深海から助ける魚になりたい。

幸夜曇

第4話 コミュ力おばけは強引で大胆だが、まぁそれが良いのか……いや、良くない

「ま、手始めに複数人で中庭弁当でも食べようぜ。俺は購買で買ったパンだけど」

そう言いながらスマホをいじりだした瞬。
手始めに弁当って……ちょっと急過ぎないか?
彼はよほど早く誘いたいのか、電話をかけ始めた。

瞬はしばらくして、「じゃーな」と言ってスマホをしまい、そのまま1年の教室の方に歩いていった。

……あれ、僕は何すれば良いんだ?
渡辺に連絡しろーとか、渡辺の教室行けーとか、お前はやる事全くないから中庭行っとけーとも言われていない。
え? ここにつっ立ってて良いのか? え?

軽度のパニック状態で、近くにはいない瞬を探してキョロキョロしてしまい、周りの人から冷めた目を向けられる。
えー何してんのこいつ。そんな声も聞こえてきた。
すぐにこの場を離れなければ。さもないと僕の高校生活が終了してしまう。

その時。
さっき先生とプリントを持って歩いて行った渡辺さんが、再び近くに現れた。
……チャンスだ。誘おう。

「あの、渡辺さん!!」
「ん、なんですか?」

近くで聞いたことのなかった、低くも高くもない声。ガッチガチな感じが全くしない敬語。
聞いていてとても心地よい。
……でも、周りの視線が痛い。流石モテ女だ。

「今日の昼、一緒に中庭で弁当食べん? 勿論複数人で」

言った。言ってしまった。
これで「嫌」とか言われたらこの事が全校生徒に伝わって僕の居場所が無くなりそう。
それは絶対嫌だという気持ちと、渡辺さんと一緒に食べたいという気持ちを半分ずつ持って、彼女の返事を待った。

「良いですよ」
「ほんま!?」
「あ、はい」

断られた後の事を考えすぎていたからか、良いですよの「す」が発せられる前に声を出してしまった。
そのせいで、彼女とギャラリー(約20人)が引いた気もする。
……お願いだ。拡散するならOKを貰った事だけにしてくれ。

「叶おまたせ、彼女連れてきた……渡辺じゃん。叶遂に告白したのか?」
「告白はしてない!! ……あっ」

……瞬め。
さっきは良い奴だなって思ったのに、やっぱりそういう一面があるんだよな。
絶対バレた。渡辺さんが好きだって事。

……高校生活終了の鐘の音が、何処かの神社から鳴った気がした。





          

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