人生3周目の勇者

樫村 怜@人生3周目の勇者公開中!

第27話 他勢力の長、魔族会議

魔王の身に転生してから4日目の朝。

魔王城に一晩泊り、帰り支度をしていたブロニスラフ達獣人族を呼び止め、もう3日程滞在してもらうよう伝えた。理由は、これから他勢力の長を召集した会議をするためだ。ここに居る獣人族と魔王城の勢力を除いた他勢力の長が集まるのに最低3日はかかるという。獣人族達を一度帰してしまうとまた出向いてもらう破目になり、それを避けるためにこのまま滞在してもらいたかったのだ。

それを伝えると、ウリカと二十人の同族は先に帰還し、ブロニスラフと残りの十余名は居てもらう事となった。

南の腐敗族族長、東の巨人族族長らに来てもらうまでの、今日も合わせた3日間。しっかり勉強して対策する事にした。魔王として初めての仕事と言っていいだろう。

現状のオレの力は、全盛期のアルビンぐらいはあると感じてはいるのだが、この身体を使い熟せていないためか発揮出来ない。腐敗族や巨人族とはアルビンの時に何度も戦って勝利を納めているが、対談の末に力を証明しろと言われた場合、諫める事は出来ても魔王らしい完璧な戦闘を見せる自信が無い。

ブロニスラフとの対決で、ベーリヒ以外の魔物の弱さを知ったが、この身体を使いこなせていない以上オレも似たようなものだろう。

固有魔法ユニークエンチャントにしてもそうだ、全く使える気配が見えない。
ママさんに言われた通りに試したが、対象の記憶を消す事も出来ないし、ゲルダの固有魔法ユニークエンチャントである『瞬間記憶』も同様に全く出来ない、むしろ記憶力弱いくらいだ。あれだけしこたま城内の女を抱いているが、1つも身に着いた感覚が無い。

当然、超スピードも空中浮遊も、ゲルダを押さえ付ける程の怪力も地図を変える程の落雷も、何も出来ない。体力以外魔族らしい力は何も持っていないに等しい。

力も無いのに魔王の座に就いている悲惨な状況。案内された魔王の間も、申し訳なくてすぐに出た。

ゲルダとママさんが理解してくれているから助かっている事ばかりだ、ゲルダが用意した簡易闘技場は城から距離があるため個人練習を他の者に見られなくて済んでいるし、ママさんは様々な事を分かりやすく説明してくれる。

あとあれだ、城内で仲良くなった女の子達にはオレがアルビンである事は伝えていっている、それも含めて魔王様と慕ってくれているからほんとありがたい。

何故魔王の身に572年も経って転生してきたのか、ミラやアーロン君の謎、この身体の力が使いこなせない理由、全く分からず考えると混乱する事が山積みだが、魔王城の現状や、源次教などの世界の動きについてはしっかりと教わった。分からない事で悩む時間を費やすより、持っているものや知れる事を学んでいった方が良い。

それこそ体力だけはベーリヒ並みにめちゃめちゃあったので、寝る時間を削って3日間がっつり備えた。ママさんの意思、オレの思う正義、魔王、魔族の王としての責任。

そうして迎える魔族召集大会議。通称、魔族会議デーモンパーラメント

正直緊張する。

東の巨人族ギガントの勢力の到着は早かった。4メートルの巨人20体と7メートルの巨人を3体連れたレオニダス(Leonidas)。レオニダスの身長は15メートル、とんでも無いデカさだ。到着はすぐに分かった、24人の巨人の足踏みによる地鳴りが魔王城近辺全域に響いてすぐさま数人が飛び出して行った。

西の獣人族ビーストの勢力が既に十余名居ることを聞きつけていたらしい両勢力は大所帯でやって来た。

南の腐敗族アンデッドの勢力も、裕に1000を超えるアンデッドが空飛ぶ箱舟に乗り、やってきた。あれはアルビンの時に見た事がある、1隻に三千余名ものアンデッドを収容出来る巨大戦艦、空飛ぶ箱舟ミラグロス(Milagros)号。

城のバルコニーにオレとママさんとゲルダ、それに魔王軍の鎧を纏った魔王騎士団20名、ブロニスラフ率いる獣人族の十余名が並ぶ。そこに箱舟を横付けし、腐敗族族長の女頭エヴァ(Eva)が現れる。どす黒い霧のようなドレスを身に纏った、青い肌の美しい女だ。

外に雪原に足を付けバルコニーに顔だけ出した巨人レオニダスの頭の上から、一人の人間が現れた。これもママさんに聞いている、現在の巨人族は人間を長として置いているそうだ。巨人族族長バルトロ(Bartolo)、図体はデカいが気の小さい巨人達が、惚れ込んでかしらに持ち上げたらしい、きっといいヤツなのだろう。

バルトロの歳は30代後半、ぼさぼさの黒髪にターバンを巻き、サルエルを履いてバッキバキの筋肉を見せつけるが如く上からノースリーブのロングジャケットを羽織っている。豪華なレガース(足甲)とグローブを付けた、武闘家の族長らしい風体だ。

