人生3周目の勇者
第5話 3周目の世界
辻 源次郎 77歳 他界 謎の異世界転生。
アルビン・ヴェレツキー 65歳 故意の転生の儀。
2度目の転生、3周目の世界。
目を覚ますと見知らぬ部屋、ベッドの上に居た。朦朧とした意識、完全な寝惚け状態。
特に視界が悪い、起き抜けなのも理由にあるがこの部屋は煙が充満していたし、何故だか視界に靄がかかっている。甘い、熟れたリンゴがたくさん生る森のような、鼻膣につんと来る甘美な香り。……理由がどちらともつけがたい惚け感。とにかくぼーっとする。
「あ~~~……」
転生は成功したのだろう、子供の声だ。それに身体が軽い。意識は薄いが、寝ていても分かる身軽さ。身体の奥から湧き出るようなこの活力。これが若さだ。
それと同時に巡るこの違和感、初めての異世界転生の時とはまるで違う感覚。まったくの別物だ。この体の底に感じる魔法力、積んでいるパワーがおかしい。全盛期の時のアルビンと大差無い力。子供が持ってるような力じゃない。
目の端に映る糸、髪?白髪だ。それを避けようと手を出して驚いた。両腕に刻まれる魔法陣のような彫刻。入れ墨か?とんでもない不良だ。この若さで白髪に染めて入れ墨を掘り込んでいるなんてヤンキーそのものだ。韓流スター好き平成ヤンキーか?親はいったいどうしている。なんだこれ、何者なんだ?
……というか迎えが来ない。誰も迎えに現れないのはおかしい。
最後の記憶を懸命に思い出す。
オレは大魔法帝国クサンドラの王立研究所に頼み込んで、転生を志願した。
あの忌々しい天使を討伐するため、若さを取り戻して再起するべく試みたのだ。
転生の儀は快く受け入れてもらったが、準備が高難易度クエスト過ぎて、伝説級のアイテムを集めるのに、ざっと23年も費やした。なるほど、100年前に5年間で流行が尽きるわけだ。
道中でかつての仲間達、デズモンド、エミー、ミラと再会し、謝罪と状況説明をしたら、皆許してくれた。全員泣いていた。当然オレも号泣した。全然気づかなかったのだが、デズモンドとエミーはデキていたらしく、エミーのお腹が大きくなっていた。それを機に、デブラもやめたそうだ。本気で祝福し盛大に祝った。ミラはと言えば外見同様に相変わらずだった。長寿な種族の者は、そう簡単に性格が変わらないのだとか。
オレが旅をしている23年の間、王立研究所側が総力を挙げオレの転生先にあたる少年を探し、連れてきてくれた。勇者の素質を持つ、聡明そうな男の子だ。
名前はアーロン・パブロ(Aaron・Pablo)
ご両親も勇者アルビンの継承者になれるのならと、進んで志願してくれたそうだ。
最大の感謝を込め、握手を交わし、二人きりで話をしたりなんかもした。
最後は、オレの仲間達や姉二人と妹家族、滅多に顔を出さないマダム・ヴィエラも含め、これまでの旅で知り合った多くの人達に見守られながら、転生の儀を受けた。
2~3日で魂が身体を渡り、定着して目覚める。と、そういう話だったはずだが。
なんだこれは?賢そうなアーロン君はどこへ行った?こんなロン毛白髪の入れ墨小僧じゃ無かったはずだ、絶対におかしい。源次郎としてもアルビンとしても、こんなヤンキーを望むはずがない。まぁ確かに、煙草も酒も、ドラッグにも手を出したが、清潔感のある爽やかなエリート勇者の面を捨てた覚えは無い。
そこで思い出して、煙草が吸いたくなった気がしたが、そこまでの依存感は無かった。さすが新しい身体だ、ニコチンを知らないとはこういう事か。久しぶりの感覚過ぎて新鮮だ。
そこそこの時間考え込んでいても、誰も来ない。え?何?あの壮大な転生の儀パーティーは夢だったの?みーんな「勇者さまー!勇者さまー!」ってオレを見送ってくれたじゃないか!本当は嫌いだったの?嫌われてたの?2~3日しかたってないんでしょ?目覚めた時に誰か居てくれてもよくない?
