冬フェンリルの愛子となった私が、絶望から癒されていく話
62:最後の親孝行
スマホを通して、タブレット端末に話しかける。
「またこっちを攻撃するような意思ってある……?」
『ありません』
「このまま日本に還れそうだから?  望みが叶えられそうだから、見逃してもらえる?」
『はい』
日本への帰還について、妙な確信があるらしい。
そして私も、なんとなくその通りなんだろうなって気がしている。
怪物の返事を、信じることにした。
『そのスマホも共に還して頂けますね?』
「……うん。そのつもり」
どうしてそんな質問を?  ……あ。
「私がこの世界の者になるのを見ていたから、もしかして、スマホの所有者を変更してこっちの者にしちゃうかも、って思った?」
『その通りです』
「その場合、攻撃の意思が復活する……?」
『お察し下さい』
高度な返事だなー!?
ぎらっとタブレット端末のカメラを光らせる演出がにくいったらないわ。
わ、分かってるってば。こっわ。
「寂しがらせるようなことはしないよ。ずっと、タブレット端末とスマホは呼び合っていたんだもんね……」
『その通りです』
淡々とした機会音声だけれど、今の返信には機械なりの感情がこもっているような気がした。
『先ほどの婚約写真、ご両親にお届けしたいですよね』
「げほっごほっ!?  ……そうきたか!?」
『それはそれは心配をかけているでしょうからね』
「説得が上手いにもほどがあるわ!」
感心するレベルだわ!
ねちっこい!
さっき撮影してみせたのはその目的があったのかもね……とんでもない策略家。
私がスマホを日本に返す決断をするように、ダメ押しなんだろう。
スマホは影が薄くなってきていて、もう指では操作ができない。
音声操作する。
「お父さんへのメールを作成して。お父さんもお母さんも大好き、って……伝えて欲しいの……!」
『承りました』
新規メールが保存される。
よかった。
これが、最後の親孝行。
真珠の涙が、影の薄いスマホを通り抜けて、雪原に落ちて花を咲かせた。
さっきオーブとティトの力を借りたから、オパールのような遊色の輝きを放つ特別な花ね。
…………。
「質問。さっき扉が開いた時に、日本の私の部屋が見えたけど、繋がっているの?」
『はい』
「そこにこの真珠を届けられる……?」
私は首のネックレスを指差した。
『可能です』
「そっか……!  どうしたらいい?」
『扉の部分の氷を溶かして下さい』
オーブとティトが心配そうに私を振り返る。
「………………やりたい」
「わかった。では私はエルを支えていよう」
フェンリルは私と手を繋ぎ、そう言ってくれる。
「ありがとう」
ぐすっと鼻をすすって、頭を下げた。
しょんぼりした獣耳を丁寧に撫でられた。くすぐったい。
二人で氷の前に立つ。
手を触れさせたところから、氷がじゅわりと溶けてしまう。
パシャリと撮影……ちょ、こら怪物ー!?
扉が開かれると、ゴッ!  と内側に吸い込む風が吹き荒れた。
これは仕様かーい!!!!
もーーーーー!
先に教えといてよ!?
フェンリルがしっかり私の腰を掴んで、足を踏ん張ってくれている。
私は大急ぎでネックレスを外して、スマホとともに扉の中に投げ込んだ!
細やかな雪が一緒に吸い込まれていったので、床にぶつかることなく、ふんわりと雪の上に落ちた。
「ありがとう!!」
大声で叫ぶように告げると、扉が閉まった。
嘘のように風がおさまる。
そして動画の終了音が「ピロン♪」と聞こえた。まじなの。
──怪物の姿が大きく揺らいで、とうとう消えてしまった……。
……終わったのかな。
問題解決、できた?
