冬フェンリルの愛子となった私が、絶望から癒されていく話
49:ミシェーラと緑の姫君
お兄様がついに決断をなさった。
大変喜ばしいですわ。
「彼の道にたくさんの幸あらんことを」
父と挨拶をする兄を窓から見下ろし、最敬礼をする。
周りの従業員も同じ動作をした。
ソリに乗った兄の背が遠ざかっていく……。
はたして兄が初恋を実らせてエル様と結ばれるかは分かりませんが、恋をした女性を守り抜くところ、このミシェーラに見せて下さいませ。
そうしたら、恋愛というものに初めて関心を持てるかもしれませんね?
従業員にこれからの動き方を指示する。
街の被害を調査すること、異世界の落し物をあつめること、城の警備強化など。
「さて」
塔に向かいますか。
「大丈夫ですか!」と緊迫した声音で、心配するそぶりをみせながら階段を駆け上る。
暖房が効いて暖かいので、額にうっすらと汗をかいてしまいました。
氷魔法でクールダウンです。
最上階。
バン!!!!  と勢いたっぷりに扉を開けたので中の人物がびくっと震えました。
長い黒髪をベッドに伸ばして壁に背を預け、異国の美しい乙女が静かに座っている。
足首には銀の鎖がつけられていて、足を引いたら鎖がシャラリと繊細な音を立てた。
「先ほど大きな揺れがございましたが、問題ありませんか?  翠玉姫」
彼女との間には鉄格子がある。
柔和に問いかけると、エメラルドのような緑の瞳がきつくわたくしを射抜いた。
あー、元気がありそうで何よりですわ。
笑みを深める。
多少震えているのも、まぁ可愛らしいものですね。
「翠玉姫。この揺れの原因はまだ分かっておりません。ただいま調査中でございます。暖房設備等に支障がなくて本当によかった。では引き続きこちらでお過ごしくださいませ」
姫はふいっと顔を背けた。
……本当におとなしくなりましたわね。
喧々と勝気な言葉を投げてきていた以前とは随分な違いです。
それほど、冬祭りの一件が彼女の中では大きな衝撃だったのでしょうね。
…………。
「リーフラグリス王国の国王様に連絡を取りました。大至急、あなたを引き受けにいらっしゃるそうですわ」
「……父上に話したの!?」
姫は顔を真っ青にして、わたくしを責め始めた。
当てつけのようにそんなことをして、とか、国を巻き込むなんて、だとか。
あらあら、片腹痛いどころか、煮えくりかえった腑が高笑いしている気分ですけれど?
「もちろん全てを余すところなく相談していますわ。国家間の大問題、と捉えておりますから」
「〜〜〜〜!!」
いたずら、なんて可愛い扱いをしてもらえるとでも?
フェルスノゥ王国に間者を送り込み、企み事をしたあげく、あまつさえ冬祭りでエル様に喧嘩を売りに行くだなんて。
言語道断です。
姫たちは冬祭りのツリーに仕掛けを施し、混乱を招くつもりだった。ですが広場に向かう道中、お兄様の姿に気付いたのです。
姫は思わず近寄り、エル様たちの存在に気付いた。
大変なショックを受けた顔をしていましたね。
冬の寒さに耐性がなかったため、エル様に突っかかってきてすぐに目の前で倒れましたけれど。
せっかくの楽しい気分を台無しにされて、フェンリル様は激怒していましたから、氷漬けにされなかった慈悲をありがたく思ってほしいものです。
ユニコーン様が記憶を消去して、その後エル様がやっと笑顔をみせてくれて本当に良かったですわ。
「あなたとともにいた部下が全て話しましたから。お覚悟なさいませ」
「他言するだなんて……!」
「あなたを守るため、と自分たちの身を省みずに慈悲をお願いされましたよ。三年間、わざわざフェルスノゥ王国で暮らして擬態した苦労も捨てて。良い部下を持ちましたね」
姫は頬を膨らませている。拗ねた子どものよう。
「……良い部下だなんてとても言えませんわ。だって全てバラされたのですもの。皮肉ですの!?」
「全員が黙り込んでていれば、企み元である王太子はすべての責任をあなた一人になすりつけて逃げ切ったことでしょうね」
「……!  家族を貶めるのはおよしになって下さる!?」
「あら失礼いたしました。憶測ですものね」
姫は王太子を盲信している、という従者の密告は本当みたい。
蝶よ花よと育てられて政治を知らず、王位継承権争いに利用されるしか生きる道がないだなんて……同情いたしますが、わたくしからの慈悲はございません。
「ところで、あなた方が兄のクリストファーをそれはもう悩ませ苦しめていたご自覚はありますか?」
こちらの家族こそ貶められたのですけれど?
