人生3周目の勇者
第31話 城下町シルヴァーナ
ゲルダと共に、執務室へ向かう。執務室は、ママさんが常駐しているスペースだ。各勢力や魔王城城下町との文、報告書などがひとまとめに集まり、管理されている。
ママさんの他に4人の女がここで働いていた。ダークエルフのカーラ(Cara)とパメラ(Pamela)。ドワーフのマグダ(Magda)。そしてメイド隊の1人、気弱そうなメイジ―。メイジ―はメイド長もやりながら執務室でも働くなかなかの頑張り屋さんだ、気弱に見えるが根性があるらしい。本当に自分に自信が無い子はこういう所で無理しやすいからオレは個人的に心配していたりする。
魔族会議《デーモンパーラメント》までの3日間の猛勉強の際、よくこの部屋に居たから慣れたものだ、ノックをしてゲルダと共に入室する。
「ママさんは居るかい?」
「あ……魔王様……はい、こちらです」
メイジ―が緊張しながらも案内してくれる。気弱なメイジ―が緊張気味なのは分かるが、他の者の態度がおかしい。先日までは、色香を漂わせて迎えてくれていたのに、今日はどこか余所余所しい。そんな雰囲気を感じながらも、案内された最奥の個室に向かった。
「グレちゃん!起きられたのですね!いらっしゃい!!」
「あぁ、丸1日眠っていたらしい……。心配かけたか?」
「それはもう!でも頑張って下さったから当然よね……もう身体は大丈夫なの?」
メガネをかけたママさん。魔族の目にメガネは不要なのだが、雰囲気作りというか、集中する際には掛けているのだそう。伊達眼鏡だ、よく似合っている。
「大丈夫だ。それよりも先ずは、ゲルダの階級の件で相談がある」
「??……なにかしら?」
「例の女達をメイド長に昇級したのは良いが、ゲルダの方が能力も高いし同じ階級なのはいかがなものかと思ってさ、……魔王の側近に出来たらと思うのだが」
「側近??」
「あぁ、なんでもいいんだ、秘書とか……そんな感じの」
そう伝えると、頬を膨らませて糸目を斜めに吊り上げ怒った表情をするママさん。
「魔王様の秘書はわたくしです!!」
「そ……そうだったか、知らなかったんだ、すまない……何にせよメイド長のままだと関係性的にもマズいと思うのだが」
「なんだかグレちゃんはゲルダに甘いわ!私も甘やかして欲しい!お姉ちゃんばっかりズルい!ママも愛して!!」
近付いてきて甘えるママさん。台詞だけ聞けば中年女の痛い発言に思えるが、外見は若く年齢もゲルダと7つしか変わらない美しい女性だ。愛する事なんて容易い。キスでもしてやろうか。
「ぼっちゃまが迷惑しております」
オレとママさんの間にずいっと割り込んで来るゲルダ。それを見て、少し考える間を置いてから喋りだすママさん。
「ではこうしましょう。グレちゃん、今日は私とデートよ」
「ママっ!!この間行ったばかりじゃない!!」
「いいの!今度は別の所に行くの!!」
美女二人がオレを捕り合う構図だ。いいぞ、もっとやれ。とは思うが、話が進まないので律義に止めることにした。
「ママさん、いいよ。デートに連れて行ってくれ」
魔族の女は聞き訳が良い。オレがこう言うとゲルダは黙って引き下がる。
「よろしいのですね!♪では、今すぐ行きましょう!準備してきます」
そう言ってメガネを外し、超スピードでその場から消えるママさん。
「ゲルダ、すまない。ちゃんと話を付けてくるから」
「……いえ、そんな……。」
オレが入る前のグレガリムは寡黙だった事もあり、少しでも優しい態度をすると、慣れていないのか簡単に身を引く。端的に言えばちょろい。支度を終えたママさんが戻って来る。いつものローブに、お坊さんが着用する袈裟のそうな羽織物を着ている、ただのデートにしては似付かわしくないしっかりとした正装だ。
「グレちゃんは魔王のローブを羽織っているわね!よし、では行きましょう!」
「……いったい何処へ??」
「城下町よ!」
巨大な魔王城の周りに、円形に広がるように築かれた大都市、城下町シルヴァーナ。様々な種族の住宅や商業、産業がしっかり根付き立派な街になっている。1人で行こうとしたらゲルダに止められた、魔王がそう簡単に出向いて良い場所では無いのだそう。ママさんに連れられて、やっと見て回る事が叶った。
アルビンの旅で見た街の中でも、だいぶ上位に入るくらい栄えている。一番驚くべきは、種族の混在の仕方だ。この身体に転生してから様々な種族を見て、改めて勉強したのだが、一概に魔族と言っても分類して考えると分かりやすかった。
『ベーリヒ』高位種族の悪魔、天使。
『ドラゴン族』巨竜、竜人、等
『ビースト族』獣人、ハーピー、等
『亜人族』巨人、エルフ、サキュバス、ヴァンパイア、ドワーフ、等
