ツイートピア

ナガハシ

ツイートピア1035~1055

(1035)
 ユウタ「おばさん、こんにちは!」 チカコ「あらユウタ君、こんにちは~」 ユウタ「ホウ兄ちゃんのお見舞いにきました! これ母さんから、皆で食べてください」 チカコ「あらありがとー。美味しそうなクッキーね。ホウなら部屋で寝てるわ。まだ熱が下がらないのよ」 


(1036)
 ユウタは以前、ツイッター協会の世話になっていた少年だ。彼は幼馴染の女の子が病死したことで深く傷つき、自分の殻に閉じこもってしまっていた。だが、ホウらの懸命な励ましとGPTLの恩恵により、少年は以前の快活さを取り戻したのだ。ユウタ「ホウ兄ちゃん、入るよ!」 ホウ「う、うーん……」


(1037)
 思っていた以上に調子が悪そうなホウを見て、ユウタは心配になった。ユウタ「だ、大丈夫?」 ホウ「う、うう……え、エイリアン……」 ユウタ「エイドリアン?」 ホウ「の、ノルコ……エイドリアン……」 ユウタ「ほえ??」 ユウタはバイオツイッター経由でチカコに質問した。 ユウタ「おばさん、大丈夫なの?」


(1038)
 チカコ「お医者さんは『ホットケ!』って言ってたわー。GPTLを見すぎるとそうなっちゃうのよ」 ユウタ「そ、そうなの?」 ユウタは改めてホウの顔をみた。半分寝てて、半分起きてる。顔が少し赤くて目が半開きだ。ホウ「ぼ、僕は……大丈夫だ、ユウタ……君。そ、それより……それを……」


(1039)
 ホウ「それを……ノルコ……に」 ホウが指差したのはGPTL装置だった。ユウタ「え、あれをノルコお姉ちゃんに? でもお姉ちゃんは今……」 ホウ「し、知ってる……でも時間がない……投票前に……早く……うごっ、うごごご」 そこまで言うとホウは、白目を向いて気絶してしまった。ユウタ「ホントに大丈夫なの?」


(1040)
 ユウタはそのまましばし、ホウの寝姿を眺めていた。以前、ここで暮らしていたときも、こんな感じになったホウ兄ちゃんを何度か見たことがある。あれの重症バージョンと思っておけばいいのだろうか? そう思いつつユウタは、部屋の隅に投げ捨てられてたGPTL装置を手に取った。ユウタ「あれ? 電源が入らないや」


(1041)
 ホウが勝手に見ないよう、チカコが電池を抜いてしまったのだ。単3電池が4本必要だが、近くで手に入るだろうか? ユウタはしばしGPTL装置を眺め、これが僕を救ってくれた装置なのだと思ってしみじみした。ユウタ「うんっ」 ユウタはGPTL装置をランドセルに入れると、ホウの部屋を抜け出した。


(1042)
 セイ氏による法案説明は30分ほどで終了した。彼が起稿した法案は、先々に起るかもしれない問題にも対応できるよう、綿密に練られたもので、もはや質問の余地もないくらい丁寧かつ簡潔な説明がされた。彼が事前に全議員を訪問したことで、殆どの議員がすでに十分な知見を得ていたのだった。


(1043)
 さんざん気を揉んだ割りに、あっさり終了してしまい、ノルコは拍子抜けしてしまった。さらにセイ氏が自分を訪問してきたのが、一番最後だったことを後で知って、少なからず腹が立っていた。ルイ「んー、まあでも、校長先生の椅子に座れたんだか良かったじゃんっ」 ノルコ(それでも、腑に落ちないぅ……)


(1044)
 ノルコはこのイライラ、憤りをルイに打ち明けたかった。いっそログオフして喋ってしまおうかとも思った。でもグッと胸の内に押さえ込んだ。いまはまだ、口を開く時ではないのだ。そうノルコの直感が告げている。ルイ「明日は本会議だな。応援してるからな!」


