冬フェンリルの愛子となった私が、絶望から癒されていく話
63:事件の終わり
フェンリルと二人で瞑想して、雪山にもう異物がないことを確認した。
日本からの落し物も怪物の残骸も、すべて夢だったように消えてしまった。
ミシェーラが持っていた盗聴器はそのまま存在しているから、短期間のうちに呼び寄せられたものだけが消失したみたいだね。
でも、一番大きな異物だった私はここにいる。
日本には藤岡柊の想いだけを、帰したの。
風にあおられて、視界の端で白銀の髪が揺れた。
日本に送った真珠が花開くところを強く強くイメージして、祈るように手を組む。
何度も。何度も。何度も。
私が納得するまで、フェンリルたちはその行動に付き合って祈ってくれていた。
……お母さん、異世界のとってもえらーい人たちにこんなにも回復を願われるだなんて、贅沢だね。
「──もう大丈夫だよ」
振り返って、しっかりと青の目を見開いて、みんなの顔を見渡した。
「やれることはやったもんね。満足!  あとは運命に任せるしかないもん。みんな、支えてくれてありがとう……!」
私の獣耳がピン!  と立ってる。
やっとみんなの表情が明るくなった。
オーブとティトは妖精の泉へと帰還した。
雪妖精とともに、雪山を見守ってくれるんだって。
私の肩に氷の騎士様が手を置く。
つまりはミシェーラなんだけどね。うわーお。
「エル様。怪物と話そうとする勇気、頭の回転の速さ、ご立派でしたわ。あなたこそ冬姫様にふさわしい」
「ありがとう」
私が、冬姫として生きて行く決断をできたって分かったから……ミシェーラはこう言葉をかけてくれたんだろう。
心から励ましてくれている。
差し出された手を握って、力強く握手した。
「プリンセス。あなたとフェンリル様の、親子としての絆、男女としての愛情に感動いたしました……!  お二人はまさしく幸せの象徴のようです。きっと運命は、プリンセスに微笑みかけるでしょう」
「……ありがとう、クリス……。うん、両親が救われる運命だといいなぁ。相変わらず素敵な言葉をかけてくれるね。はいハンカチ」
「……ありがとうございます、ああっ、感動が目から溢れ出してしまって……!」
彼の目からぽろぽろと大粒の涙があふれて首元に滴ると、私が預けた真珠のネックレスに当たって、雪の花を咲かせた。
首が花の輪に彩られる。
ドレス姿だし、もう、似合いすぎー!
笑いをこらえていると、氷の騎士姿のミシェーラがクリス姫をさっそうと横抱きにしたので、ぷはっと噴き出してお腹を押さえて思い切り笑ってしまった。
笑い上戸のフェンリルなんて、疲労状態で笑いすぎちゃったから、ふらふらっとよろけている。
そうだ!
「とりゃ!」
「んっ?」
フェンリルに全力で体重をかけて転ばせた。
ふんわりとした雪にフェンリルの体の半分が埋もれてしまう。
とっさにフェンリルが私の下敷きになってくれたのは、紳士だなぁ。
「ねぇフェンリル。とっても頑張った私に、ご褒美ちょうだい!」
「……」
フェンリルは目をぱちくりとさせて驚いている。
「ええと。構わないが?」
「やったーーー!  ふわんふわんの白銀ベッドになって!」
「……ああ、そういうことか。エルは誠に可愛らしいな」
フェンリルが楽しげに笑って、一度ちゅっと口付けると、獣型になってくれた。
……ああああ途中!!  こんなはずでは!?!?
赤くなった顔を隠すようにぐりぐりと首筋の毛並みに頭を埋めると、すうーっと深呼吸する。
スッキリした冬の匂いだ。
みるみる気持ちが落ち着いていって、私が帰りたい場所はもうここなんだな……と自覚した。
「ふあー……大好き」
<ゆっくりとお眠り>
ぱたぱたと嬉しそうに動いたフェンリルの尻尾は、ぽふんと私に乗せられた。
ナイスお布団。
ウトウトとまどろみながらみんなに「仮眠させて……」とお願いして了承してもらった私は、安心しきって、フェンリルに心も体も全部を委ねた。
愛情に優しく包まれた。
フェンリルの魔力とお互いの思い出が溶け合って、黒髪の私がサフィラエル王子と出会う……そんな夢を見た。
眠っている間は、口元が微笑んでいた、とあとでミシェーラにからかわれた。
☆
目覚めると、満天の星空。
「……夜!?」
がばっと起きると、フェンリルと目が合う。
<おはよう、エル>
「お、おはよう。ねぇ、もしかしてずっと起きてくれてたの……?」
<寝顔が可愛らしかったもので>
いやいや私が寝てる間に見張りをしてくれていたんだよね。フェンリルも疲れてるだろうに、気を遣ってくれてありがとう。
顔に手を伸ばすと首を傾けてくれたから、すりすりと頬ずりする。
ちょっと湿っている鼻先でつんと突かれて、フェンリルと出会った頃を思い出して笑う。
視線を感じた。
側に、ユニコーン姿のグレア(超絶ジト目)が膝を折って座っていて、そのお腹を枕にしてクリスとミシェーラが眠っている。
超絶仲良しになってて理解が追いつかないんだけど!?
