ツイートピア

ナガハシ

ツイートピア816~838



(816)
 翌朝――。ノルコ(あうう……) ノルコはベッドの上で頭を抱えていた。ズキン、ズキン。ノルコ(頭いたいぅ!) ひとまず顔を洗ったり水を飲んだりしてみよう。そう思いつつノルコは自室を出る。今日は水曜日だが、祝日のためにお休み。こんな日に頭痛とはもったいない限りだ。


(817)
 ノルコはいろいろ試してみたが、どうにも頭痛がおさまらない。ノルコ(頭痛のお薬あるかな……) そう思い、TLを開いて確認してみる……すると。ノルコ(なんじゃこれー!) ノルコのTLは訳のわからない政治的リプライでゴッチャゴチャになっていた。ノルコ(頭痛の原因これかー) 国会議員も大変だ。


(818) 
 大量のリプライが一度に押し寄せると、脳内回路に負荷がかかって頭痛のような症状をきたすことがある。特に子供に多いのだ。ノルコ(こういう時はログオフ!) ノルコは両方の耳たぶを同時につまんでログオフする。ふと思う。ログオフしたら喋れるようになったりして。ノルコ「あーあー」 !?


(819)
 ノルコはあわてて口を塞いだ。ノルコ(声でた……どうしよう) 別にどうしようもこうしようもないのだが、反射的にノルコは口を塞いでしまった。神は言っていた、今はまだつぶやく時ではないと。ノルコはあわてて自室に駆け戻ると、ゲンお爺さんのPCを立ち上げた。


(820)
 頭痛がひどいのでしばらくログオフします――そうゲンお爺さんの名前でツイートしようと思ったのだが、途中でノルコの手は止まってしまった。ミギノウエ「やあ、やっぱりログオフしたんだね。いま君に直接リプライしても、TLの流れが速くて届かないと思ったから、このタイミングを待たせてもらったよ」


(821)
 ノルコは反射的に全思考を停止させた。それが最大の防衛行動だと本能的に察知したのだ。ミギノウエ「まずは議員選出おめでとう。ね、僕の言ったこと当たっただろ? 君には並ならぬものを感じていたんだ。なにかこう、魂の導きみたいなものをね」 ノルコは彼の言うことをさっぱり頭に入れなかった。


(822)
 ミギノウエ「でもきっと君は困っているんだろう。読みきれないほどたくさんのご意見リプライが来てるはずだから。それでだね、お節介とは思いつつも、それらの意見を勝手にまとめさせてもらったよ。なあに、なんてことはなかったさ。ただ君と近しい人たちのリストを作っただけだからね、5分もかからなかったよ」


(823)
 ミギノウエ「このリストを使うかどうかは君しだいだ。僕はどうにも信用されていないようだし。でもこれだけは覚えておいてほしい。僕は人々のよりよい未来を常に願っているし、人の生き方について君のひいお爺さんから教えてもらったことを、心から感謝しているってことを」


(824)
 ミギノウエ「それじゃあ、そういうことで。またいずれ時がくればアプローチするよ。あと、僕は別に君の心を覗き見たりはしてないから、そんなに心を閉ざさなくても大丈夫だよ! あと、それから、たぶんもうログインしても大丈夫なんじゃないかな。TLもだいぶ落ち着いたろうしね。じゃあまた」


(825)
 ノルコはミギノウエのリプライを一通り流すと、両耳を再びつまんでログインした。そして一つ大きく深呼吸した。すぅぅぅううう、はぁぁぁぁあああ。ノルコ(頭痛くなくなった……まじまじ) そして、今日一日なにして過ごそうかと、途方にくれてしまった。ヨコ「ノルコー、朝ごはんよー?」


(826)
 そのころ――。クオ「じぇ、ジェネ先生。それじゃあ行くんだお!」 ジェネ「はあーい、わくわく」 呟音市近郊にある丘の上。クオとジェネは、今まさにパラグライダーで飛び立とうとしているところだった。クオ(ジェネ先生と空のタンデム……夢のようなんだおっおっお!) 二人を乗せたグライダーが、風をはらんでゆく。


(827)
 ジェネ「すごーい、本当に飛んだー!」 クオ「まるで人がゴマ粒のようなんだおっ」 そのままぐんぐん上昇し、空の彼方へ。クオ「怖くないですかお?」 ジェネ「そんなことないですよ! むしろ風が気持ちよくて眠く……」 クオ「おっ、お? ジェネ先生、寝ちゃだめなんだお!」


