冬フェンリルの愛子となった私が、絶望から癒されていく話
58:気持ち新たに
私は泣きながら……考え始めた。
怪物への対抗策を思い浮かべていると、自分の気持ちも見えてくる。
この人を、何が何でも失いたくないと──
自分の気持ちが決まったのだ、と思った。
フェンリルの手には、お揃いで買った指輪が光っている。
私の指にも。
どうかこれが、これからも一緒に歩む約束となってくれますように。
フェンリルを助けて欲しい。
ううん……助けたいんだ。
指輪に祈って停滞してるだけでは、望んだ未来は、得られない。
それなら私がやるべき事は……
「ねぇグレア。フェンリル、回復するよね……?」
「もちろんです。フェンリル様がエル様を置いていくものですか。彼が倒れる運命など俺が呪い潰してみせます。だから、必ず目を開けますよ」
「……うんっ」
声が震えたけど、しっかりと返事をできた。
フェンリルの体の下から出ようともがいていると、グレアが私の上にあったフェンリルの腕を退けてくれる。
ちょっと寂しかったけど、フェンリルからは離れた。
彼の獣耳がお湯に使ってしまわないよう、位置を調整する。
レヴィの温泉から出ると、グレアにお礼を言った。
「震えているではありませんか、エル様……大丈夫ですか?  まだ温泉につかっていたほうが良いのでは」
「違うし。武者震いだし」
ズビズビと鼻をすすりながら言っても説得力がなかったと思うけど、グレアは呆れた顔で私を見ながら、何やらとてもきれいなハンカチを差し入れてくれた。
ありがとうと言って、チーーン!  と思いっきり鼻をかむ。
グレアの顔がひきつった。
美しくない……って小声聞こえてるからね?
スマホを見る。
お父さんから返信が来ていた。
昨夜、怪物が出現した直前に私が打ちっぱなしだったメールの続きだ。
『俺も心からそう思う。母さんに、良くなってほしい。一人は寂しいからな。ノエルは、一人暮らしをよく頑張っていたもんだ』
たまらなくなって、深呼吸。
「ねぇ、グレア。お願いがあるの」
「なんでしょう」
「グレアのお祈りって効くんでしょう?」
「鬱憤の発散と言う形なので、悪いように作用する呪い、という感じですけどね」
「うーん……呪《のろ》いって、私の故郷では呪《おまじな》いって意味もあるから、それでもいいよ。一緒に、祈ってくれないかな……私のお母さんの病気が、良くなりますようにって」
「もちろん良いですよ」
スマホを両手で固く握りしめている私の手を、上からグレアが包み込んだ。
爪が水色だ、ってなんとなく気になった。
「まぁ、それでは治療の意味も込めて、おでこもつけてみましょうか。ユニコーンの最も清らかな部分ですし」
スマホの前後に、私とグレアがそっとおでこをくっつけた。
「「病気が良くなりますように」」
なんてことない願望のようなお願い事。
でも、私の中で、気持ちが吹っ切れたような感じがあった。
「ありがとう」
「俺はフェンリル様と冬姫様の補佐ですからね」
グレアはいつになく柔らかく微笑むと、私の目尻からこぼれた涙の真珠を拾って、手に持たせてくれた。
私から離れていって、フェンリルの上にばさっときれいな飾り布を広げる。
かぶせ布団のように、やんわりとレヴィの温泉に広がった。
「フェンリル様。しっかりと回復なさってくださいね。あなたの愛しい子が目覚めを望んでいますよ……冬の女王に、聖なる癒しを」
グレア?