『アンデッド族』首無し、クリーチャー、等
『エレメント族』スライム、妖精、等
大きく別けて6つの種族。混血や闇落ち等、細分化すればきりが無いのだがこれらを総称して『魔族』としている。それとは別に『人間』が居るのだ。
城下町はそういう意味でも面白かった、魔族だけでなく人間も受け入れている、こんなに様々な生物が自立している街は見た事が無い。魔族にとっては夢の国だ。
ママさんと共に歩くと、街中の者が賛美の声を上げてくれた。たぶんこの為に王族らしい正装を選んだのだろう。英雄凱旋のような持て成しに驚いてママさんの方を見ると鼻高々だった。それも仕方がない、ママさんが魔王になった年の14820年~現在15179年、359年間で、『奇跡の日』による災害なんかも乗り越えながら築き上げてきた大都市だ。差別の無い社会への第一歩、自慢も自慢だろう。
「驚いたよ……凄い活気にあふれているんだな」
「そう感じて頂けたのなら嬉しいわ!この城下町では種族による境界が無いので、皆伸び伸びと生活出来ているのでしょう!」
ここはママさん一押しのバー。御忍びでよく来ているらしく、昼間なのに開けてくれた。内装は豪華で、魔王城内の建築に似ている。だいぶマム(金)を落としたのだろう。
「本日のカクテルでございます」
人間の手の平サイズの小さいマスター、妖精ピクシーだ。だが、出されたカクテルはちゃんと人間サイズ。離れた席にいる巨漢の獣人には大樽サイズの酒を提供している。客に合わせて商売をしているあたり、それだけで良い店なのが分かった。
「ん~~!!ハニーリーフデュードロップ!」
「……はにーりーふでゅーどろっぷ?」
「えぇ!蜜葉雫《ハニーリーフデュードロップ》!とても美味しいわ!!」
「ありがとうございます」
カクテル名らしい、グラスに並々注がれたカクテルの中に、透明で雫の様な球体の蜜が入っている。液体の中にあると存在が見えないが、飲み進めると顔を出し、時間と共に溶けて甘みを増していくカクテル。ゆっくりとした時間を楽しみつつお酒を嗜む人に向けた逸品だそう。お洒落だ。
「たしかに美味い。飲む度に、くどくない丁度いい甘みが増していくから面白いな。アルビンの時もこんなカクテル飲んだこと無いよ」
「あたしの大好きなカクテルなの、マスターの配慮ね」
小さいのに渋いマスター、侮れない。ママさんが札束の様なチップを恵んでいた。
ママさんの他に4人の女がここで働いていた。ダークエルフのカーラ(Cara)とパメラ(Pamela)。ドワーフのマグダ(Magda)。そしてメイド隊の1人、気弱そうなメイジ―。メイジ―はメイド長もやりながら執務室でも働くなかなかの頑張り屋さんだ、気弱に見えるが根性があるらしい。本当に自分に自信が無い子はこういう所で無理しやすいからオレは個人的に心配していたりする。
魔族会議《デーモンパーラメント》までの3日間の猛勉強の際、よくこの部屋に居たから慣れたものだ、ノックをしてゲルダと共に入室する。
「ママさんは居るかい?」
「あ……魔王様……はい、こちらです」
メイジ―が緊張しながらも案内してくれる。気弱なメイジ―が緊張気味なのは分かるが、他の者の態度がおかしい。先日までは、色香を漂わせて迎えてくれていたのに、今日はどこか余所余所しい。そんな雰囲気を感じながらも、案内された最奥の個室に向かった。
「グレちゃん!起きられたのですね!いらっしゃい!!」
「あぁ、丸1日眠っていたらしい……。心配かけたか?」
「それはもう!でも頑張って下さったから当然よね……もう身体は大丈夫なの?」
メガネをかけたママさん。魔族の目にメガネは不要なのだが、雰囲気作りというか、集中する際には掛けているのだそう。伊達眼鏡だ、よく似合っている。
「大丈夫だ。それよりも先ずは、ゲルダの階級の件で相談がある」
「??……なにかしら?」
「例の女達をメイド長に昇級したのは良いが、ゲルダの方が能力も高いし同じ階級なのはいかがなものかと思ってさ、……魔王の側近に出来たらと思うのだが」
「側近??」
「あぁ、なんでもいいんだ、秘書とか……そんな感じの」
そう伝えると、頬を膨らませて糸目を斜めに吊り上げ怒った表情をするママさん。
「魔王様の秘書はわたくしです!!」
「そ……そうだったか、知らなかったんだ、すまない……何にせよメイド長のままだと関係性的にもマズいと思うのだが」
「なんだかグレちゃんはゲルダに甘いわ!私も甘やかして欲しい!お姉ちゃんばっかりズルい!ママも愛して!!」
近付いてきて甘えるママさん。台詞だけ聞けば中年女の痛い発言に思えるが、外見は若く年齢もゲルダと7つしか変わらない美しい女性だ。愛する事なんて容易い。キスでもしてやろうか。
