ガチ百合ハーレム戦記
新王、尋問する
城の地下。
薄暗い通路の奥、拷問部屋の方から男の悲鳴が聞こえてくる。
――ペロペロペロ~。
――ヒイイイイイィィィィィ!
――ペロペロー!
――ヒギアアアアアァァァァ!
それは、宰相ゴーンの声だった。
魔物の女達の声も混ざっている。
なかなか口を割ろうとしない彼に拷問がかせられているのだ。
「おお、やってるやってる」
「よくもつわね」
拷問部屋へと続く通路を、リーンはジュアと並んで歩いていた。
祭壇の間を離れた後、城内にある森でジュアと合流してからやってきた。
森の中にある小宮がエルグァ族の支部に改装されて、ジュアとその部下達によって使われている。
そしてゴーンの尋問には、族長たるジュアが必ず加わることになっているのだ。
リーンは鉄格子の扉を開けて、拷問部屋の中に入る。
「どうだ? 少しは何か話したか?」
「全然ナノデース、リーン」
そこにはルーザをはじめとして、数名の魔物女がいた。
宰相ゴーンは両手両足を拘束された上で、木のベッドに寝かされている。
そして、魔物女に足の裏を舐められている。
「ペロペロー」
「もうやめてくれええええええええ!!」
魔物の女達は、交代で宰相の足の裏をなめ続けていた。
彼の全身はずっと震えっぱなしで、魔物女の舌先がチロリと足の裏に触れるたびに、この世の終わりのような絶叫を上げている。
足の裏の皮は、すでにずる剥けになっており、床には血が滴っていた。
足の裏を舐られめ続ける拷問。
それはこの世で最も苦しい拷問の一つである
足の裏の神経は体中の神経と繋がっている。
絶え間ない刺激を与えられることで、その者は徐々に発狂し、やがて死に至るのだ。
「話す気になったかー?」
そう言ってリーンは、宰相の鼻をつまんで無理やり自分の方を向かせた。
「う、うううう……」
ゴーンが真っ赤に充血した目でリーンを見てくる。
この拷問が始められてから三日が経つ。
彼は全身に滝のような汗を流して、息も絶え絶えだった。
「俺もあんまり暇じゃねーんだ。やったこと全部、洗いざらい話してくれねーってんなら、もう用はねえ。死ぬまで足の裏なめさせるぞ」
リーンは凄みを利かせて言う。
極悪人を相手に、容赦することなど何もないという態度だ。
「何日かかるかしらねーけど、魔物ちゃん達なら喜んで最後まで舐めきってくれるぜ?」
そして、風が吹いただけで飛び上がるほど敏感になった彼の足の裏を、こちょこちょと指でくすぐる。
「ふがああああああああ~~~!!?」
「これで最後だ。言うか? 言わないか? どっちだ!」
「ガクガクブルブル……も、もうやめてくれ!! 言う! 話す!!」
「最初から素直にそう言えば良いんだぜ」
リーンは彼の拘束具を外すと、ベッドの上に起き上がらせた。
ゴーンはブルブルと震えながら、やっとのことで起き上がる。
しかし、足を床に着くことはできなかった。
「じゃあまず一つ目の質問だ」
と言ってリーンは身を乗り出す。
ジュアとルーザは、近くにあった椅子に座り、示し合わせたように足を組む。
拷問部屋が、威圧的な空気に満たされた。
「あんた、本当に天人だったのか?」
「…………そうだ」
ゴーンはぼそぼそと小さな声で、リーンの質問に答え始めた。
「天界ってどんなところなんだよ?」
「な、何もない場所だ……」
「食い物とかは?」
「ない。天人は何も食べなくても生きていける……」
リーンは、ゴーンの言ったことを頭の中で反芻した。
――天人は何も食べなくても生きていける。
そしてゴーンの目の前をうろうろし、反り返るようにして天井を見上げる。
「ふーん……」
――本当なんだろうか?
