フォーレン エンジェル

illusion

第1話 聖炎の魔女

西暦2027年
人類は、人々の悪意と憎悪と妄執を糧にして無限に増殖する魔物 《フューリズ》の脅威に晒されいた。
人々は絶望し、なす術もなくただ恐怖に怯え、数多くの次元世界が崩壊し、滅亡し続けていった。
そのフューリズの侵略と、それらを顕現する不条理の連鎖に抗い続ける者達がいる。

清浄なる救済の裁定者であり、邪悪なる断罪の粛清者。
ソーサレスは現存する魔女の残滓にして、神性の輝きである。
ソーサレスは、精霊の加護を受容し顕現した御使いたちの末裔である。
ソーサレスは、最先端技術によって、進化し、発展した、現在の魔女であ
る。

冬河莉架は、この世界の消滅と終焉を望んでいる。
冬河莉架は、この世界の不条理を憎悪し、この煉獄のような絶望の海をさまよっている。
冬河莉架は、 冷酷で無慈悲な聖炎の魔女である。

檻村詩織は、この世界に調和と秩序がもたらされることを望んでいる。
檻村詩織は、人々を救済し、守護することにより、希望と未来を紡ぐ楽園の旋律を奏でている。
檻村詩織は、慈愛と献身に生命いのちを捧げ、灼熱の正義の炎を燃やす煉獄の聖女である。

全く違う考え方をして、全く違う生き方をしてきた2人。
本来なら、関係性を持つこともなく、出会う事も無かったはずの2人である。

幾多の世界が紅蓮の灼熱に飲み込まれ、終焉を迎えたあの日、2人の運命の歯車は、残酷に狂いはじめた。


時刻は午後7時30分 に差し掛かり、都会の夜は淡い紺色の空に包まれている。
幾つものビルが山脈のように立ち並ぶコンクリートの街並みが蛍光灯の明かりでうっすらと光り輝いている。
駅ターミナルと隣接する、ショッピングモールを抜けた歩道を、人通りの雑踏が押し寄せていた。
そのビルの断崖絶壁の立ち並ぶ谷底で、異形の姿をした魔物が無差別殺戮を行なっていた。

全長10メートル程の巨躯に、巨大な胴体に8つの首をもつ大蛇の姿をしている。
まるで神話や伝承に登場する異形の怪物にして空想上の魔物、ヒュドラにも似た姿形をしている。
両顎は横向きで、両目も顔もなく、胸と口腔に薄紅いレンズのような巨大な眼球がそれぞれ縮小拡大を繰り返しながら1個ずつ付いている。
金属に匹敵する強度でありながら、軟体生物のような柔軟性を持つ、自然界には本来存在しない材質と形状、解明出来ない構造をしている。

邪悪なる大蛇、邪竜。
その歪な姿をした蛇は、獰猛な咆哮を張り上げ、周囲を威嚇する。
そして、空中でトグロを巻いてぐるぐると曲りくねりながら、一本、二本、三本と次々と伸長して人びとに襲いかかる。
歩行者の身体を挟み込み、ビルの3、4階付近まで持ち上げ、そして噛み砕いて、手足や胴体、頭部までを引き裂き、捕食する。
あるいは放り投げて、ビルのコンクリートの壁面やガラス窓に叩きつけ、血溜まりのはいった風船のように破裂させる。

連中の正体はフューリズ。
殺戮の天使にして、邪悪なる魔物。
輝ける栄光の天使にして、最高位の悪魔。
生物でも機械でもない。
人間を排除し人類を滅亡させるためだけに現出した殺戮兵器。
神の代替物にして、神に最も近い者。
破滅と崩壊の導き手。
ソーサレスとは違う、異形の姿をしたもう一つの天使(悪魔)。
悪魔精霊。

連中フューリズが捕食するのは人間の血肉ではない。
人々の持つ悪意や憎悪、嫉妬や妄執や恐怖やエゴである。

清浄なる光芒の天使よ
烈光の聖矢を放ち  邪悪を撃ち滅ぼせ!!