祈るように手を組んで、あの真珠を手放した時と同じように、念じた。
お母さんを癒す花に成長してくれますように。
今度こそ、私の最後の、親孝行。
考えを察してくれたのだろうか。
フェンリルが静かに寄り添ってくれて、近づいてきたグレアがユニコーンの角を怪物がいなくなった氷の空間にそっと押し当てて、一緒に祈ってくれた。
「またこっちを攻撃するような意思ってある……?」
『ありません』
「このまま日本に還れそうだから?  望みが叶えられそうだから、見逃してもらえる?」
『はい』
日本への帰還について、妙な確信があるらしい。
そして私も、なんとなくその通りなんだろうなって気がしている。
怪物の返事を、信じることにした。
『そのスマホも共に還して頂けますね?』
「……うん。そのつもり」
どうしてそんな質問を?  ……あ。
「私がこの世界の者になるのを見ていたから、もしかして、スマホの所有者を変更してこっちの者にしちゃうかも、って思った?」
『その通りです』
「その場合、攻撃の意思が復活する……?」
『お察し下さい』
高度な返事だなー!?
ぎらっとタブレット端末のカメラを光らせる演出がにくいったらないわ。
わ、分かってるってば。こっわ。
「寂しがらせるようなことはしないよ。ずっと、タブレット端末とスマホは呼び合っていたんだもんね……」
『その通りです』
淡々とした機会音声だけれど、今の返信には機械なりの感情がこもっているような気がした。
『先ほどの婚約写真、ご両親にお届けしたいですよね』
「げほっごほっ!?  ……そうきたか!?」
『それはそれは心配をかけているでしょうからね』
「説得が上手いにもほどがあるわ!」
感心するレベルだわ!
ねちっこい!
さっき撮影してみせたのはその目的があったのかもね……とんでもない策略家。
私がスマホを日本に返す決断をするように、ダメ押しなんだろう。
スマホは影が薄くなってきていて、もう指では操作ができない。
音声操作する。
「お父さんへのメールを作成して。お父さんもお母さんも大好き、って……伝えて欲しいの……!」
『承りました』
新規メールが保存される。
よかった。
これが、最後の親孝行。
真珠の涙が、影の薄いスマホを通り抜けて、雪原に落ちて花を咲かせた。
さっきオーブとティトの力を借りたから、オパールのような遊色の輝きを放つ特別な花ね。
…………。
「質問。さっき扉が開いた時に、日本の私の部屋が見えたけど、繋がっているの?」
『はい』
「そこにこの真珠を届けられる……?」
私は首のネックレスを指差した。
『可能です』
「そっか……!  どうしたらいい?」
『扉の部分の氷を溶かして下さい』
オーブとティトが心配そうに私を振り返る。
「………………やりたい」
「わかった。では私はエルを支えていよう」
フェンリルは私と手を繋ぎ、そう言ってくれる。
「ありがとう」
ぐすっと鼻をすすって、頭を下げた。
しょんぼりした獣耳を丁寧に撫でられた。くすぐったい。
二人で氷の前に立つ。
手を触れさせたところから、氷がじゅわりと溶けてしまう。
パシャリと撮影……ちょ、こら怪物ー!?
扉が開かれると、ゴッ!  と内側に吸い込む風が吹き荒れた。
これは仕様かーい!!!!
もーーーーー!
先に教えといてよ!?
フェンリルがしっかり私の腰を掴んで、足を踏ん張ってくれている。
私は大急ぎでネックレスを外して、スマホとともに扉の中に投げ込んだ!
細やかな雪が一緒に吸い込まれていったので、床にぶつかることなく、ふんわりと雪の上に落ちた。
「ありがとう!!」
大声で叫ぶように告げると、扉が閉まった。
嘘のように風がおさまる。
そして動画の終了音が「ピロン♪」と聞こえた。まじなの。
──怪物の姿が大きく揺らいで、とうとう消えてしまった……。
……終わったのかな。
問題解決、できた?
祈るように手を組んで、あの真珠を手放した時と同じように、念じた。
お母さんを癒す花に成長してくれますように。
今度こそ、私の最後の、親孝行。
考えを察してくれたのだろうか。
フェンリルが静かに寄り添ってくれて、近づいてきたグレアがユニコーンの角を怪物がいなくなった氷の空間にそっと押し当てて、一緒に祈ってくれた。
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コメント
ミケ
すごい面白いです!頑張って下さい!