人生3周目の勇者
第25話 酒
人間の領土であるエスメで、ママさんとデートをしながら話した結果。
オレが『源次教』の神、源次郎である事の公表と、今後の魔族勢力の関係にあたり、同族に対する襲撃をしないと宣言する事になった。
城に戻り、この件をブロニスラフとウリカに伝えると、承諾はするも納得まではいかない表情をしていた。
「じゃあ、なんでぇ。あんたはゲンジロウ様その人だってのか?」
先ず分からないのはこれだろう。オレもどう説明していいものか……。
「……そうだな、神として崇められている、なんて事も知らなかったし、オレがこの身体に蘇って未だ3日目なんだ。元々のこの身体の記憶も無いから、ハデスの記憶も当然無い。」
内容を聞いたブロニスラフが不服そうに首をかしげ、ウリカが不安そうにこちらを見ている。
「そう言われてもな……もしそれが本当だったとしたら、とんでもない話だ……」
「それはそうだけど……ちょっと待っとくれよ。……あんたたちは私達の処罰を相談しに出て行ったんじゃなかったのかい?」
そうか、26代目魔王と27代目魔王が相談をしに部屋を空けたのだから、そう思って当然かもしれない。ママさんの方を見ると少し笑っていた、意地悪な人だ。想定して部屋を出たのだろう、ママさんなりの仕返しだ。
「だからこんなに料理が残っているのか……、全然手をつけていないじゃないか」
「そりゃそうでしょう!?喉を通らないわよ!!」
ゲルダが用意した料理も酒もそのままだ。長旅からの戦闘、腹も減っているだろうに……。
「気が回らずすまなかった。ブロニスラフもお腹空いてないか?食べていいんだぞ?」
「いらねぇ!毒でも入ってたらたまらねぇぜ、喰えるかい」
豚鼻を鳴らしながらそっぽを向く。強情な奴だ。
「まぁ……そう警戒させてしまってるという事は、そもそもこれまでの魔王勢力の運営が良くなかったのだろうな……」
「……申し訳ございません」
咄嗟に謝罪するママさん。これはオレからのお仕置きだ。少しどんよりとした空気が流れる会議室。冷めた料理が並ぶのを見てある魔法を思い出した。
火「アモン」の生活魔法『篝火』
「静かに残る温もりは、灰のような篝火の愛」
"The quiet warmth is the love of the ash-like bonfire"
微量でも熱を帯びてるものに対して、その温度を上げるだけの、子供でも使える生活魔法だ。だが凄い役立つ、アルビンの旅の時はよく重宝した魔法だ。これくらいなら使えるだろうと思って手を出すと、ゲルダが瞬時に腕をつかんで止めにきた。真後ろに立っていたはずのゲルダが、超スピードで横に座っている。
「私が」と一言置いて、魔法を使って温めてくれた。デブラを心配してくれたのだろう……過保護な姉だ。並んでいる食事の温もりが復活し、湯気が上がる。丁度いい温度に温められた料理に手を付け、食べて見せた。毒が入っていない事の証明だ。
「ほら、大丈夫だ。美味いぞ、皆で食事にしよう。メイド長、獣人族の他の皆さんはどうしてる?」
「別室で休んでおられます。お食事もご用意させて頂き、既に済ませているそうです。」
「そうか、他の者は済ませたそうだ。食べようじゃないか」
ブロニスラフとウリカは互いに顔を合わせ、覚悟を決めて食事を始めた。
そこからはスムーズだった。美味い飯に美味い酒、時間も忘れてそれらをたいらげた。すっかり日も暮れ上機嫌になったのか話も弾み、多少の警戒は見え隠れするものの、オレが源次郎である事は受け入れてくれた。
「確かによぉ!あの剣筋!ありゃあオレも知ってるよ!」
