合同籠球マネージャー

さばりん

第79話 選手たちを信じる

ゾーンプレスだ!相手チームはここが引き離す勝負所だと考え、一気に仕掛けてきた。

「ゾーンプレス!カバー!」

相沢さんが叫び、筒香先輩と宮崎先輩がとっさにカバーに入る。
しかし、相手の選手交代がここで生きる。背は低いものの、俊敏性では上回るガード二人はすぐに筒香先輩と宮崎先輩のマークについてパスを入れさせない。つねにステップを踏んでいつでもパスカットできる状態を保ち続けていた。

高橋先輩は出しどころがなく、苦し紛れに筒香先輩を走らせるように誰もいない前線へとボールを出した。
しかし、筒香先輩との息が合わず、その場に来るパスが飛んでくると思った筒香先輩はそん場で立ち止って必死にパスをキャッチしようとジャンプした。無情にもボールは筒香先輩の手をかすめ、誰もいない相手陣地へと飛んでいった。そのボールを筒香先輩に付いていた選手が俊敏性を生かして、取りに行き掴んだ。川見に攻撃をさせずに自分たちのボールにして再び攻撃を開始する。

すると、今度は筒香先輩が付いている相手選手がガードの選手にボールを渡した後、スリーポイントラインの外に張って筒香先輩をゴール前から追い出して中のディフェンスに行かせない。それを見たボールを持っていた相手選手がドリブルを開始すると、待っていたかのように放火の3人の選手が一斉に決められていたかのような動き出しから、流れるようなパスワークを見せてゴール前に迫っていきノーマークの選手を作った。

そのシュートを放った選手はなんと筒香先輩が付いているはずの選手であった。
俊敏性と素早さを生かしてタイミングを見計らって筒香先輩を振り切り、一気にゴール前に走りこんできたということだ。

ゴール下でのシュートを落ち着いて決めた落葉のたちは再びゾーンプレスの準備を素早くセットして、川見に攻撃をさせないようにパスカットを狙う体制に入った。

俺はこのとき嫌な記憶が蘇っていた。それは、先週の浮島高校との練習試合で相手のゾーンプレスに対して、合同チームが為す術もなく点差を離されていったあの悪夢だ。

俺は咄嗟に嫌な予感を感じ、すかさずタイムアウトを要求しようと立ち上がろうとした。その時であった、スっと相沢さんが俺の動きを手で制止した。

「まだだ、大樹。早まるな。」

相沢さんはコートを見つめたままそう言い放った。

「でも…」

俺が不安そうな声を上げると相沢さんは制止した手を戻して俺の方を向いて言い放った。

「まだ、うちに流れがある。」

相沢さんはそう言って再びコートの方を向いた。
まだ川見の方に流れがあるだと??俺が見る感じでは落葉に完全に押されてしまっているようにしか見えなかった。
俺は再びコートの航一たちに目を向ける。すると、国吉くんが相手を何とか振り切ってパスを要求した。

高橋先輩は国吉君に向かってバウンドパスを供給した。国吉君がパスを受け取ると、高橋先輩が国吉君の方へ走っていき、手渡しでボールを受け取ろうとする。それを逃さないというように落葉の選手がスティールを狙っていた。

しかし、それに気が付いていた国吉君はスっと身長差を生かしてボールを上に挙げて、高橋先輩への手渡しパスを一回止める。

そして、高橋先輩は全速力で国吉君の前を通り抜け、前へ走る。落葉の選手を二人引き寄せた国吉君はノーマークになった高橋先輩へとパスを出した。

高橋先輩はパスを受け取ると、慌てて宮崎先輩に付いていた落葉の選手がカバーに入ってきた。
それを把握していた高橋先輩は落ち着いてすぐに宮崎先輩へパスを出した。
宮崎先輩がパスを受け取ると、前に広大なスペースがあり、筒香先輩がゴール前に走りこんでいた。
間には、筒香先輩に付いていたマークが宮崎先輩と筒香先輩の間に入り、パスをカットしようと試みる。
だが、ここで筒香先輩の高さが生きる。宮崎先輩は落葉の選手が届かない山なりの高いパスをゴール前へと送った。
滞空時間が長い分、相手選手もゴール前に追いついてはしまうものの、筒香先輩がゴール前に走りこむには十分すぎるくらいの時間があった。
山なりの高いパスを筒香先輩はタイミングを見計らって思いっきりジャンプした。
相手選手も追いついて、ボールをカットしようと必死にジャンプした。
しかし、筒香先輩にしか届かない高さに絶妙に来たボールは、相手選手の頭上かすめて筒香先輩の手に納まった。
そのまま筒香先輩はゴール方向へ体を向けて、丁寧にボールをゴールへと流し込んだ。

「ピッ!」

すると審判の笛が鳴り、相手のファールが宣告される。バスケットカウントだ!

「よっしゃぁ!!」

ベンチのメンバーが声を上げて立ち上がりながら喜んでいた。
俺は驚きながら相沢さんの方を見た。

「大樹くんはこの間の練習試合でゾーンプレスが来たら、タイムアウトを取るべきだと学習したかもしれない。しかし、ゾーンプレスは相手に高い位置からプレッシャーを掛ける分ボールを取れる確率も高いが、失敗するリスクも高い。だから、合同チームも練習を積めば、必ずゾーンプレスを克服できるようになる。だから、練習してきた選手たちを信じることも監督としての大きな役割だよ。」
「はい…」

俺も現役時代何度もゾーンプレスを剥がすための練習を彼らとしてきた。そして、相沢さんは相手がゾーンプレスを仕掛けて来た時、何度か失敗してもタイムアウトを取ることはなかった。それは自分たちを…コートに立っている選手たちが練習してきたことを発揮すれば必ず成功することが出来ると信頼しているからそこ、タイムアウトを要求しなかったのであろう。

俺は改めてタイムアウトを取るタイミングの難しさというものを相沢さんから実感させられた。

この舞台で今俺は監督としての多くの貴重な経験を間違いなく積んでいる。相沢さんが俺をコーチとしてベンチメンバーに連れてきてくれたのも、今まで選手としてやってきた信頼関係があるから。それが一番大きいのであろう。だが今相沢さんは、俺が監督としてもっと成長していってほしいと後押ししてくれている。それが言葉では言わないものの身に染みるほど感じられた。

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