平穏を求める実力者

月田優魔

密告

 授業が始まるまでの朝の休み時間、オレ達はグループで話をしていた。


「犯人候補も絞り込めたし、佐竹さんには悪いけど密告するのはどうだろう」


 天羽がみんなに呼びかける。


「そうね。犯人が分かったのだから、密告しましょう」


 川瀬も同意見のようだ。


「でも密告するのは一人でいいんじゃないか?もし外してたら賞金減ってしまうし」


「馬鹿言ってんじゃねぇよ月田。犯人が分かったんだから密告すべきだろ!」


 オレの意見は中島に否定されてしまう。
 佐竹が犯人の可能性が極めて高いと皆が知った以上そうなるのは当然か。
 犯人を当てれば10万円プラスで30万円もらえるのだから。


「じゃあ、密告したい人だけするというのでどうだろう?」


 天羽がオレの意見を汲んでくれて間の案を出してくれた。
 中島が少し考えて、仕方ねぇな、と納得してくれる。


「わかったよ。でも俺は密告するからな」


「俺もするぜ。これで賞金アップは確実だ」


「そうね、私もさせてもらうわ」


「俺も悪いけどさせてもらうよ」


 中島、藤原、川瀬、天羽は密告することを表明する。
 オレ以外は全員するようだ。


 程なくしてチャイムが鳴り、皆が席に座り授業を受ける。
 オレは外の景色を眺めていた。
 すると、校庭の端から煙が上がっている。
 他の人も気づき始めたようで協力がざわつき始める。


「生徒の皆さんは自習していてくださいっ!」


 先生も確認すると、慌てて教室から飛び出していった。


「なんだろうあれ?」


 後ろの席で翔太がオレに訊いてくる。


「火事なんじゃないか?しかも煙の大きさからして結構大きな火事だぞ」


 オレの席からでは火元は見えないが煙から大体の様子はわかる。数人が窓から顔を出して火元を見ている。
 オレ達はそのまま席に座っていた。




 授業が終わり、昼休みになる。教室のいる榎本先生の元に近づき川瀬が話しかける。


「先生、今日密告したんですけど、結果はいつわかるんですか?」


「結果はもう出ているが教えることはできない。ゲーム終了後に賞金がカードに振り込まれるので、その金額から生徒は結果を知ることができる。なお、賞金の内訳などは説明しないため、各々推測し結果を受け止めるように。今回のゲームは犯人役の賞金だけ公開されるようになっている」


 オレはその会話を耳を傾けて聞いていた。
 ゲームが終了しないと結果を知ることはできないということか。
 今回の密告が合っているかも、賞金を見て判断するということ。
 全ては終わってからのお楽しみにということだ。


「賞金が振り込まれるのが楽しみだぜ」


「そうだね。どんな結果になったのか早く知りたいよ」


 オレは加わっていなかったが、グループが集まって会話しているのが聞こえる。


「犯人が当たっていればの話だけれどね」


 川瀬は相変わらず周りのテンションを下げている。


「ふ、不安になること言わないでくれよ川瀬ちゃん」


 藤原が少しおどけている。


「きっと大丈夫だよ」


「あ、天羽がそう言うならきっと大丈夫だよな?」


「どうかしら。結果なんて誰にも分かっていないはずよ。それと藤原くん、次その呼び方したら殺すわよ」


 川瀬ちゃん、と呼ばれたことが気に入らなかったようで、鋭い目つきで藤原を睨みつける。


「ーーーはい」


 大人しく返事だけする藤原。
 川瀬は人付き合いが苦手というか、嫌いなようで思っていることをズバズバ言う。こいつと付き合うのは大変そうだ。
 オレは川瀬に入学初日に目をつけられたことを呪った。



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