君と剣と魔法を紡ぐ物語〜私達がお尋ね者っ!?〜

高見 燈

第4話  お尋ね者とは??

 ーー気がつくと……森にいた。

 何処かで感じた懐かしいこの、身体の下の冷たさ。

「え!?」

 私は起き上がった。
 手をついたことで、少し前に感じた草の感触が、戻ってきた。

「ここって……」

 上を見れば青空だ。草原にいた時は、何か見てるヒマが無かった青空。

 私が呟くと、

「お前達が訪れた“始まりの森”だよ。さあ。コッチに来なさい。」

 と、黒崎さんがそこにはいたのだ。
 杖を持ち立っていた。

 こうやって見るととても優しそうで、それにこの杖。傘みたいな柄がついてる。

 けど、木彫りっぽい。

 飛翠は既に立ち上がっていた。

 最初に訪れたこの森を、見回していた。

 私も立ち上がる。
 鞄ーーも、あった。
 放置してあった。

 それに、“指名手配書”もだ。
 持ちながら逃げ回ってたからな。うん。

 私はそれを拾うと目を丸くした。

「ねぇ? 飛翠。懸賞金みたいの増えてる……」

 と、私はそう言ったのだ。
 飛翠はその声に、側に近寄ってきた。

 覗く。

 “200’000’000コア”つまりーー、
 “2億コア”だったはず。

 なのに、今は“205’000’000コア”になっている。

「2億500万コア?」

 飛翠が珍しく驚いた声をあげた。
 余り驚かないから。この御方は。

「その“手配書”は、イレーネ国の“魔道士”が造ったものだ。罪人が罪を犯せばその分……懸賞金も跳ね上がる。瞬時に“書き換えられる”」

 黒崎さんはそう言いながら草むらを歩く。さっきの“辺境の町アレス”とは、逆方向だ。

「つまり。それって“何かした”ってこと? もーなにしたのよ!」

 私はそう言った。

 すると、歩いていた黒崎さんが立ち止まった。振り向いたのだ。

 何だかひどく怒ってるような顔だった。

「聞きたいか?」
「聞きたいでしょ。そりゃー。」

 私は即答だ。こんな怒られる様な顔される筋合いないし!

「アレスの者が……恐らく。“罪人庇いの罪”で、捕まったのだろうな。逃げたお前達の懸賞金が跳ね上がったのだ。」

 え……?

 私はーー、急に恐ろしくなった。

「ちょっと待って! 私達なにもしてない! それに、マリーさん達だって“無実”じゃん! 私達は“この人達”じゃない!」

 と、手配書を黒崎さんに向けて突き出した。

 飛翠が

「マグカップか。」

 と、そう言った。

 はぁ?? なんでこー冷静なんだ! ちょっとは便乗して、弁解しろ!

「左様。お前達を探しているのは……“イレーネ国王近衛隊長”。つまり、“国王護衛軍”のトップ。“サデュー•ナタク”様だ。」

 サデュー•ナタク??

 あー……もう。カタカナでくるのね。やっぱり。ん? サデューって……あのマリーさんのお母さんが、言ってた名前だ。

 黒崎さんは、歩きだした。
 私達も自然とついていく。

 草むらと森。そこを歩いて行くと一軒の丸太小屋があった。

 何ともこじんまりとした可愛らしい小屋だ。

 おとぎ話に出てきそうな木こりの家ーー。ログハウス。それに似ている。

 明るいオレンジの丸太で造られた小屋。三角屋根は黒い。屋根の上には両穴の煙突がちょこんと乗っかっている。

 銀色の煙突はハンマーみたいなカタチだ。

 木製の階段は、板で造ってあった。
 登りやすい。

 黒崎さんは、その小屋に入って行ったのだ。

 小屋の中は、一人暮しなのかこじんまりとしていた。

 土足ーー。なのは相変わらずだ。
 丸太小屋の床は、ゴツゴツとしていた。フローリングを想像していた私は、新鮮だった。

「座りなさい。疲れただろ。」

 と、黒崎さんは言うとテーブルに視線を向けた。四人掛けみたいなテーブルだ。
 これも、手造り感のある木製。

 ふーん。何の木だろ? 

