フォーレン エンジェル

illusion

楽園の姫君


現在、世界の構造は解明され、世界は1つではなく、幾千、幾万もの膨大な数の次元が気泡のように存在し、分裂し複製され続けて出現した多重次元階層の世界であることが立証された。 
 多重次元階層の世界では、次元ごとに様々な種類の世界と地球が存在し、それぞれが個別に進化し発展していった。
森林や草原に覆われた生命の源泉、大自然の世界。                                コンピュータやロボットが制御し、
支配する最先端技術の世界。
そして、万物の根源エレメントによって創造された聖域と呼ばれる現世の楽園。

9日前。
放課後、授業が終わり、檻村詩織は、級友たちと別れを告げる。
精霊の加護を受容し、顕現した、御使いたちの末裔である、魔女。
その神の使徒にも等しい能力を持つ魔女檻村詩織が、何万何億とある一標準次元階層世界の一お嬢様中学校に通っているのは、発展途上世界の古代史や考古学にも等しい無駄な知識と技術を習得したいからではない。
ソーサレスの卵や蛹と言われる、クリサリス・ウィッチを探索するためである。
クリサリス・ウィッチはまだ覚醒していない魔女であり、そもそも自分が魔女の血統であるという自覚すらもない。
魔女は、人の心の中や思念を感知する降魔術、旋律の探知(シンフォニー・レーダー)が使える。
魔女の蛹が不定期に発生させる魔女の旋律を聴くために、詩織は辺境の次元世界の制服を着て授業を受け、発展途上世界の一教育機関に身を置き潜伏活動を行なっている。

校舎を出てすぐの歩道の反対側に、挙動不審な怪しい女、いや少女が、キョロキョロと回りを見渡していた。
冬河莉架、最近、環境省悪魔精霊対策室、標準世界DA7624支部に赴任してきた、最近、いや昨日の夜出会ったばかりの一つ年上の少女である。
こっちに気がつくと、慌てて駆け出してきた。
彼女も学校帰りらしく、制服を着ている。
「待っていたわよ。詩織、お疲れ様」
「ええ、そうでしょうね。見ればわかるわ」
そう言って、詩織はそそくさと歩道を歩いていく。
そのあとを、鈍臭いのか、リカがヨタヨタとふらつきながらついてくる。
「ちょっと、待ってよ詩織。そんなに早く歩かないでよ。」
「付いて来ないでくれる、冬河さん、鬱陶しいわ。
私、正直言ってはっきりいって、あなたのことが嫌いなの。
それから、勝手に呼び捨てにしないでくれる?
ちゃんと、檻村さんって、苗字で呼んで頂戴」
詩織が目一杯素っ気なく言う。
「そんな連れないこと言わないでよ〜詩織ちゃん」
ちゃん、ずけでイラッときたのか、詩織が鋭い目付きで睨んできた。
やはり、戦いに生命を捧げる魔女の瞳だ。
迫力が尋常ではない。
リカは、少し冷や汗をかく。
「それじゃあ改めて、お互いに自己紹介から始めましょうか。
私の名前は冬河リカ。
クラスは神巫《ミディアム》の魔女にして、絶世の美少女。
趣味はカラオケと恋愛映画を観ること。
特技は歌とダンス。
好きな食べ物は苺パフェか苺。
好きなマスコットキャラは、雲の上の天使シナモノロール。」
リカがいきなり、自己紹介とやらを始めて、一方的に話し始めた。
突っ込みどころが満載すぎて、詩織は
困惑する。
考えるのが面倒くさくなった。
「絶世の美少女で、歌とダンスが得意なの?
いっそ魔女なんかやめて、アイドルにでもなったらいいのに」
詩織が、最高に皮肉と冷笑を込めて、リカにいった。
「はい、私の自己紹介終わり。
次はあなたの番よ。詩織。」
「私の名前は檻村詩織。
抹殺者《スレイヤー》のクラスの魔女。
趣味は、自称美少女の嫌な性格の小娘を軽蔑する事。
特技は、自称美少女の頭のおかしな小娘を、嘲笑する事。」
詩織が、淡々と答えた。
「詩織さん、意外と辛辣なのね?」
リカが苦笑いを浮かべて言った。
やはり、自分の事をいきなり美少女とか言ったのは失敗だった。
「詩織さん、お願いだからそんなに身構えないで、私、あなたに興味があるの?私、あなたとお話しがしたいって思っていたのよ」
「うふふっ、お話し?
お話しって、どんな事?
今流行りの音楽やお洋服の事?
それとも、好きな男の子のことかしら?
くだらないわ。
あなたは高潔で崇高な魔女のなかでは、無能で幼稚で、愚劣だわ。」
詩織が、予想を遥かに超えて、リカを愚弄し、拒絶反応を示してきた。
そこまで言わなくていいだろう。
「そうなの?同級生とお喋りしながらクレープを食べたり、カラオケでデュエットしたりするの、楽しくないの?
男の子と遊園地でデートしたり-」
「馬鹿言わないでよ、私たち、魔女には、重要で大切な果たすべき使命があるのよ。
同級生との友情とか恋愛に、そんな下らない時間を割いている暇はないわ。
同級生と話したり、遊びに行ったりするのは、周囲と溶け込み、より情報を集めやすくするため、全部、下らないゲームみたいなものだわ」
詩織が、リカの話に割って入り口調を強くしてより一層反発を強める。
魔女の蛹が魔女へと覚醒する直前、精神が不安定になり、行動などに異変が見られる。
魔女は蛹たちのそういった異変を探るため、情報を収集する。