目が点になったよ!?
<エル様とフェンリル様が素敵だとみんなで話していたので、試しに、同じように頭を預けてみますか?  と提案したところ、この姿勢で星を数えている間に二人が本格的に眠ってしまったのです>
グレアが眉を顰めながらやれやれとぼやく。
でも自分でくっつくことを提案したんでしょ?  それに耳がぴくぴくしてるぞ嬉しそうだぞ?
にやーっとグレアを眺めていると、相変わらずのジト目で眺められた。おっと。
それにしても雪山で眠るなんていくら雪国の王族とはいえ凍えてしまうんじゃ…………。……。……なんか、気温が暖かい?
風が穏やかすぎるし、冬毛の私たちにとってはちょっと暑くすら思う。
ざざっと大きな音がして、森の方に目を凝らすと、積もっていた雪が次々と木の枝から落下してきていた。
不思議に思って、フェンリルに視線で問いかける。
<……異世界日本と怪物の件は、解決したな。そして新たに一つ、問題が浮上したのだ>
「ええー!?」
<まあ、怪物のような脅威ではないから安心していい>
苦笑するフェンリルの後ろで、足踏みの音。
ぺしょっ、て何かが雪原に転んだらしい音。
な、何?
白銀の体をよじ登って、フェンリルの背中の方を見下ろすと、ふわふわした乳白の髪にたっぷりと雪をつけた、オレンジ色の瞳の少女が座り込んでいた。
背中には天使様みたいな翼。
こ、この子は……?
日本からの落し物も怪物の残骸も、すべて夢だったように消えてしまった。
ミシェーラが持っていた盗聴器はそのまま存在しているから、短期間のうちに呼び寄せられたものだけが消失したみたいだね。
でも、一番大きな異物だった私はここにいる。
日本には藤岡柊の想いだけを、帰したの。
風にあおられて、視界の端で白銀の髪が揺れた。
日本に送った真珠が花開くところを強く強くイメージして、祈るように手を組む。
何度も。何度も。何度も。
私が納得するまで、フェンリルたちはその行動に付き合って祈ってくれていた。
……お母さん、異世界のとってもえらーい人たちにこんなにも回復を願われるだなんて、贅沢だね。
「──もう大丈夫だよ」
振り返って、しっかりと青の目を見開いて、みんなの顔を見渡した。
「やれることはやったもんね。満足!  あとは運命に任せるしかないもん。みんな、支えてくれてありがとう……!」
私の獣耳がピン!  と立ってる。
やっとみんなの表情が明るくなった。
オーブとティトは妖精の泉へと帰還した。
雪妖精とともに、雪山を見守ってくれるんだって。
私の肩に氷の騎士様が手を置く。
つまりはミシェーラなんだけどね。うわーお。
「エル様。怪物と話そうとする勇気、頭の回転の速さ、ご立派でしたわ。あなたこそ冬姫様にふさわしい」
「ありがとう」
私が、冬姫として生きて行く決断をできたって分かったから……ミシェーラはこう言葉をかけてくれたんだろう。
心から励ましてくれている。
差し出された手を握って、力強く握手した。
「プリンセス。あなたとフェンリル様の、親子としての絆、男女としての愛情に感動いたしました……!  お二人はまさしく幸せの象徴のようです。きっと運命は、プリンセスに微笑みかけるでしょう」
「……ありがとう、クリス……。うん、両親が救われる運命だといいなぁ。相変わらず素敵な言葉をかけてくれるね。はいハンカチ」
「……ありがとうございます、ああっ、感動が目から溢れ出してしまって……!」
彼の目からぽろぽろと大粒の涙があふれて首元に滴ると、私が預けた真珠のネックレスに当たって、雪の花を咲かせた。
首が花の輪に彩られる。
ドレス姿だし、もう、似合いすぎー!