……ああ、そうか裏技なんだ。
男性型のフェンリルがどうして女王を名乗ったままなのか気になっていたけど、女性のみを癒すユニコーンから恩恵を受けるためかなって納得した。
グレアがフェンリルの手を取りひたいに当てると、癒しの力が巡ったのか、フェンリルの顔色が良くなった。
あわてて私もグレアの隣にしゃがみこんで、フェンリルの髪を撫でる。
「ああ……よかった……!」
「回復しようとフェンリル様は頑張っています」
<わたくしもよ!  冬姫様に頂いたスイレン花があるもの。あたたかく癒してみせるわね>
レヴィをぎゅっと抱きしめて、「フェンリルをよろしく」とお願いする。
私は、洞窟前から少し歩いて離れ、眼下に広がる雪原を見下ろした。
スマホを取り出し、覚悟を持って操作する。
……<検出されました>
怪物の居場所が、分かる。この場所からは3キロくらい離れている。
スマホをポシェットにしまい込まず、真珠のネックレスを長く伸ばしてスマホケースに結び、斜めがけして、いつでも画面を見れるようにした。
もう目を逸らさないよ。
私は息をすうっと吸い込んだ。
冷たい風を頬に受けて、足元には雪を感じながら、フェンリルの見よう見まねで瞑想をする。
この雪山の情報を、私の中に映し出してちょうだい。
爆発しそうな負の感情は、全て癒しの力に変換するの。
私は冬姫エル。
「──冬の癒しを」
私を中心に雪色の魔方がふわっと広がっていく。はるか彼方まで。
瞑想を続けているから、雪山の状態がわかる。
魔方陣が通り過ぎたところでは、こんもり積もっていた雪崩の被害がなめらかに修復されて、埋もれていた動物たちが逃げ出した。
疲れきっていた雪妖精や黒ユキヒョウたちにも癒しは届いたみたいだ。
よかった……!
わずかに放出された怒りや不安が、私の膝までをピキピキと氷漬けにする。あちゃー。
まだ感情を制御するのは難しいや……でも、きっとそのうち、上手にできるよ。
フェンリルがちゃんと教えてくれたから。
……まだ、上手にできないから、きっと、次にこの力を使う時は……隣に寄り添って、見守っていて欲しい。
甘やかして。
成功したら、いっぱい褒めて白銀のベッドで包んで。
そのためにも……私は、彼と暮らす雪山を守ってみせる。頑張る。
とはいえ動かなくちゃ。どうしたらいいかな……憤りが氷が生まれたなら……
フェンリルの優しい笑顔を思い浮かべながら、そっと触れると、氷がしゅわっと溶けてしまった。
よしっ。
「お待たせ」
くるりと振り返ると、グレアがポカンとした顔で私を眺めている。
へへん!  と胸を張っておく。
ホッとした顔で頷きが返された。
洞窟の中から金色が覗く。
「素晴らしかったです、プリンセス!!  これから反撃開始ですね。ともに立ち向かいましょうっ!」
「ありがとうございますクリストファー王子!  ……王子?  ……姫?」
王子様がドレスを身に付けて走り込んでくる。
豪華なフリルやリボンがふんだんにあしらわれたプリンセスドレスは、裾がひらひらと揺れて目にも美しい。
えっ、ちょっ、待っ、あの、んんん!?
頭が混乱してきた。
ちょっと待って。
グレアがチベットスナギツネみたいな顔で「楽しそうですね」と無感動に言って、鼻で笑った。
うん確かに楽しそうっていうか、まじでどうしたの!?
「場を和ませるジョークですかあはは……やっば、しまった、昨日のグレアみたいにつまらないことを言ってしまった!」
「ちょっとエル様」
「いやープリンセス。この格好には理由があるのです」
王子様は照れたように頭をかいて、ごそごそと白銀の毛玉を持ち出した。
こんだけドン引かれて照れるメンタル、すごいな彼は。
やっぱりフェルスノゥ王族は強いわ。
「ほら!」
毛玉を被った彼は、白銀の長い髪を持つプリンセスとなったのだ。
さらに白色の獣カチューシャをつける。
なーるほど!
彼の意図は十分伝わった。
「「似合ってますね」」
「オトリはお任せ下さい。広く浅く、器用なのが僕の特技でございますから」
優雅にスカートの裾をつまんで淑女の一礼の披露。
エレガントー!
ボリュームのある服が彼の男性らしい体格を隠しているから、顔は中性的だし、美人プリンセスね。
丁寧にお化粧もしている凄さ。
ほあーー。女子力を兼ね備えた王子って新しいな。
いざ出陣しようと三人で話していると、遠くからリンリンと鈴の音が響いてくる。
使者!?  ……って、ちょっと、今回氷の道を作ってないけれど、大丈夫!?
しかし現れたのはソリとトナカイではなく、巨大なヘラジカ!
雪を豪快にかき分けて、爆走しているーー!?
