魔法学院の闇の復讐譚
模擬戦
ガゼルとオリビアは生徒会室へとやってきた。校内で許可なく戦うことは禁止されている。そのため、特別演習室の許可を得るために生徒会長の元へと出向いていた。
扉をノックする。
「入れ」
男の人の声が中から響いてきてガゼルたちは扉を開け室内へと足を踏み入れる。部屋の中央にはテーブルがあり、それを挟み込むようにして二つのソファが置かれている。そして扉の向かい側の奥に生徒会長の座ると思われる椅子と机が置かれている。
室内に人は2人。生徒会長の椅子に座っているのが1人とその傍に立っている女の人が1人。
「俺は生徒会長のキース・グランハルトだ」
凄まじい圧を纏い硬質な顔つきをしている。
「それで新入生がこの俺に何の用だ?」
「特別演習室をお借りしたいんです」
オリビアが答える。普通の生徒だったら気圧されそうな雰囲気を放つ生徒会長だが、オリビアは強気な性格だけあってなんとか毅然に振る舞っていた。
「ほぉ。その理由は?」
「模擬戦をしたいからです」
今度はガゼルが答える。
「勝負にならないのではありませんか?」
今まで黙っていたキースの横にいる女がそう言った。
「そう思うか?レイラ」
「はい。新入生の入学試験の成績は把握しております。ガゼル・レイヴァルドは実技試験、筆記試験共にそれほど良くない成績です。それに比べてオリビア・ハーマニーは学年首席、勝負になりません」
「と、言っているが?」
キースがガゼルへと視線を向け、何故勝負を受けたのかと瞳で問いかけてくる。
「断れなかったので仕方ありません。それに勝負はやってみないと分かりません」
「言うわね。あなたの実力見せてもらうわ」
オリビアが鋭い視線を向けてくる。
「言われなくても白黒つけるさ」
「……いいだろう。特別演習室の使用を許可してやる」
「ありがとうございます。失礼します」
ガゼルは礼を言うとオリビアと一緒に生徒会室を後にした。
ガゼルとオリビアが去った後の生徒会室。
「レイラ、お前はどう思う?」
キースがレイラに訊ねる。
「先ほども言った通り勝負にならないと思います。どうやらオリビアさんから戦いを申し込んだようですが理由が分かりません。ガゼルくんに挑む理由は何もないと思います。それに、仕方なく受けたと言うガゼルくんの強気な態度も不可解です。とても勝てるとは思えません」
「……そうだな」
キースは瞼を閉じ何やら考え込む。彼もガゼルの行動には不可解な点が多いと感じていた。
「………少し気になるな。勝てる自信があるのか、それとも愚かなだけなのか、それとも…………。レイラ、ここは任せるぞ」
キースはガゼルたちの後を追うべく生徒会室を後にした。
ガゼルとオリビアが特別演習室にやってくると先に来ている人影があった。
「待ってたよ」
担任のミレイ先生だ。
「何で先生がここに?」
オリビアが訊ねる。
「模擬戦の審判をするためだよ。2人とも戦いたいみたいだからね」
「オレは戦いたくないんですけどね」
戦いたがりだと思われては困るので念を押しておく。
「だったらどうして模擬戦を受けたの?」
「仕方なくです」
「ちょっと、私を悪者にしないでもらえるかしら」
横からオリビアが割り込んでくる。
「分かってる。やるからには全力を出して白黒つけるさ」
「いい覚悟ね。望むところよ」
「それじゃあ2人とも位置について」
ガゼルとオリビアが距離をあけて向かい合う。
「それでは自分の剣に不殺の魔法をかけてください」
不殺の魔法とは、剣にかけることで斬っても切れないようになる魔法である。剣を魔力でコーティングすることで斬れなくなる。
「試合は負けを認めるか審判が続行不能と判断した場合に決します。それではーーー」
お互いが剣を構え腰を落とす。
「ーーー始め!」
まずは先手必勝、ガゼルから仕掛ける。
《移動魔法》で一気に距離を詰めて剣で斬りかかる。
オリビアはガゼルの出かたを伺っていた。
落ち着いた様子で迎え撃つ。
ギンッと甲高い音が鳴り響く。
剣の太刀筋や足運びからもかなりの腕であることが分かる。
ギリギリとお互いの刀身が攻めぎ合う。
「やるなオリビア」
「こんなの朝飯前よ」
挑発も軽く流される。
腕力は男であるガゼルの方が上のようで徐々に押し始める。
すると突然剣にかかる力が緩みガゼルは体勢を崩した。
オリビアが剣を自分の方に引きガゼルの体勢を崩したのだ。
重心がずれたガゼルにオリビアは剣を押し込んでくる。
