女神様(比喩)と出会って、人生変わりました

血迷ったトモ

第7話 あ、ありのまま、今起こった事を話すぜ!

 自身の記憶を引っ張り出している悠也の視界に、とあるものが入り込んでくる。

「はて?これは、ベル?」

 悠也の視線の先には、彼の携帯が置いてあった方とは反対方向の、ナイトテーブル上にある、いわゆるハンドベルがあった。

ーこれって確か、人を呼んだりするのに使うよな?ふむ。試してみるか?ー

 ナイトテーブルに近付き、その手にハンドベルを手に取った悠也は、恐る恐る鳴らしてみる。
 『カランカラン』と耳障りの良い音が鳴り響き、そのまま5秒ほど後、部屋の扉がノックされ、開かれる。

「お待たせいたしました、悠也様。如何致しましたか?」

 扉から入って来たのは、現代日本においてはとある特殊な趣味をお持ちの方達が大勢集まる、東京のとある地域でしか見ないような、そんな格好をした、綺麗な黒髪の、若い女性だった。

ーこ、これは、清掃、洗濯、炊事などの家庭内労働を行う女性の使用人である、メイド・・・さんなのか!?リアルでガチなやつ!?ー

「悠也様?」

「へ?あ、その、ここって何処なのかなと、思いまして。」

 『様』が付いている事にむず痒さを感じつつも、取り敢えずは聞きたいことを口にする悠也。

「ここは、天戸家が所有する屋敷でございます。現在は、千穂様がお1人で住まわれてます。」

ー天戸!?ということは、昨日はあの状態のまま、お持ち帰りされたってことかよ!バイト場から車まで運ばれ、その後は着替えまでしたのに、ぐっすり眠りこけてたと…。鈍感過ぎる!ー

 メイドさんに告げられた言葉に落ち込みながらも、質問を続ける。

「えっと、じゃあ、天戸さんはどちらに?」

「先程、悠也様がお電話される声がしましたので、既に呼んでおります。もうそろそろで、いらっしゃるかと。と、噂をすれば影、でございますね。いらっしゃったようです。」

「え?」

 まだ足音も、ノック音も無いのに、何故か1歩引いて、扉から悠也までの道筋を開けるメイドさん。
 その2、3秒後、ドタドタと走る足音が聞こえたかと思うと、勢い良く扉が開け放たれ、金色の女神様、天戸千穂が飛び込んできた。

「目を覚ましたというのは本当ですか!?」

「あ、おはようございます、天戸さん。」

 いきなり入って来た事には驚いたが、取り敢えず挨拶をしておこうと、会釈する悠也。

「お、おはようございます。体調の方は如何ですか?」

 のんびりとした悠也の口調に、自身が慌てて飛び込んだのが恥ずかしくなったのか、少し赤くなりながら、挨拶を返してくれる千穂。

「まぁ、色々と聞きたい事はありますが、取り敢えずは、泊めていただいた事に関して御礼を。ありがとうございました。昨日は、とんでもない醜態を晒してしまい、お恥ずかしい限りです。」

 頭を下げながら言う悠也。『醜態』という部分で、若干遠い目をした悠也は、少女の胸の中で眠りこけてしまった事を、大分気にしているのだろう。

「こちらこそ、危ないところを助けていただき、ありがとうございました。あ、そうだ。瀬奈せな、紅茶を淹れて貰えるかしら?」

「はい、かしこまりました。お嬢様。」

 瀬奈と呼ばれた、先程のメイドさんが、一礼をして下がっていく。

「あ、ちょっと待って下さい。実は母を呼んだ「お待たせいたしました。」ので?え、早すぎません!?」

 そろそろお暇するつもりなので、態々淹れて貰うのも悪いと思い、瀬奈に待ったをかけようとするが、部屋から出てすぐに引き返して来て、その手には銀色の丸いトレーがあり、その上には湯気がたち昇っている紅茶が入ったティーカップと、クッキーの入ったお皿が載せられていた。

ーあ、ありのまま、今起こった事を話すぜ!『メイドさんが部屋を出たと思ったら、次の瞬間には、その手につい数秒前に頼まれたばかりの紅茶を載せたトレーがあった』。な、何を言っているのかわからねーと思うが、俺にも何が起こったのかわからなかった…。じゃ、ねぇよ!え、どうやったら、あんなに早く用意出来るんだ?ー

「メイドですから。」

「え?」

 心底不思議に思っていると、悠也の心でも読んだのか、にこやかにその疑問に答える瀬奈。

「えと、その…母を迎えに呼びましたので、そろそろ着く頃合いだと思うのですが…。」

「瀬奈。悠也さんのお母様を、応接室に通すよう、守衛・・さんに伝えて下さい。」

「え?応接室?」

 何で応接室に通す必要があるのかと、首を捻る悠也。自身を、外まで送り出して貰えれば、それで済む話なのに、態々家の中に招き入れるのだろうか。
 そんな悠也の疑問には、今度は千穂が答えてくれる。

「ちょっとお話がありまして、お時間を頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「は、はい。この後、特に予定は無いので、私は構いませんが。」

 悠也としては、この落ち着かない、高級感溢れる部屋から出て、自宅の自室で面白動画を見て笑い転げていたい気分なのだが、まさかそんな事を言う訳にもいかずに、了承するしか選択の余地は無かった。

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