平穏を求める実力者

月田優魔

虐め

「なぁ翔太、部活を見て回らないか?」


 放課後になり、帰り仕度をしている翔太にオレは声をかけた。


「いいけど、優希は部活入るの?」


 正直なところ興味がある。部活とやらがどんなものなのか見てみたい。
 それに、これを機に友達ができるかもしれないしな。


「入るかどうかはわからないけど見てみたいんだ」


「わかった、付き合うよ」


 オレ達は教室を出て、部活棟へ向かった。












 部活棟には屋内系の部活が集中している。屋内系の部活はたくさんあって、茶道部や文芸部、ゲーム部なんてのもある。
 オレ達は部活を一通り見終わった。


「入りたい部活あった?」


「どうだろう。ピンとくるのは無かったな」


 色んな部活を見たが、どれも入りたいとまではいかなかった。部活に自分の時間を費やすほどの価値を見出せない。
 もう帰ろうとオレは踵を返す。
 ピロロロロン、とオレの携帯が鳴り響く。
 ポケットから携帯を取り出し画面を見ると、佐竹からの電話だった。
 翔太と交換した後に佐竹とも交換しておいたのだ。


「もしもし」


 オレは普通に電話にでる。
 しかし、佐竹の声は返ってこない。


「……………ん?もしもし?」


 もう一度声をかけてみる。返事は返ってこなかったが、電話の遠くから小さな音が聞こえる。鼻をすするような音だ。佐竹の声だろうか。


「ーーーーーぅぅ、ぐすんっ、月……田さん……………助けてぇぇっ…………」


 消え入りそうな震えた声が聞こえてくる。


「どうしたんだ佐竹、今どこにいる?」


 何かあったことを感じとり、オレはすぐに居場所を訊く。


「…………特別棟……すぐ来てぇっ……」


 すぐに電話を切るオレ。


「悪い翔太、急用ができたからオレ帰るわ」


「ちょ、ちょっと優希!?」


 オレは急いで特別棟に向かった。










 特別棟には工作室、美術室や音楽室、パソコン室などあまり普段使わない教室がある。
 そのため、人通りのが少なくあまり人は立ち寄らない。
 オレは特別棟の中を走り回り、うずくまっている佐竹を見つける。佐竹のそばには樟葉の姿もある。


「どうした佐竹、無事か?」


 うずくまる佐竹にかけ寄り声をかける。
 顔を上げてオレを姿を見つけた佐竹は力が抜けたのかオレの方に身を寄せ身体を震わせた。


「樟葉、なにがあったんだ?」


 佐竹は話ができなさそうだったので、事情を知っていそうな樟葉に訊いてみた。


「私たち特別棟に用事があってここに来て、私がトイレに行って帰ってきたら美春が五人ぐらいの男に蹴られてて………私が近づいたら逃げていったの」


 虐められたというわけか。
 見たところ佐竹の身体に傷はない。外見からは分かりづらい腹や肩などを蹴られていたようだ。
 しかしどういうわけだ?なぜ佐竹ばかりこう何度も狙われる?


「そいつらどんな奴だった?」


 虐めた奴らを見たであろう樟葉に尋ねる。


「わからない、マスクしてたから。服装からこの学校の男子だと思うけど、それ以外は……」


 手がかりなしか。顔を見ていたら、そいつらを問いただしたら理由がわかりそうだが、見てないんじゃどうしようもない。公園で絡まれてた時は服装が制服じゃなかったし、顔だけで探すとなると望みは薄い。


 オレは胸元で身体を震わせている佐竹に目をやった。今は犯人のことより、佐竹の身を案じてやろう。


「大丈夫か佐竹?」


「……………ごめん…なさい。まだ……」


 佐竹の身体はまだ震えていた。


「焦らなくていい。ゆっくりでいいから」


 そう言うとオレは佐竹の背中をさすった。こうすれば、少しは落ち着いてくるだろう。
 しばらくすると、震えもおさまり涙も流れていなかった。


「もう大丈夫か?」


「………うん」


 大丈夫そうで、オレの胸元から離れ一人で立ち上がる。
 オレは気になっていたことを佐竹に訊いた。


「樟葉がいたのに、どうしてオレに助けを求めたんだ?」


 樟葉がいてくれていれば大丈夫そうだが……。


「………その……月田さんがいてくれたら、安心できるから……」


 佐竹は少し恥ずかしそうに答えた。助けてもらった相手に依存しているということだろう。依存することは別に悪いことじゃない。
 オレはその気持ちを素直に受け取っておくことにした。


「ありがとう、頼ってくれて」


 オレは笑顔でそう答える。
 さてと、オレは気持ちを沈めて冷静に考える。
 何度も佐竹が狙われるのには理由があるはずだ。
 オレは犯人探し出すことを決意する。

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