ツイートピア

ナガハシ

ツイートピア604~635



(604)
 アフレル「遅くなってしまいましたね……僕がもっと早く気づいていれば」 イイズカ「いや、あれでいいんだ。半分は壊すのが目的の試験だからな」 アフレルは温泉で汗を流した後、他の職員とともに食堂に来ていた。食堂は24時間やっていて、ビュッフェ形式になっているようだ。


(605)
 まずはライスと味噌スープをよそう。おかずは紅鮭とインゲン豆の煮物という純和風な選択。それに美味しそうなオムレツがあったのでケチャップソースをかけてトレーに乗せた。アフレル(秘密基地というわりには、以外と普通だなぁ……) するとイイズカがちょいちょいと肩をつついてきた。


(606)
 イイズカ「ここに来たらやっぱりこれ食べないとな」 アフレル「……なんですかこれ?」 イイズカが指し示したのは緑色のグニャグニャした物体だった。よく見るとその中に、黄色いツブツブしたものやら、半透明の細長いものやらが入っている。見るからに怪しい食べ物だった。


(607)
 イイズカ「まあ食ってみろって」 ハッブル「だまされーたーと、思っテー」 アフレルはしぶしぶながらも、それを一さじすくってお皿のすみに乗せた。アフレル(……ぐにょぐにょしてる) そして食堂の片隅に置いてある解析装置「MONOSUGOI」にトレーを乗せ、料理の種類と量を記録した。


(608)
 解析装置は料理中に含まれている有害物質の量も調べてくれる。アルデヒド、ダイオキシン、カドミウム、セシウム……。もちろん全て検出限界以下だったが、すべてご丁寧に記録された。アフレル「なにか意味があるんですか?」 イイズカ「まあ……秘密基地だしな」 ハッブル「何がまざるかワカラナイ」


(609)
 席につくとアフレルは、例の緑色のグニグニを箸でつついてみた。アフレル(……ホントに食べられるのかな) イイズカ「ささ、食べた食べた」 ハッブル「体にいいYO!」 箸でつまんで鼻先までもってくる。クンクン。なんだか病院の処置室みたいな匂いがする。なんともいえない薬臭だ。


(610)
 アフレル「……もぐもぐ……ん?」 見た目はドロドロだが食感は不思議とサクサクしていた。たまに粒々が潰れてプチっとなる。半透明のこれは……クラゲか何かだろうか? 味はすこし酸っぱくて磯の香があり、ヨード臭がきつい。アフレル「なんだろう? 魚介の漬物みたいなものですか?」


(611)
 イイズカ「ふむ、俺も最初はそう思ったさ。でも実はこれな……地球の食材じゃないらしんだ」 アフレル「えっ!」 イイズカ「……ここだけの話なんだが、この研究所の地下で、宇宙人を培養してるらしい……」 ハッブル「そうそう、宇宙人ね。エイリアン」 アフレルはみるみる青ざめた。


(612)
 アフレル「そ、それとこれとどういう関係が……!」 イイズカ「どうもこうも、宇宙人なんて公表できるわけがねえだろ? でも実験すれば残骸は出てしまうわけだ。それで手っ取り早い証拠隠滅として……だな」 アフレル「じょ、冗談ですよね?」 イイズカ「どうかな、だってここは秘密基地なんだぜ?」


(613)
 アフレル「じゃ、じゃあこの料理はさしずめ、宇宙人漬け……」 ハッブル「そ、そ、宇宙人のピクルスという話だよ、ウヒャヒャ」 イイズカ「くくく……食べちまったねアフレル君。実はそのエイリアンの細胞はまだ生きていて、食べた者はみな宇宙人に体をのっとられててしまうんだ……」


(614)
 アフレル「(ガタガタブルブル)……じゃ、じゃあイイズカさん達はもう……う、ううっ!」 アフレルは突然自分の首を押さえて苦しみだした。アフレル「ううあ……うガガッ……ゲボァ!」 と、その時、ちょうど目の前をクサヨシ研究主任が通りがかった。なぜか割烹着姿だった。クサヨシ「……何してるんだい?」


(615) 
 アフレルは顔を真っ赤にしながら味噌スープをすすっていた。クサヨシ「はははっ、君も随分とノリの良いやつだなぁ」 アフレル「い、いやだって、そういう流れでしたし!」 イイズカ「まあ、ここの洗礼みたいなものだ、悪く思わんでくれよ」 ハッブル「あそこまでノってくる人もメズラシイけどネー」


(616)
 謎の緑色の正体は「松前漬け」だった。ただしかなりアレンジされている。クロレラ抽出物がたっぷり入っているため、毒々しいまでの緑色を呈しており。風味付けにアブサントを用いているため薬臭がする。クサヨシ「ガンバール基地特製の『エイリアン漬け』だ。バタートーストにのせてもうまいぞ」


(617)
 割烹着姿のクサヨシ研究主任は、まかないの【タコさんウィンナー茶漬け】をサラサラとやっている。アフレル「あ、あの、調理師だったんですか?」 クサヨシ「最近はね」 イイズカ「ここは人事異動が激しいんだよ。主任、以前はレーダー開発の担当でしたよね?」 いや、激しいどころじゃないだろう。