それが正直な感想だった。
もしかするとこのおっさんは、変な妄想に取り付かれているだけなのかもしれない。
そんなことを考える。
「じゃあよ、天人は天界で一体何をしているんだ?」
「…………う」
ゴーンはそこで言いよどんだ。
「本当に天界に住んでいたんならわかるよな?」
「…………言えん」
「ああん?」
「それだけは……言えん、勘弁してくれ」
と言ってゴーンは泣きを入れてきた。
だが、リーンは容赦しない。
「じゃあペロペロだな」
「……!! たのむ! 勘弁してくれ! これだけは本当にまずいのだ!」
「なにがまずいんだ。あんたに発言を拒否する権利はない。言えないんなら、ペロペロして殺すだけだ」
「待ってくれ! これを言うと世界の法則が乱れてしまうのだ! 恐らくお前達も正気を保ってはおれん!」
「はあ?」
ゴーンがあまりに必死なので、リーンは一応様子を見ることにした。
「正気を保てない? 俺たちが?」
「そ、そうだ……。天人たちが天界でやっていることは、地上に生きるお前達には理解することはおろか、耳に入れることすら危険なことなのだ」
「じゃあ言えば良いじゃないか。そうしたらお前、ここから出られるかもしれないぜ?」
「うぐ…………」
そこでさらにゴーンは言いよどむ。
「言ったらお前も大変なことになる。そういうことか」
「う、うう……」
ゴーンはしぶしぶ頷いた。
正直、リーンにはさっぱり理解できなかった。
やっぱりただの妄想かとも思ったが、もう一歩だけ踏み込んでみることにした。
「もし、天人達が天界でやっていることを喋ったら、お前はどうなるんだ?」
「……………」
ゴーンはただ小刻みに震えている。
「それも言えないのか?」
「……………きょ」
「あ?」
ゴーンは虫よりも小さな声で何かを言った。
「………た…しい……が…きょ…………ウブブブブワ!」
すると突如、ゴーンがガクガクと震え始めた。
「なんだ?!」
そして胸を押さえながら後ろに反り返り、口から泡を吹いて苦しみ出した。
「おいっ!? おいー!!」
「ウゴゴゴゴ……!」
リーンは彼のからだを揺すってみるも、どうにもならない。
すっかり白目を剥いてしまっている。
まるで何かの禁断症状のようだ。
「ちっくしょう、医者だ! 医者よんでこーい!!」
そしてゴーンは、直ちに医法師による処置を受けた。
* * *
「まったくどういうことだぜ」
リーン達はひとまず地下室を出て、外城の内側のテラスにきていた。
日陰に立って、新鮮な外の空気を吸う。
「天人のことを聞き出そうとしたから、発作が起きたのかしら?」
「どうなんだろなー」
「アノ人、心臓、止まりカケテタね」
「とりあえず、わかってることを整理してみるか」
と言ってリーンは、首の骨をコキコキと鳴らした。
「ゴーンは間違いなく、自分こそがエルグァ族の始祖だって言ったんだよな」
「ええ。本当かどうかは確かめようがないけど」
「ソシテ昔ハ、魔物サンだったのネ」
「黒ボウズとか、暗黒トカゲにもなったことがあるって言っていたな。それってつまり生まれ変わり……、輪廻転生ってやつだよな」
「ゴーンが本当にエルグァの始祖なんだとしたら、そういうことにしておかないと、確かにつじつまが合わないわね。もう何千年も昔の話なんだから」
「そうなんだよなー」
リーンは、宰相ゴーンが元は天人であったことを確かめるために、彼を拷問にかけて天上のことを吐かせようとしていたのだ。
だが、どんなに責めてもゴーンは口を割ろうとせず、先ほどなどはついに発作を起して倒れてしまった。
「モヤモヤするぜ。このまま本当のことを聞かずにあいつを処刑しちまうのはマズい気がする」
「そうね。それは私も同感よ」
「ウヤムヤにする、良くないネ」
三人は再び考え込む。
もし、ゴーンの生まれ変わりの話が本当だとすれば、彼には前世の記憶があるということになる。
天界と魔界と人間界。
これら三界の記憶を持っている彼の供述は、すなわち世界の真理を言い表すものだろう。
