冬フェンリルの愛子となった私が、絶望から癒されていく話

黒杉くろん

41:王国へのお土産

 
 あれから2日経って、すべての妖精の泉に氷のドームを作ることができた。いろんな景観の泉があって面白かったぁ。
 これで大きな落し物が落ちて、悪い変化をする事は無い……はず!
 今できることはこれぐらいだけど、今後も対策を考えて行けたらいいな。

 あの後もやっぱり落とし物がたくさん見つかっている。
 なんと私の部屋にあったバスボムやタオルなどの入浴雑貨、くしや鏡とか、そういったものも見つかった。まさか自分の部屋のものが落ちてるなんてびっくり。日本の私の部屋はどうなってるんだろう?

 リンリン!  とソリの鈴の音が聞こえる。
 そろそろ王子様たちが戻ってくると思っていたんだ。
 この獣耳はやっぱり音をよく拾ってくれるね。

「「「「フェンリル様、ユニコーン様、冬姫エル様、ごきげんよう」」」」

 王国からの使者四人が恭しく雪国の一礼をした。

「フェルスノゥ王国に今後の予定を伝えました。皆、フェンリル様のご来訪を心待ちにいたしておりますわ」

<そうか>

 フェンリルが頷く。うれしそうに耳と尻尾を揺らして。か、可愛いなっ。

「”いつ行こうか、打ち合わせを待っていたんだ。早いほうがいいか?”……とフェンリル様がおっしゃっています」

 グレアが獣フェンリルの言葉を通訳。
 使者との会話はずっとこのスタイルで通していたし、王子様にはもう人型を見せているけど、一応今回もこのままにしとこう……ってことみたい。
 グレアは補佐としての喜びに満ちてるから良かったんじゃないかな。見てよあのドヤ顔。
 お城に入る時にはフェンリルは人型になると思う。

「早めにいらして下さると大変嬉しいです!  歓迎の飾りや料理を大急ぎで整えているところですから。間に合わせます」

 王子様たちはぱあっと顔を輝かせて答えた。さすがフェンリル信者ー。

<分かった。怪物の様子も早く見なくてはならないしな>

「……とフェンリル様が」

「「心からお礼申し上げます!」」

 王国にとってはいいことばかりだね。
 ミシェーラが「怪物の破片は依然として動く様子はありません」と連絡してくれた。ちょっと気にしてたからホッとした。
 こちらからも「新たな怪物には会っていない」と伝える。

 ……それにしても雪国の料理かぁ。ボルシチみたいなものとかあるかな?  楽しみっ。

「フェルスノゥ王国の歓迎、お祭りみたいだね」

 くすっと笑うと、王子様が頬を赤くして答えてくれる。

「まさにお祭りといった雰囲気ですね。このような催しができるのも、皆様がいらしてくれるおかげです。  おいしい雪国料理ときれいな飾りでおもてなしいたしますので、楽しみにしていてください!」

「わあー!」

 王国に行くのは初めて。山頂から見下ろした限りだと童話に出てくるような可愛らしい街並みだったし。
 お城はフェンリルも昔に住んでいた場所なんだよね。肖像画とかあるのかな。なにそれ超見たい。

「こっちからもお土産を持っていきたいと思っています。クリストファー王子、どうでしょう?」

「え!?  先日とても素晴らしいものを頂いたばかりですから!」

 王子様がアワアワと手を振る。ふふっ。

「先日のお土産は好評でしたか?」
「それはもう」

 うっとりと彼が語り始めた。

「丸い氷を手で包むと、すぐに溶けて真珠の種が現れましたね。雪に埋めたら、スモークグリーンとフロスティブルーの葉をつけた大きなツリーに成長しました。白銀のきらめく果実をつけて……甘い芳香に綺麗な見た目。あのような植物は見たことがありません。
 プリンセスが創造なさったんですよね?  素晴らしい!」

「観察力がすごい」

「ありがとうございます。趣味です」

 王子様は照れたように笑った。
 私が前回あずけたお土産は、メルヘンツリーの種だったの。まあ私の涙。
 真珠を氷で包んで魔法をかけて、ツリーに変化するように念じた。いざという時の食糧難に備えられるよう、甘くとろける高カロリーな果実。
 友好の樹木になればいいなって思ったんだ。