ズドンッ!  と急停止して、巻き上がった雪嵐も魔法で見事に制御してみせたのは、さすがのミシェーラだった。
なんの心配もない。
氷の杖に鈴を巻きつけて音をアピールしていたようだ。
「ごきげんよう」
さっそうと降りてきてマントがなびいているうちにミシェーラは雪国式の最敬礼をする。
かっこいい。
「フェルスノゥ王国は現国王が守っておりますわ。指令です。ともにこの事態を収めるためにあたれ、と。
怪物が出現したそうですね。街の近くにも一体現れました。粉砕しましたわ。国民をおびやかす脅威に、王族が立ち上がらなくてどうします!」
ミシェーラが、ヘラジカにくくりつけていた氷の塊をどすんっと私たちの前に置いた。
リモコンらしき物体が粉々になって氷漬けになってるううう……!  つよい!
「これから脅威を討伐に参るのでしょう?  エル様の目を見ていたら分かります。我々王族もともに参りますわ!…………ねぇ?  お兄様?」
やっぱりね。気付くよね。うん。
クリストファー姫《・》はかわいそうに、かちんこちんに固まっている。
「戦術は把握いたしました。兄を餌にすることも致し方ありません。このミシェーラが助けてみせますから、安心してオトリになって下さいませ!」
「……うおおおおお……っ」
あまりの羞恥心に姫……二人いるからややこしいな……クリスは顔を覆って悶絶した。さすがに身内に見られたのは辛かったかぁ。ドンマイ。
彼ともかなり打ち解けたし、この呼び方でいかせてもらおうっと。
「ミシェーラ!  次期女王がそんな……」
「わたくしを信用して頂けますね?」
その眼力、覇王がごとし。すごい。圧倒的に納得させられる。
「ミシェーラ、私たちも一緒にクリスを守るから。あなたの事もね。みんなで無事に帰ってこよう。参戦してくれて本当に心強いよ!」
手を取って心から伝えると、ミシェーラは目を丸くして、ふわりと天使みたいな微笑みを浮かべた。
「光栄ですわ。時間がありません、向かいましょう」
「そうだね!  よーし!  ミシェーラに教えてもらった極大魔法で私も頑張る!」
スマホを見ると、怪物が動き始めている……私たちがいる方角に進んできてる……!
パァン!  と両頬を手のひらで包むように叩いて、気合いを入れた。
「えっ……い、今、ククククリスって……!?」と真っ赤になっているクリスの下に氷馬を出現させて、持ち上げた。
ミシェーラはヘラジカに、私はグレアに騎乗する。
進むよ!!!!
怪物への対抗策を思い浮かべていると、自分の気持ちも見えてくる。
この人を、何が何でも失いたくないと──
自分の気持ちが決まったのだ、と思った。
フェンリルの手には、お揃いで買った指輪が光っている。
私の指にも。
どうかこれが、これからも一緒に歩む約束となってくれますように。
フェンリルを助けて欲しい。
ううん……助けたいんだ。
指輪に祈って停滞してるだけでは、望んだ未来は、得られない。
それなら私がやるべき事は……
「ねぇグレア。フェンリル、回復するよね……?」
「もちろんです。フェンリル様がエル様を置いていくものですか。彼が倒れる運命など俺が呪い潰してみせます。だから、必ず目を開けますよ」
「……うんっ」
声が震えたけど、しっかりと返事をできた。
フェンリルの体の下から出ようともがいていると、グレアが私の上にあったフェンリルの腕を退けてくれる。
ちょっと寂しかったけど、フェンリルからは離れた。
彼の獣耳がお湯に使ってしまわないよう、位置を調整する。
レヴィの温泉から出ると、グレアにお礼を言った。
「震えているではありませんか、エル様……大丈夫ですか?  まだ温泉につかっていたほうが良いのでは」
「違うし。武者震いだし」
ズビズビと鼻をすすりながら言っても説得力がなかったと思うけど、グレアは呆れた顔で私を見ながら、何やらとてもきれいなハンカチを差し入れてくれた。
ありがとうと言って、チーーン!  と思いっきり鼻をかむ。
グレアの顔がひきつった。
美しくない……って小声聞こえてるからね?