「そんなつもりは……ただ慕っているだけですもの!」
この後に及んでも、お兄様の名前を出すとうっとりと虚空を見つめて頬を染める残念美姫を生あたたかく眺める。
「クリストファー王子は出会った時から私にとても優しくて……」なんて長々聞かされるものですから、だんだんと視線が冷え切ってきました。
凍らせたら黙るかしら。
お兄様、優しすぎるのも考えものですわ。厄介な人物にこそ執着されてしまう。
雪山に一時退避できてよかったですね。
「クリストファー王子はいついらっしゃるのですか!?」
「きません」
ほにゃらららららと続く色恋語りを聞き流し、翠玉姫にスッパリ返事をすると、わたくしは踵を返す。
強力な緑魔法の使い手、緑妖精の操り手である姫がこの揺れを起こしたのでは、と疑っていましたが……対面してみて「あっ違いますね」と確信いたしました。
原因は他にある。
緑の国には、次期依り代候補である彼女以上の魔法の使い手はいないから、それ以外でしょう。
人為的な理由でなければいいのですけれど。
塔を出た。
***
「ミシェーラ」
「!  国王様」
呼び止められたので、一礼。
父の方には魔物のフクロウがとまっている。
「こちらは……雪山からの使者ですか」
「そうだ。今回の揺れはフェルスノゥ王国だけなのか、周辺国でも起こったのか、調べて欲しいとのことだ」
「気になりますものね」
「ああ。他国に使者を送らねばならないな。片道で十数日はかかってしまうか……」
「まずは国内の対策ですから、連絡はできるだけ迅速に、くらいに思っておきましょう。人がこなせる連絡速度には限界があります」
「そうだな」
魔物のフクロウが不満そうに鳴く。
すぐに結果を持ち帰りたかったのでしょう。
しかしこれ以上の連絡手段がないのです。
妖精の声でさえも届く範囲は国と領土内だけですから……。
…………。
「国王様。緑の妖精がこの国にいるそうですよね?」
「そのような現状らしいな。……つまり?」
「捕まえたならば、話が早くなる」
「証拠にもなるな」
「それをフェンリル様たちに相談いたしましょう!」
この時、わたくしたちは黒い笑みを浮かべていたのかもしれませんね。
フクロウがぶるぶる震えています。
……あら!?
目の前に巨大な氷の魔法陣が現れたので、思わず父をかばって前に出ます。
<<フェルスノゥ王族よ!!>>
どどんと響く声は妖精王オヴェロン様と妖精女王ティターニア様のものですね。
……安心いたしました。
以前会議に割り込……こほん、ご参加なさった時と同じ魔法のようです。
「「ここに」」
わたくしと父が魔法陣に向かって深く一礼します。
<うむ、うむ。実は雪山でこのような緑の精霊が見つかってな>
<せっかくなのでそちらに送ろう。政治の交渉で上手く活用してくれ、と冬姫様の伝言じゃ>
魔法陣からはやたらと大きな雪妖精が2体と、肌が浅黒くぐったりした雪妖精が4体現れた。
大きな雪妖精はシャキンと氷の剣を作ってみせて、わたくしたちに騎士の礼。
思わず同じ仕草を返しましたが……この方々は一体なんですの!?