何が何でも聞き出しておきたいとリーンは思う。
「もしかしたら俺たちにも、前の人生、前世ってやつがあるのかもしれないな」
「たまに居るわよね、前世の記憶があるって言う人」
「ハイハイハーイ!」
そこでルーザが元気良く手を上げた。
「マモーノのみんな、前世の記憶アル人多いネ」
「そうなのか?」
「ルーザの前世は、空飛ぶ魔物ダッタノネ」
「へえー。確かにルーザは自由な感じがするもんな」
リーンは自分が生まれる以前の記憶に想いを馳せる。
こうして改めて考えてみると、何となく前世の記憶があるような気がする。
ボンヤリとだが、「自分は以前、こんな生き物だったんだろうな」という感覚があるのだ。
自分の胸に手を当てる。
きっと自分は、ルーザのような人型の魔物だったんじゃなかろうかとリーンは思った。
「生まれ変わるごとに、徐々に人間に近づいていくのか……? そんでもって最後は天人になる。つまりは、そういうことなのかな」
「案外そうなのかもしれないわね。それで、ゴーンみたいに悪いことをした天人は、もう一度魔界からやり直しっていう」
「ワオッ、ソレは興味深い仕組ミネ!」
ルーザの瞳がキラキラと輝く。
服に隠し切れない巨大な胸が、ブルンと跳ねる。
魂が天界と魔界の間を循環しているというのなら、いつかルーザは人間になれるのだ。
もしかすると、天人にもなれるかもしれない。
その可能性はどういうわけか、強くルーザの心をときめかせていた。
「私もイツカ行ってミタイネ……」
そう言ってルーザは空を見上げた。
魔物である彼女は、天の円盤を直接眼にすることはできないのだが。
「どんな所なんだろうなー」
リーンも一緒になって見上げる。
天の円盤の下には、相変わらず光の塔がそびえている。
「ゴーンは何もない場所だって言っていたけどね」
「なんたって天人の住処だもんな。すげー静かな場所なんだろうぜ」
「キット、煩悩とは無縁の世界ナノヨ。魔物のミンナ、自分ノ欲望ノために苦シム。欲望から解放サレル。ソレハ素敵なコト」
そう言ってウットリと空を見上げるルーザ。
魔界においてもとりわけ高い知性をもつ彼女は、どの魔物よりも苦しみの根源を理解しているのだ。
何故、ゴーンは天人について話せないのか。
三人はそれからしばらく、その理由について協議した。
だが結局、わからずじまいだった。
「なあジュア。エルグァ族のことなんだけど、あの婿さんやら嫁さんやらを送り込むアレは、もうしなくていいんだな?」
リーンはジュアに聞いておきたかったことを切り出した。
「ええ。私達は魔力の維持なんて本当は望んでいなかった。私達の力を欲していたのは結局、国王を中心とする権力者達の方だったの」
戦いが終わった後に、ジュアが明かしたことの一つである。
実は彼女は、『エルグァの血を維持する一派』である“ふり”をして、国王達に近づいていた。
実際は、正反対のことを望んでいた。
「私達は早く、このエルグァの一族にかけられた呪いをすすぎたい」
「ただの人間に戻るってことで大丈夫なんだな? よし、まかせとけ。国王としてやれるだけのことをやってやるぜ!」
と言ってリーンは、自分の胸を叩く。
だがどういうわけか、ジュアはじっとりとした目でリーンを睨んできた。
「そして、そんな寛大な国王さまは、私に一体どんな見返りを求めてくるのかしら?」
「ギクリッ」
もちろん、欲深なリーンのことだから、タダでとは思っていなかったのだが、完全に見抜かれていた。
「やっぱり下心があっるのね……?」
「うーん、やっぱりバレちまってたか! ジュア、こいつを受け取って欲しいんだ」
と言ってリーンが取り出したのは、赤い百合の花をモチーフとしたバッチだった。
バッチにはそれぞれ番号がふってある。
「ふーん……」
ジュアはしぶしぶながらそのバッチを受け取った。
番号は『7』だった。
「俺のハーレムの一員になって欲しい! そのバッチは、その証だ!」
「やっぱりねー」
「だ、ダメか……?」