各勢力の族長達が全員終結した所で、バルコニーに並ぶ柱の上から4本の黒い光が立ち、黒のローブに身を包み、深々とフードを被った者達が何処からともなく現れた。

魔王幹部の4人、魔王直属の四天王だ。

魔族会議デーモンパーラメントが開かれる際は、戦闘の可能性が増す為、仲裁役として四天王にも立ち会ってもらう決まりがあるのだそう。

あー緊張する。マジ怖い。合計何人居るの?オレは小心者なんだ。小心者。千と数十人の大舞台、こんなライブの中心に立った事ねーよ。

とか思いながらあたりを見渡すと、巨人族族長バルトロも震えていた。現代、魔王歴15179年の間、過去何百万回と開かれたであろう魔族会議デーモンパーラメントだが、オレと、人間のバルトロは初めてなのだ。

今回の議題は『人間バルトロの族長就任の与奪』、『オレが源次郎である事の公表』この2つだ。

腐敗族族長の女頭エヴァが前に出て、オレに『魔王教の礼』を向ける。
ママさんに言われてた通り、オレは偉そうに黙ってそれを見下した。

「魔王様、お初にお目にかかれて光栄の至り」

それを見た巨人族族長バルトロも慌てて近寄り、頭を下げる。

「お……遅れて申し訳ございません!お初におめかけにならられて……!っくぉうえいに存じます!!」

「(あー、いいよ。分かるよ。緊張するよね~、オレも同じ気持ちだよありがとう)」と思いながら、偉そうに「よい」と一言だけ置く。

「して、魔王様。これまでお隠れになっていた理由、お話頂けるのでしょうか?」

エヴァがきちんと礼儀を置きながらも、懐に棘を持った言い方をする。それもそうだろう、ブロニスラフが言っていた通り、エヴァは未だオレにゼウスが宿り美女の略奪を目論む悪漢だと警戒しているのだ。しかもエヴァは美しい、自分が狙われる危険性も感じているだろう、そう見たらオレはまさに女の敵だ。

キリッとオレを睨みつけて殺気を漂わせるエヴァ、四天王も戦闘態勢になる。それを手で諫め、口を開いた。

「そう急くな」

そういって、冷徹に見下すオレ。心の中は怯えてまくっているのだが魔王らしく振舞えとママさんに強調されているため、これでもかと見下す。怖いわっ。

「……申し訳ございません。お言葉を頂戴いたしたく思います」

冷静に対処するエヴァだが、周りは少し険悪なムードだ。ざわついた空気を鎮めるために、一つ声の調子を張り上げる。

「皆の者、静まれ!先ずは巨人族の族長に人間であるバルトロが身を置く事となった!これの是非を問おう!族長達よ、意見はあるか!」

獣人族、腐敗族の面々は何も言わず黙認し、巨人族の面々はデカい図体を引っ提げて緊張したように拝んでいる。可愛い奴らだ、バルトロの事が種族関係無く好きなのだろう、バルトロを族長にしてくれと祈っているのだ。バルトロ自身もかがんだまま祈りの姿勢で震えている。

「……いいだろう、ならば腐敗族族長エヴァ!貴様の意見を述べてみろ」

急に指されて、おののくエヴァ。だが咄嗟に通常を装い、意見する。

「……人間であるバルトロ殿が族長の座に就くのは問題視しておりません」

「その理由はなんだ?」

「人間は短命にございます、もって百余年、私共にとっては刹那の時間、いかようにもならない問題かと」

立て続けの質問にも堂々と答えるエヴァ、偉いもんだ。尊敬するわ。

「よい、獣人族族長ブロニスラフ、貴様にも問おう」

豚鼻をほじって、バルコニーの柵に腰かけ、偉そうにしているブロニスラフ。この豚野郎は空気を読む機能が付いていないらしい。すげぇ根性だよ。

「あ?オレぁなんでもいいよ。巨人族の話だろ?オレがどうこう言う問題じゃねぇよ」

ド正論。ごもっともだ。でもさ、魔族一丸となった考え方って重要じゃない?他勢力の話だとしても、精力的に向き合ってくれたっていいじゃない。もうお前には質問しないよ。

「よい。意見をまとめると、人間バルトロが巨人族の族長に就くと満場一致で認める事になる。それでよいな?」

殆どの者が黙って頷き了承する、というより興味すら無いような反応だ。まぁそれはそうだろう。以前にも巨人族の族長に人間が就いた実例があったらしい、これが初めての事では無いのだ。アルビンの時も巨人族の友達は数人いたが、今も変わらない良いヤツらなのだろう。意見がまとまった所で隣に居るママさんに目配せする。それに気づいたママさんが頷いた。

「ならば、最後に魔王である私から提案がある」

集まった全員がざわめき始める。

「魔族の皆からは、問題視する事は無いと了承を得れたが、人間の勢力は違うだろう。バルトロが人間でありながら魔族の配下に入る事を、認められない人間が出てくるはずだ。」

ここからが問題だ。続けて話す。

「そうした問題を想定し、対応するべく皆からは巨人族への支援を願いたい。人材、物資、マム(金)、何でも構わない。東のクサンドラ大陸における巨人族の勢力をより強固なものに出来るよう、協力してほしい」

この意見で、順調だった魔族会議デーモンパーラメントは大きく揺れ始める。

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