ツイートピア

ナガハシ

ツイートピア494~516



(494)
 放課後になると、一同はまっすぐノルコの家に向かった。女子3人の中に男一人のカズノリ、それとなくヤマオ君をさそってみた。すると以外なことに、二つ返事で了承してくれたのだった。ルイ「ヤマオが放課後寄り道って珍しいな!」 そう、ヤマオが誰かの家に遊びに行くなんて滅多にないことだ。


(495)
 ノルコは家に着くと、心の中で(ただいまー)と言いながらドアを開けた。カズノリ「お、おじゃましますっ」 ルイ「こんにちわー」 リン「おじゃまさまですっ」 ヤマオ「…………」 母のヨコはダイニングから顔をのぞかせつつ、ヨコ「はいはい、いらっしゃいー。ゆっくりしていってね!」


(496)
 ヨコは子供たちが二階に上がっていくのを見送った後、お菓子のジュースの用意を始めた。ヨコ(ヤマオ君ってああいう子だったのね。なんて大人びてるのかしら、まだ小学生なのに) 玄関先でのお辞儀の仕方なども堂に入っていて、夫のアフレルにも見習って欲しいくらいだった。


(497)
 ヨコ(ヤマオ君のおうちにはお父さんがいないのよね……確か) ヤマオは母と二人暮しである。父親はヤマオが生まれてまもなく、まさに煙のように消えてしまったらしい。しかも、生まれてきたヤマオはなかなか言葉を発しなかった。この当時のヤマオの母の気持ちは、想像に余りあるなとヨコは思った。


(498)
 言葉を発しないヤマオは、当然ながら知能障害が疑われた。しかし3歳時の知能テストの結果、ヤマオの知能指数は平均を上回っているということがわかった。事実、ヤマオは殆どと言ってよいほど母親の手を煩わせなかった。それどころか、気落ちしがちな母を慰めるような行動さえ見せたのだった。


(499)
 EQ・IQともに人並みはずれた天才児。しかし滅多につぶやかない。ヤマオはある種のサヴァンなのではないかと考えられ、発達心理学や児童心理学に関わる人達の目を引くこととなった。ヨコ(確かに凄い子だけど、それでもノルコのお友達に変わりはないわ) そうしてヨコはノルコの部屋にお菓子を運んでいった。


(500)
 子供達はお菓子を持ってきてくれたノルコの母親にお礼を言うと、さっそく例のPCを起動させた。ルイ「これがPCってやつか! なかなか使えるようにならないな」 リン「このカリカリって音なんだろ?」 カズノリ「た、たぶん。き、記録装置が、う、動いてるんだよっ」 ヤマオ「…………」


(501)
 PCが起動すると、すぐにツイッター用のブラウザを立ち上げる。カズノリ「む、む、僕らのツイッターと、に、似てるね」 ルイ「だな。これでツイートをどんどん逆登っていけば、いずれミギノウエって人のリプライに行き当たる」 リン「でもどれだけ逆登ればいいのかな? 下手すると終わらないんじゃない?」


(502)
 一同どうしたものかと首をひねったその時、ヤマオの瞳がキラーンと光った。ヤマオはノルコの肩を軽くつつく、まるで「ちょっとPCいじってみていい?」とでも聞くように。ノルコはウンと首を縦に振る。ヤマオはさっそくマウスを片手にPCを操作しはじめた。カズノリ「や、ヤマオくん……すごい」


(503)
 ヤマオがやったことは至極単純な操作だった。ゲンとミギノウエの名前、両方を含むツイートの検索をかけたのだ。ルイ「そうか、この手があったか!」 リン「こんなの普段やらないから、わかんなかったねー」 誰かさんと誰かさんが何を話していたか、なんてことノルコ達の世代は殆ど気にしないのだ。


(504)
 カズノリ「さ、流石だね、や、ヤマオ君。尊敬するよ……」 そうこう喋っている間にも、ノルコはゲンとミギノウエの会話をどんどん読んでいった。最初の方は、ゲンお爺さんが亡くなった時の御悔みのツイート、その下が闘病中の励ましツイート、その中に、どうも政治っぽい話題がチラホラ混ざっている。


(505)
 ミギノウエ「@ゲン:ああ、人類はまたかけがえのない人を失なうんですね。ああ……ご冥福を」 ミギノウエ「@ゲン:しっかり! 気をしっかり持ってくださいミスター! 僕はもっと貴方と話たいことがあるんです!」 ミギノウエ「@ゲン:落し物管理法案が否決、やりましたよ!」


(506)
 ルイ「なんだか普通に親しかった感じだね」 ゲンお爺さんが亡くなった時、ノルコは5つか6つくらいだったからよく覚えてないのだが、でもその時にミギノウエ氏とこんなやりとりがあったなんて、正直おどろきだった。ノルコ(私に政治の話ふってくるのも……わからなくもないかな?)


