ガチ百合ハーレム戦記
牧場、青髪の若者
リーン達がスノーフルにおいて、ドラゴン・スレイヤー・スレイヤー・ドラゴンとの死闘を繰り広げてから、二週間が経過していた。
「ウモー」
「うわっ、そんなにべろべろすんなってこのやろうっ」
エヴァー湖の畔にある農場で、一人の青髪の若者が牛と戯れていた。
「モー、ウモモー」
木の柵で囲まれた場所に、数頭の肉牛が放し飼いになっている。
黒くてぼってりとした牛の体は、まるでワックスをかけたようににツヤツヤだ。
「それにしても美味そうだな、お前」
「ウモーン」
青年は手にしたブラシで肉牛の全身を丹念に磨いている。
ここは、エヴァーハル宮殿の御用農場。
育てている作物も、養っている家畜も、その全てが最高級品だ。
「よーし、よしよし」
「ニール! いつまでも遊んでないでこっちを手伝わんか!」
ニールと呼ばれた青年は、親方の怒鳴り声がした方を向いて言う。
「へーい、すぐ行きますぜ!」
青年は牛の首を軽く撫でてから、そそくさと厩舎の方に走っていった。
* * *
勇者リーンは死んだ。
彼女は、スノーフルに突如現れた竜と戦って、その口の中に飛び込んだまま、魔界へと連れ去られてしまったのだ。
後に残されたものは、豪華な装飾が施されたスプレンディアの鞘だけだった。
致死の呪いをかけられた剣。
その鞘だけが残されたことはすなわち、リーンが既にこの世には居ないことを意味していた。
残されたスプレンディアの鞘は、王宮の者達にとって、リーンの死を証明するのに十分過ぎるものだったのだ。
メイリー、バルザー、エルレンの三人は、失意の内にスノーフルを後にする。
その時に一人、リーンの形見である、スプレンディアの鞘を運ぶために、スノーフルの魔術師が一人同行した。
その魔術師は、リーンが泊まっていた宿屋である満月亭に赴くと、そこにいた宮廷魔術師ゲンリにスプレンディアの鞘を預け、そしてさっさとスノーフルに帰ってしまった。
ちなみに、ニール(neel)を逆さまに読むとリーン(leen)になるが、それは単なる偶然である。
* * *
「ちゃっちゃとやらねえか、この青髪野郎! ここをどこだと思ってやがる、恐れ多くも国王様の御用農場だぞ!」
「へいっ、親方ぁ!」
ニールは、厩舎の床にこびりついた糞をかき出しながら威勢よく返した。
「今はたまたま人手が足りないから働かせてやってるのだ。本当ならここは、お前のようなどこの馬の骨とも知れぬ者が働ける場所ではないのだぞ!」
容赦なく背後から飛んでくる怒号にもめげず、青年は作業を続ける。
「ちょっとでも手を抜いたら容赦なく叩き出すからな!」
髭面の無骨なその男は、そう言うと隣の房の掃除を始めた。
「へいっ、親方ぁ!」
日も昇らぬ朝から、農場のあちらこちらに振り回され、休む間もなく働きっぱなしだ。
家畜小屋を一つぴかぴかに磨き上げたところで、ようやく昼休憩になった。
エヴァー湖に面した草原の上で伸びていると、赤茶けた癖っ毛の少女が、湖の方から走ってきた。
少女は両手にバケツを抱えている。
「お昼ごはんなのー」
「おおっ」
その声に、ニールは跳ね起きる。
「湖で冷やしたトマトなのー」
そして肩を落とす。
「たはーっ、またトマトだけかー、エリィちゃん」
「でも甘くておいしいのー」
エリィと呼ばれた少女は、まだ8歳。
年齢が二桁に達していないから、まだ手は出せないなとニールは思っている。
「はいっ、ニールおにいちゃん!」
「おう、ありがとよ!」
ニールは湖の水とトマトの入ったバケツを受け取ると、まずはその水を直接ごくごくと飲んだ。
「ぷはーっ」
「わーい、お馬さんみたいっ」
「ああ、本当だな」
続いてトマトにかぶりつく。
エリィは、ニールの隣にちょこんと座る。
「エリィはお昼食ったのか?」
「うんっ、トマトとチーズを挟んだ黒パンだったのっ」
「うわっ、めっちゃご馳走じゃないか。パンなんて一日一切れしか当たらないぜ」
「おとーさん厳しいの?」
「ああ、確かに親方は厳しいな。ずっと怒鳴られてばかりだ」
「でもね、エリィにはデレデレなんだよー? そのうちニールにもデレデレになるよー」
「そうかな……?」
うふふー、と笑うエリィを横目にみながら、ニールはトマトを齧った。
大陸中を旅して回る自由人……ということになっているニール。
手持ちの金が尽きてきていた彼は、この辺りでひと稼ぎしたいと思っていた。