「そう、それは残念ね」
「まったく、あなたみたいに遊び半分で魔女をやってる小娘と組まされたら、こっちが迷惑するのよ。
生命がいくつあっても足りないわ。
それから、私の一体どう言うところに、興味があるの?
優秀な魔女だから?
清楚で可憐な美少女だから?
それとも、檻村の後継者候補の一人だ
から?
どうせあなたも、私の表面的な所しか見てないんでしょう?」
詩織がまくし立てるように、責め立てるように、リカに問いかけてきた。
恐らく、想像以上にこの女は、他人のことに不信感を抱き、僻《ひが》んでいて妄想を抱いている。
そして、しっかりと、自分のことを美少女だと認識している。
檻村詩織は、現存する最新の社会福祉機構、プロビデンスの評議会、649議席の貴重な一角を占め、幾百とも幾千とも言われる楽園世界を支配する現在の王侯貴族、檻村の超巨大財閥の由諸正しい血統の一人である。
楽園の姫君にして、その檻村の優秀な才能と降魔術を受容したまさに将来を嘱望された魔女である。
「そうね、その通りよ、その全てが、正解だし、関係してるわね」
「うふふっ ついに本音が出たわね。
私と一緒にいたら、みんなから注目されて、チヤホヤされるから、パートナーになりたいのね。
あなたって、自己顕示欲と虚栄心の塊なのね?」
詩織が、呆れ顔で僻《ひが》み特有の女々しさで、リカをさらに攻め続ける。
「それは違うわ、正解だし関係してるけど、そういう事ではないの。」
「じゃあどういうことなの?」
詩織が再び問いかけてくる。
「ねえ、詩織は、どうして、魔女になろうと思ったの?
人々の生命を守りたかったから?
檻村所有の楽園を救済したいから?」
「えっ?」
リカの、突然に真剣な表情と、唐突に核心を突いた問いかけに、詩織は言葉に詰まる。

「言っとくけど、あなたみたいに優秀で、絶世の美少女で、そして、評議員の後継者候補であるあなたが、魔女として最前線で戦ってるなんて、特殊で特別で、異常で、本来ならあるまじき行為なのよ。
あなたみたいな境遇の人間が、どうして生命まで掛けて、過酷な戦いを続けて試練を乗り越え続けているのか?その理由が知りたいわ?」
詩織は沈黙を続けている。
この娘は、最初、軽い感じのいい加減でだらしのないただの小娘だと思っていたが、そうではない。
もしかしたら、思いのほか、人の心の核心を突き、人の心の深層にまで踏み込んでくる。危険な小娘だ。
「というか、あなたがわざわざ自分で戦う必要があるのか?よく分からないわ。
あなたはせっかく箱入りのお姫様として育ったのだから、そういうのは、檻村に忠誠を誓った下僕たちに任務を遂行させて、自分は安全なところに隠れて、命令だけしていればいいのに。」
今のリカの一言は、自尊心の高い、高潔な詩織の心の有刺鉄線《バリケード》に触れた。
そして、リカの挑発に乗ってしまう。
こんな浅はかな女に歪んだ解釈をされて変な風に思われるのは許せない。
「ふざけないで、私は、誇り高い、高潔な檻村の血統なのよ。
誰かに危険な任務を押し付けて、自分は安全な場所から高見の見物なんて、そんな卑怯なこと出来るわけないでしょう。
わたしは檻村の誇り高い血統としての義務や名誉のため、そして、人々の生命や幸福を守護して、救済するため戦い続けているの。
私は、自分の意思で選択して、自分の能力と降魔術で戦いたいの‼︎
自分の血を流して、自分のこの手で戦いたいのよ!!」
詩織がやや興奮気味に、熱弁した。
ようやく、この少女の心の深層というか、激情の性格、正体を垣間見ることが出来た。
「そう、あなたは、自分の自尊心と檻村の血統の弔いのために、戦ってるわけね。」
リカが、薄ら笑いを浮かべ、少し侮辱するような舐めた口調で言ってきた。
少なくとも、詩織にはそう思えた。
「そう言うあなたは、どうして魔女なんてやってるのよ。
誰か、守りたい人がいるの?それとも復讐心から?野心とか世界征服?」

「別に、ただ物心ついた時には、魔女としての戦いに身を投じていたわ。
ただ、惰性で戦っているだけ、とくに、意味なんてないわ。」
リカが、低い声音で、淡々と答えた。
あれだけ執拗に自分には魔女としての存在意義を聞いてきた癖に何という下らない理由だろう。
もういい。
「そう、ありきたりね。つまらない解答だわ。がっかりだわ。
人に質問するくらいだから、きっと興味深い理由があると思ってたけど、存外面白くなかったわ」
「そう、それはごめんなさい。」
詩織がトドメを刺そうとする。
「私は、あなたみたいに、惰性とか、遊び半分で魔女をやってる奴が、大嫌いなの。
そういう無能で弱い愚かな小娘には、早く辞めて欲しいのよ。
もう、私には話しかけないで。」
そう言って詩織は早足でそそくさとあるいていく。
「ちょ、ちょっと待って、待ちなさい。」リカが慌てて追いかける。
「私が無能で愚劣だなんて、誰が決めたのよ。
言っとくけど、私より強い奴なんて、そうはいないのよ。ふぎゃっ」
そう言って、リカは歩道の段差につまずいて転倒する。
顔をあげると、詩織が怪訝そうな顔でリカを見下ろしている。
「そんなに鈍臭くて、ドジっ娘で、本当に戦えるのかしら。
まあいいわ、それじゃああなたの真価を、証明してもらいましょうか?」







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