といってリーンは、恐る恐るジュアの顔色を伺う。
ジュアほどの美人であれば、何が何でもハーレムに加えたい。
だが、無理やり引きずり込むことは、したくない。
あくまでも、双方の同意の上で引き込みたい。
そこで考えたのが、このバッチを使った方法だった。
「私、これでも結構忙しいんだけどねー。エルグァの女王様だし」
「そこをなんとか頼むぜ! そのバッチを肌身離さず持っていてくれるだけでいいんだ」
「まあ……それくらいなら別にいいけどね。どうやら便利なバッチみたいだし」
ジュアはバッチを指で軽く擦ってから、息を吹きかけた。
すると、バッチの上に魔法映写が投影された。
それに呼応するようにして、リーンの懐からキーンという音が鳴り響いた。
リーンは懐からその音の出している物を取り出す。
それは、ジュアに渡したのと同じバッチだった。
「アルメダのブローチと同じ原理だ。いつでもどこでも話ができる。これを持ってれば、何かあった時すぐに連絡とれるだろ?」
国王といつでもどこでも連絡が取れる。
それは、実に便利な道具に違いなかった。
ジュアはニヤリと笑って言った。
「そして私は、しょっちゅう貴方に夜伽を求められるわけね?」
「うん、まあ、そいういこった!」
「よくもまあ、こういうこと思いつくわね……。こんな便利なもの。頂かないわけにはいかないじゃない」
「ふへへ。そう悪く言うなって。俺と一緒に寝るとスゲー肌が綺麗になるんだぜ?」
と言って、リーンもまたニヤリと笑う。
「それは実に魅力的ね。考えておくわ!」
どうやらジュアの攻略は、まだまだ難航しそうだった。
「リーン、私もそのバッチ欲しいネ!」
ルーザがリーンの袖を引っ張ってきた。
どうやらハーレムに加わりたいらしい。
「えっ? でもルーザはマジスの嫁さんだろ? いいのかよ?」
「ヒトズマはダメデスカー?」
「いや、そんなことは無いんだけどな。ルーザ達さえ良ければ、俺は全然OKだ!」
と言ってリーンは、『8』の番号が記されたバッチをルーザに渡した。
「ヤターッ!」
ルーザはそのバッチを受け取ると、その場で子供のように飛び跳ねて喜んだ。
薄暗い通路の奥、拷問部屋の方から男の悲鳴が聞こえてくる。
――ペロペロペロ~。
――ヒイイイイイィィィィィ!
――ペロペロー!
――ヒギアアアアアァァァァ!
それは、宰相ゴーンの声だった。
魔物の女達の声も混ざっている。
なかなか口を割ろうとしない彼に拷問がかせられているのだ。
「おお、やってるやってる」
「よくもつわね」
拷問部屋へと続く通路を、リーンはジュアと並んで歩いていた。
祭壇の間を離れた後、城内にある森でジュアと合流してからやってきた。
森の中にある小宮がエルグァ族の支部に改装されて、ジュアとその部下達によって使われている。
そしてゴーンの尋問には、族長たるジュアが必ず加わることになっているのだ。
リーンは鉄格子の扉を開けて、拷問部屋の中に入る。
「どうだ? 少しは何か話したか?」
「全然ナノデース、リーン」
そこにはルーザをはじめとして、数名の魔物女がいた。
宰相ゴーンは両手両足を拘束された上で、木のベッドに寝かされている。
そして、魔物女に足の裏を舐められている。
「ペロペロー」
「もうやめてくれええええええええ!!」
魔物の女達は、交代で宰相の足の裏をなめ続けていた。
彼の全身はずっと震えっぱなしで、魔物女の舌先がチロリと足の裏に触れるたびに、この世の終わりのような絶叫を上げている。
足の裏の皮は、すでにずる剥けになっており、床には血が滴っていた。
足の裏を舐られめ続ける拷問。
それはこの世で最も苦しい拷問の一つである
足の裏の神経は体中の神経と繋がっている。
絶え間ない刺激を与えられることで、その者は徐々に発狂し、やがて死に至るのだ。
「話す気になったかー?」
そう言ってリーンは、宰相の鼻をつまんで無理やり自分の方を向かせた。
「う、うううう……」
ゴーンが真っ赤に充血した目でリーンを見てくる。