湖で魚を釣って、なんとか空腹をしのいでいた彼の元に、どこかの農場から逃げ出した牛が走ってきた。
「お牛さんにまたがってる人はじめてみたのっ」
ニールはここぞとばかりにその牛を捕まえようとした。
捕まえて売って、金にしようと思った
だが、もくしを外して逃げた牛だったので、掴む場所がまったくなかった。
投げるロープも持っていなかった。
そこでニールはロディオをした。
「馬みたいにはいかなかったけどなー」
ニールは暴れまわる牛の背で小一時間の格闘を繰り広げ、そして牛がクタクタになったところで、エリィとその父親に発見された。
滅茶苦茶に怒られた。
その牛は、王宮に納品するための肉牛だったのだ。
すっかり価値が下がってしまった牛の弁償をするために、ニールはその農場でただ働きをすることになった。
「昨日ね、勇者様のお葬儀があったんだって。お母さんが言ってたのー」
「ああ、竜にやられて死んじまった人か」
「そうなの。それでね、その人の故郷からもいっぱい人が来たんだって」
「……まじで?」
「うんっ、遠いところなのに、すごいね」
カテリーナ達か。
そうニールは思っていた。
「きっと、色んな人に愛されてたんだろうな」
「すごい人だったんだねー」
「もうしわけないぜ……」
「ほえっ?」
「いや、なんでもないんだぜ、エリィちゃん」
と言ってトマトをかじる。
するとエリィは、湖に向かって両手を合わせ、目を瞑って祈り始めた。
「どうしたんだ?」
「お祈りするのー。エリィ達のために戦ってくれた勇者さまのために」
ニールは湖の方向に目を向ける。
そこにははっきりと、天へと伸びる光の塔が見えていた。
「エリィはいい子だなー」
「えへへへ」
「頭なでてやるぜ」
「うわぁーい」
エリィの癖っ毛をくしゃくしゃと撫でる。
少女はすっかり彼に懐いていた。
「……おい、ニール」
「ぐぇ!?」
すると、後ろからごつい手で首を握られた。
親方だった。
「ワシの娘に……なにをしておる?」
「……あわわわわわ」
「おとーさんなのー!」
そのまま上に持ち上げられる。
「さっさと仕事にもどれーい!」
「へいっ、親方ぁー!」
ニールは食べかけのトマトを手に握りながら、脱兎のごとく駆けて行く。
「ウモー」
「うわっ、そんなにべろべろすんなってこのやろうっ」
エヴァー湖の畔にある農場で、一人の青髪の若者が牛と戯れていた。
「モー、ウモモー」
木の柵で囲まれた場所に、数頭の肉牛が放し飼いになっている。
黒くてぼってりとした牛の体は、まるでワックスをかけたようににツヤツヤだ。
「それにしても美味そうだな、お前」
「ウモーン」
青年は手にしたブラシで肉牛の全身を丹念に磨いている。
ここは、エヴァーハル宮殿の御用農場。
育てている作物も、養っている家畜も、その全てが最高級品だ。
「よーし、よしよし」
「ニール! いつまでも遊んでないでこっちを手伝わんか!」
ニールと呼ばれた青年は、親方の怒鳴り声がした方を向いて言う。
「へーい、すぐ行きますぜ!」
青年は牛の首を軽く撫でてから、そそくさと厩舎の方に走っていった。
* * *
勇者リーンは死んだ。
彼女は、スノーフルに突如現れた竜と戦って、その口の中に飛び込んだまま、魔界へと連れ去られてしまったのだ。
後に残されたものは、豪華な装飾が施されたスプレンディアの鞘だけだった。
致死の呪いをかけられた剣。
その鞘だけが残されたことはすなわち、リーンが既にこの世には居ないことを意味していた。
残されたスプレンディアの鞘は、王宮の者達にとって、リーンの死を証明するのに十分過ぎるものだったのだ。
メイリー、バルザー、エルレンの三人は、失意の内にスノーフルを後にする。
その時に一人、リーンの形見である、スプレンディアの鞘を運ぶために、スノーフルの魔術師が一人同行した。
その魔術師は、リーンが泊まっていた宿屋である満月亭に赴くと、そこにいた宮廷魔術師ゲンリにスプレンディアの鞘を預け、そしてさっさとスノーフルに帰ってしまった。
ちなみに、ニール(neel)を逆さまに読むとリーン(leen)になるが、それは単なる偶然である。
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「ちゃっちゃとやらねえか、この青髪野郎! ここをどこだと思ってやがる、恐れ多くも国王様の御用農場だぞ!」