スマホを見る。
お父さんから返信が来ていた。
昨夜、怪物が出現した直前に私が打ちっぱなしだったメールの続きだ。
『俺も心からそう思う。母さんに、良くなってほしい。一人は寂しいからな。ノエルは、一人暮らしをよく頑張っていたもんだ』
たまらなくなって、深呼吸。
「ねぇ、グレア。お願いがあるの」
「なんでしょう」
「グレアのお祈りって効くんでしょう?」
「鬱憤の発散と言う形なので、悪いように作用する呪い、という感じですけどね」
「うーん……呪《のろ》いって、私の故郷では呪《おまじな》いって意味もあるから、それでもいいよ。一緒に、祈ってくれないかな……私のお母さんの病気が、良くなりますようにって」
「もちろん良いですよ」
スマホを両手で固く握りしめている私の手を、上からグレアが包み込んだ。
爪が水色だ、ってなんとなく気になった。
「まぁ、それでは治療の意味も込めて、おでこもつけてみましょうか。ユニコーンの最も清らかな部分ですし」
スマホの前後に、私とグレアがそっとおでこをくっつけた。
「「病気が良くなりますように」」
なんてことない願望のようなお願い事。
でも、私の中で、気持ちが吹っ切れたような感じがあった。
「ありがとう」
「俺はフェンリル様と冬姫様の補佐ですからね」
グレアはいつになく柔らかく微笑むと、私の目尻からこぼれた涙の真珠を拾って、手に持たせてくれた。
私から離れていって、フェンリルの上にばさっときれいな飾り布を広げる。
かぶせ布団のように、やんわりとレヴィの温泉に広がった。
「フェンリル様。しっかりと回復なさってくださいね。あなたの愛しい子が目覚めを望んでいますよ……冬の女王に、聖なる癒しを」
グレア?
……ああ、そうか裏技なんだ。
男性型のフェンリルがどうして女王を名乗ったままなのか気になっていたけど、女性のみを癒すユニコーンから恩恵を受けるためかなって納得した。
グレアがフェンリルの手を取りひたいに当てると、癒しの力が巡ったのか、フェンリルの顔色が良くなった。
あわてて私もグレアの隣にしゃがみこんで、フェンリルの髪を撫でる。
「ああ……よかった……!」
「回復しようとフェンリル様は頑張っています」
<わたくしもよ!  冬姫様に頂いたスイレン花があるもの。あたたかく癒してみせるわね>
レヴィをぎゅっと抱きしめて、「フェンリルをよろしく」とお願いする。
私は、洞窟前から少し歩いて離れ、眼下に広がる雪原を見下ろした。
スマホを取り出し、覚悟を持って操作する。
……<検出されました>
怪物の居場所が、分かる。この場所からは3キロくらい離れている。
スマホをポシェットにしまい込まず、真珠のネックレスを長く伸ばしてスマホケースに結び、斜めがけして、いつでも画面を見れるようにした。
もう目を逸らさないよ。
私は息をすうっと吸い込んだ。
冷たい風を頬に受けて、足元には雪を感じながら、フェンリルの見よう見まねで瞑想をする。
この雪山の情報を、私の中に映し出してちょうだい。
爆発しそうな負の感情は、全て癒しの力に変換するの。
私は冬姫エル。
「──冬の癒しを」
私を中心に雪色の魔方がふわっと広がっていく。はるか彼方まで。
瞑想を続けているから、雪山の状態がわかる。
魔方陣が通り過ぎたところでは、こんもり積もっていた雪崩の被害がなめらかに修復されて、埋もれていた動物たちが逃げ出した。
疲れきっていた雪妖精や黒ユキヒョウたちにも癒しは届いたみたいだ。
よかった……!
わずかに放出された怒りや不安が、私の膝までをピキピキと氷漬けにする。あちゃー。
まだ感情を制御するのは難しいや……でも、きっとそのうち、上手にできるよ。
フェンリルがちゃんと教えてくれたから。
……まだ、上手にできないから、きっと、次にこの力を使う時は……隣に寄り添って、見守っていて欲しい。
甘やかして。
成功したら、いっぱい褒めて白銀のベッドで包んで。
そのためにも……私は、彼と暮らす雪山を守ってみせる。頑張る。
とはいえ動かなくちゃ。どうしたらいいかな……憤りが氷が生まれたなら……
フェンリルの優しい笑顔を思い浮かべながら、そっと触れると、氷がしゅわっと溶けてしまった。
よしっ。
「お待たせ」
くるりと振り返ると、グレアがポカンとした顔で私を眺めている。
へへん!  と胸を張っておく。
ホッとした顔で頷きが返された。
洞窟の中から金色が覗く。
「素晴らしかったです、プリンセス!!  これから反撃開始ですね。ともに立ち向かいましょうっ!」
「ありがとうございますクリストファー王子!  ……王子?  ……姫?」
王子様がドレスを身に付けて走り込んでくる。
豪華なフリルやリボンがふんだんにあしらわれたプリンセスドレスは、裾がひらひらと揺れて目にも美しい。
えっ、ちょっ、待っ、あの、んんん!?
