冒険者パーティー【黒猫】の気まぐれ

sazae9

サクラの言い分

僕たちが勇者に指導する二日目。
勇者たちは来なかった。

代わりにデーブンとサンクリットが僕たちの拠点に現れた。
僕たちは二人を家に迎え入れ、話を聞いた。

「黒猫の皆さんには言っておきたい。勇者様は今、部屋にこもっています。昨日のラウールの話しで、何かを思ったようだ。」

「そうですか。僕たちは今日は指導しなくてもいいという事ですね?」

「それはそうだが、何か私に言う事はないのか? 勇者様の様子が変になったのは、お前たちのせいではないか!」

サンクリットが唾を飛ばしながら興奮している。
もっと冷静な性格だと思っていたんだけど。

「ちょっと落ち着いてください。僕たちが何かをしましたか? ただ肩の力を抜いてほしくて話しただけですけど。」

「それが余計だと言うのだ! ようやく勇者様が魔王を討伐する気になってくれていたのん、台無しだ! 勇者様は召喚されてからしばらくは混乱していたんだ。それをようやく訓練できるように説得し、今ようやく旅立てる状況になったんだ!」

・・・・
・・・・

「何か言ったらどうなんだ! 事によってはテザン皇国が許さないぞ!」

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「サンクリット様? 黒猫を許さないと言うのは、我々の荷物運び情報ギルドを敵にすると? もしかすると冒険者ギルドも。会話しただけで罰せられる国なのですか?」

「デーブン! これは世界の命運がかかっている事なのだぞ! 世界の皆が力を合わせないでどうする!」

「力を合わせたいですよ。それでもテザン皇国の姿勢が、勇者様がなぜ泣いたかも、なぜ閉じこもっているのかもわからないうちに黒猫に責任があると言うのはどういう事ですか?」

「黒猫が言ったからだろ! ようやく勇者様の使命を果たそうとしてくれた決意を、黒猫が踏みにじった!」

「あれがですか? 勇者様はいつでも緊張感をもてと? 力を抜いて楽しむ暇はないと?」

「そう言う事だ! 常に魔王を倒すことを考える。それが勇者様だろう!」

・・・・
・・・・

サンクリットの言葉にデーブンも呆れた顔をしている。
僕たちのパーティーメンバーもあきらめ顔だ。

しかしここでサクラの顔色が変わってきた。
サクラにも何か思う事があるのだろうか?

「お前らは今後勇者様に近づくな! また私たちが一から教育し直しだ。お前らのせいで魔王討伐までの無駄な時間を過ごした!」

・・・・

・・・・

「さっきから聞いてるとよく言うわね! あの子たちの気持ちを考えたことがあるの!」

サクラが憤慨している。
今までで一番顔が怖い・・・。

「あの子たちはまだ十八歳。数が数えられる? 一から行って十八番目よ? まだまだ子供よ?」

「十八歳はもう成人している!」

「じゃああなたの子供の年は? あなたの子は何をしているの? あなたの子供も魔王退治に行かせることが出来るの?」

「なぜ私の子供が行かなければならない! 勇者でもないのに!」

「じゃあ勇者に選ばれたらどうなの?」

「そんな仮定の話は知らん!」

「じゃああの子たちは好きで勇者に選ばれたの?」

「勇者は神様が選ぶのだ! 我々が選ぶのではない。神様がすることは絶対だ!」

「そう・・・。じゃあ神が魔王退治の為にあなたに死んでと言ったら、あなたは死ぬのね?」

「は~? 神様がそんなことを言うわけがないだろ? 魔王討伐で死ぬのは何人かの勇者だけだろう? この世界の人に犠牲者が出ないように呼ばれるのが勇者だろ!」

「そう・・・、そんな考えなのね? でも、あの子たちはそんなことを知らずに召喚されてるのよ? 私たちは春の気配の勇者と話したことがあるけど、もともとの世界では、戦いなんて無縁な人たちなのよ?」

「それがどうした! 神様が選んだのだ! この世界の犠牲になるのは神様が望んでいるんだ!」

「神の間に呼ばれてから説明され、もう戻れない状況になってこの世界に来るのに? 神はそこまで人を選んでいないのよ?」

「神様のすることに口出しするのか! それは皇国に対する敵対ととってもいいのだな!?」

「なんでそうなるのよ・・・。ただあの子たちはまだ戦う覚悟が出来ていないのよ? 十八歳らしく息抜きをすることも必要なのよ? ただでさえ周りの期待に押しつぶされそうなんだから・・・。」

「勇者なのだから遊んでいる暇はないんだ! 少しでも早く魔王を倒すために、毎日頑張ってもらわないといけないのだ!」

「は~、あなたはわかってる? あれだけ初めは様を付けていた勇者を・・・、ただ勇者と呼んでいるのを・・・。少しも大切にしていないじゃない! ただ自分たちの為に、ただただ様を付けて、目先だけの尊敬を示して・・・、何がしたいのよ!!」

おう・・・、サクラが切れている。
段々と魔力も充満してきた。

「くっ! 勇者様でも勇者でもどっちでもいいだろう? 我々の世界が救われるのなら。」

「そこが本音でしょ? そんなうわべだけの言葉で、あの子たちが丸め込まれていると思ってるの? あの子たちは言ったわよね? この世界では名字は偉い人が使っているから、ただ名前を名乗るだけ。名字を名乗るのは何かを成し遂げてからと・・・。何も思わなかったの?

「勇者がただ決めただけだろ!」

「勇者は相手が自分達より上に見えると言っているのと同じよ? この世界の名字がある者の方が立場が上に感じるように接したのはあなたたちよ?」

「は~、何勝手な想像をしてるんだ! お前の考えだろそれは!」

「じゃあなんで名字を名乗れなかったの?」

「知らん!」

「じゃあ帰ったら聞いてみてよ? リーダーがコウキだろうから、宮殿にいるんでしょ?」

「お前たちには関係がない! なぜおまえたちのいう事を聞かなければならないんだ!」

「じゃあ勝手に聞くわよ。宮殿にいる勇者は四人でしょ? 他のところの勇者も部屋に引きこもっているとして、一人になっているセツナも来ていない。何か勇者たちの間で話し合いがあったんでしょ、昨日のうちに。」

「お前たちは今後は勇者には会えない!」

「じゃああちらから来るのは? 無理やり止めるの?」

「くっ! 無理やりは止められない・・・。お前たちがこの国を出ていけ!」

その時に僕たちの後ろの扉から【春の気配】が入ってきた。
春の気配は今日の指導を見たいと、サンクリットやデーブンより先に我が家に来ていた。

勇者の姿が見えず、とりあえずは他の部屋で様子を見ていると言って、扉の向こうで様子をうかがっていたのだ。

「あなたたちは・・・。」

「俺たちは今の会話をすべて聞いたぞ? それでどうする? それがテザン皇国全員の意見か?」

・・・・
・・・・

「一度教皇にお話を持って帰ります・・・。」

先ほどの興奮が一気に醒め、よろよろとサンクリットは帰っていった。


その後は残った僕達【黒猫】と【春の気配】そしてデーブンで、テザン皇国はどんな対応をしてくるかと話し合った。

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