人格破綻者は非日常に巻き込まれる

月田優魔

始まりの日

 ーーーーーねぇオレ。


 ーーーーーなんだよ僕。


 ーーーーー僕はこれからどうやって生きていけばいい?


 ーーーーーさぁな、自分で選べ。


 ーーーーー選べない。僕はもうダメなんだ。


 ーーーーーじゃあどうしたいんだ?


 ーーーーー僕は………。










「………ちゃん」


 かすかに声が聞こえる。


「……お兄ちゃん、起きて下さい。朝ですよ」


 目を覚ますと前かがみになっている女の子がいた。


「……なずな。何度も言ってるけど勝手にお兄ちゃんの部屋に入ってきたらダメだろ」


「いいじゃないですか。なずなはお兄ちゃんの妹なんですから」


 ゆっくりと上体を起こす。部屋を見渡すと朝日がカーテンの隙間から差し込んでいる。


「今日は高校に初登校する日ですよ。お寝坊さんはいけません」


「分かってるって」


 ベッドから降りると一階のキッチンへ向かう。トーストを焼き、コップに牛乳を入れる。


「なずなはとろーりチーズのせパンがいいです」


「分かってるって」


 注文通りに作って皿をテーブルに並べる。


「「いただきます」」


 2人で手を合わせて朝食を食べ始める。


「……お兄ちゃん、今日から学校ですね。大丈夫ですか?」


「少なくともなずなに心配してもらうようなことはないな」


「そんなことありません。なずなも心配するくらいできますよ」


 ほっぺをぷーっと膨らませ、ふてくされる。


「ごめんごめん、でも大丈夫だよ。今度は上手くやってみせるから。なずなには迷惑はかけない」


「……そんなこと気にしなくていいのに」


 なずなは少し悲しそうな顔になる。


「そんな訳にはいかない。お兄ちゃんだからな」


「……がんばってくださいね」


「……うん」


 それから2人は黙々と朝ご飯を食べた。










 学校に行くには電車に乗らなければならない。家を出た後、駅に向かった。
 ホームで電車を待っていると、


「ねぇ、あの人……」


 そんな声が聞こえてくる。


「もしかして、あの事件の人じゃ……」


「怖いな……。どっか消えてくれたらいいのに……」


 こそこそとこちらを白い目で見ながら話しているのが聞こえる。みんな怯えて近くには近づこうとしない。
 そんな中僕の方に近づいてくる人影があった。


「ねぇアンタ。アンタあの事件を起こしたやつよね?」


「………」


「目障りだからとっとと消えて欲しいんだけど」


「………」


 俯いて電車が来るのを待った。










 怪奇な目に晒され、電車に乗って揺られること30分、学校の門の前に立っていた。
 希望ヶ丘高等学校。それがこれから入学する学校の名前だ。この学校を選んだ理由は家から遠かったから。出来るだけ知っている人がいないところに行きたかった。
 教室に入り自分の席に座る。


「なぁなぁ、俺は山中哲也やまなかてつや。よろしくな」


 突然後ろの席から声をかけられる。


「僕は天羽優真あもうゆうま。よろしく」


 一応返事をしておいた。妹に迷惑をかけないためには人間関係を円滑にしておかないといけない。ここで反発をかうようなことをするわけにはいかない。


「優真って呼んでいいか?」


「いいぞ。僕も哲也って呼ばせてもらっていいか?」


「おう、もちろんいいぜ」


 哲也は快く承諾してくれた。


「哲也はイケメンだな」


 とりあえず褒めておく。


「お?言ってくれんじゃん。嬉しいねぇ。でも優真の方がイケメンだと思うけどな」


「顔だけな。中身は大したことないさ」


「自覚ありかよ」


 呆れたような顔で見られる。


「まぁ、これからよろしくな」


 哲也が手を差し出してくる。


「なんだ、ジャンケンか?」


「違うって!握手だよ、握手!」


「あぁ、そうか。ジャンケンでパー出したのかと思った」


 優真は手を差し伸べてその手を握りしめた。















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