雪妖精はみな穏やかで優しく、戦闘は苦手なはずですけれど。
困惑しながら、説明の続きを待つ。
<冬姫様が魔力を注いだその雪妖精2体は、別格に強い。なにか不測の事態があった時にミシェーラ姫たちの守りとなるじゃろう、と聞いておる>
「心からの感謝を申し上げます、とエル様にお伝え下さいませ!」
<承知した>
手を組んで彼女に感謝の祈りを捧げる。
なんてお優しい方でしょう。
あの翠玉姫の相手をした後ですから、さらに癒されました。
<その鎖で繋がれている4体は、元・緑の精霊じゃ。今はフェンリル様が雪妖精に変えたので、悪さはしないぞ>
<しかし雪山に置いておくと寒さに慣れておらず弱る一方なので、城での管理を頼む。知っている情報は何でも話すじゃろう>
<活用せよ>
「おまかせ下さいませ」
それはもう、得意分野です。
この元・緑妖精には尋問と、体力回復したら緑の国への連絡をしてもらいましょう。
妖精の扱いについては、さいわいにも翠玉姫がいますし。
騒動の落とし前、きっちりつけて頂きます。
<<さらば!!>>
魔法陣が消えた。
「最良のタイミングで全ての手札が揃いましたわね。これから張り切って参りましょう、国王様!」
「ああ、ミシェーラは運も実力も光るものを持っているな」
お父様が、くっくっと笑う。
「どうなさいました?  やけに愉快そうですけれど……?」
「いや、お前の行動があまりにクリストファーそっくりだったので面白く思ったのだ」
「あ……無自覚でした」
なんだか恥ずかしくて、顔が熱いです。
わたくしが召喚魔法陣に立ち異常があった時に、お兄様に庇われて「次期国王様の自覚をお持ち下さいませ!」と叱ったのに、同じことをしてしまいました。
「反省いたしますわ……」
「そうだな。我をかばって、もし次期女王が倒れてしまったらこの国の未来はどうなるのだ?  優先順位を間違えてはいけない」
「はい」
耳が痛いですね。
お言葉、絶対に忘れません。
ーー未来の女王様。わたくしの長年の夢が認められたのです。
目頭が熱くなりました。
「もちろん父親としては嬉しかったぞ、大切に思われていること。娘の方が強くて情けなくはあるが、実に頼もしい」
「お父様……」
深呼吸して、ぐっと目を見開きます。
「わたくし、立派な女王陛下になってみせますわ!!」
「期待している」
人情をかけられない時には親族を頼りなさい、と言われて、目が潤みました。
王となれば、国の運営を第一に考えなくてはならないのです。
「……ありがとうございます、お父様。さっそくですが、訓練させて下さいませ」
「言ってみなさい」
「異世界の落し物の位置が気になります。門前のツリーのところ、トナカイのソリの待機場、騎士団の訓練場の隅。どこもエル様が滞在していたところです。偶然かもしれませんが、わたくしは次期女王として関連を疑います」
「そうか。では我々は、冬姫様を信じよう」
「よろしくお願いいたします。もちろんわたくしも彼女の悪意ではないと思っていますが、無意識の願いが、揺れや落し物の事態を引き寄せているのかもしれませんから」
「なるほど。理解した」
お父様が私の頭を撫でる。
「まだここに王冠はないな。つまりその疑念は、今は国王である我が担う。ミシェーラは、冬姫様たちを信じてあげなさい」
「はいっ」
皆でこの事態に立ち向かうのです!
お父様の柔らかいアイスブルーの瞳を見上げて、わたくしは軽やかに頷きました。
大変喜ばしいですわ。
「彼の道にたくさんの幸あらんことを」
父と挨拶をする兄を窓から見下ろし、最敬礼をする。
周りの従業員も同じ動作をした。
ソリに乗った兄の背が遠ざかっていく……。
はたして兄が初恋を実らせてエル様と結ばれるかは分かりませんが、恋をした女性を守り抜くところ、このミシェーラに見せて下さいませ。
そうしたら、恋愛というものに初めて関心を持てるかもしれませんね?
従業員にこれからの動き方を指示する。
街の被害を調査すること、異世界の落し物をあつめること、城の警備強化など。
「さて」
塔に向かいますか。
「大丈夫ですか!」と緊迫した声音で、心配するそぶりをみせながら階段を駆け上る。
暖房が効いて暖かいので、額にうっすらと汗をかいてしまいました。
氷魔法でクールダウンです。
最上階。
バン!!!!  と勢いたっぷりに扉を開けたので中の人物がびくっと震えました。
長い黒髪をベッドに伸ばして壁に背を預け、異国の美しい乙女が静かに座っている。
足首には銀の鎖がつけられていて、足を引いたら鎖がシャラリと繊細な音を立てた。
「先ほど大きな揺れがございましたが、問題ありませんか?  翠玉姫」
彼女との間には鉄格子がある。
柔和に問いかけると、エメラルドのような緑の瞳がきつくわたくしを射抜いた。
あー、元気がありそうで何よりですわ。
笑みを深める。
多少震えているのも、まぁ可愛らしいものですね。
「翠玉姫。この揺れの原因はまだ分かっておりません。ただいま調査中でございます。暖房設備等に支障がなくて本当によかった。では引き続きこちらでお過ごしくださいませ」
姫はふいっと顔を背けた。
……本当におとなしくなりましたわね。
喧々と勝気な言葉を投げてきていた以前とは随分な違いです。
それほど、冬祭りの一件が彼女の中では大きな衝撃だったのでしょうね。
…………。
「リーフラグリス王国の国王様に連絡を取りました。大至急、あなたを引き受けにいらっしゃるそうですわ」
「……父上に話したの!?」
姫は顔を真っ青にして、わたくしを責め始めた。
当てつけのようにそんなことをして、とか、国を巻き込むなんて、だとか。
あらあら、片腹痛いどころか、煮えくりかえった腑が高笑いしている気分ですけれど?
