平穏を求める実力者

月田優魔

賞金変動イベント

 オレ達は午後の授業を受けていた。しかし、授業中にこっそりと携帯をさわっている生徒も少なくない。
 特別ゲームが始まってから、格段と多くなっている気がする。


「まぁ、授業どころじゃいられないわな…」


 オレは小声でボソッと呟く。
 携帯をさわっている人は、遊んでいるのではなく、連絡を取り合っているようだ。
 オレと川瀬みたいに、協力者でも集めているのだろうか…


 授業終了のチャイムが鳴り響き、放課後になる。
 途端に、いろんなグループに分かれて話し合いが始まる。


「ねぇ、犯人が誰か分かった?」


 川瀬がいきなり近づいてきて、そんな無茶を言い出す。


「机に座って授業受けてただけなのに、わかるわけないだろ」


「それもそうね」


 なんか呆れた風な口調でそう言われる。
 いやいや、それは過度な期待をしすぎだから……。


「なぁ、もうちょっと協力者を増やさないか?」


 オレは授業中の様子をみて思ったことを口にする。いろんなグループができているなら、そこにオレ達も混ざったほうがいい。


「嫌ね」


 即否定される。


「なんでだよ、お前が言った通りならグループを大きくした方がいいだろ」


「理屈の問題じゃなくて、気持ち的に嫌なの」


 どゆこと?


「私は人と関わるのが嫌いなの。あなたと協力したのも苦肉の策よ」


 クラスメイトに興味がないって言ってたのはそういうことか。


「じゃあ、なんでオレなら良かったんだ」


「勘違いしないでもらえるかしら。あなたが一番マシだっただけよ。あなた大人しいし、勇気なさそうだし、人畜無害そうだし……」


 えらい言われようだな。川瀬から見たらそんな風にオレは映ってるのか……。


「大人しいし、人畜無害なのは認めるが、勇気がないとは失敬だな。この前不良に絡まれてた女の子を助けたんだぞ」


「嘘ね」


 いや、マジだから……
 だが今は、こんな話をしてても仕方ない。


「話を元に戻そう。グループを大きくすることに反対してるが、協力者を増やすことのメリットはお前も分かってるだろ?」


「……………誰を入れるの………?」


 長考の末、考え直してくれたようだ。


「天羽なんてどうだ?クラスのリーダーっぽいところがあるから、あいつと組んでおけば情報が得やすいかも」


「………そうね、組むとしたら天羽くんが一番いいと私も思うわ。じゃあコンタクトよろしくね」


 オレに全て押し付けられる。


「………わかったよ」


 渋々その役目を引き受ける。
 オレも話しかけるのは苦手なんだが。


「犯人が誰か分かった?中島くん」


「知るかよ天羽。お前が俺とチームを組んだら犯人が探しやすいって言ったんじゃねぇか」


「ねぇ、ちょっといいか?」


 二人で話しているところに割り込む。


「君は確か月田くん…だよね。俺に何か用?」


「オレもチームに入れてくれないか?」


 オレは勇気を振り絞って話しかける。


「もちろんいいよ。仲間は一人でも多いほうがいいし」


 天羽は快く承諾してくれた。


「いいのかよ?コイツが犯人かも知れねぇのに」


「だとしても、手を組んでおいた方がいいんだよ」


 中島は訳が分からなそうな顔をしている。
 天羽、こいつも頭がいいみたいだ。犯人であっても仲間にした方がいいと分かっている。


「オレともう一人仲間に入れて欲しいやつがいるんだ。おい、仲間に入っていいってよ」


 オレは川瀬に声をかける。するとゆっくり近づいてきた。


「私の指示通り、良くやったわ」


 上から目線でオレに賛辞を送る。


「自分で話しかけられなかったくせに……ごぶっ!!」


 ボソッと呟くとわき腹に手刀が食い込む。


「痛って!何すんだよ」


「つまらないことを言ってるからよ」


 いやいや、事実だろ。


「この人が言った通り、協力関係を組みたいの。いいかしら?」


 オレのことは無視し、天羽に話しかける。


「もちろんいいよ。俺のチームは俺を合わせて三人。
 俺は天羽正人あもうまさひと


 自己紹介してきたのでこちらもそれに応える。


「オレは月田優希。よろしく」


「俺は中島健人なかじまけんと。犯人の野郎を見つけるまでよろしくたのむぜ」


「俺は藤原千斗ふじわらせんと。まぁ、せっかく組むんだし、仲良くしような」


 順番的に次の自己紹介は川瀬なのだが、黙ったまま話し出さない。


「………おい」


 オレは視線を向けて声をかける。


「………川瀬沙里奈かわせさりなよ」


 すごく短く自己紹介した。


「それじゃあ、俺たちで頑張って犯人を見つけ出そう」


 天羽がそう言った直後、全員の携帯が鳴る。


『賞金変動イベント』
 クラスに置いてある大きなスイッチをを押すと犯人の賞金が5万円増える。何回押しても有効なのは最初の一回のみ。


「大きなスイッチってなんだ?」


 藤原が画面を見ながら呟く。当然そこに疑問がいくだろう。


「あれのことじゃないかな」


 天羽が指差すのは教室の後ろ側。そこにティッシュ箱ぐらいの大きさの箱があり、上にスイッチが付いている。


「犯人ばかり賞金増えてずりぃよな。俺たち探偵にも賞金増えるイベント来いっての」


 中島が愚痴をこぼす。


「確かに犯人は賞金が増えるけど、でもリスクがあるよ。押しているところを見られたら犯人だとバレるんだから」


「なるほど、そこを見つければ犯人がわかるかも!」


 藤原がテンションをあげる。


「でも、そう簡単に押すかしら」


 川瀬の言葉に藤原のテンションがだだ下がる。


「そうだね、普通みんなが教室にいるときは押さない。だけど、明日の朝一番に来た人なら押すかもしれない。その人が犯人かも」


「確かに、朝一番に来て誰も見てない時なら押せるわね。つまり、明日の朝早くに来て見張ってれば犯人がわかるかもしれない」


 天羽と川瀬が推理する。確かにその方法なら犯人が分かるかもしれないな。


「決まりだな。俺たちで犯人の野郎を見つけ出してやろうぜ!」


 オレ達は明日の朝6時に集合することを決めた。



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