この拷問が始められてから三日が経つ。
彼は全身に滝のような汗を流して、息も絶え絶えだった。
「俺もあんまり暇じゃねーんだ。やったこと全部、洗いざらい話してくれねーってんなら、もう用はねえ。死ぬまで足の裏なめさせるぞ」
リーンは凄みを利かせて言う。
極悪人を相手に、容赦することなど何もないという態度だ。
「何日かかるかしらねーけど、魔物ちゃん達なら喜んで最後まで舐めきってくれるぜ?」
そして、風が吹いただけで飛び上がるほど敏感になった彼の足の裏を、こちょこちょと指でくすぐる。
「ふがああああああああ~~~!!?」
「これで最後だ。言うか? 言わないか? どっちだ!」
「ガクガクブルブル……も、もうやめてくれ!! 言う! 話す!!」
「最初から素直にそう言えば良いんだぜ」
リーンは彼の拘束具を外すと、ベッドの上に起き上がらせた。
ゴーンはブルブルと震えながら、やっとのことで起き上がる。
しかし、足を床に着くことはできなかった。
「じゃあまず一つ目の質問だ」
と言ってリーンは身を乗り出す。
ジュアとルーザは、近くにあった椅子に座り、示し合わせたように足を組む。
拷問部屋が、威圧的な空気に満たされた。
「あんた、本当に天人だったのか?」
「…………そうだ」
ゴーンはぼそぼそと小さな声で、リーンの質問に答え始めた。
「天界ってどんなところなんだよ?」
「な、何もない場所だ……」
「食い物とかは?」
「ない。天人は何も食べなくても生きていける……」
リーンは、ゴーンの言ったことを頭の中で反芻した。
――天人は何も食べなくても生きていける。
そしてゴーンの目の前をうろうろし、反り返るようにして天井を見上げる。
「ふーん……」
――本当なんだろうか?
それが正直な感想だった。
もしかするとこのおっさんは、変な妄想に取り付かれているだけなのかもしれない。
そんなことを考える。
「じゃあよ、天人は天界で一体何をしているんだ?」
「…………う」
ゴーンはそこで言いよどんだ。
「本当に天界に住んでいたんならわかるよな?」
「…………言えん」
「ああん?」
「それだけは……言えん、勘弁してくれ」
と言ってゴーンは泣きを入れてきた。
だが、リーンは容赦しない。
「じゃあペロペロだな」
「……!! たのむ! 勘弁してくれ! これだけは本当にまずいのだ!」
「なにがまずいんだ。あんたに発言を拒否する権利はない。言えないんなら、ペロペロして殺すだけだ」
「待ってくれ! これを言うと世界の法則が乱れてしまうのだ! 恐らくお前達も正気を保ってはおれん!」
「はあ?」
ゴーンがあまりに必死なので、リーンは一応様子を見ることにした。
「正気を保てない? 俺たちが?」
「そ、そうだ……。天人たちが天界でやっていることは、地上に生きるお前達には理解することはおろか、耳に入れることすら危険なことなのだ」
「じゃあ言えば良いじゃないか。そうしたらお前、ここから出られるかもしれないぜ?」
「うぐ…………」
そこでさらにゴーンは言いよどむ。
「言ったらお前も大変なことになる。そういうことか」
「う、うう……」
ゴーンはしぶしぶ頷いた。
正直、リーンにはさっぱり理解できなかった。
やっぱりただの妄想かとも思ったが、もう一歩だけ踏み込んでみることにした。
「もし、天人達が天界でやっていることを喋ったら、お前はどうなるんだ?」
「……………」
ゴーンはただ小刻みに震えている。
「それも言えないのか?」
「……………きょ」
「あ?」
ゴーンは虫よりも小さな声で何かを言った。
「………た…しい……が…きょ…………ウブブブブワ!」
すると突如、ゴーンがガクガクと震え始めた。
「なんだ?!」
そして胸を押さえながら後ろに反り返り、口から泡を吹いて苦しみ出した。
「おいっ!? おいー!!」
「ウゴゴゴゴ……!」
リーンは彼のからだを揺すってみるも、どうにもならない。
すっかり白目を剥いてしまっている。
まるで何かの禁断症状のようだ。