「へいっ、親方ぁ!」
ニールは、厩舎の床にこびりついた糞をかき出しながら威勢よく返した。
「今はたまたま人手が足りないから働かせてやってるのだ。本当ならここは、お前のようなどこの馬の骨とも知れぬ者が働ける場所ではないのだぞ!」
容赦なく背後から飛んでくる怒号にもめげず、青年は作業を続ける。
「ちょっとでも手を抜いたら容赦なく叩き出すからな!」
髭面の無骨なその男は、そう言うと隣の房の掃除を始めた。
「へいっ、親方ぁ!」
日も昇らぬ朝から、農場のあちらこちらに振り回され、休む間もなく働きっぱなしだ。
家畜小屋を一つぴかぴかに磨き上げたところで、ようやく昼休憩になった。
エヴァー湖に面した草原の上で伸びていると、赤茶けた癖っ毛の少女が、湖の方から走ってきた。
少女は両手にバケツを抱えている。
「お昼ごはんなのー」
「おおっ」
その声に、ニールは跳ね起きる。
「湖で冷やしたトマトなのー」
そして肩を落とす。
「たはーっ、またトマトだけかー、エリィちゃん」
「でも甘くておいしいのー」
エリィと呼ばれた少女は、まだ8歳。
年齢が二桁に達していないから、まだ手は出せないなとニールは思っている。
「はいっ、ニールおにいちゃん!」
「おう、ありがとよ!」
ニールは湖の水とトマトの入ったバケツを受け取ると、まずはその水を直接ごくごくと飲んだ。
「ぷはーっ」
「わーい、お馬さんみたいっ」
「ああ、本当だな」
続いてトマトにかぶりつく。
エリィは、ニールの隣にちょこんと座る。
「エリィはお昼食ったのか?」
「うんっ、トマトとチーズを挟んだ黒パンだったのっ」
「うわっ、めっちゃご馳走じゃないか。パンなんて一日一切れしか当たらないぜ」
「おとーさん厳しいの?」
「ああ、確かに親方は厳しいな。ずっと怒鳴られてばかりだ」
「でもね、エリィにはデレデレなんだよー? そのうちニールにもデレデレになるよー」
「そうかな……?」
うふふー、と笑うエリィを横目にみながら、ニールはトマトを齧った。
大陸中を旅して回る自由人……ということになっているニール。
手持ちの金が尽きてきていた彼は、この辺りでひと稼ぎしたいと思っていた。
湖で魚を釣って、なんとか空腹をしのいでいた彼の元に、どこかの農場から逃げ出した牛が走ってきた。
「お牛さんにまたがってる人はじめてみたのっ」
ニールはここぞとばかりにその牛を捕まえようとした。
捕まえて売って、金にしようと思った
だが、もくしを外して逃げた牛だったので、掴む場所がまったくなかった。
投げるロープも持っていなかった。
そこでニールはロディオをした。
「馬みたいにはいかなかったけどなー」
ニールは暴れまわる牛の背で小一時間の格闘を繰り広げ、そして牛がクタクタになったところで、エリィとその父親に発見された。
滅茶苦茶に怒られた。
その牛は、王宮に納品するための肉牛だったのだ。
すっかり価値が下がってしまった牛の弁償をするために、ニールはその農場でただ働きをすることになった。
「昨日ね、勇者様のお葬儀があったんだって。お母さんが言ってたのー」
「ああ、竜にやられて死んじまった人か」
「そうなの。それでね、その人の故郷からもいっぱい人が来たんだって」
「……まじで?」
「うんっ、遠いところなのに、すごいね」
カテリーナ達か。
そうニールは思っていた。
「きっと、色んな人に愛されてたんだろうな」
「すごい人だったんだねー」
「もうしわけないぜ……」
「ほえっ?」
「いや、なんでもないんだぜ、エリィちゃん」
と言ってトマトをかじる。
するとエリィは、湖に向かって両手を合わせ、目を瞑って祈り始めた。
「どうしたんだ?」
「お祈りするのー。エリィ達のために戦ってくれた勇者さまのために」
ニールは湖の方向に目を向ける。
そこにははっきりと、天へと伸びる光の塔が見えていた。
「エリィはいい子だなー」
「えへへへ」
「頭なでてやるぜ」
「うわぁーい」
エリィの癖っ毛をくしゃくしゃと撫でる。
少女はすっかり彼に懐いていた。
「……おい、ニール」
「ぐぇ!?」
すると、後ろからごつい手で首を握られた。
親方だった。
「ワシの娘に……なにをしておる?」
「……あわわわわわ」
「おとーさんなのー!」
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