「もちろん全てを余すところなく相談していますわ。国家間の大問題、と捉えておりますから」
「〜〜〜〜!!」
いたずら、なんて可愛い扱いをしてもらえるとでも?
フェルスノゥ王国に間者を送り込み、企み事をしたあげく、あまつさえ冬祭りでエル様に喧嘩を売りに行くだなんて。
言語道断です。
姫たちは冬祭りのツリーに仕掛けを施し、混乱を招くつもりだった。ですが広場に向かう道中、お兄様の姿に気付いたのです。
姫は思わず近寄り、エル様たちの存在に気付いた。
大変なショックを受けた顔をしていましたね。
冬の寒さに耐性がなかったため、エル様に突っかかってきてすぐに目の前で倒れましたけれど。
せっかくの楽しい気分を台無しにされて、フェンリル様は激怒していましたから、氷漬けにされなかった慈悲をありがたく思ってほしいものです。
ユニコーン様が記憶を消去して、その後エル様がやっと笑顔をみせてくれて本当に良かったですわ。
「あなたとともにいた部下が全て話しましたから。お覚悟なさいませ」
「他言するだなんて……!」
「あなたを守るため、と自分たちの身を省みずに慈悲をお願いされましたよ。三年間、わざわざフェルスノゥ王国で暮らして擬態した苦労も捨てて。良い部下を持ちましたね」
姫は頬を膨らませている。拗ねた子どものよう。
「……良い部下だなんてとても言えませんわ。だって全てバラされたのですもの。皮肉ですの!?」
「全員が黙り込んでていれば、企み元である王太子はすべての責任をあなた一人になすりつけて逃げ切ったことでしょうね」
「……!  家族を貶めるのはおよしになって下さる!?」
「あら失礼いたしました。憶測ですものね」
姫は王太子を盲信している、という従者の密告は本当みたい。
蝶よ花よと育てられて政治を知らず、王位継承権争いに利用されるしか生きる道がないだなんて……同情いたしますが、わたくしからの慈悲はございません。
「ところで、あなた方が兄のクリストファーをそれはもう悩ませ苦しめていたご自覚はありますか?」
こちらの家族こそ貶められたのですけれど?
「そんなつもりは……ただ慕っているだけですもの!」
この後に及んでも、お兄様の名前を出すとうっとりと虚空を見つめて頬を染める残念美姫を生あたたかく眺める。
「クリストファー王子は出会った時から私にとても優しくて……」なんて長々聞かされるものですから、だんだんと視線が冷え切ってきました。
凍らせたら黙るかしら。
お兄様、優しすぎるのも考えものですわ。厄介な人物にこそ執着されてしまう。
雪山に一時退避できてよかったですね。
「クリストファー王子はいついらっしゃるのですか!?」
「きません」
ほにゃらららららと続く色恋語りを聞き流し、翠玉姫にスッパリ返事をすると、わたくしは踵を返す。
強力な緑魔法の使い手、緑妖精の操り手である姫がこの揺れを起こしたのでは、と疑っていましたが……対面してみて「あっ違いますね」と確信いたしました。
原因は他にある。
緑の国には、次期依り代候補である彼女以上の魔法の使い手はいないから、それ以外でしょう。
人為的な理由でなければいいのですけれど。
塔を出た。
***
「ミシェーラ」
「!  国王様」
呼び止められたので、一礼。
父の方には魔物のフクロウがとまっている。
「こちらは……雪山からの使者ですか」
「そうだ。今回の揺れはフェルスノゥ王国だけなのか、周辺国でも起こったのか、調べて欲しいとのことだ」
「気になりますものね」
「ああ。他国に使者を送らねばならないな。片道で十数日はかかってしまうか……」
「まずは国内の対策ですから、連絡はできるだけ迅速に、くらいに思っておきましょう。人がこなせる連絡速度には限界があります」
「そうだな」
魔物のフクロウが不満そうに鳴く。
すぐに結果を持ち帰りたかったのでしょう。
しかしこれ以上の連絡手段がないのです。
妖精の声でさえも届く範囲は国と領土内だけですから……。
…………。
「国王様。緑の妖精がこの国にいるそうですよね?」
「そのような現状らしいな。……つまり?」
「捕まえたならば、話が早くなる」
「証拠にもなるな」
「それをフェンリル様たちに相談いたしましょう!」
この時、わたくしたちは黒い笑みを浮かべていたのかもしれませんね。
フクロウがぶるぶる震えています。
……あら!?
