冒険者パーティー【黒猫】の気まぐれ

sazae9

勇者との対面

ラウールとサクラは昼よりもだいぶ前に冒険者ギルドにいた。
出来るだけ目に付くにはどこがいいか考えて、登録後に振り向いたときに目に付くテーブルに座っていることにした。
もちろんサクラは何もかぶらず、顔もすべて見えるようにしていた。
そしてラウールも1つ考えて、月光を腰に備えていた。


2人は飲み物を飲みながら、今後の旅の行方を話、時間をつぶしていた。そして、昨日見た人がドアを開けて入ってくると、後ろから勇者3人が入っていた。
装備は昨日と変わらずに、堂々と受付に進んで行く。
先導している者は、他の冒険者に順番を譲れと言うと、低ランク冒険者が何人かはいそいそと列から離れた。しかし中堅から上の冒険者でよける者はいなく、結局は列の一番後ろに並んでいた。そして勇者はそれが普通だとでもいうようにしていた。
勇者の順番が来て、受付では特にもめごともなく手続きを終えていた。そして3人ともに目を輝かせていた。
受け取った冒険者プレートを見て、3人で何かを話し、キョロキョロし始めた。そして、ラウール達が座っているテーブルの方を見つけると、歩み寄ってきた。


先頭を歩いてきた体格のいい勇者が目の前に来て、
「こんにちは冒険者さん。何か飲みながら3人で冒険者ギルドの雰囲気を味わおうとしたんだけど、あなたの見た目が気になってね。冒険者としては先輩みたいだし、一緒に座ってもいいかな?」
そう丁寧な口調で聞いてきた。そこには噂であったような上から見下す様子はない。


それを聞いたラウールが口を開いた。
「いいですよ、どうぞ空いてる椅子に。まー僕の物ではないですけどね。」


その返事を聞くと3人の勇者は椅子に座った。そして先導していた身なりのいい人は、外の馬車で待っていると言って外に出て行った。


意外にゆるい対応だなとラウールは感じていた。


「じゃあ先輩として先に。初めましてラウールと言います。こっちはサクラ。【黒猫】って言うパーティーで旅をしているよ。あなたたちは勇者様ですよね?」


そう言われた体格のいい男が、
「勇者様はやめてくれよ。俺はダイチ。この世界ではないところから来たんだ。よろしくな。」
その後にもう2人も続いて、
「私はヒミカ。私もダイチと一緒ね。勇者様もやめてね。」
「俺も・・・、僕はグンジョウ。一番年下かな?よろしくね。」


ラウールは予想外だった。
普通の対応だ・・・。


「いきなり悪いな。ちょっとそっちのサクラの見た目がな、俺たちのいた所の人と見た目と同じでな。こっちに来てから見たことがなかったから、俺達みたいな見た目はいないのかと思ってな。」
そう人差し指で鼻を掻いている。


「私みたいな人はいるのかな~?今まで見たことないけど。だから住んでいたところもこの見た目で出ていくことになったし。」


「そうなの?そんな事があるの?」
そうヒミカが身を乗り出してきた。


「ん~、ま~私の見た目って変だから。目立ってしょうがないもの変なほうで。」


「じゃあ僕たちも目立っちゃうのかな?」
グンジョウが不安そうにつぶやいた。


「勇者と言うだけで目立つでしょう3人とも・・・、何を言ってるんですか~。サクラは見た目で、あなたたちは勇者の肩書でね。」


3人は小声で何かを話している。
そしてまたダイチが口を開いた。


「サクラはこの世界の人?」


「この世界の人?この世界以外に世界があるの?」


「いや、俺たちはこの世界でないところから来たって言ったろ?」


「そうね。勇者召喚っていうから、どこからどう来てるのかはわからないけど。」


「俺たちはこの世界とは違う、地球という所から来たんだ。」


「チキュウ? シチランジンではない世界? 何が違うの?」


「よくわからね~けど、違う世界に連れてこられたみたいだ。」


「そうなの? よくわからないけど、あなたたちはそれでいいの?元居たところに帰りたいとかはないの?」


「そこなんだよな~。いきなり連れてこられて勇者って言われるし。テンプレみたいに魔王もいないし。」
ダイチが話している横からヒミカが口を挟んだ。
「それどころか、前にも召喚された勇者がいるっていうじゃない? 多分同じところから召喚されてるわよ。見たことのある、聞いたことのあるものがいっぱいあったもの。」
グンジョウも
「そうそう、異世界転移って言ったらテンプレがつきものなのに何もないし。特に僕たちの役目も強くなるだけみたいだし。召喚したファンフート様の護衛?みたいなもので、もっと強くなるまでは特に役目もないみたいだし。」
ダイチが
「それなんだよな。せめて悪い貴族が召喚して、次の教皇は俺だ!そのために敵をやつけるんだ!!だったらいいけど、意外に今のところいい人なんだよな。」
「それよ~、だって何よあの発言。『俺が悪者になるだけで、この国の安全が図られる。そして国民も盛り上がる。失敗しても私の名が汚れるだけで、現教皇には影響はない。』ってどこのかっこいい貴族よ。自分がろくでなしって呼ばれているのも知ってたしね。」
「でも、僕はそれくらいだったら呼ぶなよって思ったけど、憎めないんだよな~、誘拐犯なのにね。」
「俺も判断に迷うんだよな。あのついてきてくれた人も、善意でやってるんだよな~。」


3人が自分たちだけで話し始めて止まらない。
でも、話を聞くと連れてこられたことに不満はあっても、呼んだ人は悪い人ではなかった?


話が終わらなそうなのでラウールが声をかけた。
「ねえ、その話はここでしていいの?」


「あまりよくないんだけどな、サクラを見てたら、なんか話してたぜ。でも、そこまでの口止めもしてないんだぜ、ファンフート様は。どうしたいのか俺にもわからないぜ。」


「僕もです。冒険者になりたいって言えばこうやってこれるし、召喚されたばかりの時も、怖がっていた僕を十分に面倒を見てくれましたし、外に出すのも、3人の実力がある程度ついてからにしてくれたし。」


「でも光の神様には召喚したとに毎日謝っていたわよね。じゃあ初めからやるなって言いたいけど。」


ラウールは思った。
自分では判断できないと。
神や教皇の意向には背いている。
しかし、召喚された人がそこまで悲観的ではない。
ん~・・・・。

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