ツイートピア

ナガハシ

ツイートピア718~737



(718)
 ノルコ(……大事件だわ!) 帰りのHRの時だった。ノルコはその場に棒立ちになり、カタカタと震えていた。一体何がおきたのか? レイタ「すっげー! ノルコすっげー!」 先生「すごいわ! ノルコちゃん!」 リン「こんなことが呟音小で起るなんて!」 カズノリ「よ、世の中、わ、わからないね!」


(719)
 突然だが、ノルコは『国会議員』に選出された。公衆洗面所におけるツイッター常設に関する法律、通称『トイレ法』の法案審議に参加することになったのだ。ノルコ(どうしてこうなった!?) どうしてもこうしても、バイオツイッターの選挙管理システムに選出されてしまったのだから仕方ない。


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 パチパチと拍手が降り注ぐ中、ノルコはひとまず立ち上がってペコペコと頭を下げた。そして座った。先生「というわけで、このクラスから国会議員が誕生しました! なんと呟音小学校が始まってから3人目の国会議員さんですよ! みんなでノルコちゃんを応援してあげましょうね!」 パチパチパチパチ。


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 2100年現在の日本では、全ての国民に被選挙権が認められている。国会議員は法案ごとに選出され、その法案が議決されれば解散となる。それぞれの法案にとって一番ふさわしい人達を集めて審議するという訳だ。つまり総選挙は引っ切り無しに行われるわけで、投票活動はごく日常的なものになってしまっている。


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 選挙の仕組みは単純で、みんながみんな誰でも好きな人に投票して、その投票数を累積していくというものだ。普段、ノルコのクラスで一番累積投票数が多いのは、色んな分野で何かと注目されているヤマオ君その人である。しかし当のヤマオ君は、どういうわけか今まで誰にも投票してこなかった。


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 ルイ「なにがビックリしたかって、ヤマオがノルコに投票したってことだよなー」 ルイの言う通り、ヤマオの投票によってノルコの累積投票数が一気に増加した。システム上、ヤマオがノルコに投票したことはノルコにしかわからない。ノルコはヤマオの同意を得た上で、それをみんなに伝えたのだ。


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 ルイ「あとやっぱ、呟けなくなったせいで、変に注目されたってのもあるんだろうなー」 リン「うんうん」 ノルコ(それは喜ぶべきことなのか、さてはて) 確かに、投票してくれた人を調べてみると、知らない人がずいぷんいる。あのミギノウエという人もノルコに投票している。ノルコ(……なんでかー?)


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 ノルコは家の前でバイバイと手を振りみんなと別れ、そそくさと家の中に入った。リビングには母のヨコがいた。テーブルに座って両肘をついて、どことなくアンニュイな雰囲気だ。ノルコ(あれ?……朝はあんなに機嫌よかったのに) ノルコは何となくそっとしておいた方が良いと思って、そのまま素通りした。


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 洗面所で手を洗ってうがいをする。アフレルのコップと歯ブラシが目の前にある。ノルコ(お父さん、今頃なにしてるかな?) ノルコはぬるま湯にうがい薬をいれて丹念にうがいをする。ガラガラガラガラ……ぺっ。タオルで手と顔を拭く。特に用はないのだけどトイレにいって、便器が清潔かどうか注意深く確認する。


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 ノルコ(トイレ法……か) それはトイレにツイッターを設置できるようにするための法案らしい。ノルコはそのメリットについて考えてみる。ノルコ(ツイッターとカメラをつないだら、いつでもトイレが綺麗かどうか確認できるかな?) それはそれで便利かもしれないとノルコは思う。


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 ノルコの将来の夢は「良いお嫁さん」になることだ。ごくありふれた女の子の夢。でも女として生まれて、それ以上に叶える価値のある夢があるだろうか? そうノルコは思っている。良いお嫁さんとは、自分達の暮らす家を最高の状態に保つことができる人であり、トイレの管理はその最重要項目の一つなのだ。


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 ノルコ(あっ、そうだ) 国会議員になったこと、お父さんとお母さんに知らせなきゃ。そのことを思い出したノルコはトイレを後にし、二階の自室へと上がっていった。そしてPCを立ち上げ、ツイッターを起動させた。ゲン「なんと! ノルコはこっかいぎいんにえらばれましたー」 あれ、フォロワーさんがまた増えてる。


(730)
 ノルコはこっかいぎいんにえらばれましたー……ノルコはこっかいぎいんにえらばれましたー……ノルコはこっかいぎいんにえらばれましたー……。そのツイートは静かに、しかし確実に拡散していった。野を越えて山を越えて、電子の海の遥かまで。ココロの穴をくぐり抜け、遠い天の彼方まで。


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 ヨコ「ええっ?!」 ヨコがそのツイートを読んだのは、呟かれてから2分30秒後だった。ヨコ「え? ええー?! なんでノルコが?! お、お父さんにも知らせなきゃ……あれれ?」 ヨコがアフレルの状況を確認すると「オフライン」になっていた。ヨコ「あらら、仕事かしら? こんな時に……」


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 チカコ「あらあらまあまあ」 ツイッター協会のチカコさんがそのツイートを読んだのは呟かれてから4分01秒後だった。チカコ「ホウー、大変よ、ノルコちゃんがね! 国会議員に選ばれたって!」 しかしホウは部屋の中でGPTLを見て気絶していた。チカコ「もう! まったくこの子ったら」


(733)
 クメゾウ「ブフーッ!」 盛大に麦茶吹いたクメゾウ。ウメナ「きったないな! 何をそんなに驚いて……なんだってー!」 二人がそのツイートを読んだのは、呟かれてから10分49秒後だった。 クメゾウ「ゲッフ! ゲッフ! とんだビックリ水だがな!」 ウメナ「大変なことになったね……法案のこと調べないと」


(734)
 ユウタ「うわっ、すごい! ノルコお姉ちゃんおめでとう!」 みんなとサッカーの練習をしていたユウタが、そのツイートを読んだのは呟かれてから15分55秒後だった。カントク「こらユウター、よそ見するなー!」 ユウタ「すみません! 友達が国会議員になったんです!」 カントク「なにー! おいみんなー! 練習中止だ!」


(735)
 カイザワ「小学生議員キター!」 ヨシシゲ「キタァァァア!」 ギンジ「ィエーッ!」 養老会の集まりでゴルフをしていた3人がそのツイートを読んだのは、呟かれてから18分後だった。その場にいたお爺ちゃんお婆ちゃん全員がゴルフを中断し、法案についての井戸端会議を始めた。カイザワ「トイレは生活の基本!」


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 クサヨシ「イズミ・ノルコ……おお、アフレル君の娘さんか、なんと」 割烹着姿でだし汁の味を見ていたクサヨシがそのツイートを読んだのは、呟かれてから28分30秒後だった。クサヨシ「そして彼女は……我が敬愛なるイズミ・ゲン御大、そのひ孫さんでもあったか。うーむ、世間とは狭いものだ」


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 イイズカ「アフレルのやつ、まだログオフしてやがるぜ」 ハッブル「ナンカ変ジャナーイ?」 二人がそのツイートを読んだのは、呟かれてから32分後、クサヨシから連絡を受けてのことだった。イイズカ「いくらあいつが絶倫だからって、このログオフ時間は異常だ」 ハッブル「ナニやってんだ?」





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