ツイートピア

ナガハシ

ツイートピア185~205



(185)
 ノルコはカレーライスをぐちゃぐちゃにする人とだけは結婚したくない主義。ワク「チェーンジ!」 ワクはもう2杯目のおかわり。そして父アフレルは落ち着かない様子でキョロキョロ。ヨコ「どうしたのあなた?」 アフレル「いやーその」 ワク「チェーンジ!」 アフレル「食うの早いなぁワク」


(186)
 アフレル「えーとだ、父さん思ったより早く暇になっちゃって、明日あたりどっか遊び行こうかなって」 そしてノルコをチラと見る。まだノルコのツイートは治っていないのだが。アフレル「どこか行きたいところある?」 するとノルコはすかさず手をあげた! ノルコ「$あ;rl」 そしておろした。


(187)
 アフレル「ノルコ?」 ノルコは「てへっ」と頭を叩くと、メモ用紙をとりだした。そこにペンで「東京のおうち」と書いた。アフレル「東京?」 ヨコ「あんな田舎に?」 ワク「チェーンジ!」 そこでノルコはテーブルの上に手をおき、カタカタと何かを打つしぐさをする。アフレル「あっ、そうか!」


(188)
 ヨコ「ええ? なあに?」 アフレル「ノルコは頭がいいな、その手があったな」 と言ってノルコに向かってグッ! ノルコもグッ! ヨコ「??」 アフレル「いけばわかるさ。ということで明日は東京の爺さん婆さんに会いに行くぞ!」 ワク「チェーンジ! げふっ」 ヨコ「ワク、食べすぎよ!」


(189)
 翌日、一家はアフレルの実家がある東京に向かった。東京は呟音市から車で1時間ほどの場所にある大田舎だ。かつて日本経済の中枢だった街は、超高層だんだん畑と首都高速道水田、大地下トンネル促成栽培場からなる食料基地になっている。ヨコ「いつ見てもすごい街」 誰がこうなることを想像しただろう。


(190)
 アフレルの両親、ノルコにとっては祖父母にあたるイズミ・クメゾウとウメナ――名前から察する通りあまり仲はよくないのだが――は、トヨスの造成地に住んでいて、かぼちゃとかとうもろこしとかを作っている。ときどきモンゼンナカに繰り出してオールしたりする、ハイカラな人達だ。


(191)
 青々と風になびく稲草の海を抜けて車は走る。巨大なドーム型集光屋根をくぐり、色とりどりの果実がゆれる高層だんだん畑を見送る。やがて潮の香がかすかに漂う、見晴らしの良い畑作地にたどり着く。見渡す限りの畑のなかに民家が点々と建つそのなかに、アフレルの実家はあるのだ。


(192)
 クメゾウ「おーい、うおーい!」 遠くで手を振っているのはクメゾウ爺さんだ。農作業の途中で抜け出してきたらしい。迷彩柄のニッカポッカに麦藁帽子、トレードマークのサングラス。アロハシャツから伸びるごつごつした腕も、シワのよった顔も、真っ黒に日焼けしている。クメゾウ「よぉーきたのー!」


(193)
 ノルコとワクは車を飛び降りると、まっしぐらにクメゾウおじいちゃんの元に駆けていった。クメゾウ「いよう! チビっこども!」 ワク「イエァ! グランパ!」 といって飛びつくワクを、クメゾウ爺は軽々と持ち上げた。力仕事でこぶ立った手、その膂力は老いてますます盛んなのだった。


(194)
 クメゾウお爺さんはノルコ達の知らない遊びをたくさん知っている。まるで歩く玩具箱のような人なので、ノルコもワクもおじいちゃんが大好きだ。本当はノルコも「ヘイ! じーじ!」と言って飛び込みたかったのだが、つぶやけないことの気後れが少しあったりした。


(195)
 クメゾウ「んん? なんじゃノルコ? さっさと来んかい!」 そういってホレホレとワクを担いでない方の腕を差し出す。ノルコは“うん!”とうなずくと、その腕に飛びついた。おじいちゃんはノルコの体を持ちあげて、あっという間に肩の上に担いでしまった。


