冬フェンリルの愛子となった私が、絶望から癒されていく話
(おまけ小話)お花見フェンリル
桜の下でお花見をする。
日本人らしくていいよねえ?
今はまあ、幼い冬フェンリルなんだけどさ。オオカミ型の獣で、しかも活動時期は冬だけどさ。
私は私(エル)だからね!
<お花見しようよ、フェンリル>
<いいぞ>
即決。アンサーありがとう。
春の陽気に、くああっとあくびをしたフェンリルは、地に伏せるようにして私に顔を近づけてきて尋ねる。
なんだか仕草もまったりしている。
<エルがイメージしたのはどのような光景だ?>
<桜が咲いてる木の下で〜、食べたり飲んだりお喋りしたり。それがお花見のイメージ。いずれフェルスノゥ王国でも桜祭りやれたらいいなって思ってるからさ、その前に私たちでお試ししませんか?>
<敬語>
フェンリルは相変わらず、私に敬語を使われることいやがる。
<言葉の綾なんだって〜。ついつい出ちゃうことあるでしょ?>
<無いな?>
<うそだあ。こないだ、王様にわざと敬語使ってあわてさせるイタズラしてたの見たもん>
<見られていたか。ふふっ>
<思い出し笑いしてるじゃん>
フェンリルの白銀のヒゲがピクピク動いてる。
春の毛並みはほのかな桃色なのに、ヒゲが白銀だったり爪は氷色だったりと、冬のなごりがある。
これは一年中変わらない特徴らしい。
<さて、お花見用のツリーフルーツ生やそうっと>
<先日、エルがすっ転んで泣いたときの大粒の真珠があるな>
<悪意なく恥じらわせてくるぅ……!>
<可愛らしかったので、私にとってはひたすらの幸せなんだ>
<このダテオオカミ!>
フェンリルのことをそんな風に言ってると、地獄馬耳が爆速で駆けつけてくるんだよな。
しまった。
<その口の聞き方はなんですかエル様あああ!?>
<グレアストップ、ストップ! 勢いがやばい、私にユニコーンの角刺さる刺さるううう>
グレアから逃げようとあっちにステップ、こっちにステップ。
未熟な春風の魔法を使ってスピードアップ。
追いかけ回されて息が切れてきた。
ぐったりしながらフェンリルの元にぽてぽてと戻っていく。
<ほらエル、氷水だ。草陰に木苺も見つけた。上に桜も舞っているぞ。これがお花見というやつなんだな?>
<ナンカチガウ!!!!>
叫びながら、乾いた喉に氷水を流しこむと、ゴホッとむせた。
やけ食いのように木苺を頬張ると、口の周りが赤く染まる。
走ってめちゃくちゃに乱れた淡い毛並みには桜が絡みついて、小さな桜の木みたいになってしまってる。
美しくないですね……ってグレアがドン引きしてやがる。くそお。
桜の下で自分だけはビシッと美馬ポーズキメよってからに。
フェンリルは桜の木の間で、穏やかに脚をつけて座っている。
眼差しがやわらかくて、ああ見つめられてるだけでも癒されるなあ。
たまにずれたことも言うけど感性の違いってだけで、フェンリルはいつも雰囲気がやわらかい。
春風に揺れる毛並みに埋もれてお昼寝したら、最高に気持ち良さそう。
のんびり近寄って行ったら、ペロリと、口元を舐められた。
<甘い匂いがしていたから>
<キャンッッッッ>
まるで犬のような悲鳴をあげてしまったな。
仕方あるまいよ、なんだこの……なんだこの!!!!
ダテオオカミな仕草をしてからカッコ良く微笑んでいるのはなんなんだよ!
私の口周りが木苺の汁まみれだったからってさあ!
照れ隠しにフェンリルの尻尾のフサフサに埋もれにいくしかなかった。
首元のふさふさはちょっとスマートになっていたから。
<思う存分ダメにしてくれぇ……>
<エルはダメではないよ。ほら見てごらん。オマエが導いた桜がこんなにも綺麗だ>
フェンリルがすっと尻尾をもちあげて、ころげおちた小さな私が見たものは、舞う桜吹雪。
言葉もわすれて見惚れる。
これからもこの春を導こう。
まずは、今年の春を楽しむことからね。
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(あとがき)
ここまで読んで下さってありがとうございます! 今後の冬フェンリルは、
★まんが王国様のコミカライズ更新にあわせて25日前後に小話更新。
★春夏秋フェンリル(他国旅行編)を執筆予定。
です。
これからも更新を楽しんでいただけると幸いです。
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