ガゼルは後ろに弾き飛ばされ大きく距離を空ける。
「まさか力で負けるとはな」
「正確に言えば力ではなく技術よ」
現代の魔法戦において重要な役割を持つ剣や肉体での戦闘だが、昔はそうではなかった。魔法こそが至高の力だと思われていた時代では、魔法の応酬ばかりが繰り広げられていた。しかし、徐々に肉体や武器による戦闘が始まっていったのには、名を馳せた魔法使いたちが一切対抗できずに殺される事件が増え始めたからである。理由は間合いを見極め損ねたこと。どれだけ強い魔法使いでも基本はただの人間、転べば怪我をするし病気にもなる。魔法を発動する前に至近距離から斬り伏せられてはたまらない。
「魔法だけじゃないってことか」
剣術も鍛練していることがよくわかった。
「今度はその魔法で勝負よ」
オリビアが剣を横に一閃し、魔法陣を展開し魔法を発動する。
《火魔法》火弾。
火の玉が複数ガゼルの方飛んでくる。
ガゼルは内心少し驚いていた。
火の玉にではなく魔法そのものの発動速度に。
この学校での魔法の評価は、魔法を発動する速度、魔法の規模、魔法の強度で決まる。
オリビアの魔法は凄まじい速度を叩き出していた。
火の玉がガゼルを襲う。
ガゼルは剣で火の玉を薙ぎ払う。
今度はこちらの番、魔法を発動する。
《雷魔法》電撃。魔法陣を展開する。
しかし、魔法が発動するまで1秒近くかかってしまう。
発動したときにはすでにオリビアはそこにはいなかった。
背後で足音が聞こえる。
突然、後頭部に衝撃が走った。
「ーーーッ!?」
ガゼルは揺らぐ視界に襲われながら片膝をつく。
後ろを振り向くとオリビアが見下ろすように立っていた。
剣を頭に叩きつけられたようで意識が混濁している。
いくら剣を切れないようにしても殴られれば衝撃が走る。
鈍器で殴られるようなものだ。
「勝者、オリビア・ハーマニー」
審判の合図で勝敗は決した。
「期待してたけどこの程度だったのね。二度と私に話しかけないで」
そう吐き捨てオリビアは足早に部屋を出ていった。
「大丈夫?立てる?」
「はい」
ミレイ先生の肩を借りて壁にもたれかかりダメージを癒す。
「面白い」
キースがガゼルを面白そうに眺めていた。
扉をノックする。
「入れ」
男の人の声が中から響いてきてガゼルたちは扉を開け室内へと足を踏み入れる。部屋の中央にはテーブルがあり、それを挟み込むようにして二つのソファが置かれている。そして扉の向かい側の奥に生徒会長の座ると思われる椅子と机が置かれている。
室内に人は2人。生徒会長の椅子に座っているのが1人とその傍に立っている女の人が1人。
「俺は生徒会長のキース・グランハルトだ」
凄まじい圧を纏い硬質な顔つきをしている。
「それで新入生がこの俺に何の用だ?」
「特別演習室をお借りしたいんです」
オリビアが答える。普通の生徒だったら気圧されそうな雰囲気を放つ生徒会長だが、オリビアは強気な性格だけあってなんとか毅然に振る舞っていた。
「ほぉ。その理由は?」
「模擬戦をしたいからです」
今度はガゼルが答える。
「勝負にならないのではありませんか?」
今まで黙っていたキースの横にいる女がそう言った。
「そう思うか?レイラ」
「はい。新入生の入学試験の成績は把握しております。ガゼル・レイヴァルドは実技試験、筆記試験共にそれほど良くない成績です。それに比べてオリビア・ハーマニーは学年首席、勝負になりません」
「と、言っているが?」
キースがガゼルへと視線を向け、何故勝負を受けたのかと瞳で問いかけてくる。
「断れなかったので仕方ありません。それに勝負はやってみないと分かりません」
「言うわね。あなたの実力見せてもらうわ」
オリビアが鋭い視線を向けてくる。
「言われなくても白黒つけるさ」
「……いいだろう。特別演習室の使用を許可してやる」
「ありがとうございます。失礼します」
ガゼルは礼を言うとオリビアと一緒に生徒会室を後にした。
ガゼルとオリビアが去った後の生徒会室。
「レイラ、お前はどう思う?」
キースがレイラに訊ねる。
「先ほども言った通り勝負にならないと思います。どうやらオリビアさんから戦いを申し込んだようですが理由が分かりません。ガゼルくんに挑む理由は何もないと思います。それに、仕方なく受けたと言うガゼルくんの強気な態度も不可解です。とても勝てるとは思えません」
「……そうだな」
キースは瞼を閉じ何やら考え込む。彼もガゼルの行動には不可解な点が多いと感じていた。
