「目に異物をつけるくらいなら目を閉じる」
「そういやおまえコンタクト嫌いだったな」

由良が頬杖をついて私の目を見ている。

「どうした?」
「いや…思ったんだが…」
「うん」
「豆助、元々狐目だから目を全開にしない限りわからないぞ…」

盲点であった。
さすが私の嫁である。私は、由良の聡明に称賛の声を贈った。

「そしてそろそろ名前で…」
「ユウでいいか?」
「愛称ッ! もちろんだ!!」

嬉しそうで何よりだ。
もちろんのことながら、以下、ユウである。

そう言えば、まだユウを姉に会わせていないのだが。

「俺、殺されないよね?」
「遺言は聞いておくぞ?」
「幼馴染にもっと慈悲を」

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