人生3周目の勇者
第3話 詰み
見事なまでに全滅し、生きているのが奇跡に思えた。
得体の知れない力、惨憺たる光景を生み出した最強の天使。
絶望的な一撃を喰らい、瞬時に逃亡を選んだ。
意識の薄れる中、出来る限り全力のスピードで仲間を回収し、ゲートに飛び込む。
逃げられた事、命がある事自体が信じられない。
天使がその気だったなら確実に追いつかれ、今頃死んでいただろう。
自分がチート級だと感じていた強さなんか、なんでも無いのだと思い知った。
北の大地、アルベルティナ。そこの魔王城からゲートを開き
南東のクサンドラ大陸、大魔法帝国クサンドラに瞬間移動する。
信頼のおける診療所へ直でゲートを繋げ、雪崩のように倒れ込み、そのまま運んでもらった。勇者だから待遇は一級品だ。最新の医療設備と、名のある回復魔法師に診てもらった。
数日で、全員が回復し、起き上がることが出来た。皆そろって近くの酒場で合流する。席に着き、顔を合わせ、一番最初に口を開いたのは、切り取られて失った左腕で宙をあおぐエミーだった。
「やられたわね。全然敵わなかった」
「あぁ、正直俺は何が起きたかも覚えていない」
「エルフとしても、あんな力、見たことが無いわ」
「100歳以上生きてても知らない事ってあるのね」
「笑えないわ、ほんとそう思う」
「オレ達が敵わないのは理解できるが、アルビン、お前はどうなんだ?」
ずっと黙っていたオレにデズモンドが発言を促してきた。
「いやムリムリムリ、鬱。死にたい」
全員が声を揃えて言う。
「……え?」
「……」
ちょっとした限界だと感じていた。どう伝えたらいいのか分からないが、言うなれば、これまでに無い恐怖を覚えていた。
それこそ、源次郎として生きた77年、アルビンとして生きた42年、合計119年生きて来た今までの中で、感じた事の無い恐怖。絶望と虚無感。何とも言えない非力感が心を蝕み、鬱だとしか表現の敵わない心境だった。
この感覚は誰にも分ってもらえないだろう。だって前世の記憶を持って生きている奴なんかいないじゃないか。分かってもらいたいとも思っていない。
旅は楽しかったが、正直この時は心底帰りたかった。
妻の、「こよりさん」のいる日本に帰りたい。それか酒と薬で飛んで寝てしまいたい。何も考えたくない。
世間はどうせオレを見て言うだろう。勇者なのだから、勇ましき者なのだから、一度の敗北で何をそんな弱気になっているんだと。ここでこそ踏ん張って、立ち上がり、勝利を納めて見せろと。ふざけるな、なんだその勝手な言い分は。じゃあお前があの天使と戦ってみせろってんだ。
そもそもオレはゲームなんかでも、強くてニューゲームが好きなタイプなんだ。
ラスボスより強い、隠れボスとか時々いるけど、なんなんだそれって。難易度跳ね上がったアフターストーリーとか別にいらないっすよ。次のゲームに移るか、強くてニューゲーム一択ですわ。ストイック気取ってんじゃねぇよ。
そんなくだらない事を悶々と考えていた。それからはただ黙った。それを察したのか、仲間たちも黙って酒を飲んでいた。最悪の空気に包まれたが、もうそんな事も構わなかった。
それほどまでにあの天使の力は絶望的だった。
一縷の光明も見えない。
というか。
そこまで鍛えてきていなかった。最強の敵に立ち向かうべく、旅をしていたわけじゃ無かった。ただ楽しんでいた。源次郎として苦労したご褒美だと。アルビンの人生は、日本の荒波に揉まれたオレに対する褒美なのだと。自分の持つこの力に対してそういう物だとしか考えず、楽観的に生きていたのだ。
チート級の力で魔王を倒し、もう少しだけ旅を続けて、しばらくしたらこっちの世界でも新しい嫁を貰ったりなんかして。豪邸を買って、最後の時まで楽しく過ごす、そのつもりだった。
それがなんだこれ。詰んだわ。詰みですわ。
それからオレは旅をやめて、アルビンの故郷であるノール大陸の小国リアに戻った。
山奥に隠れるような小さな家を買い、ただただ引きこもる生活を始めた。
