ツイートピア

ナガハシ

ツイートピア206~235



(206)
 クメゾウ「ゲンじいさんのパソコンなら仏間の押入れじゃ」 ノルコはアフレルとともに仏間にいた。 アフレル「まずは仏様を拝もう」 そして仏壇のろうそくを点け、遺影をとりだす。先祖代々の写真の中からアフレルは、二つを選んで仏壇に立てた。アフレル「お爺さんお婆さん、遊びにきたよー」


(207)
 羽織袴のいかめつらしい表情をした人はアフレルの祖父で、ノルコにとっては曽祖父にあたる「イズミ・ゲン」お爺さんだ。そしてその隣、白いワンピースに麦藁帽子の若い女の人は「イズミ・ミチコ」 ノルコの曾祖母にあたるが、若くして亡くなったためアフレルも会ったことが無いのだという。


(208)
 チーンと仏鈴をならし、二人は手を合わせた。 アフレル「よし、じゃあ探そうか」 仏間の押入れを開けると、いつの昔のものかわからない電気機器がホコリをかぶった状態で詰まっていた。このキラキラした丸いのはDVDと言うらしい。ノルコ「??」 アフレル「それはノルコにはまだ早いな」


(209)
 ややしばらくして、押入れの奥から一台のノートパソコンが出てきた。二人ともホコリまみれ。クメゾウ「だがパスワードがかかっとるぞい。ほれ王手!」 どうやらワクと将棋をして遊んでるらしい。 ワク「サンドウィッチ! リバース!」 クメゾウ「うお?! それはオセロじゃ!」


(210)
 誰も知らないゲン爺さんのパスワード。でもノルコは覚えていたのだ。4つか5つのころ、ノルコはお爺ちゃんの膝の上で、PCを起動させるところを見ていたのだ。ノルコはゲンお爺さんにこう聞いた。ノルコ「これなんてよむのー?」 ゲン爺さんは言った。ゲン「ツイート、ウィズ、ブレイビー」 


(211)
 ノルコ「ぶれびー?」 幼い頃のノルコに、その意味がわかるはずがなかった。しかし今ならわかる。そしてノルコ自身の名前と生年月日、それがゲン爺さんのPCを開くパスワードだ。「tweet_with_bravery_505noruko」 ノルコはたどたどしい手つきで入力し、そしてリターンキーを叩いた。「ウェルカムWINDOWS」


(212)
 ウィンドウズXYZが起動され、背景画面に3人の赤ちゃんが写し出された。ゲンお爺さんの3人の孫の写真だ。つまりそのうちの一人はアフレルということになる。とぼけた口元が特徴的だ。ノルコ(お父さんかわいい!) お父さんに言ったらどんな顔するかな? ふとノルコはそう思ったり。


(213)
 アフレル「この赤ん坊はいったい誰なんだろうね?」 とかやっぱりとぼけつつ。アフレル「ノルコのお目当てはこれだろ?」 そう言ってさざ波のような形をしたアイコンを指差す。ノルコ(ツイーブ……これだ!) そしてアイコンをダブルクリック、ついクセで耳たぶクリックしそうになる。


(214)
 ツイーブver12.4 これは当時最先端のツイッター用ブラウザだ。フォロワー同士のネットワークを図式化したり、自分のツイートがどう波及していったかを解析する機能があり、かつ直感的に使いやすい構成。バイオツイッターの普及によりその役目を終えたが、今でもご高齢の方が使用していたりする。


(215)
 ツイーブの最終ヴァージョンである12.4は、バイオツイッターとの接続もサポートしている。よってこのブラウザを使えば、呟けない病気にかかったノルコでもツイートが出来るのである。しかし、その設定方法は古の彼方に忘却されてしまい、知る者は少ない。


(216)
 ひとまずノルコは適当に何かツイートしてみることにした。ゲン「あーあー」 当然だが、ゲンお爺さんの名前で呟かれてしまう。 ノルコ(ルイちゃんに手伝ってもらおう) そしてアフレルの助言も得ながら、何とかしてルイのプロフィールを検索し、そしてフォローした。


(217)
 ノルコはルイに何か話しかけようと、たどたどしくキーボードを手にかける。アフレル「じー」 アフレルが覗き込んでいる。ノルコ(うーん) 書いている途中の文章を見られるのって何だか気恥ずかしい。アフレル「ん?」 どうやら気づいたようだ。 アフレル「お父さん畑を手伝ってくるよ!」


(218)
 空気を読める父をもったノルコは幸せ者だ、そう思いつつ文章作成にとりかかる。 ゲン「ルイちゃん。わたしノルコ」 しかし反応がない。ルイのステータスは読書中になっている。たぶん自室でマンガを読んでいる。しばらくして。 ルイ「ど、ど、どちらさまででで?!」 明らかに困惑している。


(219)
 ノルコが状況を説明しようと文章をつづっていると今度は。カイザワ「ふ、ふおおお……」 ヨシシゲ「げ、ゲンじいさんが……」 ギンジ「黄泉帰りよったぁぁぁあああ!」 なんだか大変なことになってきたぞ。ノルコはだんだん焦ってきて、おでこに冷や汗までにじんできた。


(220)
 ゲン「えと、私ゲンおjいtyのhmご、のることいいまs」 焦ってキーボードを打ったのでメチャクチャになってしまった。カイザワ「うおおー! なんまんだー! なんまんだー!」 ヨシシゲ「どーまんせーまん!」 ギンジ「ベントラー! ベントラー!」 ますます大変なことに。


