平穏を求める実力者

月田優魔

屋上

 朝の休み時間、オレは前からずっと目を付けていた屋上へと向かった。
 ドアを開けると眩しいまでの青空が広がっている。
 オレは給水塔の陰に腰掛ける。
 涼しい風が肌にあたり心地よかった。


「今日も平和だなぁ」


 オレは青空を眺めながら呟いた。
 昔と比べると考えられない程今のオレの心は落ち着いていた。
 まるでこの雲一つない青空のようだ。
 そこにガチャっとドアの開閉の音が聞こえる。
 どうやら誰かが屋上に来たようだ。
 思わず息を潜めて気配を殺す。
 見つかったら気まずくなりそうだ。


(一人でいたかったんだけどな)


 そーっと給水塔の陰から身を乗り出し様子を見る。
 すると女の子が、屋上から落ちないように設置されている柵に手をかけて遠くを眺めていた。
 オレはその女の子に見覚えがあった。


(あいつは確か………同じクラスの丸尾さん)


 何故だかその女の子の名前は覚えていた。
 どこか不思議な雰囲気の女の子だったからよく覚えている。
 丸尾さんは柵から下を眺めている。
 ここは3階建ての校舎の屋上。相当な高さだろう。
 しかし、丸尾さんの瞳には恐怖がない。それどころか、その瞳には何の像も写していないようだった。
 地面よりも遥か遠くにピントが合っていて、なにを見ているのか分からない。
 もしくは………何も見たくないのかもしれない。
 虚ろは瞳は何の生気も感じられなかった。


 ーーーオレは理解する。こいつは自殺したがっている。


 死ぬことは悪いことではない。人はいずれ死ぬ。それが、早いか遅いかの違いでしかない。
 しかし、自ら命を絶つとなれば話は別だ。
 オレは自殺に向かうプロセスを知っている。
 それは突発的なものではない。ロウソクの灯がゆっくり消えていくように自分の心の寿命が尽きていく。
 そして、空虚な心に耐えられず死へと向かっていく。
 この女もその一人なのだろう。
 屋上の柵に足をかけて身を乗り出そうとしている。


「………なぁ」


 オレは彼女に声をかけた。





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