っというかこれ起きてもいいのか?「転生したて」ってどうなの。術後みたいなものでしょ?急な運動って危ないんじゃない?
うむ、よしオッケー。起きよう。覚悟を決めようじゃないか。ゆっくりだ、慎重に起きるだけ。ずっコケて魂飛び出して戻れなくなるとかそんな感じの怖いし。まずは身体を起こすだけ!立ち上がるのはその後だ。
手をついてゆっくり体を起こし、両足から確認する。よし、動く。両手をグーパーさせて確認。入れ墨はさておき、問題ない。
あたりを見渡したら、なかなかな広さの洋間。右手に扉、左手に洗面台。後ろを振り向くと、ベッドと結合されている巨大な書棚。やはり、眠る前に見た景色とは全く違う。ここが研究所じゃないのは確かだ、なんとも禍々し過ぎる。どこか不吉な洋館って雰囲気だ。ちょっと怖い。
枕元には御香が炊いてあった、この匂いと煙はこれが原因だ。火がついているという事は、誰かしらは居るのだろう。改めて嗅ぐと甘ったるい。なんかエロい匂いって感じ。
さて困った、起きて行っていいものか。色んな違和感と小心者なせいで身動きが取れずに居たが、先ずはあの洗面台に向かおう。とりあえず自分の顔を確認したい。
これ以上無いくらい慎重にベッドから降りる。長く眠っていたせいか、それとも身体のサイズに慣れていないのか、酷い立ち眩みを覚える。頭が重く、ふらつく。
ベッドに手をかけてゆっくり進み、洗面台の前に着いたのだが、とどかない。身長が足りなくて、鏡が見えない。思っていたよりこの身体は子供のようだ。
当たりを見渡し、書棚に並べられた本を見付ける。なんとか持ってきて、階段状に並べた台を作った。慎重に足をかけ、やっとの事で覗いた鏡を見る。そこに映った少年の姿に心底驚いた。
「……これは、……?」
アルビン・ヴェレツキー 65歳 故意の転生の儀。
2度目の転生、3周目の世界。
目を覚ますと見知らぬ部屋、ベッドの上に居た。朦朧とした意識、完全な寝惚け状態。
特に視界が悪い、起き抜けなのも理由にあるがこの部屋は煙が充満していたし、何故だか視界に靄がかかっている。甘い、熟れたリンゴがたくさん生る森のような、鼻膣につんと来る甘美な香り。……理由がどちらともつけがたい惚け感。とにかくぼーっとする。
「あ~~~……」
転生は成功したのだろう、子供の声だ。それに身体が軽い。意識は薄いが、寝ていても分かる身軽さ。身体の奥から湧き出るようなこの活力。これが若さだ。
それと同時に巡るこの違和感、初めての異世界転生の時とはまるで違う感覚。まったくの別物だ。この体の底に感じる魔法力、積んでいるパワーがおかしい。全盛期の時のアルビンと大差無い力。子供が持ってるような力じゃない。
目の端に映る糸、髪?白髪だ。それを避けようと手を出して驚いた。両腕に刻まれる魔法陣のような彫刻。入れ墨か?とんでもない不良だ。この若さで白髪に染めて入れ墨を掘り込んでいるなんてヤンキーそのものだ。韓流スター好き平成ヤンキーか?親はいったいどうしている。なんだこれ、何者なんだ?
