ある日世界がタイムループしてることに気づいて歓喜したのだが、なんか思ってたのと違う

ジェロニモ

犯人は委員長

 僕にとってはだいぶ薄れていた合唱練習の記憶を思い出そうとしてみた。その甲斐あってかおぼろげながら当時の光景が蘇りつつある。
 記憶が正しいのなら合唱練習の際、真面目に練習をしている奴なんて少数だった。特に男子はスマホゲームとか、部活の顧問の悪口だとかに練習時間のほとんどを費やしていたように思える。
 そんなしょうもない集団に「覚えた?」「そろそろ合わせられる?」と度々気にかけてきていた女子がいたが、今にして思えばその女子こそが委員長、橘恵美だった。


 女子グループの方もほとんど練習に参加してなかった気がする。耳障りな甲高い笑い声が耳をついていたのだけは不快だったので今でもよく覚えていた。
 特にあのヤンキー女二人組は教室にすら居なくて、ヤンキーって本当に授業サボるんだすげーと何故か感銘を受けた覚えがある。


 合唱練習はその実、しっちゃかめっちゃかのお喋りパーティと化していたのだ。カオスだ。
 真面目に取り組んでいたのはクラスの四分の一以下。あとは先生が来た時だけちょっとちゃんとやってました風に見せるだけ。


 だから僕は思った。そんなクソみたいなクラスメイト達の面倒を押し付けられた橘恵美ならば、誰も言うことを聞いてくれやしない合唱練習がやってくるのが嫌になっても仕方ないんじゃないかって。合唱練習が始まって欲しくないと願ってしまっても仕方ないんじゃないかって。彼女なら合唱練習の前の10分間の休み時間をループさせても、仕方ないんじゃないかって。


 本当のところはどうであれ、少なくとも僕にはそう思えた。
 確かな証拠なんて何もない。全て僕の推測でしかない。なのにこのタイムループを起こしたのが彼女なのだと、僕はなんの疑いも迷いもなく確信してしまった。証拠もないのでこれはまったくの冤罪かもしれないが、僕の中で今、犯人は完全に委員長になっていた。



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