「庭師とともに大切にお世話いたしますね」

「クリストファー王子も一緒に樹のお手入れを?  ふふ、ありがとうございます。大切にしてもらえて嬉しいです。あの真珠って私の涙からできてるんですよ」

 王子様が倒れた。
 あっ、ミシェーラの一撃で復活した。うん。どえらい力技の回復魔法だったなー……多分……。

「エル様!  玄関近くの一番目立つところにツリーを植えましたの。城にいらした時に是非ご覧ください。そしてフルーツを一緒に食べられたら嬉しいですわ」

「ミシェーラたちもまだ実を食べてなかったの?」

「先に、だなんてとんでもございません。どうか一緒に」

 そっかぁ。食べられるよって伝えただけだったから、待たせちゃったね。
 私も味見してないからスペシャルフルーツが楽しみ!  ドライフルーツにしたら兵糧丸になりそう。なーんて、わくわく考える。楽しいことを思いつくのは、きっと今が幸せだから心に余裕があるんだろう。

<雪山に食材を探しに行くか?  エル>

「そうだねフェンリル。クリストファー王子、ミシェーラ、雪山でお土産を採取しに行くつもりですが、よかったら皆さんも一緒にいらっしゃいますか?」

 使者の皆さんも誘ってみた。
 王国民の好みとかも聞けるといいなって。

「是非!!!!」

 一番に顔を輝かせて返事をしたのはやっぱり王子様。本当に自然がお好きですね。
 ミシェーラたち四人とも同行することになった。

 今いるフェンリルのねぐら周辺には、冬の恵みが豊かに実っている。
 樹の根元を探せばキノコが見つかり、食べられる花や木の実も豊富。
 お肉は…………血が滴る得物を持って行くのは今回はやめておこうね。ってグレアと王子様の服の裾を掴んで引き止めた。マジでやめとこ。王子様が倒れて復活した。

「あっ。このキノコは見たことがありません。いや……既存品種からちょっとだけ違うのか。今回の冬で特別な変化をしたのかもしれません」

 白くて肉厚、マッシュルームみたいなキノコを王子様が熱く見つめてる。
 少しかじって、すぐに吐き出した。

「大丈夫です、舌がピリピリしないので毒はありません。よい食材です」

「そんなことしちゃうから毒キノコに当たっちゃうのではー!?」

 出会いの印象が強烈すぎて思わず王子様相手に大きな声を出してしまった。
 ほらあれ、飛び上がりキノコ!
 王子様は遠い目をしている……。ほらー!

「飲み込まなければ大丈夫なんですよ。本当に。ええ……」

「もう飲み込んじゃダメですよ?  気をつけて」

「はい」

 王子様はすんなり素直に返事をした。
 うん、気をつけてね。心配するから。

「これはどうですか?  クリス」

「ああああ!  マシュマロ草ですね、しかも実が大きい最高品質の……!  ありがとうございますグレア様。フェルスノゥ王国民の冬の大好物なんです」

 ここで王子様が口をつぐんだ。……なんとなくだけど「久しぶりに食べられます」とか言いかけたんじゃないかな?  でもフェンリルの気持ちを気にして口をつぐんでくれてありがとう。
 ちょっとミシェーラ(及第点ですわ)って囁きがこっわ!?

 グレアとともに植物談義をしている王子様を眺めているミシェーラは、いつもの主張の強さはどこへやら、とても静か。
 王子様に見せ場を譲っている……のかな?  今はきっと、彼が一番楽しめる時だから。
 時に厳しいけど、家族の愛情だなぁ……って目頭が熱くなった。

「人は記録する文化がありますから、細やかな情報を知っていますね。獣は感覚的にどれが良い、悪いかは知っていますが、食材の詳細は知りません。
 クリス、新たな雪山動植物の図鑑を一緒に作りませんか」

「是非!!」

 グレアと王子様はすっかり仲良くなったよね。
 最初はつんつんしてたのに、なにがあったかは知らないけど、良かったねー!

 クスッと音が聞こえたので横を見ると、ミシェーラがにこにこしている。

「ねぇ。私たちも仲良くなれたらいいね」

 そっと伝えたら、天使のように可憐に微笑んでくれた。
 すんごい美少女!  まぶしぃー!

 袋いっぱいのお土産が集まった。
 私たちを見守って周囲の雪かきなどをしてくれていた騎士団員が、荷物をソリに積み込む。

<こちらも支度はできた>

 フェンリルは雪妖精たちに<しばらく離れる、留守を頼む。何かあれば連絡してくれ>と話していたの。

 お土産用の袋がいっぱいになった。この袋も地球からの落し物。頑丈でいいものだよ。……うーん。落ちすぎっ。

<そろそろ向かうか>

「はーいっ」

 王子様たちはトナカイのソリに乗って、その後ろにユニコーンにまたがる私、獣のフェンリル。
 フェンリルが”ガオーン”と鳴いて足を踏み鳴らすと、氷の道ができあがる。
 出発!
 氷や硬い雪の上を走りなれている(訓練してるんだって)トナカイは快調に走り始めた。

 森林、雪原、白銀の世界をさっそうと駆け抜けて、王国の入り口にたどり着いた。
 歓迎の華やかなリースがたくさん飾られている。


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