(828)
 ジェネ「……すやすや」 クオ「おっー!?」 実はジェネ先生、ここまで来る間、眠くてしかたがなかった。なんといってもデートの相手は眠りのウィスパーボイスの持ち主、クオ先生であるのだから。飛んだら眠気も吹き飛ぶかと思ったが、どうやらだめだったらしい。クオ「あっ、バランスが! おっ、おー!」


(829)
 二人を乗せたグライダーは、そのまま山中へと突っ込んでいった。クオ「ひぃぃぃぃ!」 ジェネ「……むにゃむにゃ、もう食べられなぁい」 木に引っかかって失速し、そのままずるずると地面まで落ちていった。クオは必死に身をよじってジェネをかばう。そしてお尻からドスンと着陸した。クオ「お”っー!」


(830)
 ジェネ「むにゃむにゃ……はっ!」 流石にジェネは目を覚ました。お尻の下でクオが伸びていた。ジェネ「あら、どうしちゃったの……ここは?」 あちこちと見回すと、一方に崖があった。クオ「いつつ……もう少しそれてたら崖に突っ込んだところだおっ」 二人とも殆ど怪我がなかったのが、まさに不幸中の幸い。


(831)
 ジェネ「……あら?」 ジェネが何かに気づいた。ジェネ「ここ圏外だわ!」 クオ「ええ?」 クオは耳たぶをクリックしてTLを確認する。クオ「本当だ、圏外になってるんだお」 山奥とかでは圏外になったりするが、まだそこまで深くは入っていないはずだった。クオ「どういうことだお……?」


(832)
 ジェネ「電波障害がでてるのかもー?」 クオ「うーん。何はともあれ、森を出るんだおっ」 ジェネ「あっ、ちょっと待ってクオ先生。あそこ、何か変じゃない?」 クオ「なんだお?」 ジェネが指差した先は、ちょうど崖の付け根だった。ジェネ「岩の形がちょっと変な気がする。まるで何かを隠しているみたい」


(833)
 ジェネがやけにウキウキしているのを見て、クオはちょっと戸惑った。クオ(この人、僕より冒険好きなんだお……) ジェネ「ちょっと探検してみましょうよ!」 クオ「だ、だおぉ」 言われてクオはジェネについていく。ジェネは岩の前まで来ると、ポケットから電灯を取り出して岩の隙間を照らした。


(834)
 ジェネ「やっぱり奥に空間がある!」 クオ「鍾乳洞みたいなものお?」 ジェネ「それにしては形が不自然だわ。ねえ先生、ちょっとこの岩どかしましょうよ?」 クオ「ええ! 何が出てくるかわからないんだおっ」 ジェネ「だって気になるじゃない! ほらほら!」 クオはしぶしぶ岩の隙間に手を入れる。


(835)
 クオ「ジェネ先生のためならエーンヤコーラっと! おっおっお!」 クオ先生が渾身の力を込めて引っ張ると、岩はゴゴォンと音を立てて倒れた。ジェネ「わあお、先生意外と力持ち!」 クオ「はあはあ、コッソリ鍛えてるんだお……って、おおぉ!」 クオ先生は言葉を失った。洞窟の中にはなんと……大きな箱があったのだ!


(836)
 ジェネ「宝箱!」 クオ「え、ええー?」 そんなバカなと思いつつも、二人は箱に近づいていく。クオ「結構大きな箱なんだお。五月人形が入りそうなくらいなんだお」 ジェネ「大きい箱って、確かお化けとかが入ってた方よね?」 クオ「お、おー! 開けないでおくかお!?」 ジェネ「まさか!」


(837)
 ここまで来たら開けないわけにはいかなかった。二人は顔を見合わせ、お互いに「うん」とうなずき合う。そして二人で箱のふたに手をかけた。クオ「じゃあ、いくんだおっ」 ジェネ「せーの!」 パカッ。ふたは開けられた。二人は中をのぞきこむ。ジェネ「………」 クオ「………」 そして何も言わずに閉じた。


(838)
 ジェネ「クオ先生」 クオ「だお」 ジェネ「入ってましたね、中身」 クオ「だおぉ」 ジェネ「何かこう……人の形をしたものが」 クオ「………だお」 ジェネ&クオ「ひえぇぇぇぇぇぇええ!!!」 二人は一目散にその場から逃げた。ジェネ「け、警察に……!」 クオ「知らせるんだお!!」





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