雪物語
第28話 気になる話
朝起きると、エリールが部屋にやってきた。
「ユキ様、おはようございます。お客様が来ております。」
「...んん、おはよう、エリール。客なんて帰られて一緒に寝よ...」
「ユ、ユキ様!寝ぼけてるのですか!?」
「いや、ギリ寝ぼけてないよ。放っておいて寝よ?ね?」
「ダ、ダメですよ!ギルドの方が来てるのです。起きてください!」
「じゃあ、今日の夜、寝ようか?」
ニヤニヤしながらエリールに聞く。
断るわけがないと知っているからこそのニヤニヤ顔だ。
「は、はぃ......。」
(やっぱりチョロメイド)
「うん、じゃあその客とやらのところに案内して」
「かしこまりました!」
エリールに案内してもらい、客間に行くとギルドマスターのナクターが座っていた。
「あ!ユキ君!おはよう〜!急にごめんね〜ちょっと気になる話を聞いてね。」
「なんだナクター?」
「えっと裏稼業の人達から聞いたんだけど、この国、王国の東にある小さい国のフルートゥ王国ってところがね...」
「フルーツ王国、なんか美味そうな名前だな?」
「違うよ!!フルートゥ!ツじゃなくてトゥ!だよ!」
「あ、あぁ、そんなことはどうでも良くてその果物みたいな名前の国がどうしたんだ?」
「フルートゥ王国がね、禁忌に手を染めようとしてる...いやしてるんだよね。」
「ほう、気になる話だな。その禁忌とやらを俺に話していいのか?」
「うん、ユキ君に聞いてもらいたいんだ。」
「で、その内容はなんだ?」
「えーと、別世界の人をこの世界に召喚するって言う極めて信じ難い魔法なんだけどね、うん...」
「......なるほどな...。それは勇者召喚ってことか?」
「!?!?な、なんでそれを知ってるの!?」
「いや、少し心当たりがあっただけだ。まさかその魔法が存在してるとは思わなかったけど。それで俺に何をやらせたい?」
「うん、そのフルートゥ王国が本当にそれを行うのか調査して欲しい。行う理由はだいたい予想が付くけど、どれだけの人数になるとかね...。」
「まぁ、小さい国ってところだから他国への牽制、そして、領土拡大のための戦力だろうな。魔王やら獣人に攻められてるだとか他国から奴隷のような扱いされてるだとか上手くいって我がものにしようとしてるんだろうな。」
「うん、その通りだよ。報酬は色々な国からとんでもない額を用意されているの。このアンファングも相当お金を出してるよ。」
「俺がその仕事についていいのか?他国は認めてるのか?」
「ユキ君が仕事をするってことは僕しか知らないよ。だから好きなようにやってくれていい。ただ、大事にはしないで欲しいかな。」
「分かった。明日からそのフルートゥ王国に潜入する。詳しい話は数日経ってからギルドに行く。」
「うん、ありがとう。断られるかと思ったよ。」
「いや、この件、俺に依頼してくれてよかった。とても面白そうなことが起こりそうだからな!」
「なんでそんなに笑顔なの...フルートゥ王国の思い通りになったら戦争に繋がるのに...」
「それを解決するための俺だろ?
もし召喚されたとしても俺というのがいるから好きかって出来ませんよってことを知らしめてやろうとしてるんだろ?なぁ?ナクター」
「驚いたね、君には何もかも勝てる気がしないよ...。」
「報酬は相当貰うぞ。そしてギルドでの融通が聞くようにしてくれ。」
「うん、分かった!よろしくね!!」
「任せろ。」
ナクターが帰り、メイドたち全員を会議室に呼んだ。
全員に明日から仕事で数日留守にすることを告げるとみな悲しそうな顔をしていた。
「みんな、そんな顔しないで。俺も寂しいよ。けどちょっと面白そうな仕事だからさ...」
「ユキ様は無茶をしそうで怖いです。」
メイドたちはみな一様に頷く。
「ははは...うん、終わらせてすぐここに戻るよ。それまでこの家のことは任せるよ。」
「「「「「はい!」」」」」
メイドたちにこの家を任せると言って数時間後、明日に向けて用意をしていた。
(チノ、そのフルートゥ王国の場所はわかる?)
『把握しております。既にマップに印をつけておりますのでマスターなら数時間走れば着くと思われます。』
(おけ、明日になったらよろしく頼むよ)
『かしこまりました』
雪はチノと話を終えてアイテムボックスに数日分の食事や服を入れていた。
まさか自分がいるこの時に勇者召喚がおこなわれると聞いてテンションが上がっていた。
寝る時間になったのでエリールを呼んだ。
少し経つとエリールがやってきたのでベッドに来るよう促した。
「エリールおいで、今日は一緒に寝ようか」
「は、はい!よろしくお願いします!!」
「うん、よろしくね。」
(なにかをすると思ってるんだろうな。俺はまだ手を出さないぞ。焦らして焦らして自分の口から言わせてやりたいしね)
エリールに抱き枕みたいに絡みついて眠りについた。
カレンとは違う抱き心地があり最高であった。
翌日、エリールが悶々としたような表情で雪を送ることは必須であった。
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