「………少し気になるな。勝てる自信があるのか、それとも愚かなだけなのか、それとも…………。レイラ、ここは任せるぞ」
キースはガゼルたちの後を追うべく生徒会室を後にした。
ガゼルとオリビアが特別演習室にやってくると先に来ている人影があった。
「待ってたよ」
担任のミレイ先生だ。
「何で先生がここに?」
オリビアが訊ねる。
「模擬戦の審判をするためだよ。2人とも戦いたいみたいだからね」
「オレは戦いたくないんですけどね」
戦いたがりだと思われては困るので念を押しておく。
「だったらどうして模擬戦を受けたの?」
「仕方なくです」
「ちょっと、私を悪者にしないでもらえるかしら」
横からオリビアが割り込んでくる。
「分かってる。やるからには全力を出して白黒つけるさ」
「いい覚悟ね。望むところよ」
「それじゃあ2人とも位置について」
ガゼルとオリビアが距離をあけて向かい合う。
「それでは自分の剣に不殺の魔法をかけてください」
不殺の魔法とは、剣にかけることで斬っても切れないようになる魔法である。剣を魔力でコーティングすることで斬れなくなる。
「試合は負けを認めるか審判が続行不能と判断した場合に決します。それではーーー」
お互いが剣を構え腰を落とす。
「ーーー始め!」
まずは先手必勝、ガゼルから仕掛ける。
《移動魔法》で一気に距離を詰めて剣で斬りかかる。
オリビアはガゼルの出かたを伺っていた。
落ち着いた様子で迎え撃つ。
ギンッと甲高い音が鳴り響く。
剣の太刀筋や足運びからもかなりの腕であることが分かる。
ギリギリとお互いの刀身が攻めぎ合う。
「やるなオリビア」
「こんなの朝飯前よ」
挑発も軽く流される。
腕力は男であるガゼルの方が上のようで徐々に押し始める。
すると突然剣にかかる力が緩みガゼルは体勢を崩した。
オリビアが剣を自分の方に引きガゼルの体勢を崩したのだ。
重心がずれたガゼルにオリビアは剣を押し込んでくる。
ガゼルは後ろに弾き飛ばされ大きく距離を空ける。
「まさか力で負けるとはな」
「正確に言えば力ではなく技術よ」
現代の魔法戦において重要な役割を持つ剣や肉体での戦闘だが、昔はそうではなかった。魔法こそが至高の力だと思われていた時代では、魔法の応酬ばかりが繰り広げられていた。しかし、徐々に肉体や武器による戦闘が始まっていったのには、名を馳せた魔法使いたちが一切対抗できずに殺される事件が増え始めたからである。理由は間合いを見極め損ねたこと。どれだけ強い魔法使いでも基本はただの人間、転べば怪我をするし病気にもなる。魔法を発動する前に至近距離から斬り伏せられてはたまらない。
「魔法だけじゃないってことか」
剣術も鍛練していることがよくわかった。
「今度はその魔法で勝負よ」
オリビアが剣を横に一閃し、魔法陣を展開し魔法を発動する。
《火魔法》火弾。
火の玉が複数ガゼルの方飛んでくる。
ガゼルは内心少し驚いていた。
火の玉にではなく魔法そのものの発動速度に。
この学校での魔法の評価は、魔法を発動する速度、魔法の規模、魔法の強度で決まる。
オリビアの魔法は凄まじい速度を叩き出していた。
火の玉がガゼルを襲う。
ガゼルは剣で火の玉を薙ぎ払う。
今度はこちらの番、魔法を発動する。
《雷魔法》電撃。魔法陣を展開する。
しかし、魔法が発動するまで1秒近くかかってしまう。
発動したときにはすでにオリビアはそこにはいなかった。
背後で足音が聞こえる。
突然、後頭部に衝撃が走った。
「ーーーッ!?」
ガゼルは揺らぐ視界に襲われながら片膝をつく。
後ろを振り向くとオリビアが見下ろすように立っていた。
剣を頭に叩きつけられたようで意識が混濁している。
いくら剣を切れないようにしても殴られれば衝撃が走る。
鈍器で殴られるようなものだ。
「勝者、オリビア・ハーマニー」
審判の合図で勝敗は決した。
「期待してたけどこの程度だったのね。二度と私に話しかけないで」
そう吐き捨てオリビアは足早に部屋を出ていった。
「大丈夫?立てる?」
「はい」
ミレイ先生の肩を借りて壁にもたれかかりダメージを癒す。
「面白い」
キースがガゼルを面白そうに眺めていた。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
755
-
-
310
-
-
3395
-
-
549
-
-
23252
-
-
39
-
-
32
-
-
89
-
-
238
コメント