上京して一人暮らしを始めたら、毎日違う美少女が泊まりに来るようになった

さばりん

運命の席決め

 俺たちが向かったのは、新入生歓迎会が行われる駅前近くの大衆たいしゅう居酒屋いざかや
 入り口で靴を脱いで、懐かしい番号札の木の板をはめ込む式のロッカーに靴を入れ、木の板を取りだす。


「こういう居酒屋とか初めて来た」


 俺が物珍しい様子で辺りを見渡していると、綾香が意外そうな顔をする。


「そうなの? みんな来てるもんだと思ってた」
「いや……だって未成年だし、なかなか来ないでしょ?」
「へぇーそういうもんなんだ……」
「綾香は来たことあるの?」
「うん、私は撮影の打ち上げとかでよくスタッフさんとかに連れられて」
「あぁ……なるほど。大人の付き合いってやつか」 
「そうそう」


 そんな会話をしつつ、お店の廊下を進むと、廊下を進んだ左側に、これぞ宴会場といったような、広い座敷席が現れた。そこには、数名の先輩と思われる人たちが既に準備をして待っていた。


 座敷の入り口で一人の先輩が声を掛けてくる。


「はい、ここで新入生のみんなにはくじを引いてもらいます。この書かれた番号の席に座ってくださいね」
「はーい!」
「ぐぬぬぬぬぬっ……」


 詩織が恨めしい視線で健太を睨みつけている。
 一方で、監視が届かない位置に詩織が行く可能性が出た健太は、にたぁっとしてやったり顔で勝ち誇った顔を浮かべていた。


 お互いバチバチと視線を交錯させ、けん制し合いながらくじを引いていく。


「それじゃあ今度は後ろの二人、どうぞ!」


 そのくじ引きが、俺達にも回ってきた。俺は綾香とどちらからでもなく顔を見合わせる。


「……どっちから引く?」
「大地君から引いていいよ」
「わかった」


 綾香に促されて、俺はくじの紙が入った箱を持っている先輩の前に立つ。
 そして、両手を合わせて祈りを捧げる。
 どうか、あの女性がいるテーブルになりますように……!




 ◇




 新入生たちは、引いたくじの番号のテーブルへ各自散らばって座った。
 俺は他の三人とは別々のテーブルになった。俺が座敷の端の列の真ん中のテーブルで、綾香は俺が座っている席から斜め右前のテーブル。その左隣のテーブルには、ぐぬぬっと悔しそうな表情を浮かべる健太と、勝ち誇ったような表情を浮かべている詩織の姿があり、詩織はにこやかな笑みで俺に手を振っている。神は詩織に味方したようだ。


 そんなことをして先輩たちを待っていると、ようやくガヤガヤと騒がしい声が聞こえてきて、先輩たちと思われる人達がやってきた。


 同じ私服姿であるにもかかわらず、先輩たちは新入生とは違い、どこか大人びた雰囲気があるから不思議なものだ。これも、大学生特有の成せる技なのだろうか?


 俺は次々と入ってくる先輩たちの顔を順に見ていく。すると、宴会場スペースの入り口に三人ほどの女性の先輩たちが現れた。おしゃべりにきょうじながら入って来たその女性の中に、あの使はいた。


 今日は、黒のシャツに赤のカーディガンを羽織り、紺のジーンズを着こなして、こないだよりも大人びた雰囲気をさらに醸し出していた。俺はその先輩が向かう方向をずっと眺めていた。


 そして、彼女は俺のテーブルを通り過ぎる際、一瞬チラっとこちらを見たような気がするが、すぐに視線をおしゃべりしている人の方へと戻し、無情にも俺の座っているテーブルを通り過ぎて行ってしまう。
 そして、女性が向かったのは、綾香が座っているテーブルだった。


 残念ながら、神は俺にも味方してくれなかったようだ。そう簡単に物事は上手く進まないわな。


 俺よりも近くの場所に先輩が座った健太は、でへーっと緩みに緩んだ顔で、その女性をを見つめている。だが、それを見た詩織が、咄嗟に後ろから健太の目元に手を回して、視界をさえぎっている。


 俺のブロックには、黒ぶち眼鏡を掛けた短髪の細身の男性と、髪をオールバックに固めて、耳にピアスをしたイケメンの先輩が座った。


「こんばんはー」


 イケメンの先輩が俺たちにフランクな挨拶をしてくる。


「今日は参加してくれてありがとう。短い時間だけど雰囲気だけでもつかんでってくれると嬉しいかな」
「マジメか!」


 細身の男性の発言に対して、イケメンの先輩がそうツッコミを入れる。


「うるせぇ!」


 細身の男性は、イケメンの先輩に突っ込まれてニヤニヤとしていたが、一つ咳ばらいをして、パンパンと手を叩きながら注目といって立ちあがる。どうやら細身の男性は、このサークルの代表者らしく、全員に向かって挨拶を始めた。


「えっと、今日は新入生の皆さん集まってくれてありがとうございます。短い時間ですが、雰囲気だけでもつかんでいってください」


 俺たちに先ほど言っていたことを、他の新入生にも言っていた。他の先輩からは、「真面目だぞ~」と、イケメン先輩と同じようなヤジが飛ばされていた。元から、そういうキャラの人らしい。


「先輩のみなさんは積極的に、新入生の人に声を掛けてあげてください」


 『はーい』と先輩たちの生返事が聞こえる。


「それじゃあ、みなさんグラス持ってください! グラスに注いでない人は急いで!」


 俺たちは手元に置いてあったピッチャーに入っていたウーロン茶らしきものをグラスに注ぐ。イケメンの男性が、細身の男性に瓶ビールをグラスに注いで渡してあげていた。


「みなさん、準備はいい?」
「ちょっと待って」


 他の机からそんな声が聞こえてくるので、グラスを持ってしばし待つ。
 先ほど待ったがかかった机の方から、「いいよ~」という声が聞こえてきた。


「じゃあ、今日は楽しみましょう、乾杯!」
「かんぱーい!」


 こうして、『FC RED STAR』の新入生歓迎会が幕を開けた。

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