「ちっくしょう、医者だ! 医者よんでこーい!!」
そしてゴーンは、直ちに医法師による処置を受けた。
* * *
「まったくどういうことだぜ」
リーン達はひとまず地下室を出て、外城の内側のテラスにきていた。
日陰に立って、新鮮な外の空気を吸う。
「天人のことを聞き出そうとしたから、発作が起きたのかしら?」
「どうなんだろなー」
「アノ人、心臓、止まりカケテタね」
「とりあえず、わかってることを整理してみるか」
と言ってリーンは、首の骨をコキコキと鳴らした。
「ゴーンは間違いなく、自分こそがエルグァ族の始祖だって言ったんだよな」
「ええ。本当かどうかは確かめようがないけど」
「ソシテ昔ハ、魔物サンだったのネ」
「黒ボウズとか、暗黒トカゲにもなったことがあるって言っていたな。それってつまり生まれ変わり……、輪廻転生ってやつだよな」
「ゴーンが本当にエルグァの始祖なんだとしたら、そういうことにしておかないと、確かにつじつまが合わないわね。もう何千年も昔の話なんだから」
「そうなんだよなー」
リーンは、宰相ゴーンが元は天人であったことを確かめるために、彼を拷問にかけて天上のことを吐かせようとしていたのだ。
だが、どんなに責めてもゴーンは口を割ろうとせず、先ほどなどはついに発作を起して倒れてしまった。
「モヤモヤするぜ。このまま本当のことを聞かずにあいつを処刑しちまうのはマズい気がする」
「そうね。それは私も同感よ」
「ウヤムヤにする、良くないネ」
三人は再び考え込む。
もし、ゴーンの生まれ変わりの話が本当だとすれば、彼には前世の記憶があるということになる。
天界と魔界と人間界。
これら三界の記憶を持っている彼の供述は、すなわち世界の真理を言い表すものだろう。
何が何でも聞き出しておきたいとリーンは思う。
「もしかしたら俺たちにも、前の人生、前世ってやつがあるのかもしれないな」
「たまに居るわよね、前世の記憶があるって言う人」
「ハイハイハーイ!」
そこでルーザが元気良く手を上げた。
「マモーノのみんな、前世の記憶アル人多いネ」
「そうなのか?」
「ルーザの前世は、空飛ぶ魔物ダッタノネ」
「へえー。確かにルーザは自由な感じがするもんな」
リーンは自分が生まれる以前の記憶に想いを馳せる。
こうして改めて考えてみると、何となく前世の記憶があるような気がする。
ボンヤリとだが、「自分は以前、こんな生き物だったんだろうな」という感覚があるのだ。
自分の胸に手を当てる。
きっと自分は、ルーザのような人型の魔物だったんじゃなかろうかとリーンは思った。
「生まれ変わるごとに、徐々に人間に近づいていくのか……? そんでもって最後は天人になる。つまりは、そういうことなのかな」
「案外そうなのかもしれないわね。それで、ゴーンみたいに悪いことをした天人は、もう一度魔界からやり直しっていう」
「ワオッ、ソレは興味深い仕組ミネ!」
ルーザの瞳がキラキラと輝く。
服に隠し切れない巨大な胸が、ブルンと跳ねる。
魂が天界と魔界の間を循環しているというのなら、いつかルーザは人間になれるのだ。
もしかすると、天人にもなれるかもしれない。
その可能性はどういうわけか、強くルーザの心をときめかせていた。
「私もイツカ行ってミタイネ……」
そう言ってルーザは空を見上げた。
魔物である彼女は、天の円盤を直接眼にすることはできないのだが。
「どんな所なんだろうなー」
リーンも一緒になって見上げる。
天の円盤の下には、相変わらず光の塔がそびえている。
「ゴーンは何もない場所だって言っていたけどね」
「なんたって天人の住処だもんな。すげー静かな場所なんだろうぜ」
「キット、煩悩とは無縁の世界ナノヨ。魔物のミンナ、自分ノ欲望ノために苦シム。欲望から解放サレル。ソレハ素敵なコト」
そう言ってウットリと空を見上げるルーザ。
魔界においてもとりわけ高い知性をもつ彼女は、どの魔物よりも苦しみの根源を理解しているのだ。
何故、ゴーンは天人について話せないのか。