 私は飛翠と並んで椅子に座った。
 なんだか柔らかなクッションが置かれてる。

 四角くてふわっとしてる。白いクッションだった。

 お尻が心地よい。
 触ってみたけどなんか不思議な感触だ。毛じゃないのにふわふわしてる。


 テーブルにマグカップ二つ。
 黒崎さんは、置いた。

 木のマグカップだ。
 主流ーー、なのかな?
 さっき、マリーさんが出してくれたものと、同じようなものだ。

 飛翠は私が握りしめていた“指名手配書”を、テーブルの上に置いた。

 見れば見るほど、私達によく似ている。

 このセピアの紙質が、何とも言えない。

「で? その“お尋ね者”ってのは何モンなんだ? よーは、俺と蒼華そうかに似てんだよな?」

 飛翠は置かれた木のマグカップを持つと、そう言った。

 くんくん。と私は嗅ぐ。

 甘い……ハニーミルク? みたいな香りだ。湯気もたっててあったかそ。

 それに、ほんのりとピンクが混じった乳白色。身体がほかほかになりそうだ。

「イレーネ国王から……罪名は“国家レベルの大罪”としか請けていない。」

 黒崎さんは難しい顔をしている。
 イスを引くと座った。

 その前にも同じマグカップがある。

 来客が多いのかな? 一人暮しっぽいのに。

「だがーー、国王が直々に“指名手配書”を配る様に申し付け……護衛軍達にまで、身柄を捜させている。」

 こくっ。と、飲んでみた。
 甘くて美味しい。

 あんまり熱くない。

「意味がわかんねーな。勿体つけんな。」

 ふむふむ。この味は癖になりそうだ。

 こくこく。

 私は、飛翠と黒崎さんの話を聞きながら、走ったのと緊張で、相当喉が渇いていたのだろう。

 このハニーミルクの様なものを、ごくごくと飲んでしまった。

「“王国犯罪者”の可能性が高い。」

 と、黒崎さんはそう言った。

「え? なにそれ? 王国犯罪者?」

 ハッキリと聞こえてしまったので、聞き返した。なんだかやけに“罪が重そうだ”

 黒崎さんは、眉間にシワを寄せていた。それもかなりきつく。

「王族の殺害。これが最も……“大罪”だ。」

 バンッ!!

 私はーー無意識だった。
 テーブルを叩いた。

「そんなの私達がやるわけないでしょ! ここが何処だかもわかんないのに! しかも、見て! この格好!! セーラー服! わかる? こんなの着てる人いる!?」

 と、そう怒鳴った。

 怒鳴りますよ。もう。“王族殺害”!? 冗談じゃない! 

 飛翠は隣で、ハニーミルクをごくごくと呑んでいた。

 涼し気な顔をして。

 あーもう! だから! 便乗しろっての!

「気持ちはわかる。だが……“アレスの者”は見てしまったからな。お前達を。」

 と、黒崎さんは……黒崎さんじゃないんだろうな。ここまで来ると。

 でも、名前を知らない。

「だったら! その国王とやらに会えばいいんでしょ!? 行って喚いてやる。」

 そうだ。それしかない。
 アレスの人が……もし、私達のせいで捕らえられてしまってるなら、誤解を解けるのも私達だ。

 行くしかないでしょ。これは。

 やってないんだから。

 するとーー、黒崎さんは目を丸くした。

「人嫌いの“本がお友達”の、蒼華ちゃんが……人助けとは。これはびっくりだな。」

 と、真剣に驚かれたのだ。

 悪かったわね。好きで“人嫌い”な訳じゃないんだけど。

 でも……当たってる。言い返せない。

「国王か。ツラは拝まねーとな。来た以上。」

 飛翠のその眼がギラギラしてるのは、気の所為かな? 

 なんか……“ケンカ”しに行く前みたいな。

 まーいい。この猛獣は頼りになる。お供だと思おう。そうしよう。

 こうして、私と飛翠と黒崎さんは……王都。“イレーネ”に向かう事になったのだ。

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