後悔して転生できたから、好きに生きよう的物語

月田優魔

火花の散る買い物

オレは今、困惑している。
それはもう、思考が停止するほどに…。
何でここに山岸カレンがいるんだ。
今日、それもさっき学校で会ったばかりだ。


(ちゃんと働けよ神!)


オレは無視することを決意する。


(気づかないふり…気づかないふり…)


しかしそんな期待も虚しく見つかってしまう。


「・・・あ、アンタは確か…」


「ど、どうも」


オレはどう返事をすればいいか分からず、当たり障りなく返した。
山岸がこっちにどんどん近づいてくる。


「何でアンタがここにいるのよ!」


「な、なんでって…お前こそ何でここにいるんだよ」


「服を買いに来たにきまってるでしょ」


服屋なんだから当然か。
変なことを聞いてしまったな。


「で、アンタはここでなにしてるの?」


こっちが意味のない質問をしてる間に、鋭い質問のカウンターが飛んできた。


「そ、それは…」


「出来ました兄さま、どうですか?」


またしても見事なまでのバッドタイミング。
玲花が試着室のカーテンを開けた。


「・・・アナタ、誰?」


「・・・あなたは、確か…」


2人の間で変な雰囲気になる。
さっきの昼食のとき山岸カレンの話をしているから玲花はすぐに状況を理解する。
兄さまがアイドルに言い寄られている、という誤解された形で。
妹からの視線が痛い。
それに空気も重い、今にも逃げ出したいくらいだ。


「私は、ここにいる月田優真の妹の月田玲花です。あなたはアイドルの山岸カレンさんですよね?兄さまに何か用ですか」


誤解している玲花は明らかに敵対的だった。
オレは玲花の誤解を解くことにした。


「多分誤解してるぞ玲花。山岸とは偶然さっき出会って、なにしてるか聞かれていただけだぞ」


玲花から出ているチクチクしたオーラが丸みを帯びていく。
どうやら誤解は解けたようだ。


「そうでしたか、それは失礼しました」


妹はペコリと頭を下げた。


「いや、それはいいんだけど、アンタって妹と服を買いに行くの?まるでデートみたいじゃない。・・・まさかアタシのサインをいらないって言ったのは、シスコ----」


「違う、単に山岸のことを知らなかっただけだ」


そこはキッパリと断っておく。
オレはシスコンじゃない。


「ぐっ、ハッキリ言われるとやっぱりムカつくわね。
いつかアンタを必ず虜にして見せるんだから!」


オレに人差し指を向けてそう宣言すると、山岸は去っていった。
ふぅ、何事もなく終わってよかった…。
そう思っていたのもつかの間、玲花から冷たい視線を向けられる。


「兄さま、聞きたいことがあります」


やっぱりか…。
今話してちゃんと理解してもらっておかないと、後で色々と勘ぐられて誤解されるとめんどうだからな。
オレはちゃんと話し合うことを決意する。










「なるほど、確かに山岸さんは兄さまをサインを断った悔しさから虜にしたいようですね」


「分かってくれたならよかった」


妹はしっかりと理解する。
(ぐっ、どうしてあんな可愛いくて胸の大きい人が兄さまに言い寄ったりするんですかっ。私もうかうかしてられません。こ、こうなったら…)


「それよりも兄さま、一緒に買い物の続きをしましょう、まだ兄さまに服を見てもらってませんからっ!」


玲花はオレの腕に抱きついてきた。
その顔は少し赤みを帯びていた。
む、胸が当たっている。


「そ、そうだな、少し邪魔が入ったけど買い物の途中だったもんな」


オレは動揺して、そのまま了承してしまった。
今もまだ胸が当たっている。
オレは無意識に妹の胸を意識してしまっている。
冷静を装い、そして自分に言い聞かせる。
…シスコンじゃない、…シスコンじゃない。




服を数着持ち込んでから数十秒後、妹は試着室のカーテンを開けた。


「どうですか兄さま、似合いますか?」


「ああ、よく似合っているよ」


嬉しそうに笑うと、すぐカーテンを閉める。
どうやら少し恥ずかしいみたいだ。
数十秒後、またカーテンが開く。
今度はレースの生地が入っていた。


「これはどうですか」


「さっきより少し大胆でいいと思うよ」


そんなやりとりを数回繰り返す。
最後の服を見た後、玲花に尋ねる。


「どの服を買うんだ?」


すると、予想外の答えが返ってきた。


「全部買います」


「全部って…。好きなやつを1、2着でいいんじゃないか?」


「いえ、兄さまが全部似合ってると言ってくれたので、全部です」


見ると、妹の顔はすごくにやけていた。
オレが褒めたのがすごく嬉しかったみたいだ。
妹はスキップをしながら、レジに向かう。
・・・まぁ、喜んでいるならそれでいいか…。
 オレは、服を買ってやることに決めた。





























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