笑いをこらえていると、氷の騎士姿のミシェーラがクリス姫をさっそうと横抱きにしたので、ぷはっと噴き出してお腹を押さえて思い切り笑ってしまった。
笑い上戸のフェンリルなんて、疲労状態で笑いすぎちゃったから、ふらふらっとよろけている。
そうだ!
「とりゃ!」
「んっ?」
フェンリルに全力で体重をかけて転ばせた。
ふんわりとした雪にフェンリルの体の半分が埋もれてしまう。
とっさにフェンリルが私の下敷きになってくれたのは、紳士だなぁ。
「ねぇフェンリル。とっても頑張った私に、ご褒美ちょうだい!」
「……」
フェンリルは目をぱちくりとさせて驚いている。
「ええと。構わないが?」
「やったーーー!  ふわんふわんの白銀ベッドになって!」
「……ああ、そういうことか。エルは誠に可愛らしいな」
フェンリルが楽しげに笑って、一度ちゅっと口付けると、獣型になってくれた。
……ああああ途中!!  こんなはずでは!?!?
赤くなった顔を隠すようにぐりぐりと首筋の毛並みに頭を埋めると、すうーっと深呼吸する。
スッキリした冬の匂いだ。
みるみる気持ちが落ち着いていって、私が帰りたい場所はもうここなんだな……と自覚した。
「ふあー……大好き」
<ゆっくりとお眠り>
ぱたぱたと嬉しそうに動いたフェンリルの尻尾は、ぽふんと私に乗せられた。
ナイスお布団。
ウトウトとまどろみながらみんなに「仮眠させて……」とお願いして了承してもらった私は、安心しきって、フェンリルに心も体も全部を委ねた。
愛情に優しく包まれた。
フェンリルの魔力とお互いの思い出が溶け合って、黒髪の私がサフィラエル王子と出会う……そんな夢を見た。
眠っている間は、口元が微笑んでいた、とあとでミシェーラにからかわれた。
☆
目覚めると、満天の星空。
「……夜!?」
がばっと起きると、フェンリルと目が合う。
<おはよう、エル>
「お、おはよう。ねぇ、もしかしてずっと起きてくれてたの……?」
<寝顔が可愛らしかったもので>
いやいや私が寝てる間に見張りをしてくれていたんだよね。フェンリルも疲れてるだろうに、気を遣ってくれてありがとう。
顔に手を伸ばすと首を傾けてくれたから、すりすりと頬ずりする。
ちょっと湿っている鼻先でつんと突かれて、フェンリルと出会った頃を思い出して笑う。
視線を感じた。
側に、ユニコーン姿のグレア(超絶ジト目)が膝を折って座っていて、そのお腹を枕にしてクリスとミシェーラが眠っている。
超絶仲良しになってて理解が追いつかないんだけど!?
目が点になったよ!?
<エル様とフェンリル様が素敵だとみんなで話していたので、試しに、同じように頭を預けてみますか?  と提案したところ、この姿勢で星を数えている間に二人が本格的に眠ってしまったのです>
グレアが眉を顰めながらやれやれとぼやく。
でも自分でくっつくことを提案したんでしょ?  それに耳がぴくぴくしてるぞ嬉しそうだぞ?
にやーっとグレアを眺めていると、相変わらずのジト目で眺められた。おっと。
それにしても雪山で眠るなんていくら雪国の王族とはいえ凍えてしまうんじゃ…………。……。……なんか、気温が暖かい?
風が穏やかすぎるし、冬毛の私たちにとってはちょっと暑くすら思う。
ざざっと大きな音がして、森の方に目を凝らすと、積もっていた雪が次々と木の枝から落下してきていた。
不思議に思って、フェンリルに視線で問いかける。
<……異世界日本と怪物の件は、解決したな。そして新たに一つ、問題が浮上したのだ>
「ええー!?」
<まあ、怪物のような脅威ではないから安心していい>
苦笑するフェンリルの後ろで、足踏みの音。
ぺしょっ、て何かが雪原に転んだらしい音。
な、何?
白銀の体をよじ登って、フェンリルの背中の方を見下ろすと、ふわふわした乳白の髪にたっぷりと雪をつけた、オレンジ色の瞳の少女が座り込んでいた。
背中には天使様みたいな翼。
こ、この子は……?
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