冒険者パーティー【黒猫】の気まぐれ

sazae9

忍び寄る不穏な気配

ダンジョンの様子を確認した僕たちは、ラシーア帝国の領土でどんな魔物が出現するか確認に出た。

フロックリンの南には森があるため、探索することにした。

ラシーア帝国は余り寒くならない地域で、採取出来る野草も今まで見たことがない物もあった。

シチランジンは地域で気候が違う程度で、四季と言えるものはない。
地方によって採取物や魔物に違いが大きいらしい。

ゴブリンやオークなどの魔物はどこにでもいるが、動物で言う犀や馬、牛や羊等が出現する。
逆に湿地帯が少なく蛇や蜥蜴の魔物は少ない。

情報によると亜種の魔物も多いと言う。

そんな森を僕たちは魔物を倒しながら進んだ。
高ランクの魔物は今のところ出てこなかった。

~~~~~

僕たちはしばらく魔物を倒し、野草を採取し森の探索を続けていた。

周りの冒険者の数は多くなく、今は僕たちをつけてくる気配は一つだけだった。

つけてきている冒険者・・・。
フロックリンを出てから絶妙な距離を保っている。
だから僕たちが魔物を倒しながら攻撃していることはばれてはいないだろうが不快だ。

徐々に不快指数が高まり、姿をくらますか声をかけるか迷っていたが、相手が動くのが早かった。

・・・・
・・・・

そこに現れたのは気配でわかっていたがトムシーカだった。

船でトラブルを起こし裁かれているはずの男が何故いるのか・・・。
思ったよりも軽い処分ですんだのか?

何故と考えてソフィアも口を開かなかったが、相手から話し始めた。

「お前たちを甘く見ていたようだ・・・。私はあの方の為に強くなければいけない。今度こそ死んでもらう。」

トムシーカはそう言うといきなり黒い塊を飲み込んだ。
その効果なのかすぐに見た目に変化が訪れた。
初めの変化は顔だが、人相はそのままだがゴーレムのような顔になる。
次に体が大きくなり服が破れる。
その体を見ると岩が張り付いたようになっており、ゴーレムのような整った形ではなかった。
どんどん大きくなっていき、変化が止まったのが四つ足の岩の塊になった時だった。

トムシーカは動物のキリンの様になり、ごつごつした長い首の上にはゴーレム顔。
体はキリンの体に岩が張り付いている見た目になっていた。
禍々しい色で、黒と他の色がごちゃごちゃしている。

「ふ~。これほどの変化があるとは。私はトムシーカ。忠誠を誓う方の為にお前を殺す。」

地上5mほどの位置から吐かれた言葉だ。

「私を殺すのですか? あなたの実力では無理だと思いますけど。あの力の倍程度では私を傷つけることもできませんよ?」

「ふん、なめた口を・・・。私のこの攻撃を喰らうがいい!!」

トムシーカが叫ぶと同時に口から泥が吐き出された。
ソフィアを中心に僕たちすべてを包む量だ。

速度も泥とは思えない速さで、ぶつかる衝撃は激しいと予想できる攻撃だ。

「これでは無理ですね。」

すでにソフィアは結界を目の前に展開しており、泥は全て防がれる。

その泥の後ろから猛スピードでトムシーカが追走し結界に体ごとぶつかってきた。

その衝撃でも結界はびくともせずトムシーカだけが力を入れている。

「無理ですよね? あなた程度の実力では無理ですよ。」

平坦な声で煽るソフィア。

「なめるな!」

更にトムシーカが力を入れているようだが傷もつかない。
段々蹴りや首を振り回す攻撃、岩を飛ばす攻撃をして結界を壊そうとしているがびくともしない。

「もうやめたらどうですか? あなたが忠誠を誓う人の力でも私を殺すのは無理ですよ?」

「無理ではない! あのお方の力はこんなものではない。サンクリットにも言われたんだ。この姿に変化すればお前たちなどいちころだと! サンクリットはあのお方にもっと近い、深い忠誠を誓っている。私やサンクリットが誓う我らが神様の力を思い知れ!」

トムシーカは色々暴露しながら目の前に巨大な円錐状の岩を作り出した。
その岩は僕達に猛スピードで飛来するが、無傷だ・・・。

「くっ!」

全く動いていないソフィア。
結界だけで僕たちは攻撃を防いでいる。

「そろそろ諦めたらどうですか? あなたは人間であることをあきらめているみたいですけど、その姿で森に帰るのですか?」

「私はこの姿で過ごすつもりはない! 魔王様が戻してくれるとサンクリットが言っていた! 我らの神が作り出した最高戦力の魔王様がな!」

「そうですか、魔王様があなたの味方ですか。では頑張って魔王までたどり着いてくださいね?」

「お前を殺してからな! 我が神のくれた力がこんなもののはずがない!」

そう言うトムシーカが空高く飛び上がり、ソフィアに向かって落ちて来る。

ストン・・・。

結界に乗った・・・。

ソフィアは今は全方位に結界を展開している。絶妙に結界の強度を調整し受け止めた。

「なぜ壊れない! 俺の重さが乗った攻撃でも、なぜだ!」

「それはあなたたちが弱いからではないでしょうか? 私は前の仲間のラウール達にはかないませんよ?」

「あいつらも殲滅対象だ! サンクリットはすでに神託をいただいている。魔王様の邪魔になる者を殺せと。」

「勇者はあなたたちが倒さないんですか? なぜサンクリットは勇者を育てたんですか?」

「それは反対したら不自然だろ! だからだ! ゆうしゃに・・・・、う・・・、ぐふぉ!!」

トムシーカの口から大量の血? 真っ黒い液体が噴出した。
まるで全身の血が抜けているような量だ。
どんどん噴き出た血の勢いがなくなり、トムシーカはピクリとも動かなくなった。

「死んでますね。私は何もしていませんが、自壊の呪いでもかかっていたかもしれませんね。私がかけていた精神魔法でここまで口を割ってくれたのはありがたいですが。」

さらっと精神魔法を使ったと白状した・・・。

「ソフィアが何かしていたのは知ってたけど精神魔法ね。それは僕達にも効く?」

「ラウール達には無理ですね。今回は怒らせることで魔法が効きやすい状態に持っていきましたし、魔法防御も弱い相手でしたから。」

「そうなんだ。でも嘘をつけない状態だよね?」

「嘘を本当と信じていない限りは無理ですね。」

「じゃあいい情報を手に入れた。サンクリットが信じる神がいる。それはおそらく光の神ではない悪神。神様を信じるからこそなのかな? そしてその神の戦力が魔王。魔王についてはもっと情報があったらよかったけどね。」

「おそらくトムシーカはわからなかったのではないですか? Sランク冒険者と言っても小物のようでしたし。」

「そうなんだろうね。だけど昔のことで自信はないけど、そんなに悪い気配を感じなかったんだけどな~。あの後たしかダンジョンに行くと言っていたし、そこで何かあったのかな?」

・・・・
・・・・

「ラウール! それよ、私が引っかかっていたのはそれよ!」

「急にどうしたのサクラ?」

「【破壊の鉄球】もダンジョンに行っていたんでしょ? ダンジョンで呪い? 伝播する呪い?になってたでしょ。トムシーカも伝播するかわからないけど、呪いじゃない!」

「あ、そうか! 今回自壊したのももう魂の記録?は見ることが出来ないけど、呪い・・・。」

そこで【黒猫】はトムシーカの死体を回収しフロックリンに戻ることにした。
情報が多くなってきて一度まとめる必要を感じたからだ。

ここにきて貴重な情報。
魔王に一歩近づいたと感じた黒猫だった。

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