(196)
 アフレル「父さんただいま」 近くの空き地に車をとめたアフレルがやってきた。 クメゾウ「おー、よく来たな! 仕事は見つかったか?」 アフレル「いや、それがまだ」 クメゾウ「なんだ、まだニートなのか!」 アフレル「に、ニート?」 それはいったいいつの言葉だろうと、アフレルは首をかしげた。


(197)
 クメゾウ「はっはっは、まあ今では遠い昔の言葉だがな!」 ヨコ「うふふ、昔の方は何かと大変だったんですよねー」 クメゾウ「うんむ、そうなじゃぞー。ワク、ノルコ。母さんは相変わらずベッピンさんだのー、うちのヒキニートにはもったいないわ!」 アフレル「ひ、ひどぉ!」


(198)
 ヨコ「うふふ、私の旦那はヒキニート。うふふふ。ところで、お義母さんはお畑に?」 クメゾウ「ああ、かぼちゃ畑の雑草抜いとるわい、いって手伝ってやってくれるかのー。さあチビども! 今日はなにして遊ぶかな! HaHaHa!」 そういって二人を担いだまま家の中に入っていってしまった。


(199)
 ヨコが家の裏のカボチャ畑にいくと、ウメナがせっせと除草をしていた。紫色のレギンスにシルクの長袖シャツ。ひさしの長いピンク色のバイザーをかぶり、首の日焼けを防ぐためのスカーフがなんともお洒落。そのシャンとした姿を見るたびにヨコは「あんな歳のとり方をしたいもだわ」と思うのだ。


(200)
 ヨコ「お義母さん、来ました」 ウメナ「よお嫁。じいさんはどこ行ったい?」 ヨコはさりげなく手袋をはめつつ。ヨコ「お家へ」 ウメナ「あんのくそじじい! 野良仕事を嫁にまかせて孫と遊んどるんかい、ドタワケ!」 と言いつつカマを手に取り立ち上がる。 ヨコ「いつものことですね!」


(201)
 ウメナ「いつかキンタマ刈り取ってやるわ!」 と言いつつカマをぶんぶん振るウメナさん。ウメナ「ところで用意はしてきてるんだね?」 ヨコ「はいもちろん」 手袋の上に腕抜きをはめているヨコの装いは、もうばっちり農作業仕様になっていた。ウメナ「ふんっ、イビリがいがないね!」


(202)
 太陽の下、草をむしって汗流す。薬剤は使わないポリシーだ。大変だが、一つ一つこだわりのこもった野菜に育つ。ヨコ「実も大きくなって」 ウメナ「そろそろ収穫できるね」 ヨコ「毎年楽しみなんですよ、お義母さんのカボチャ」 ウメナ「世辞はいいから手を動かし」 口は悪いが本音では喜んでいたり。


(203)
 ウメナ「ノルコの調子はどうなんだい?」 ヨコ「まだ治る気配は……。お医者さまが言うには有機パラメトリの再結合がなんたら……」 ウメナ「細かいことはログを読んだからいいよ、友達とうまくいってないとか無いんだね?」 ヨコ「それはありがたいことに、みんな良い子たちで」 ウメナ「うむ」


(204)
 ウメナ「あの歳の頃が呟けないなんてのは、しんどいだろうねぇ」 ヨコ「ええ、時々無理やり呟こうとしたり。こっちも何とか察して代弁してあげるんですけど……」 ウメナ「ノルコはもっと歯がゆい思いをしているはずさ」 ヨコ「ええ」 ウメナ「早く治るといいんだけどねえ」


(205)
 ヨコ「そういえば、ノルコが何かを思いついたみたいで」 ウメナ「ん?」 ヨコ「呟けなくても呟ける方法とか。でも教えてくれないんですよ、アフレルさんは気づいたらしんですけど」 ウメナ「呟けなくても呟ける? なんだいそれは?」 禅問答のようなその問いに、二人はそろって首をかしげた。





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