「ぼっちゃまが迷惑しております」
オレとママさんの間にずいっと割り込んで来るゲルダ。それを見て、少し考える間を置いてから喋りだすママさん。
「ではこうしましょう。グレちゃん、今日は私とデートよ」
「ママっ!!この間行ったばかりじゃない!!」
「いいの!今度は別の所に行くの!!」
美女二人がオレを捕り合う構図だ。いいぞ、もっとやれ。とは思うが、話が進まないので律義に止めることにした。
「ママさん、いいよ。デートに連れて行ってくれ」
魔族の女は聞き訳が良い。オレがこう言うとゲルダは黙って引き下がる。
「よろしいのですね!♪では、今すぐ行きましょう!準備してきます」
そう言ってメガネを外し、超スピードでその場から消えるママさん。
「ゲルダ、すまない。ちゃんと話を付けてくるから」
「……いえ、そんな……。」
オレが入る前のグレガリムは寡黙だった事もあり、少しでも優しい態度をすると、慣れていないのか簡単に身を引く。端的に言えばちょろい。支度を終えたママさんが戻って来る。いつものローブに、お坊さんが着用する袈裟のそうな羽織物を着ている、ただのデートにしては似付かわしくないしっかりとした正装だ。
「グレちゃんは魔王のローブを羽織っているわね!よし、では行きましょう!」
「……いったい何処へ??」
「城下町よ!」
巨大な魔王城の周りに、円形に広がるように築かれた大都市、城下町シルヴァーナ。様々な種族の住宅や商業、産業がしっかり根付き立派な街になっている。1人で行こうとしたらゲルダに止められた、魔王がそう簡単に出向いて良い場所では無いのだそう。ママさんに連れられて、やっと見て回る事が叶った。
アルビンの旅で見た街の中でも、だいぶ上位に入るくらい栄えている。一番驚くべきは、種族の混在の仕方だ。この身体に転生してから様々な種族を見て、改めて勉強したのだが、一概に魔族と言っても分類して考えると分かりやすかった。
『ベーリヒ』高位種族の悪魔、天使。
『ドラゴン族』巨竜、竜人、等
『ビースト族』獣人、ハーピー、等
『亜人族』巨人、エルフ、サキュバス、ヴァンパイア、ドワーフ、等
『アンデッド族』首無し、クリーチャー、等
『エレメント族』スライム、妖精、等
大きく別けて6つの種族。混血や闇落ち等、細分化すればきりが無いのだがこれらを総称して『魔族』としている。それとは別に『人間』が居るのだ。
城下町はそういう意味でも面白かった、魔族だけでなく人間も受け入れている、こんなに様々な生物が自立している街は見た事が無い。魔族にとっては夢の国だ。
ママさんと共に歩くと、街中の者が賛美の声を上げてくれた。たぶんこの為に王族らしい正装を選んだのだろう。英雄凱旋のような持て成しに驚いてママさんの方を見ると鼻高々だった。それも仕方がない、ママさんが魔王になった年の14820年~現在15179年、359年間で、『奇跡の日』による災害なんかも乗り越えながら築き上げてきた大都市だ。差別の無い社会への第一歩、自慢も自慢だろう。
「驚いたよ……凄い活気にあふれているんだな」
「そう感じて頂けたのなら嬉しいわ!この城下町では種族による境界が無いので、皆伸び伸びと生活出来ているのでしょう!」
ここはママさん一押しのバー。御忍びでよく来ているらしく、昼間なのに開けてくれた。内装は豪華で、魔王城内の建築に似ている。だいぶマム(金)を落としたのだろう。
「本日のカクテルでございます」
人間の手の平サイズの小さいマスター、妖精ピクシーだ。だが、出されたカクテルはちゃんと人間サイズ。離れた席にいる巨漢の獣人には大樽サイズの酒を提供している。客に合わせて商売をしているあたり、それだけで良い店なのが分かった。
「ん~~!!ハニーリーフデュードロップ!」
「……はにーりーふでゅーどろっぷ?」
「えぇ!蜜葉雫《ハニーリーフデュードロップ》!とても美味しいわ!!」
「ありがとうございます」
カクテル名らしい、グラスに並々注がれたカクテルの中に、透明で雫の様な球体の蜜が入っている。液体の中にあると存在が見えないが、飲み進めると顔を出し、時間と共に溶けて甘みを増していくカクテル。ゆっくりとした時間を楽しみつつお酒を嗜む人に向けた逸品だそう。お洒落だ。
「たしかに美味い。飲む度に、くどくない丁度いい甘みが増していくから面白いな。アルビンの時もこんなカクテル飲んだこと無いよ」
「あたしの大好きなカクテルなの、マスターの配慮ね」
小さいのに渋いマスター、侮れない。ママさんが札束の様なチップを恵んでいた。
「ファンタジー」の人気作品
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