(507)
 一同はさらに古いツイートを読んでいく。ゲン「@ミギノウエ:落し物管理法案の『管理』は『監視』の婉曲表現だと私も思います。紛失物の情報を第三者機関により一元管理し、落とし主に確実に返却する。聞こえは一見よいが、要は特権団体による情報の独占であり、一方的社会監視の一助となるだろう」


(508)
 カズノリ「な、なんとも本格的、的な議論だ、ね」 リン「落し物ひろった時って、たまに返す返さないでもめるんだよね」 ルイ「この『監視』って言葉が重要なんだな?」 ノルコはウンウンうなずく。一方監視という概念が、世の中を底なしのドロ沼に引きずりおろすのだと、お爺さんはよく言っていた。


(509)
 ゲン「@ミギノウエ:もう100時間くらいぶっ続けでPCの前におるな? 散歩でもして日に当たってきなさい」 ミギノウエ「@ゲン:うわなぜバレタwww」 ゲン「@ミギノウエ:わしが何年ツイッターやってると思っちょるw」 ミギノウエ「@ゲン:ちょっとコンビニ行ってきますwww」


(510)
 ミギノウエ「@ゲン:ゲンさんは、宇宙人の存在って信じてる口ですか?」 ゲン「@ミギノウエ:いてもおかしくないじゃろ」 ミギノウエ「@ゲン:侵略とかしてきたらどうします?」 ゲン「@ミギノウエ:全力でバトる」 ミギノウエ「@ゲン:えっ!」 ゲン「@ミギノウエ:血の気の多い奴等にはそれが一番」


(511) 
 ルイ「ずいぶん仲よしだね。Wの連発にはちょっと時代を感じるけど。ゲンお爺さんはどんなきっかけでこの人と相互フォローになったんだろうね」 リン「ゲンおじさん、相互少なめ」 カズノリ「あ、相手を、え、選んでたんだ、ね。な、何かき、基準があったの、かな?」 ノルコはしばし考えた後、キーボードに手をかけた。


(512)
 ゲン「何となく良い感じのする人をフォローしてた」 カズノリ「な、なんとなく?!」 ゲン「言葉の汚い人はフォローしなかった」 ルイ「まあそれはあるね」 ゲン「神秘的な感じのする人が好き」 カズノリ「な、なんでそんなこと知ってるの?」 ゲン「むかし好きな女の人のタイプを聞いたの」


(513)
 ルイ「うんまあ、ツイートみてる分にもそれとなくわかるかな。ノルコのお爺ちゃんって、きっと風変わりな人に好かれるタイプなんだ」 言われてみれば、ミギノウエという人はどこか理解不能なところがある。自分だけベラベラ喋って、相手の返事を待つことなく消えてしまうあたりなんか。本当に何を考えてるんだろう。


(514)
 ルイ「頑張ってTL逆登ってみよう」 それからノルコ達はひたすらマウスをカチカチやってTLを過去へと逆登って行った。ノルコ(みんなお菓子食べるの忘れてない?) ノルコに促されて気づいたみんなは、マウスを交代でカチカチやりながらブリッツやら揚げ団子やらをつまんで食べた。


(515)
 ヤマオ「…………」 ヤマオはジュースのストローを咥えたままジーっとディスプレイを見つめている。マウスを必死にカチカチやってるのはカズノリで、だんだん慣れてきたためか、TLは結構な速度で流れていく。しかしヤマオはその一文一文をしっかり読んでいるようだった。ノルコ(読めるの?!)


(516)
 ルイ「よし! 行き着いたぞっ、みんな!」 一同、PCの前につめよる。【投稿日時:2090年8月2日12時34分】ミギノウエ「貴方の考える愚民思想の問題点とは? RT@ゲン:とかく大抵の発案者は愚民思想の持ち主で自分だけが賢いとおもっとる」 これが二人のファーストコンタクトだった。





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