「ほうほう?」
「俺ん所のもんが『源次流奥義』を使ってる所を見た事があるが、魔王さんの剣筋にゃあ到底敵わねぇ。オレの鉈を全部弾いちまうんだ!まいったぜ!!」
「……ほんっと……あんたは調子の良い事言うわ……どれだけ迷惑かけたか……むにゃむにゃ」
酒が入り饒舌に喋るブロニスラフ、魔王城の扉を壊して現れたヤツと同じだとは思えない有様だ。ウリカは酒が回ったのもあるが、長旅で疲れているのだろう、気が抜けて今にも眠りそうだ。
「ママさんに手を上げた事も謝ってくれたし、城の壊された箇所も問題無く修繕が済んだそうだ。オレもまともに戦わなくてすまなかった」
「『伝説の剣士』ゲンジロウ様に本気出されちゃあ首が飛んじまうぜ!がはははっ!!」
ウリカの言う通り調子の良い奴だ、こういう憎めない所が族長として選ばれた理由なのかも知れないな。……にしてもよく飲む。5人で飲んでるとは言え、もう大樽で20本空けている。よくよく考えたら、この身体に目覚めてからこうして酒を飲むのも初めての事だった。グレガリムにとっても初めての飲酒かも知れない。
酔っぱらったママさんはほのぼのした空気は保ちつつ、顔が真っ赤だ。ゲルダはいつも通り綺麗な背筋でぴんっとしているが、ママさんと同じく顔が赤い。親子そろって酒癖に問題無く、楽しそうに飲んでいる。ウリカは椅子に座るブロニスラフの膝の上で本格的に眠りはじめた。身長差が大きいから出来る芸当だ。
グレガリム君は5歳なのに酒を飲んでいいのかと思うべきところなのだろうが、魔族に法は関係無い。そもそもディエステラの法は薄かった、アルビンの時も幼少期の頃から父親と飲酒していた。あれはおっさんには助かった……。
「ところで、ウリカもブロニスラフも何歳なんだ?オレは言った通り元々人間だったから、魔族の年齢の感覚が分からないんだ」
「俺は8965歳で、ウリカはまだ1042歳だな。数字は苦手だが、年齢だけは自然と憶えるんだよなぁ……なんだぁ?人間は年齢が気になるのか?」
「いや、まぁそうだな。人間はというより、源次郎はと言った方が正しい。オレが生きていた世界では、年齢が上の者に敬意を払う風習があったんだ。何故か魔王の身体に蘇ったから、お前達にこうして敬語も使わず偉そうにしているが、本心を言えば未だ慣れないよ」
そういうと「がっはっは」と笑うブロニスラフ
「変な風習があるもんだ!生き物なんてもんは息吸って飯を喰らって汚物を出して眠るのを繰り返しているだけなのに、それを長く続けてるヤツが偉いんだったら楽な話だぜ!!」
気持ち良い事を言う。
「そう言ってくれるなよ……常識が違うんだ」
「人間も同じ生き物じゃねぇか!」
「矛盾を生むような事を言うな?なんだ?なら何故人間と戦うんだ?」
「そうだなぁ、そりゃおめぇ……、それぞれ理由があるんじゃねぇか?オレは、オレの大事な仲間の住処を守りたいから戦ってる。オレのテリトリーに手を出さない限り、無駄に戦ったりはしねぇよ。めんどくせぇし」
「それだけか?」
「あとはあれだ!人間を襲うと良いもんが手に入るだろ!強いもんが弱いもんを食う!それが常識だ!」
「ほうほう……良い物?たとえば?」
「色々聞いてくんだなぁ……、そりゃあ人間が作るもんはすげぇじゃねぇか。武器も飯もなんだってそうだ。オレ達は人間の血が混ざってるとは言え、獣を忘れちゃいねぇからよ、あそこまでのもんは作れねぇ」
「?……オレがここに住んで3日間、人間に劣ってると感じた事は無いぞ?」
目を丸くするブロニスラフ、変な事を聞いただろうか?
