機械と花 ロボットだろうが感情はあるんだから恋愛くらいしてもいいだろ?

トリカブト

盲目の少女と戦うロボット 2

 彼女の柔らかく温かみのある手が俺の冷たく硬い手に触れると、
「貴方の手…すごく冷たい…」
 そう言った彼女の声はどこか棘のある気がした。その言葉にある種の不安を覚えた俺は咄嗟にこう言った
「ここに来る前に雨に打たれてね、少し冷えてしまったんだ」
 言い訳がましい自身の行動に戸惑いを隠せなかった俺は、とりあえず震える彼女の肩をそっと持つと、シェルターの外へエスコートした。






 黒焦げになったかつての邸宅と所々上がる火の手、積みあがった死体の山…この惨劇を見れば彼女はきっと彼女の精神は壊れてしまうだろう、目が見えた場合の話だが…そんなことを杞憂と少しの安堵をしながら建物を俺たちは進んでいった。
 すると、彼女がポツリと呟いた
「血の匂い…」
 先ほどの考えを消し去るようなその一言に俺は、
「ここに来る前に戦闘があって、その時に返り血が付いたんだ」
 と言い、何故か募る自責の念に疑問符を浮かべながら、続けてこう問いかけた
「本部への報告のために少し襲われた時の状況を知りたいんだが、聞いてもいいか?」
 彼女は少し身震いをし、頭を俯かせた。やはりこれは後で聞くべきだったかと後悔していると彼女はか細い声で
「ろ…ロボット…あ…赤くて黒いロボット」


「!!?」
 敵国の赤く黒いロボット…最高戦力と名高いラクアが何故一介の貴族を?衝撃と動揺を何とか抑えながら、俺は周りの警戒を強めた。
 しかし、冷酷で優秀なラクアがあのシェルターに気が付かなかったのは何故なのだろうか?
 俺が考え込んでいると、彼女は
「あ‥‥あの‥‥」
 心配そうに声をかける彼女に俺は
「協力してくれてありがとう」
 と言い、警戒を怠らず俺たちは先を急いだ。
 すると、突然
「貴方もロボット何ですか?」
 と彼女が言い放った。
 これまでの怯え切った声とは違い、何か憎悪を抱くようなその声に俺は
「俺はロボットではない」
 と答えた。すると、彼女は
「良かった…」
 振り絞って出したような声に心を落ち着かせた。
 自身の行動の可笑しさにどこかヤキモキしつつ、彼女へ向けられている形容しがたい感情の正体は何なのかという自問自答を繰り返していた。
 博士にメンテナンスを念入りに頼もうと考えながら、俺達は目的地へと向かった。






 遠くの方でぽつりぽつりと光が見えてきた。目的である街が見えてきたようだ。
 俺は後ろにいる彼女に
「目的地まであと少しだ」
 と告げると彼女は
「はい‥‥」
 と疲労感と安堵が入り混じった声で返答した。
 街に入ると、俺は
「街についたぞ、これからこの街にある基地で報告を」
 と言いかけたその時、彼女は膝から崩れ落ちるように倒れた。
 突然のことに、俺は慌てて彼女を支え、こう言った
「大丈夫か?!しっかりしろ!」
 しかし、彼女からの返答はない。
 このままでは命にかかわるのでは?そのような不吉な考えを払拭するべく、俺は、医療の知識にも長けている橘博士のもとに向かった。






 少女を抱え、目的地へ急ぐ。住宅街に異彩を放つ小さなビルのような建物、橘博士の家だ!俺は、扉を強くノックした。
「はーい」
 中からの声がした。俺は、すかさず
「急患だ!早く開けてくれ!」
 と言った。
 中からの足音がせわしなくなって、扉が開いた。
「一将!急患って?!」
 慌てた博士が出てきた。
 少女を抱え、家で診てもらうと、博士は
「ただ疲れて寝ているだけみたいだね、安心しなよ」
 と笑いながら言った。
 俺は、ようやくホッと一息をつき、近くにあった椅子に腰かけると、博士は
「やっぱり折りたたみ傘役だったでしょ?」
 と自慢げに話した。
「そうだな、だが、戦闘中に使えない傘じゃなくて今度からはカッパを貸してくれ」
 と俺が返答すると、博士は
「僕は、傘しか使わないからなぁ」
 と口をとがらせながら言った。
 戦闘の疲れを他愛のない会話で癒す。
 報告は明日にするか…



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