女神様(比喩)と出会って、人生変わりました

血迷ったトモ

第11話 2回目の訪問

 天戸家の屋敷から帰宅した翌日、悠也は朝から警察署にて、参考人として供述した後、署長を名乗るお偉いさんから感謝状を送られ、更には記者からインタビューされ、挙句の果てには写真まで撮られるという、人生でも中々体験することの無い事を、たっぷりと経験していた。

「では、私はこれで失礼させていただきます。」

「ご協力感謝致します。お疲れ様でした。」

「はい。」

 悠也は、出入口まで見送りに来てくれた刑事に一礼しながら、警察署をあとにする。

「さて、これからどうするか。」

 車を運転しながら考える。今は昼過ぎだが、バイトは休みであり、供述も、それほど時間がかかるか分からなかったため、この後は何も用事が無いのだ。

ーん〜。…あの件を、早く片付けるとするか?ー

 思い浮かんだのは、千穂の家に、服を取りに行かなくてはならない事である。

ー借りた服は、特には特殊な生地でもなんでも無かったから、母さんに洗ってもらったし、持って行くとして…。まぁ、取り敢えず、家に帰ってから、アポを取るか。ー

 家に着いた悠也は、紙袋に、借りた服を入れた後、チャットアプリを開き、千穂に今日は大丈夫かと、メッセージを送る。すると一瞬で既読になり、返信が直ぐにくる。

『勿論大丈夫です!』

「何が勿論なんだかは分からんけど、大丈夫なら行くか…。」

 謎に高いテンションに戸惑いながらも、返信する。

『分かりました。では、今から向かいます。』

『はい!お待ちしてます!』

「全く。人生って分かんないものだな。」

 超絶美少女の家に行くのに、相手から歓迎されるなど、数日前の悠也では、想像すらつかない出来事である。
 先日、母に送った位置情報を使い、自宅からの経路を確認し、車を走らせる。


 途中、コンビニに寄り、所用・・を済ませた後、悠也は巨大な鉄格子の門扉の前で、改めて千穂の家の大きさに、圧倒されていた。

「ホント、デカすぎるよな。」

 昨日、少し気になり、天戸家の事をネットで調べたが、関連企業の量が凄すぎて、大富豪という事ぐらいしか分からなかった。その量は、もはや見る気も起きないレベルだったが、パッと見では、名だたる企業名が並んでいた。
 だからこそ、片田舎の郊外とはいえ、圧倒されるほど広大な敷地と、巨大な屋敷が建てられるのだろう。

「さて、どうすれば…。」

 取り敢えず、チャットで千穂に、着いた旨を伝える。すると直ぐに、門扉が大きな音を立てながら、ゆっくりと自動で開いていく。

『どうぞ、お入りください。』

『分かりました。』

 千穂の返信に答えてから、悠也は車を走らせ、中に入る。

「しっかし、何だってこんな辺鄙な所に建てたんだろう?」

 この屋敷があるのは、市街地よりも少し高くなった、段丘の上で、鬱蒼とした木々が生い茂った地域である。
 住むにしては、随分と寂しく、中々に物騒な場所だ。

ーまぁ、自分には関係の無い話か。ー

今後は、よっぽどの事でも無い限り、ここには訪れるつもりのない悠也は、無心で車を走らせる。
 そして、屋敷の前に設けられた駐車場に車を置くと、インターホンを探す悠也。

「ん?インターホンが無いな?とすると、これか?」

 悠也の視線の先には、何とも古びたドアノッカーがあった。鷲が象られていて、見るからに高級なのが分かった。
 恐る恐るそれを掴み、『コンコン』と鳴らしてみる。すると、少し軋んだ音をたてながら、内側からドアが開かれる。

「お待ちしておりました、悠也様。お嬢様が応接室でお待ちですので、そちらのスリッパに履き替えてから、着いてきてください。」

「は、はい。分かりました。」

 出迎えてくれたのは瀬奈で、畏まった口調で頭を下げられた悠也は、むず痒そうにする。

「あの、瀬奈さん。」

「はい。」

「出来れば、様付けは止めて頂けると助かります。」

「…そうですか。では、悠也さん、とお呼びすれば良いですか?」

 悠也の言葉に、瀬奈は少し驚いた顔をしながらも、呼び名を提案してくる。

「はい、それでお願いします。」

 出来れば、下の名前で呼ばれるのも止めてほしかったが、取り敢えずは様付けを止めさせる事に成功したため、満足する事にした。
 
「では、ご案内します。」

 瀬奈が、迷子になりそうなほど広い屋敷の廊下を、先導して歩いてくれる。決して方向音痴という訳でも無い悠也ですら、一度来ただけでは、応接室に辿り着く事が、難しいと感じる程である。
 そんな廊下を歩きながら、悠也は瀬奈の背中を追う。

ー…何か瀬奈さんと天戸さんって、雰囲気似てるな。自分とは格が違うっていうか、高貴な雰囲気を帯びてる感じか?ー

 そんな事をぼんやりと考えていると、見覚えのある場所で、瀬奈が立ち止まった。

「こちらに、お嬢様がいらっしゃいます。では、私は失礼致します。」

 そう言うやいなや、華麗に一礼してから、瀬奈は元来た道を戻っていく。

「え?」

 あまりにも唐突だったので、悠也はそれを間抜けな表情で見送る事しか出来なかった。
 そして、応接室の目の前に、1人取り残された悠也は、中に入ろうとして、緊張のあまり、ゴクリと唾を飲み込む。

ーいやいやいや!おかしいだろ!何処の馬の骨とも知らん奴を、自らの主人と2人きりにするとか!というか、俺の方から頼むから、戻って来て下さいよ!瀬奈さん!ー

千穂の美貌を思い出し、扉に手をかけるのを躊躇してしまうのだった。

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