「人間ってヤツは……馬鹿なのか?」
「知らないからしょうがないだろ?何がおかしいのか教えてくれ」
「魔王城は別だぜぇ……、魔族だけじゃなく人間を含めてもベーリヒは高位の種族だ。その上は数えるくらいしか居ねぇ。クラスがちげぇだろ、クラスが。ベーリヒは人間よりも凄くて当たり前ぇじゃねぇか」
「理解は出来たが……その話だと、人間より獣人族の方が劣っているのを認める事になる。悔しくはないのか?」
「劣ってるだぁ?そんなもん力で奪っちまえるんだ、俺達のが上だろ。現に俺の所では人間に働かせて物を作ってる店もあるぞ」
「あー……それは共存?」
「まぁ、一緒に働いてる所もあれば、奴隷みてぇに扱ってる所もあるわな」
流石魔族と言うべきか……久々に闇の部分が見えた気がした。その後もブロニスラフに色々教えてもらった。魔王城以外の魔族との会話は、新しく学べる事がたくさんあった。夜も更け、解散する事に。
「今日はありがとう、ブロニスラフ」
「そう丁寧に言われちゃこっぱずかしいぜ……。礼を言わなきゃなんねぇのはこっちの方だ。色々すまなかった。ありがとう」
ウリカを抱えたまま、メイド服の雌型クリーチャーに案内され用意した部屋へと歩いて行った。オレは酔っぱらって意識の薄れているゲルダとママさんを起こして浴場へと向かった。
オレが『源次教』の神、源次郎である事の公表と、今後の魔族勢力の関係にあたり、同族に対する襲撃をしないと宣言する事になった。
城に戻り、この件をブロニスラフとウリカに伝えると、承諾はするも納得まではいかない表情をしていた。
「じゃあ、なんでぇ。あんたはゲンジロウ様その人だってのか?」
先ず分からないのはこれだろう。オレもどう説明していいものか……。
「……そうだな、神として崇められている、なんて事も知らなかったし、オレがこの身体に蘇って未だ3日目なんだ。元々のこの身体の記憶も無いから、ハデスの記憶も当然無い。」
内容を聞いたブロニスラフが不服そうに首をかしげ、ウリカが不安そうにこちらを見ている。
「そう言われてもな……もしそれが本当だったとしたら、とんでもない話だ……」
「それはそうだけど……ちょっと待っとくれよ。……あんたたちは私達の処罰を相談しに出て行ったんじゃなかったのかい?」
そうか、26代目魔王と27代目魔王が相談をしに部屋を空けたのだから、そう思って当然かもしれない。ママさんの方を見ると少し笑っていた、意地悪な人だ。想定して部屋を出たのだろう、ママさんなりの仕返しだ。
「だからこんなに料理が残っているのか……、全然手をつけていないじゃないか」
「そりゃそうでしょう!?喉を通らないわよ!!」
ゲルダが用意した料理も酒もそのままだ。長旅からの戦闘、腹も減っているだろうに……。
「気が回らずすまなかった。ブロニスラフもお腹空いてないか?食べていいんだぞ?」
「いらねぇ!毒でも入ってたらたまらねぇぜ、喰えるかい」
豚鼻を鳴らしながらそっぽを向く。強情な奴だ。
「まぁ……そう警戒させてしまってるという事は、そもそもこれまでの魔王勢力の運営が良くなかったのだろうな……」
「……申し訳ございません」
咄嗟に謝罪するママさん。これはオレからのお仕置きだ。少しどんよりとした空気が流れる会議室。冷めた料理が並ぶのを見てある魔法を思い出した。
火「アモン」の生活魔法『篝火』
「静かに残る温もりは、灰のような篝火の愛」
"The quiet warmth is the love of the ash-like bonfire"
微量でも熱を帯びてるものに対して、その温度を上げるだけの、子供でも使える生活魔法だ。だが凄い役立つ、アルビンの旅の時はよく重宝した魔法だ。これくらいなら使えるだろうと思って手を出すと、ゲルダが瞬時に腕をつかんで止めにきた。真後ろに立っていたはずのゲルダが、超スピードで横に座っている。
「私が」と一言置いて、魔法を使って温めてくれた。デブラを心配してくれたのだろう……過保護な姉だ。並んでいる食事の温もりが復活し、湯気が上がる。丁度いい温度に温められた料理に手を付け、食べて見せた。毒が入っていない事の証明だ。
「ほら、大丈夫だ。美味いぞ、皆で食事にしよう。メイド長、獣人族の他の皆さんはどうしてる?」
「別室で休んでおられます。お食事もご用意させて頂き、既に済ませているそうです。」
「そうか、他の者は済ませたそうだ。食べようじゃないか」
ブロニスラフとウリカは互いに顔を合わせ、覚悟を決めて食事を始めた。
そこからはスムーズだった。美味い飯に美味い酒、時間も忘れてそれらをたいらげた。すっかり日も暮れ上機嫌になったのか話も弾み、多少の警戒は見え隠れするものの、オレが源次郎である事は受け入れてくれた。
「確かによぉ!あの剣筋!ありゃあオレも知ってるよ!」
