平穏を求める実力者

月田優魔

下校

 宮崎を待たせている正門に着く。


「すまん、待たせてしまったな」


「いいよ、さぁ帰ろう」


 オレ達は並んで歩き出した。


「先生とどんな話をしてたの?」


 気になっていたようで開口早々尋ねられる。
 だが、オレの事情を誰かに話すつもりはない。


「入学書類のことで不備があったようで、少し先生と話してただけだよ」


 オレは適当に流して答えておいた。
 宮崎は納得してくれたようでそれ以上聞いてくることはなかった。


「宮崎はどうしてこの学校を選んだの?」


 会話を続けるためにそれとなく話題を振ってみる。


「この学校はワケありの生徒も受け入れてくれるからね」


 なるほど、こいつもワケありか。オレと同じような理由でこの学校を選んだんだな。


「月田くんはどうしてこの学校を選んだの?」


「オレはこの学校が一番近かったんだ。それでだよ」


 これも適当に流しておく。
 だが、このままうわべだけの会話を続けても仲が深まるとは思えない。
 オレは友達としての第一歩として名前の呼び方から変えることにした。


「なぁ、突然だけど翔太って呼んでもいいかな?もちろんオレのことは優希でいいから」


「ほんと突然だね。いいよ、じゃあ…優希、改めてこれからよろしく」


「よろしくな」


 オレ達は名前で呼び合うことにした。
 少しずつだが仲を深めていこう。
 そう思いながら歩いていると、道の片隅ある公園が目についた。
 見ると、オレと同じ学校の制服の女の子が男たち数人に囲まれている。


「なんだろうアレ。友達って雰囲気じゃないよね?」


 気になったようで翔太がオレに尋ねる。


「そうだな、きっと良くないことだろう。翔太はここで待っててくれるか?あの子を助けてくる」


「えっ!?やめといた方がいいよ!返り討ちにあうだけだよ!」


 翔太は驚き、やめた方がいいとオレを説得する。


「正面からやりあうつもりはないさ」


 オレはその説得を無視し、空き地のほうへ歩き出す。


「や、やめてください」


「いいじゃん、ちょっとぐらいさぁ」


 逃げようとする女の子の腕を男が掴んでいる。


「や、やめて…離して………誰か助けてっ!」


「無駄無駄、こんなとこに誰もこなーーーーー」


「ちょっとやめてもらってもいいか」


 男たちが全員オレのほうを向く。
 オレの手には携帯が握られている。


「なんだ、おまえ?」


「ここに警察を呼んだ。逃げるなら今のうちだぞ」


 もちろんハッタリだが、携帯を握っていることで真実味をもたせる。


「ちっ!いくぞおまえら」


 男は女の子から手を離すと、全員走って逃げて行った。
 へたんっと壁際に座り込む女の子。
 オレはそばにより手を差し伸べる。


「大丈夫?どこか怪我はない?」


 女の子はオレのほうを見ると、手を掴んだ。


「あ、ありがとうございます」


 掴んだその手は震えていた。
 よく見ると身体も震わせていて、腰が抜けて立てないようだった。
 オレは女の子の横に腰を下ろし座った。
 手はまだ掴んだままだ。


「オレは月田優希。君の名前は?」


「さ、佐竹美春さたけみはる…です」


 声もまだ震えていて、佐竹は精一杯自己紹介してくれた。
 オレは話しかけるのやめると、そのまま黙って座っていた。
 人がそばにいると安心できるだろう。
 ときどき佐竹がオレのほうを向くが、気にしなかった。
 オレは震えが止まるまで待つ。


「………ありがとうございます。もう大丈夫です」


 佐竹はオレの手をはなすと一人で立ち上がる。


「そっか、ならとりあえずここから移動しようか」


 オレも立ち上がり空き地からでる。
 佐竹もオレの後ろをついてきている。


「優希!大丈夫だった?どこも怪我してない?」


 翔太が近づいてきて心配のあまりオレの身体をさわる。


「喧嘩をしたわけじゃないから大丈夫だ」


「あの………」


 翔太が身体をさわっている時、佐竹が声をかけてきた。


「さっきは本当にありがとうございました!それではっ」


 そう言うと、佐竹は走って逃げてしまう。
 オレ達は後ろ姿を見守るしかなかった。







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