(618)
 クサヨシ「料理とはいわば一種の科学だ。キッチンに立つことで得られる閃きもある」 アフレル「そうなんですか?」 ハッブル「チーフはニュータイプなレーダーのプロダクションがジャムってんだよアフレル」 アフレル「じゃ、ジャム? ああ、煮詰まったってことですか」 クサヨシ「うむ」


(619)
 クサヨシ「煮詰まった時はキッチンに立て。我が家の家訓だ」 本当かな? とアフレルはいぶかしんだ。アフレル「新型のレーダーですか。僕は専門外なんでお役に立てそうにないですけど、どんなレーダーなんですか?」 クサヨシ「ふむ……一言でいえば、体重0キログラムの宇宙人を観測できるレーダーだ」


(620)
 クサヨシ「もし君が地球侵略を目論むエイリアンだったとする。なんとかしてコッソリ地球に浸入したい。しかし、地球にはそれなりの文明があり、電波望遠鏡などで銀河系全域までをもレーダー観測している状況だ。さて、どうする?」 アフレル「なんとかして観測網を潜り抜けないといけないわけですね。うーん……」


(621)
 アフレル「あっ、それで体重が0というわけですか」 クサヨシ「そう、質量が0というのははつまり、光や電磁波などの光速エネルギー体のことだ。もし、宇宙人が純粋なエネルギーだけの姿で地球に侵入してきた場合、今の我々に発見する手立てはない」 アフレル「ま、まるでSF小説ですね……」


(622)
 クサヨシ「ふふふ、我々は今、そのSF小説の真っ只中にいるのだぞ、アフレル君」 アフレル「確かに……。いやでも、そんなことが可能なんですか?」 クサヨシ「わからん。だからこうして毎日割烹着を着てキッチンに立っているわけだ」 アフレル「はあ……」 ハッブル「案外もう侵略されてたり」


(623)
 イイズカ「その可能性もあり、だな。今こうして話していることも、実はみんな筒抜けだったとか……」 一同、しばし辺りをキョロキョロとする。アフレル「……なんかゾッとしますね」 クサヨシ「我々はすでに発見されている……か。ま、それはそれで面白い」 ハッブル「おトモダチになれたらイイネ」


(624)
 クサヨシ「ふふ、トモダチか。それがベストな状況ではある」 クサヨシは残りのお茶漬けをスルスルとかきこむと席を立った。クサヨシ「では失礼するよ」 そして鼻で「お化けなんてないさ」をハミングしつつ、軽いステップでどこかへ行ってしまった。イイズカ「宇宙人とトモダチ……か」


(625)
 その後三人は食事を取りながら、純エネルギー生命体を直接観測する方法をあれこれ話し合った。しかし、これといったアイデアは浮かばなかった。イイズカ「そもそも物理的に可能かどうか……」 ハッブル「ライフディフィニションも考えないと」 アフレル「うーん、困難な課題ですねぇ」


(626)
 イイズカ「そういやアフレル、遅くなっちまったが家族には連絡したか?」 アフレル「……はっ」 アフレルの手から箸がこぼれ、カランカランと音を立てた。アフレル「あっー!」 ハッブル「ど、どしたノ?」 アフレル「しまった……今夜同じ時間に食事とろうって約束してんだ……」


(630)
 イイズカ&ハッブル「あちゃー」 アフレル「ちょっとすいません……」 そう言ってアフレルは、家族のTLを確認した。もちろん三人とももう寝ていた。次にダイニングのTLを確認する。夕食はいつもより遅めの時間にとったようだ。ワクのツイートが残されていた。ワク「ダッド・イズ・ノット・ヒアー?」


(631)
 ヨコ「うん。お父さんは忙しいみたいなの。一日目だからきっと色々あるのね」 アフレルはハッとなった。そしてすぐさまDMを確認した。ヨコからのメッセージが残されていた。ヨコ《私達のことはいいから、お仕事がんばってね。終わったらでいいから連絡してね》 アフレルは深くため息をついた。


(632)
 イイズカ「……どうなんだ?」 アフレル「いえ、大丈夫です……取り乱してすみません」 ハッブル「カーゾクーはダイジーにしないとー」 アフレル「ええ、まったく。でも仕事も大事ですから……」 イイズカ「まあ、あんまり無理はするな。今日はもう休んだ方がいいだろう。いつデカイ仕事が入るかわからんからな」


(633)
 アフレルはそそくさと食事をすませると、割り当てられた自室へと向かった。巻貝のような形の研究基地、その地下1~3階が単身者用の居住施設になっており、海から見た反対側に扇状に広がっている。高速の動く歩道が完備されており、全員が10分以内で職場を行き来できる設計になっている。


(634)
 宇宙船の船内を思わせるインテリア。アフレルはエアロックのような自室の扉に手をあてる。すぐに生体認証され、プシューというエアシリンダーの音ともに扉が開いた。初めてこの部屋に案内されたときは、その凝った作りに思わず小躍りしてしまったアフレルだが、今はガックリと肩を落としていた。


(635)
 4畳ほどのスペースにデスク、ベッド、冷蔵庫、映像端末、シャワーといった、最低限の設備が配置されている。アフレル「少し寒いな」 アフレルは耳たぶクリックで暖房を作動させ、ベッドに腰掛けて考え込んだ。アフレル(……ヨコになんて謝ろう) 秘密基地への単身赴任。初日の夜はこうして更けていった。





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