元魔王の人間無双

月田優魔

15歳になる

 オレは森の中で狩りをしていた。
 相手は熊、今晩の夕食だ。
 オレは熊の攻撃を魔力による身体強化で素早くよけると、懐に潜り込み、腹部に拳を叩き込むと同時に魔力を撃ち込んだ。
 熊が膝から崩れ落ち、倒れ込んだ。
 魔力を撃ち込んだ衝撃で、気絶させる。
 最小の力で素早く敵を片付ける。
 オレは熊を引っ張り家に向かう。






「おお、帰ったかガゼル。今日も大漁だな」


「ただいま父さん、今日の夕飯は熊肉だね」


 あれから10年がが経ち、ガゼルは15歳になった。
 10年前の可愛い姿はどこへやら、凛々しくたくましい体つきになっていた。
 それもそのはず、この10年間は鍛練と狩りの日々を過ごしていた。
 午前中は剣術の鍛練や魔導具の研究に明け暮れ、午後からは森に入り食材探しや熊やオオカミの狩りをしていた。
 いよいよ明日から入学のために王都に向かう。
 母さんは寂しいのか目をうるうるさせていた。


「気をつけるのよゼルちゃん、本当に気をつけてね」


「うん、頑張ってくるよ母さん」


 今晩は、家族で食べる最後の夕食。
 お祝いのためいつもより少し豪勢だった。
 オレは食事を食べて明日に備えて早めに眠ることにした。






「ゼルちゃん、気をつけてね、頑張ってくるのよー」


「ガゼル、頑張って立派な魔法騎士になれよー」


 翌朝、親バカな両親に恥ずかしいほど派手に送られ、オレは家を出た。
 歩きながらこれまでの人間としての日々を思い返す。
 両親は魔法にあまり詳しくなかったので、とやかく言われることはなかったが、オレの魔法騎士になるための鍛練や研究を温かく見守ってくれた。


(まぁ、普通の人間として生きるのも悪くなかったな…)


 オレはそんな風に思いながら、森の中を歩いていた。
 家から出たオレは、近くにあるチベット村を目指していた。
 オレの家は村から遠く離れた森の中に佇む一軒家だった。
 まずは、近くの村へ行き、馬車に乗り王都を目指す。


 森を歩いていると突然、オオカミの群れが現れた。
 森ではよく見かけるブラックウルフの危険種だ。
 5匹ほどでオレを取り囲み襲いかかってくる。
 森での狩りでよく見慣れた光景だ。
 オレは慌てず剣を鞘から引き抜くと、臨戦態勢に入る。
 オオカミの攻撃をかいくぐりながら、周りに目を凝らす。


(………あいつだ!)


 オオカミの群れは階級社会、必ずボスが存在している。
 こいつらも群れである以上、ボスが存在するはずだ。
 オレは1匹だけ攻撃せず、様子をうかがっている奴を見つけると、そいつに向かって駆け出した。
 一瞬で距離を詰めると、魔力を流し込んだ剣で一刀両断する。
 ボスを失った群れは戦意を失い、散り散りちりぢりになって逃げていった。


「ま、こんなところか」


 普段なら多く狩るためにそんな回りくどい戦い方はしないが、今回は狩りでもなんでもないただの戦い。
 無駄な殺しはできるだけ避けたかったので、最も効率の良い戦い方をしたのだ。


 改めて自分が強いことを自覚して自信をつけたガゼルは、チベット村へと歩き出した。













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