(1045)
 ノルコは家の前でルイと別れた。ルイは何度も振り返って、ノルコに手を振ってくれた。物心ついた時から一緒にいる、唯一無二のお友達。男勝りで、喧嘩っ早くて、けれども情に厚くて、仲間思いで。思ったことを率直に包み隠さず話してくれるルイの存在を、ノルコは改めてかけがえの無いものだと感じた。


(1046)
 ノルコは部屋に戻るとさっそくゲンお爺さんのPCを開いた。そして起動を待っている間に、セイさんが今朝作ったというハムエッグについて調べてみた。出来上がった現物を見ることは流石に無理だろうが、セイさんの家のコンロのログを調べれば、焼き加減くらいわかるはずだ。ノルコ(……恐ろしい世の中!)


(1047)
 朝6時30分。コンロに最初の火が入っている。なかなか早起きだなとノルコは思った。火加減は最強で、おそらくフライパンを温めるためだ。ほぼ同時に、コーヒーメーカーのスイッチも入れられている。冷蔵庫からつぶやきマートのサラダが取り出されている。ノルコ(シンプルだけど凝ってるな)


(1048)
 続いて、デンデン牧場のハムが取り出され、フライパンに投入された。その32秒後に火が少し弱められ、ここで卵が一個投入されている。ノルコ(火が強すぎる!) ノルコの感覚ではこの火加減は、両面焼きの目玉焼きを作る時にしか考えられないものだ。そして両面焼きはノルコの好くところではない。


(1049)
 凝った食材が使われているけど、どこか雑な印象を受ける焼き方……それがノルコの感じるところだ。ノルコ(男の人の料理ってこんなものなのかな?) そう思おうとしたノルコに、さらに驚愕の事実が突きつけられた。ノルコ(……どういう、こと?) その後コンロの火が突然切られ、20分以上もそのまま放置されたのだ。


(1050)
 ノルコは途方に暮れてしまった。料理を途中で、しかもタイミングが命の卵料理を放り出して、このミタ・セイという人は一体どこへいってしまったのか? ノルコはゲンお爺さんのPCがとっくに起動していることも忘れて、ミタ邸のTL情報を引っ掻き回した。まるで、おもちゃの家をひっくり返すがごとく。


(1051)
 驚くべきことに、コンロの火が切られた20分の間、セイ氏の行動記録はどこにも残っていなかった。20分後にキッチンに戻ってきて、申し訳程度にハムエッグを温めて、その後はリビングでテレビを見たりしていたようだけど……。ノルコ(どこに消えたのか……あ!) ノルコの頭に、電球が閃いた。


(1052)
 ノルコ(トイレだ!) 家の中において、一切の行動記録を残さずに過ごせる空間。それはトイレしかない。行動記録が残っていないということで、逆にトイレに入っていたことがバレバレになる事実は、なんとも皮肉だ。ノルコ(お腹の具合が悪くなったの?……じゃあ仕方が無いか) しかし、まだ何となく引っかかる。


(1053)
 20分は流石に長くないか? お父さんだって、いくら調子が悪くても10分くらいで出てくる。ノルコ(なにしてたんだろ……) もしかして、ノルコの想像が及ばないような事をしていたのだろうか? だとしたらこのミタ・セイという人物、かなり怪しい。ノルコはさらに、前日の記録も調べてみた。


(1054)
 すると、ある事実が浮かび上がってきた。セイ氏は、ほぼ毎朝と言っていいほど、トイレに長時間篭っているのだ。しかも決まって、朝食の準備をしている時にもよおすらしい。ノルコ(……やめよう) 流石にノルコはそう思った。いくら相互監視が認められてるとはいえ、これ以上深く追求するのはどうかと。


(1055)
 しかし改めて思い知らされた部分もある。誰かがその気になれば、ノルコの生活だってほぼ全て丸裸にされてしまうのだ。トイレにもおちおち長居できない。もっとも、ノルコのような美少女はウ○コなんてしないわけだが……。ノルコは気を取り直して、ゲンお爺さんのPC宛に来たリプライに目を通し始めた。





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