人生3周目の勇者

樫村 怜@人生3周目の勇者公開中!

第16話 魔王のローブ

目が覚めると、柔らかいベッドの上だった。見慣れてはいないが、広くて高い天井に天蓋付きのベッド、物々しい高級そうなシャンデリアが、ここが魔王城である事を物語っている。

そして、腕の中には裸のサキュバスが、静かな寝息をたてて眠っている。弧を描く小ぶりなツノを生やし、人間にはない乳白混じりなピンクの髪。先日、この身体に目覚めた時、診断してくれたあのエロナースだ。

入れ墨の入った細い子供の腕の中で眠るサキュバス。名前は『ネラ』だそうだ。
ゲルダの時とは違い、丁重に名前をもらった。まつ毛まで桃色がかり、とても長くて美しいなと感心して覗いていると、瞼がゆっくり開き、ピンクの瞳を覗かせる。次の瞬間、カッと見開きネラがベッドから飛び出た。

「申し訳ございませんっ!!!」

裸のまま飛び出して、床に平伏す。レディにあるまじき、あられもない姿だ。

「……どうした?床が冷たいだろ、戻りなよ」

「あ……、いえ、以前の猊下げいかは起床時に横に居られるのを嫌ったもので……」

そう言いながら、恥ずかしそうによそよそしくベッドに戻って来る。

「昨晩の夜伽は大変お優しく、まるで恋人のよう……。初めての事だったので
つい安心して寝入ってしまいました……///」

都合が悪そうに側で弁明するネラ。頬を赤らめて恥じる姿はただの女の子である。
昨日の、夜の姿とは別人のようだ。

……まぁ結局あの後、自分の股間の立派さに自慰を考えたが、頭を冷やす為に廊下へ出たところで、ネラとばったり会い、そのまま夜伽を頼んだ。

「おはよう、ネラ」

「おはようございます、猊下///」

角を優しく撫でると、幸せそうな表情をする。甘えるように寄って来たので、手を回し抱き入れる。

魔王怖ろしや、ゲルダやママさんにも劣らない絶世の美女、更には百の性技、性愛の技巧を熟知するサキュバスの娘。その子が今腕の中に、自らの意思で抱かれている。これが己自身の力で無い、借り物の魔王の力だと思うと情けなくも思い、考えないようにした。

「猊下……?」

「どうした?」

「昨晩のお話ですと今、猊下は以前の魔王様じゃ無いとお聞きしました」

「あぁそうだ。オレは勇者アルビンだ」

「私は、今の猊下の方が……好きです///」

かぁわい~~~。めっちゃ可愛い。めっかわ。流石サキュバス。男を堕とす技術が凄まじい。オレの思考を読んでいるのか?痒いところに手が届く感じ、たまらん。

存分にイチャイチャして、心から楽しんだ所でベッドから出た。このままだと、一生ベッドから出れなくなりそうだったが、そうならなかったのはサキュバスの察知能力のおかげか。引き際さえも理解している、丁度いい所で丁寧に出て行ってくれた。

淫魔と呼ばれる生物の力をこれでもかと味わい、心中までも魅了されながら着替えを探す。巨大なクローゼットがあるのだが、昨日と同じように届かない。いや、届くには届くが、足りない。昨晩ゲルダに用意してもらった段差を動かそうかと考えた所でノックの音がした。

「はーい、いいですよ~」

軽い返事を返し、入って来たのはゲルダだった。

「おはようございます、魔王様」

「おはよう、ゲルダ」

「お着換えのお手伝いを……、とその前にすみません」

指を鳴らして、雌型クリーチャーを呼ぶ。相変わらず物凄いスピードで、荒れに荒れた部屋中を片づけ、お香を焚く。昨晩の夜伽のせいもあるが、この角だ。1日で慣れるはずも無く、色んな所にぶつけるわ、枕を貫いたりシーツを破ったり。悲惨な状況だ。

「ごめんね……。今日はこの身体に慣れるための訓練をしたい」

「承知しております。謝る事はございませんよ」

そういうと、ヒールの音を響かせながら部屋に入りクローゼットを開けてくれた。すぐ目に入ったのは、一着の被服だった。

だいぶ大きい、シングル布団くらいあるサイズの『魔王のローブ』。金の装飾が付いた立派なものだ。誇りひとつ付いていない新品のよう。物々しさに驚き、着慣れなさにちょっと拒む。なんだろう、ハロウィンの仮装を迫られてる感じ。コスプレを強要されているような心持ちだ。

「これ、……着るの?」

「はい。魔王様だけが着用する事を許されている装束にございます」

初めて勇者の装備を着た時に似ている。今度は魔王の装備か。抵抗あるな……。

身軽そうな、ポロシャツとスキニーのような黒のパンツ、その上に魔王のローブを羽織った。と言えば聞こえは良いが、正直被った感じ。大きすぎて布団に包まっているようだ。よくよく見てみると、魔王のローブは見た事も無い皮で出来ている。縫い方も始めて見るものだ。詳しい訳では無いが、違いが明らかだった。

「そうだ、姿見が欲しいのだけど、用意出来るかい?」

「すぐに」

いつも通りのスピードで、瞬時に鏡が現れる。そこに映る自分を見て驚いた。

「ゲルダ、このローブは……魔王ティッチも着ていたか?」

「そうですね。私が魔王城に入ったのがティッチ様の次の、ゼウス様の代だったため、着用されているお姿を目にしてはおりませんが」

この姿に見覚えがあった。オレが仲間と共に焼き払ったティッチの姿を、鮮明に思い出した。あいつもこのデカいローブに包まれて無理に大人ぶっていたな……。オレも同じようなものなんじゃないか……ヘコむ。

「このローブは、魔王様にご就任された方が代々受け継いでいらっしゃるものでございます。初代魔王様が着用されていたものだとか」

「……え、呪われたりしない?」

「どうでしょう。これでアルビン様だけが消えていただけたら、願ったり叶ったりでございます」

そういって不敵な笑みを浮かべるゲルダ。

「『お姉ちゃん』は笑顔も可愛いね!」

「……///」

不格好ではあるが着替えを済ませ。ゲルダがオレを抱えて移動しようとしたが断る。

「今日は、城内も見て回りたい。自分で歩くよ」

「承知いたしました」

用意されていたブーツを履く。若さとは素晴らしい。こんなコスプレのような恰好も、女性にしか許されないようなヒールのあるロングブーツも、難なく似合ってしまうのだ。そういう考えを持つ時点で内心がおっさんなのだと実感しながら、ゲルダと共に廊下へ出た。

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