(221)
 ノルコ「ゲンおじいsんおpcかりてます!」 必死に事情を説明するも埒が明かない、お父さんを呼ぼうと思ったその時。ルイ「ノルコなの? お爺ちゃんのpcからツイートしてるの?!」 ノルコはそのリプライをすぐさまリツイートした。ありがとうルイちゃん。


(222)
 カイザワ「おお! そういうことか!」 ヨシシゲ「ゲンさんのお孫さんとな!」 ギンジ「とうとうゲンさんがお迎えにきたのかと思ったわwww」 ノルコはホッと胸をなでおろす。ルイ「いきなり95歳のお爺ちゃんから呟かれて何事かと思ったよ!」


(223)
 ゲン「めんごめんg」 ルイ「いや、別にいいんだけどね。とにかく呟けるようになったわけだ」 ゲン「でもmんどいの、キー打つの、へんかんも」 ルイ「え?」 カイザワ「キーボードなんぞよく打つのー、わしらでもよう使わん昔の機械なのに」 ルイ「ええ?」


(224)
 ルイ「ごめん、ちょっとググるわ」 キーボードなんて古代の代物は、最近では殆ど知られていないのだった。ゲン「お爺ちゃんの膝の上でめてたから」 ヨシシゲ「賢いのう! 5つかそこらだったろうに」 ギンジ「ゲンさんに似たのだろうな、あの人も切れ者であった」


(225)
 ルイ「ノル……調べたけど、君は半世紀も昔の機械を使っているのかね」 ゲン「うぬn」 ルイ「??」 ゲン「まちがい、うんうん」 ルイ「そ、そう……。まあ大変そうだけど頑張って」 ゲン「んはnを二回押すと出る」 ルイ「へえぇー、なんか大変そうだけど面白そうでもあるね」


(226)
 ゲン「ゲンお爺さんはこれでしゃべるより早くしゃべってた」 ヨシシゲ「まあ、昔の人はみんなそうだったのう。ブラインドタッチといってな、手元を見ないでキーを打つんじゃ」 ノルコは試しに、キーを見ないで打ってみた。ゲン「あwせdrftgyふじこ」 想像を絶する技術!


(227)
 ゲン「むryだー」 ヨシシゲ「まあの、今はもう失われし古代の技である」 ノルコは画面の前でフゥと一息ついて、そして何を呟こうかなと考える。ノルコ(初対面のおじいちゃん達と何を話せば良いのか?) そのとき。 ウメナ「お、お義父さん!?」 ヨコ「どうして呟かれてるんです?!」


(228)
 ノルコ(あわわ……やっぱりお爺ちゃんの名前で呟くとみんなを驚かせちゃう……) ノルコはこの作戦はやっぱりあきらめようと思った。知らない人に迷惑をかけてしまう。「私はゲンお爺ちゃんのひ孫のノルコです、みんなを驚かせるのでやっぱり呟くのはやめます」そうツイートしようとした、その時。


(229)
 アシオ「ゲン爺さんが生き返ったと聞いてやってきました!」 サトコ「ああ? ゲンさんがよみがえったって? ウメナとうとうイカレたかい?」 イシゾエ「いやあ、どうやらゲンさんのお孫さんのようだあ」 ヨネクラ「え? ゲンさんの孫さんって男ばっかじゃなかったけ?」


(230)
 ルイ「ゲンさ・・・じゃなかったノルコ! 私の呟きリツイートして! みんな混乱してる!」 アフレル「ノルコ、お父さんのツイートもだ」 ヨコ「ああ、なんだノルコだったの」 ウメナ「へえ、うまいこと考えたもんだね、義父さんのPCまだ生きてたんだね」


ツイートピア(231)
 スティーブン「oh! ゲン! ナツカシイね!」 チョ「わー、何だか懐かしいクラスタが沸騰してきてる!」 ケンイチ「ゲンさんって確か、その道では一角の人だったよね。まとめウィキないかな」 ジブ「何だ何だ! 祭りか!」 アゲオ「よくわからんがめでたい、酒だ!」


(232)
 ノルコの意思とは関係なく、ゲンお爺さんと付き合いがあった人や、当時の世相を知っている人たちが勝手に集まってきて盛り上がってしまってる。まもなく「#FUKKASTU_GENN」というハッシュが立ち上がり、飲めや歌えやの大騒ぎになってしまった。ノルコ(うーん何だかもう、どうでもいいや!)


(233)
 どんちゃん騒ぎを横目に見つつ、ノルコはゲンお爺さんのプロフィールを見る。フォロー数750に対し、フォロワー数は4000人程度。ノルコの感覚としては少な目な方だ。故人とはいえ、お歳を召した方ならフォロー数が数万に達していてもおかしくない。


(234)
 ノルコ(本当に大事な相手しかフォローしない人だったんだ) 当然、その550人の中にノルコも含まれている。最後にフォローした相手から10番目にはワクが登録されていた。PC版のツイッターなので、使用者が亡くなってからもTLはどんどん進行していくわけだ。


(235)
 ゲンお爺さんのTLを流れるどんちゃん騒ぎを眺めていると、ノルコは何だか、まだゲンお爺ちゃんが生きているような気がしてきた。まだ小さなノルコを膝の上にのせ、シワシワの手でマウスを操作するお爺ちゃんが、今ここにいるような、そんな気が。ノルコ(お爺ちゃん……元気にしてるかな?)





コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品