冒険者パーティー【黒猫】の気まぐれ

sazae9

IF第一話 二回目の異世界

幸せな気持ちで光に包まれていたが、急に体の感覚が鋭敏になった。
背中にあたる感触が固くでこぼこしている。
右手は何か温かい感覚がある。

不思議に思い目を開けてみると、青空が見えた。

青空が広がっているという事は、僕はまだ生きているのか?
長年生きていたからなのか記憶が曖昧だ。

そんなことを考えていると、右手の温かさが僕の手を締め付ける感覚に変わった。
痛いと思い右手側を見ると、女の子が僕の手を握りしめこちらを見つめていた。



懐かしい雰囲気を感じる。

この感覚は、僕の大切な人。
前世では結ばれることがなかったが、次の人生では結婚しようと約束した人。


僕はつい口に出してしまった。
「結婚して僕と一生一緒にいてください……。」

「はい……一生よろしくお願いします。」
女の子はそう答えた。


ようやく結ばれた……。
僕は嬉しくて起き上がり女の子を抱きしめようとすると、女の子から抱き着いてきた。
そしてしばらくの間泣いていた。


女の子が泣き止むと、どこからともなく鳥が飛んできた。
真っ黒な鳥…………見覚えがある。


「ラウール、サクラ! この前ぶり! 我も来たよ!」


僕はこの八咫烏を良く知っている。
僕の従魔だったクロウだ。


はて、僕は死んだはずなのに、何でこんな状況になっているのだろう?
隣の女の子もサクラと呼ばれた。
僕の感覚は合っていた、サクラだ。


だがなぜ?
僕も見える範囲で体を確認すると、死ぬ間際より体が縮み肌艶も良くなっている。
若返りなのか?


その事情はクロウが説明してくれた。
何でも僕は今回は転移と言えばいいのか、作られた体に転生させられたそうだ。
サクラも同様で、クロウだけが良くあるそのまま転移されたようだ。

前世の世界で僕たちが頑張ったことを認めてくれた神達が力を合わせ、僕たちを今世も一緒にいることが出来るように配慮してくれた。
クロウはまだ死んだわけではなく、寿命まで生きてしまうと僕たちに会うことが出来なくなるから、特別送ってくれたそうだ。

ご褒美とはもらいすぎだが、サービスしてくれた神達はこの次の生命活動は同じことはないと念を押しクロウに説明した。
だから何があっても次の人生に期待して死ぬことはないように僕たちに説明してほしいと言っていたそうだ。

追加説明で、魂に記憶されたスキルはそのままである。
亜空間に入っていた物は世界が違うので引き継がれない。
体は神達が力を合わせて作っているので高性能だが、死なないわけではない。
この世界も魔素はあるから、魔法は以前と同じ方法で使うことが出来る。
ただし、この世界にはこの世界なりの魔法の使い方があるから、常識を知るまでは多用しない方が良い。
寿命も魔力が多いほど長くなるが、前世の僕たちの寿命ほどは長くならない。
今の体はこの世界の十二歳程度の見た目に設定されている。
前世とは外見は違う。
前世は数値やスキルは目安だったが、この世界は数値やスキルに左右される能力である。
この世界の神はめんどくさがり屋で、よほどのことがないと世界に干渉しないことから、僕たちが転移することに反対もしてこなかった。
その他の情報は神の口からは言えないので、あとは体験するようにと言われたそうだ。


この世界でもチートだと思う。
亜空間にあったコレクションはもったいないが、この世界でも収集する楽しみが出来た。
しかし先立つお金もないため、まずは金策だとラウールは考えた。


まずは人のいるところに移動しこの世界の事を勉強しようと手をつないでいるサクラと肩に止まっているクロウと話し合った。
今世では右手側にサクラ、左肩にクロウが定番になりそうだ。


移動するにあたりクロウのマッピングがこの世界でも通用するか確認したが、産まれた地でないためか何も浮かんでこないとクロウは答えた。

それではクロウの能力に頼れないと思ったが、おもむろに飛び立ち、周辺を確認してきた。

今いるところは平原となっている。
ここから少し進むと道があり、その道をどちらと言えばいいのか右手側に進んで行くと大きな町に着くようだ。

どういったところに行くのが一番いいのか悩みはしたが、この世界の事を知らないのでそこに行くことにした。
衣類はおそらく神様が用意しているから不自然ではない格好だと思う。
後はこの平民のような格好で怪しまれないかだな。
お金もないので、途中で何かを採取できないかと考え、収納場所としてスキルの亜空間収納を確かめたら、前世と同じように出来た。


スキルを確認しながら移動していると道までたどり着いた。
小動物がいたので素材として採取しておいた。
自動解体も生きていた。

数字と能力と説明があったため、自分自身のステータスを確認しようとしたが、これはできなかった。
おそらく他の方法でないと見ることが出来ないようだ。


町の方向へ歩いて行く。
身体能力や魔力は前世と同じくらいある感覚があるが、この世界の人と比較していないので油断はしないでおこう。


しばらく歩くと時々人とすれ違うようになった。
人の見た目は前世と同じだ。
感覚では僕たちより弱いが……。


冒険者らしき姿の人もいる。
こちらが持つ武器も見た目は同じだ。


段々と町が近くに感じるようになると、門の前に人が並んでいるのが見える。
やはり検問があるか……。

町に入ることが出来るか不安はあるが列に並ぶ。

徐々に前に並んでいる人が街に入り、僕たちの順番が近づいてきた。

門番が見えるところまで来ると、予想通り何かを門番に見せている。
身分証明が必要なのだろう。

僕とサクラは手をつなぎながら自分の順番を待った。



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