暗闇と静寂の上空から、少女の凛と
した声が響き渡る。
同時に、ビルの断崖絶壁に立つ少女の、真っ直ぐに伸ばした左腕のその白磁の様な指先から、
幾つもの薄青く光り輝く精緻な幾何学模様の円環状、降魔陣ソーサリー・サークルが出現する。
その、降魔陣ソーサリー・サークルの前方の空間に、同じく薄青い閃光、聖炎の烈光(ホーリネス・リンケージ・レイ)が幾重にも迸り、道路に向かって流星群のように降り注ぐ。
標的である悪魔精霊フューリズに命中した烈光は、淡い水滴のように四散して、薄青の大爆発を引き起こす。
幾条もの烈光を躯体にくらった魔物は、聖炎に包まれ、その焔の揺らめきと陽炎のなかで咆哮しながら身悶える。
上空に舞い上がる薄青の硝煙が、うっすらと晴れる。
ふと見ると、蝶の繭のような、羽衣のような、淡い薄青の光芒に包まれた少女が、ビルの断崖絶壁に立ち尽くしていた。
中等科か高等科の何処かのお嬢様学校の制服をきている。
白い布地のあちこちが魔物に蹂躙された人々の鮮血でベットリ濡れている。

外見は清楚で純潔、読書でも似合いそ
うな窓縁の美少女という感じである。
艶やかで滑らかな雪のように白い肌。
繊細で、今にも壊れてしまいそうな、ガラス細工のように澄んだ瞳と、流れるように風になびく、背中までのびた長い黒髪が、ネオンライトを反射してキラキラと光り輝いていた。

ソーサレスは、現存する魔女の残滓であり、神性の輝きである。
ソーサレスは、呪術や魔術など様々な神秘的な能力の集合性と、最新の科学技術が融合して生まれた現在版の魔女である。
特に、破壊や殺戮に重点を置き、市街地での戦闘に特化した呪術体系を得意とする。
ソーサレスは、万応の構成元素エレメントを制御し、操作することにより、様々な神秘的で幻想的な現象を引き起こすことができる。
また、魔導制御機構という、非物質次元階層に存在する構成元素エレメントを精製する装置に意識を接続することにより、降魔術(ソーサリー)を詠唱、構築することができる。

「相変わらず、人の生き血は生ぬるくて湿気てるわね。
新品の制服が台無しじゃない。」
少女が制服の布地にベットリとついた粘着質な血液を拭っていった。
「お人形さん遊びも結構だけれど、もう少し、大人の礼儀作法も身につけて欲しいわね。
せっかくのお料理ディナーを食べ散らかすなんて、お行儀が悪いにも程があるわ。」
少女が、道路に落ちている手足や内臓などの大量の人塊や、赤黒い重油のような血の海を眺めながらいった。
この残酷で凄惨な光景を、少女は無気力で怠惰で冷淡な眼差しでながめていた。
まるで糸に絡まり、身動きが取れないまま蜘蛛に捕食された昆虫を見るような目で。

冬河莉架は、冷酷で無慈悲な聖炎の魔女である。

彼女にとってのソーサリーとは、慈愛と献身の輝きではない。
人々を救済する能力でも守護する能力でもなく、殺意と憎悪の衝動が生み出した厄災の炎でしかない。
彼女は自らの運命を呪い、嫌悪し、この世界の消滅と終焉を望んでいる。
そう、冬河リカは、この邪悪なる死の世界で、絶望の海を彷徨っている。
そこは人々の紅い流血とドス黒い悪意によって染まった煉獄の海である。
まるで最期の審判のように燃え盛る紅蓮の焔によって世界のすべてが飲み込まれた幼い日のあの夜、冬河リカの魂は凍りつき、砕け散った。
あの日から、冬河リカは、ソーサリーの淡い輝きだけを胸に秘め、自らの運命を破壊した悪意の連鎖に抗い続けている。

薄青い硝煙が薄らと晴れ、フューリズの巨大な体躯が再び姿を現した。
紅く巨大で不気味な眼球が、ギロリと睨むように少女の姿形をとらえる。
シャアアア〜
8匹の大蛇たちが、憤怒と殺意のこもった咆哮をあげる。
我々の邪魔をするなとでも言いたげに。
妖精フューリズさんたちの〜
少女がゆっくりと言葉を紡ぐ。
妖精フューリズさん達の、せっかくのお楽しみを邪魔してしまって悪いけれど、もうそろそろ、その流血滴る オママゴトの時間もお終いにしてもらえるかしら?」
少女が、長い黒髪をかきあげ不敵に言い放つ。
「だって早くしないと、お姉様達が、お茶会の時間に間に合わなくなってしまうもの」

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