「ほうほう?」
「俺ん所のもんが『源次流奥義』を使ってる所を見た事があるが、魔王さんの剣筋にゃあ到底敵わねぇ。オレの鉈を全部弾いちまうんだ!まいったぜ!!」
「……ほんっと……あんたは調子の良い事言うわ……どれだけ迷惑かけたか……むにゃむにゃ」
酒が入り饒舌に喋るブロニスラフ、魔王城の扉を壊して現れたヤツと同じだとは思えない有様だ。ウリカは酒が回ったのもあるが、長旅で疲れているのだろう、気が抜けて今にも眠りそうだ。
「ママさんに手を上げた事も謝ってくれたし、城の壊された箇所も問題無く修繕が済んだそうだ。オレもまともに戦わなくてすまなかった」
「『伝説の剣士』ゲンジロウ様に本気出されちゃあ首が飛んじまうぜ!がはははっ!!」
ウリカの言う通り調子の良い奴だ、こういう憎めない所が族長として選ばれた理由なのかも知れないな。……にしてもよく飲む。5人で飲んでるとは言え、もう大樽で20本空けている。よくよく考えたら、この身体に目覚めてからこうして酒を飲むのも初めての事だった。グレガリムにとっても初めての飲酒かも知れない。
酔っぱらったママさんはほのぼのした空気は保ちつつ、顔が真っ赤だ。ゲルダはいつも通り綺麗な背筋でぴんっとしているが、ママさんと同じく顔が赤い。親子そろって酒癖に問題無く、楽しそうに飲んでいる。ウリカは椅子に座るブロニスラフの膝の上で本格的に眠りはじめた。身長差が大きいから出来る芸当だ。
グレガリム君は5歳なのに酒を飲んでいいのかと思うべきところなのだろうが、魔族に法は関係無い。そもそもディエステラの法は薄かった、アルビンの時も幼少期の頃から父親と飲酒していた。あれはおっさんには助かった……。
「ところで、ウリカもブロニスラフも何歳なんだ?オレは言った通り元々人間だったから、魔族の年齢の感覚が分からないんだ」
「俺は8965歳で、ウリカはまだ1042歳だな。数字は苦手だが、年齢だけは自然と憶えるんだよなぁ……なんだぁ?人間は年齢が気になるのか?」
「いや、まぁそうだな。人間はというより、源次郎はと言った方が正しい。オレが生きていた世界では、年齢が上の者に敬意を払う風習があったんだ。何故か魔王の身体に蘇ったから、お前達にこうして敬語も使わず偉そうにしているが、本心を言えば未だ慣れないよ」
そういうと「がっはっは」と笑うブロニスラフ
「変な風習があるもんだ!生き物なんてもんは息吸って飯を喰らって汚物を出して眠るのを繰り返しているだけなのに、それを長く続けてるヤツが偉いんだったら楽な話だぜ!!」
気持ち良い事を言う。
「そう言ってくれるなよ……常識が違うんだ」
「人間も同じ生き物じゃねぇか!」
「矛盾を生むような事を言うな?なんだ?なら何故人間と戦うんだ?」
「そうだなぁ、そりゃおめぇ……、それぞれ理由があるんじゃねぇか?オレは、オレの大事な仲間の住処を守りたいから戦ってる。オレのテリトリーに手を出さない限り、無駄に戦ったりはしねぇよ。めんどくせぇし」
「それだけか?」
「あとはあれだ!人間を襲うと良いもんが手に入るだろ!強いもんが弱いもんを食う!それが常識だ!」
「ほうほう……良い物?たとえば?」
「色々聞いてくんだなぁ……、そりゃあ人間が作るもんはすげぇじゃねぇか。武器も飯もなんだってそうだ。オレ達は人間の血が混ざってるとは言え、獣を忘れちゃいねぇからよ、あそこまでのもんは作れねぇ」
「?……オレがここに住んで3日間、人間に劣ってると感じた事は無いぞ?」
目を丸くするブロニスラフ、変な事を聞いただろうか?
「人間ってヤツは……馬鹿なのか?」
「知らないからしょうがないだろ?何がおかしいのか教えてくれ」
「魔王城は別だぜぇ……、魔族だけじゃなく人間を含めてもベーリヒは高位の種族だ。その上は数えるくらいしか居ねぇ。クラスがちげぇだろ、クラスが。ベーリヒは人間よりも凄くて当たり前ぇじゃねぇか」
「理解は出来たが……その話だと、人間より獣人族の方が劣っているのを認める事になる。悔しくはないのか?」
「劣ってるだぁ?そんなもん力で奪っちまえるんだ、俺達のが上だろ。現に俺の所では人間に働かせて物を作ってる店もあるぞ」
「あー……それは共存?」
「まぁ、一緒に働いてる所もあれば、奴隷みてぇに扱ってる所もあるわな」
流石魔族と言うべきか……久々に闇の部分が見えた気がした。その後もブロニスラフに色々教えてもらった。魔王城以外の魔族との会話は、新しく学べる事がたくさんあった。夜も更け、解散する事に。
「今日はありがとう、ブロニスラフ」
「そう丁寧に言われちゃこっぱずかしいぜ……。礼を言わなきゃなんねぇのはこっちの方だ。色々すまなかった。ありがとう」
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