……というか迎えが来ない。誰も迎えに現れないのはおかしい。
最後の記憶を懸命に思い出す。
オレは大魔法帝国クサンドラの王立研究所に頼み込んで、転生を志願した。
あの忌々しい天使を討伐するため、若さを取り戻して再起するべく試みたのだ。
転生の儀は快く受け入れてもらったが、準備が高難易度クエスト過ぎて、伝説級のアイテムを集めるのに、ざっと23年も費やした。なるほど、100年前に5年間で流行が尽きるわけだ。
道中でかつての仲間達、デズモンド、エミー、ミラと再会し、謝罪と状況説明をしたら、皆許してくれた。全員泣いていた。当然オレも号泣した。全然気づかなかったのだが、デズモンドとエミーはデキていたらしく、エミーのお腹が大きくなっていた。それを機に、デブラもやめたそうだ。本気で祝福し盛大に祝った。ミラはと言えば外見同様に相変わらずだった。長寿な種族の者は、そう簡単に性格が変わらないのだとか。
オレが旅をしている23年の間、王立研究所側が総力を挙げオレの転生先にあたる少年を探し、連れてきてくれた。勇者の素質を持つ、聡明そうな男の子だ。
名前はアーロン・パブロ(Aaron・Pablo)
ご両親も勇者アルビンの継承者になれるのならと、進んで志願してくれたそうだ。
最大の感謝を込め、握手を交わし、二人きりで話をしたりなんかもした。
最後は、オレの仲間達や姉二人と妹家族、滅多に顔を出さないマダム・ヴィエラも含め、これまでの旅で知り合った多くの人達に見守られながら、転生の儀を受けた。
2~3日で魂が身体を渡り、定着して目覚める。と、そういう話だったはずだが。
なんだこれは?賢そうなアーロン君はどこへ行った?こんなロン毛白髪の入れ墨小僧じゃ無かったはずだ、絶対におかしい。源次郎としてもアルビンとしても、こんなヤンキーを望むはずがない。まぁ確かに、煙草も酒も、ドラッグにも手を出したが、清潔感のある爽やかなエリート勇者の面を捨てた覚えは無い。
そこで思い出して、煙草が吸いたくなった気がしたが、そこまでの依存感は無かった。さすが新しい身体だ、ニコチンを知らないとはこういう事か。久しぶりの感覚過ぎて新鮮だ。
そこそこの時間考え込んでいても、誰も来ない。え?何?あの壮大な転生の儀パーティーは夢だったの?みーんな「勇者さまー!勇者さまー!」ってオレを見送ってくれたじゃないか!本当は嫌いだったの?嫌われてたの?2~3日しかたってないんでしょ?目覚めた時に誰か居てくれてもよくない?
っというかこれ起きてもいいのか?「転生したて」ってどうなの。術後みたいなものでしょ?急な運動って危ないんじゃない?
うむ、よしオッケー。起きよう。覚悟を決めようじゃないか。ゆっくりだ、慎重に起きるだけ。ずっコケて魂飛び出して戻れなくなるとかそんな感じの怖いし。まずは身体を起こすだけ!立ち上がるのはその後だ。
手をついてゆっくり体を起こし、両足から確認する。よし、動く。両手をグーパーさせて確認。入れ墨はさておき、問題ない。
あたりを見渡したら、なかなかな広さの洋間。右手に扉、左手に洗面台。後ろを振り向くと、ベッドと結合されている巨大な書棚。やはり、眠る前に見た景色とは全く違う。ここが研究所じゃないのは確かだ、なんとも禍々し過ぎる。どこか不吉な洋館って雰囲気だ。ちょっと怖い。
枕元には御香が炊いてあった、この匂いと煙はこれが原因だ。火がついているという事は、誰かしらは居るのだろう。改めて嗅ぐと甘ったるい。なんかエロい匂いって感じ。
さて困った、起きて行っていいものか。色んな違和感と小心者なせいで身動きが取れずに居たが、先ずはあの洗面台に向かおう。とりあえず自分の顔を確認したい。
これ以上無いくらい慎重にベッドから降りる。長く眠っていたせいか、それとも身体のサイズに慣れていないのか、酷い立ち眩みを覚える。頭が重く、ふらつく。
ベッドに手をかけてゆっくり進み、洗面台の前に着いたのだが、とどかない。身長が足りなくて、鏡が見えない。思っていたよりこの身体は子供のようだ。
当たりを見渡し、書棚に並べられた本を見付ける。なんとか持ってきて、階段状に並べた台を作った。慎重に足をかけ、やっとの事で覗いた鏡を見る。そこに映った少年の姿に心底驚いた。
「……これは、……?」
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