三人はそれからしばらく、その理由について協議した。
だが結局、わからずじまいだった。
「なあジュア。エルグァ族のことなんだけど、あの婿さんやら嫁さんやらを送り込むアレは、もうしなくていいんだな?」
リーンはジュアに聞いておきたかったことを切り出した。
「ええ。私達は魔力の維持なんて本当は望んでいなかった。私達の力を欲していたのは結局、国王を中心とする権力者達の方だったの」
戦いが終わった後に、ジュアが明かしたことの一つである。
実は彼女は、『エルグァの血を維持する一派』である“ふり”をして、国王達に近づいていた。
実際は、正反対のことを望んでいた。
「私達は早く、このエルグァの一族にかけられた呪いをすすぎたい」
「ただの人間に戻るってことで大丈夫なんだな? よし、まかせとけ。国王としてやれるだけのことをやってやるぜ!」
と言ってリーンは、自分の胸を叩く。
だがどういうわけか、ジュアはじっとりとした目でリーンを睨んできた。
「そして、そんな寛大な国王さまは、私に一体どんな見返りを求めてくるのかしら?」
「ギクリッ」
もちろん、欲深なリーンのことだから、タダでとは思っていなかったのだが、完全に見抜かれていた。
「やっぱり下心があっるのね……?」
「うーん、やっぱりバレちまってたか! ジュア、こいつを受け取って欲しいんだ」
と言ってリーンが取り出したのは、赤い百合の花をモチーフとしたバッチだった。
バッチにはそれぞれ番号がふってある。
「ふーん……」
ジュアはしぶしぶながらそのバッチを受け取った。
番号は『7』だった。
「俺のハーレムの一員になって欲しい! そのバッチは、その証だ!」
「やっぱりねー」
「だ、ダメか……?」
といってリーンは、恐る恐るジュアの顔色を伺う。
ジュアほどの美人であれば、何が何でもハーレムに加えたい。
だが、無理やり引きずり込むことは、したくない。
あくまでも、双方の同意の上で引き込みたい。
そこで考えたのが、このバッチを使った方法だった。
「私、これでも結構忙しいんだけどねー。エルグァの女王様だし」
「そこをなんとか頼むぜ! そのバッチを肌身離さず持っていてくれるだけでいいんだ」
「まあ……それくらいなら別にいいけどね。どうやら便利なバッチみたいだし」
ジュアはバッチを指で軽く擦ってから、息を吹きかけた。
すると、バッチの上に魔法映写が投影された。
それに呼応するようにして、リーンの懐からキーンという音が鳴り響いた。
リーンは懐からその音の出している物を取り出す。
それは、ジュアに渡したのと同じバッチだった。
「アルメダのブローチと同じ原理だ。いつでもどこでも話ができる。これを持ってれば、何かあった時すぐに連絡とれるだろ?」
国王といつでもどこでも連絡が取れる。
それは、実に便利な道具に違いなかった。
ジュアはニヤリと笑って言った。
「そして私は、しょっちゅう貴方に夜伽を求められるわけね?」
「うん、まあ、そいういこった!」
「よくもまあ、こういうこと思いつくわね……。こんな便利なもの。頂かないわけにはいかないじゃない」
「ふへへ。そう悪く言うなって。俺と一緒に寝るとスゲー肌が綺麗になるんだぜ?」
と言って、リーンもまたニヤリと笑う。
「それは実に魅力的ね。考えておくわ!」
どうやらジュアの攻略は、まだまだ難航しそうだった。
「リーン、私もそのバッチ欲しいネ!」
ルーザがリーンの袖を引っ張ってきた。
どうやらハーレムに加わりたいらしい。
「えっ? でもルーザはマジスの嫁さんだろ? いいのかよ?」
「ヒトズマはダメデスカー?」
「いや、そんなことは無いんだけどな。ルーザ達さえ良ければ、俺は全然OKだ!」
と言ってリーンは、『8』の番号が記されたバッチをルーザに渡した。
「ヤターッ!」
ルーザはそのバッチを受け取ると、その場で子供のように飛び跳ねて喜んだ。
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