箱庭の神様
土地神様の花嫁御寮 02裏
仕切り直しを拒まれた腹いせでなど、あろうはずもなかった。
ただただ、かなでに己の魔力を飲み込ませるのが楽しくて。交わした約定が、叶が思うよりずっと強くかなでの抵抗を抑えつけていることに気付きもせず。止められないのをいいことに、もっと、もっとと夢中になって。
腕の中でぐったりとしてきた体に気付き、叶がはたと我に返った時。注ぎ込まれた過剰な魔力で、かなではすっかり酩酊していた。
「あーあ」
そこへ、ひとまず影の中へと隠れていた「成れの果て」が、またずるずると這い出してくる。
「さすがにやりすぎだろ」
まるで我がことのよう上げられた声の非難がましさに、己の非を自覚する叶は返す言葉もなかった。
「その子が御主人様でよかったな。でなきゃとっくに、お前の虜だ」
盲目的に従わせることなど、望んではいない。かなでの意思を曲げようなどと考えたこともなかった叶は、「成れの果て」の言葉が想起させる「もしも」に心底怯え、ぶるりと体を震わせた。
「うぅん……」
縋りつく腕に苦しいくらい抱き締められたかなでがむずがるよう身動いで、どこか焦点の定まらない、虚ろな瞳を瞼の下から覗かせる。
そして――
「かなえ、もっと」
巡る魔力に火照った体を押しつけながら、叶の上で腰を揺すった。
「――駄目」
「目覚めの血」によって個を確立した叶の感性は、真性の人外よりもむしろ徒人のそれに近い。
明らかに正気でないかなでに言われるがまま魔力を与えてやれるほど、叶にとってかなでの「駄目」は軽くもなかった。
血の主人であるかなでが、酔っぱらいの戯言には取り合うべきではないと、そういう考えの持ち主だから。叶もそれに倣い、人外としては狂気的なまでの――徒人としては至極まっとうな――理性でもって、主人の言葉に無条件で従おうとする本能をねじ伏せる。
かといって、与えられた熱を持て余す体をそのままにしておくこともできなくて。遠慮無くしなだれかかってくる体へ、叶は気休め程度の手を這わせた。
「んんっ」
しばらくの間ぐらぐらと不安定に揺れていたかなでの頭がそのうち、落ちるような勢いで叶の肩へと乗せられる。
「きす、して」
くすぐったいくらいの弱々しさでがじがじ、首元の肉を食まれる感触に、叶の体は恐怖と別の理由でぶるりと震えた。
主人の鮮血。そこへ溶け込む感情を糧とする叶に、本当の意味で肉欲などありはしないのに。口先だけでも求められてしまえば抗い難いものがあることに、叶は気付かされる。
「駄目、だってば」
「なんでぇ……」
ぐらぐら、ぐらぐら。
かなでの頭ではないものが、叶の頭の中でしきりに揺れていた。
「――仕度ができた」
そこへ、いつしか待ちわびていた声がかけられる。
腕に抱いたかなでごと。叶は躊躇いもせず、そのままどぷりと影に潜った。
ただただ、かなでに己の魔力を飲み込ませるのが楽しくて。交わした約定が、叶が思うよりずっと強くかなでの抵抗を抑えつけていることに気付きもせず。止められないのをいいことに、もっと、もっとと夢中になって。
腕の中でぐったりとしてきた体に気付き、叶がはたと我に返った時。注ぎ込まれた過剰な魔力で、かなではすっかり酩酊していた。
「あーあ」
そこへ、ひとまず影の中へと隠れていた「成れの果て」が、またずるずると這い出してくる。
「さすがにやりすぎだろ」
まるで我がことのよう上げられた声の非難がましさに、己の非を自覚する叶は返す言葉もなかった。
「その子が御主人様でよかったな。でなきゃとっくに、お前の虜だ」
盲目的に従わせることなど、望んではいない。かなでの意思を曲げようなどと考えたこともなかった叶は、「成れの果て」の言葉が想起させる「もしも」に心底怯え、ぶるりと体を震わせた。
「うぅん……」
縋りつく腕に苦しいくらい抱き締められたかなでがむずがるよう身動いで、どこか焦点の定まらない、虚ろな瞳を瞼の下から覗かせる。
そして――
「かなえ、もっと」
巡る魔力に火照った体を押しつけながら、叶の上で腰を揺すった。
「――駄目」
「目覚めの血」によって個を確立した叶の感性は、真性の人外よりもむしろ徒人のそれに近い。
明らかに正気でないかなでに言われるがまま魔力を与えてやれるほど、叶にとってかなでの「駄目」は軽くもなかった。
血の主人であるかなでが、酔っぱらいの戯言には取り合うべきではないと、そういう考えの持ち主だから。叶もそれに倣い、人外としては狂気的なまでの――徒人としては至極まっとうな――理性でもって、主人の言葉に無条件で従おうとする本能をねじ伏せる。
かといって、与えられた熱を持て余す体をそのままにしておくこともできなくて。遠慮無くしなだれかかってくる体へ、叶は気休め程度の手を這わせた。
「んんっ」
しばらくの間ぐらぐらと不安定に揺れていたかなでの頭がそのうち、落ちるような勢いで叶の肩へと乗せられる。
「きす、して」
くすぐったいくらいの弱々しさでがじがじ、首元の肉を食まれる感触に、叶の体は恐怖と別の理由でぶるりと震えた。
主人の鮮血。そこへ溶け込む感情を糧とする叶に、本当の意味で肉欲などありはしないのに。口先だけでも求められてしまえば抗い難いものがあることに、叶は気付かされる。
「駄目、だってば」
「なんでぇ……」
ぐらぐら、ぐらぐら。
かなでの頭ではないものが、叶の頭の中でしきりに揺れていた。
「――仕度ができた」
そこへ、いつしか待ちわびていた声がかけられる。
腕に抱いたかなでごと。叶は躊躇いもせず、そのままどぷりと影に潜った。
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