頭が混乱してきた。
ちょっと待って。
グレアがチベットスナギツネみたいな顔で「楽しそうですね」と無感動に言って、鼻で笑った。
うん確かに楽しそうっていうか、まじでどうしたの!?
「場を和ませるジョークですかあはは……やっば、しまった、昨日のグレアみたいにつまらないことを言ってしまった!」
「ちょっとエル様」
「いやープリンセス。この格好には理由があるのです」
王子様は照れたように頭をかいて、ごそごそと白銀の毛玉を持ち出した。
こんだけドン引かれて照れるメンタル、すごいな彼は。
やっぱりフェルスノゥ王族は強いわ。
「ほら!」
毛玉を被った彼は、白銀の長い髪を持つプリンセスとなったのだ。
さらに白色の獣カチューシャをつける。
なーるほど!
彼の意図は十分伝わった。
「「似合ってますね」」
「オトリはお任せ下さい。広く浅く、器用なのが僕の特技でございますから」
優雅にスカートの裾をつまんで淑女の一礼の披露。
エレガントー!
ボリュームのある服が彼の男性らしい体格を隠しているから、顔は中性的だし、美人プリンセスね。
丁寧にお化粧もしている凄さ。
ほあーー。女子力を兼ね備えた王子って新しいな。
いざ出陣しようと三人で話していると、遠くからリンリンと鈴の音が響いてくる。
使者!?  ……って、ちょっと、今回氷の道を作ってないけれど、大丈夫!?
しかし現れたのはソリとトナカイではなく、巨大なヘラジカ!
雪を豪快にかき分けて、爆走しているーー!?
ズドンッ!  と急停止して、巻き上がった雪嵐も魔法で見事に制御してみせたのは、さすがのミシェーラだった。
なんの心配もない。
氷の杖に鈴を巻きつけて音をアピールしていたようだ。
「ごきげんよう」
さっそうと降りてきてマントがなびいているうちにミシェーラは雪国式の最敬礼をする。
かっこいい。
「フェルスノゥ王国は現国王が守っておりますわ。指令です。ともにこの事態を収めるためにあたれ、と。
怪物が出現したそうですね。街の近くにも一体現れました。粉砕しましたわ。国民をおびやかす脅威に、王族が立ち上がらなくてどうします!」
ミシェーラが、ヘラジカにくくりつけていた氷の塊をどすんっと私たちの前に置いた。
リモコンらしき物体が粉々になって氷漬けになってるううう……!  つよい!
「これから脅威を討伐に参るのでしょう?  エル様の目を見ていたら分かります。我々王族もともに参りますわ!…………ねぇ?  お兄様?」
やっぱりね。気付くよね。うん。
クリストファー姫《・》はかわいそうに、かちんこちんに固まっている。
「戦術は把握いたしました。兄を餌にすることも致し方ありません。このミシェーラが助けてみせますから、安心してオトリになって下さいませ!」
「……うおおおおお……っ」
あまりの羞恥心に姫……二人いるからややこしいな……クリスは顔を覆って悶絶した。さすがに身内に見られたのは辛かったかぁ。ドンマイ。
彼ともかなり打ち解けたし、この呼び方でいかせてもらおうっと。
「ミシェーラ!  次期女王がそんな……」
「わたくしを信用して頂けますね?」
その眼力、覇王がごとし。すごい。圧倒的に納得させられる。
「ミシェーラ、私たちも一緒にクリスを守るから。あなたの事もね。みんなで無事に帰ってこよう。参戦してくれて本当に心強いよ!」
手を取って心から伝えると、ミシェーラは目を丸くして、ふわりと天使みたいな微笑みを浮かべた。
「光栄ですわ。時間がありません、向かいましょう」
「そうだね!  よーし!  ミシェーラに教えてもらった極大魔法で私も頑張る!」
スマホを見ると、怪物が動き始めている……私たちがいる方角に進んできてる……!
パァン!  と両頬を手のひらで包むように叩いて、気合いを入れた。
「えっ……い、今、ククククリスって……!?」と真っ赤になっているクリスの下に氷馬を出現させて、持ち上げた。
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