得体の知れない力、惨憺たる光景を生み出した最強の天使。
絶望的な一撃を喰らい、瞬時に逃亡を選んだ。
意識の薄れる中、出来る限り全力のスピードで仲間を回収し、ゲートに飛び込む。
逃げられた事、命がある事自体が信じられない。
天使がその気だったなら確実に追いつかれ、今頃死んでいただろう。
自分がチート級だと感じていた強さなんか、なんでも無いのだと思い知った。
北の大地、アルベルティナ。そこの魔王城からゲートを開き
南東のクサンドラ大陸、大魔法帝国クサンドラに瞬間移動する。
信頼のおける診療所へ直でゲートを繋げ、雪崩のように倒れ込み、そのまま運んでもらった。勇者だから待遇は一級品だ。最新の医療設備と、名のある回復魔法師に診てもらった。
数日で、全員が回復し、起き上がることが出来た。皆そろって近くの酒場で合流する。席に着き、顔を合わせ、一番最初に口を開いたのは、切り取られて失った左腕で宙をあおぐエミーだった。
「やられたわね。全然敵わなかった」
「あぁ、正直俺は何が起きたかも覚えていない」
「エルフとしても、あんな力、見たことが無いわ」
「100歳以上生きてても知らない事ってあるのね」
「笑えないわ、ほんとそう思う」
「オレ達が敵わないのは理解できるが、アルビン、お前はどうなんだ?」
ずっと黙っていたオレにデズモンドが発言を促してきた。
「いやムリムリムリ、鬱。死にたい」
全員が声を揃えて言う。
「……え?」
「……」
ちょっとした限界だと感じていた。どう伝えたらいいのか分からないが、言うなれば、これまでに無い恐怖を覚えていた。
それこそ、源次郎として生きた77年、アルビンとして生きた42年、合計119年生きて来た今までの中で、感じた事の無い恐怖。絶望と虚無感。何とも言えない非力感が心を蝕み、鬱だとしか表現の敵わない心境だった。
この感覚は誰にも分ってもらえないだろう。だって前世の記憶を持って生きている奴なんかいないじゃないか。分かってもらいたいとも思っていない。
旅は楽しかったが、正直この時は心底帰りたかった。
妻の、「こよりさん」のいる日本に帰りたい。それか酒と薬で飛んで寝てしまいたい。何も考えたくない。
世間はどうせオレを見て言うだろう。勇者なのだから、勇ましき者なのだから、一度の敗北で何をそんな弱気になっているんだと。ここでこそ踏ん張って、立ち上がり、勝利を納めて見せろと。ふざけるな、なんだその勝手な言い分は。じゃあお前があの天使と戦ってみせろってんだ。
そもそもオレはゲームなんかでも、強くてニューゲームが好きなタイプなんだ。
ラスボスより強い、隠れボスとか時々いるけど、なんなんだそれって。難易度跳ね上がったアフターストーリーとか別にいらないっすよ。次のゲームに移るか、強くてニューゲーム一択ですわ。ストイック気取ってんじゃねぇよ。
そんなくだらない事を悶々と考えていた。それからはただ黙った。それを察したのか、仲間たちも黙って酒を飲んでいた。最悪の空気に包まれたが、もうそんな事も構わなかった。
それほどまでにあの天使の力は絶望的だった。
一縷の光明も見えない。
というか。
そこまで鍛えてきていなかった。最強の敵に立ち向かうべく、旅をしていたわけじゃ無かった。ただ楽しんでいた。源次郎として苦労したご褒美だと。アルビンの人生は、日本の荒波に揉まれたオレに対する褒美なのだと。自分の持つこの力に対してそういう物だとしか考えず、楽観的に生きていたのだ。
チート級の力で魔王を倒し、もう少しだけ旅を続けて、しばらくしたらこっちの世界でも新しい嫁を貰ったりなんかして。豪邸を買って、最後の時まで楽しく過ごす、そのつもりだった。
それがなんだこれ。詰んだわ。詰みですわ。
それからオレは旅をやめて、アルビンの故郷であるノール大陸の小国リアに戻った。
山奥に隠れるような小さな家を買い、ただただ引きこもる生活を始めた。
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