目の前に巨大な氷の魔法陣が現れたので、思わず父をかばって前に出ます。
<<フェルスノゥ王族よ!!>>
どどんと響く声は妖精王オヴェロン様と妖精女王ティターニア様のものですね。
……安心いたしました。
以前会議に割り込……こほん、ご参加なさった時と同じ魔法のようです。
「「ここに」」
わたくしと父が魔法陣に向かって深く一礼します。
<うむ、うむ。実は雪山でこのような緑の精霊が見つかってな>
<せっかくなのでそちらに送ろう。政治の交渉で上手く活用してくれ、と冬姫様の伝言じゃ>
魔法陣からはやたらと大きな雪妖精が2体と、肌が浅黒くぐったりした雪妖精が4体現れた。
大きな雪妖精はシャキンと氷の剣を作ってみせて、わたくしたちに騎士の礼。
思わず同じ仕草を返しましたが……この方々は一体なんですの!?
雪妖精はみな穏やかで優しく、戦闘は苦手なはずですけれど。
困惑しながら、説明の続きを待つ。
<冬姫様が魔力を注いだその雪妖精2体は、別格に強い。なにか不測の事態があった時にミシェーラ姫たちの守りとなるじゃろう、と聞いておる>
「心からの感謝を申し上げます、とエル様にお伝え下さいませ!」
<承知した>
手を組んで彼女に感謝の祈りを捧げる。
なんてお優しい方でしょう。
あの翠玉姫の相手をした後ですから、さらに癒されました。
<その鎖で繋がれている4体は、元・緑の精霊じゃ。今はフェンリル様が雪妖精に変えたので、悪さはしないぞ>
<しかし雪山に置いておくと寒さに慣れておらず弱る一方なので、城での管理を頼む。知っている情報は何でも話すじゃろう>
<活用せよ>
「おまかせ下さいませ」
それはもう、得意分野です。
この元・緑妖精には尋問と、体力回復したら緑の国への連絡をしてもらいましょう。
妖精の扱いについては、さいわいにも翠玉姫がいますし。
騒動の落とし前、きっちりつけて頂きます。
<<さらば!!>>
魔法陣が消えた。
「最良のタイミングで全ての手札が揃いましたわね。これから張り切って参りましょう、国王様!」
「ああ、ミシェーラは運も実力も光るものを持っているな」
お父様が、くっくっと笑う。
「どうなさいました?  やけに愉快そうですけれど……?」
「いや、お前の行動があまりにクリストファーそっくりだったので面白く思ったのだ」
「あ……無自覚でした」
なんだか恥ずかしくて、顔が熱いです。
わたくしが召喚魔法陣に立ち異常があった時に、お兄様に庇われて「次期国王様の自覚をお持ち下さいませ!」と叱ったのに、同じことをしてしまいました。
「反省いたしますわ……」
「そうだな。我をかばって、もし次期女王が倒れてしまったらこの国の未来はどうなるのだ?  優先順位を間違えてはいけない」
「はい」
耳が痛いですね。
お言葉、絶対に忘れません。
ーー未来の女王様。わたくしの長年の夢が認められたのです。
目頭が熱くなりました。
「もちろん父親としては嬉しかったぞ、大切に思われていること。娘の方が強くて情けなくはあるが、実に頼もしい」
「お父様……」
深呼吸して、ぐっと目を見開きます。
「わたくし、立派な女王陛下になってみせますわ!!」
「期待している」
人情をかけられない時には親族を頼りなさい、と言われて、目が潤みました。
王となれば、国の運営を第一に考えなくてはならないのです。
「……ありがとうございます、お父様。さっそくですが、訓練させて下さいませ」
「言ってみなさい」
「異世界の落し物の位置が気になります。門前のツリーのところ、トナカイのソリの待機場、騎士団の訓練場の隅。どこもエル様が滞在していたところです。偶然かもしれませんが、わたくしは次期女王として関連を疑います」
「そうか。では我々は、冬姫様を信じよう」
「よろしくお願いいたします。もちろんわたくしも彼女の悪意ではないと思っていますが、無意識の願いが、揺れや落し物の事態を引き寄せているのかもしれませんから」
「なるほど。理解した」
お父様が私の頭を撫でる。
「まだここに王冠はないな。つまりその疑念は、今は国王である我が担う。ミシェーラは、冬姫様たちを信じてあげなさい」
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