ガチ百合ハーレム戦記

ナガハシ

無情、魔除けの儀

 エリートナイト 男
 Lv40 土属性


 リーンは走りながら、レベルモノクルでバルザーのステータスを確認する。


「ホントだ、俺より強えーぜ」


 そしておそらく、ジュアはもっと強いのだろう。
 リーンは、自分より格上の二人を相手に、どうして勝てたのかと我ながら不思議に思う。


「まあ、運もあるしな」 


 ひとまずそう納得しておいて、今度はエルレンのステータスを調べる。


 金色医法師 男
 Lv20 金属性


「おおっ?」


 そして驚いた。
 金色といえば、水色、緑色に続く医法師の格だ。
 レベルも10歳という年齢にしては破格のものだ。


「はぁ、はぁ……。どうしましたか、リーン?」


 肩で息をしながら懸命に走っているエルレンが聞いてくる。


「リーン、変なことしてないで真面目に走りなさい!」
「おうよ!」


 メイリーに窘められて、リーンは再び前を向く。
 そして走りながら考える。
 なぜエルレンは水色医法師のままなのか。
 実力的には十分に金色クラスであるにも関わらず。


(城のヤツら、なんか意地悪してねえか?)


 これではまるで、わざと水色のままにされているみたいだ。


(きっと、都合の悪いことがあるんだな。大人の事情ってやつだ)


 リーンはモヤモヤとした気持ちを抱えながら走る。




 * * *




「みんな、もう大丈夫よ」


 メイリーが後ろから告げる。
 それにあわせて四人は走るのをやめた。


「はぁ、はぁ……」


 エルレンはかなり辛そうだった。


「ここから先は結界が効いているから、魔物の数がかなり減るわ」
「結界?」
「スノーフルの周辺には、魔物除けの巨大な結界が張ってあるの」
「街までけっこう距離があるぜ?」
「それがエイダのすごいところよ。あの子は本気になれば、半径1エルデンの範囲に結界を張り巡らせることが出来る」
「あの天然ねえちゃんがやったのか。流石だな」


 リーンは結界の範囲内を見渡す。
 特に境界線のようなものは見えないが、何となく嫌な感じがした。
 腹の底が落ち着かないような、むずむずするような。


「確かに結界だな」
「え? わかるのリーン?」
「ああ、なんとなくな」


 四人はエルレンの呼吸が落ち着くのを待ってから、歩き始める。


「大丈夫か、エルレン君」
「はい、バルザーさん」


 エルレンはずっとバルザーの後ろについている。


「剣と魔法を両方使えるなんて、やっぱりバルザーさんはすごい方です」
「ふっ、そんなことはない。王宮には俺よりもっとすごい奴がいる」
「でもすごいです! 僕も、術が使えれば少しは魔物と戦えるのに……」
「なに?」


 バルザーは少年の言葉を聞いて首を傾げた。


「医法術を使えないのか?」
「はい、そうなんです。でもあれ? リーンさんから……」
「ああ、教えてなかったっけな。バルザー、エルレンは今、わけあって術が使えないんだ」


 リーンは、エルレンが術を使えなくなった理由をバルザーに教えた。 
 そして、スノーフルでエルレンの術を使えるようにして、その力を借りて剣の呪いを解くつもりであることを伝えた。


「だから子犬を連れているのか……」
「そうなんだぜ」
「わからん……お前の考えていることは、わからん……!」


 そう言ってバルザーは眉間を指で押さえる。
 頭が痛いようだ。


「犬の里親を見つければ、術を使えるようになる? その根拠がまずわからん。そしてそれを当てにしているお前の神経がわからん」
「わかるんじゃない、信じるんだ!」


 リーンはピシャリと言った。


「バルザーは理屈で考えすぎるんだ。理屈ってのは、絶対どこかで綻びが出るもんだ。そこがきっとお前の弱点になっちまってるんだぜ」
「……むう」
「物事ってのは、もっとこう、理屈抜きで押し開くものなんだ。俺的にはな」


 バルザーは首を振る。


「百歩譲って、お前の言う通りだったとしよう。だが俺には真似のできないことだ」
「まっ、そうかもな」




 * * *




 さらに一行は歩みを進める。
 スノーフルの防壁がかなり近くに見えてきた。


「すごく大きいです」
「防壁の中には、空から飛んで来る魔物を撃退するための投射機も置いてあるわ」
「完全防御なんですね」
「そのくらいの備えがないと、ここでは暮していけないのよ」


 その時、リーンの背筋にザワザワと悪寒が走った。


「おいおい、メイリー。来ちまったぜ」
「あらやだ。魔物の話をしていると、決まってその魔物が現れるわね」


――バサッ、バサッ


 サルのような腕を持つ黒いコウモリが、空から二体飛んで来る。


「ダークエンピーよ。そこそこ結界には強い魔物だけど、こんな街の近くまで飛んで来るなんて」


 メイリーは腰に吊るしてあった鉄扇を手に取りながら言う。


「結界が弱ってきているのね。エイダがこの結果を張ってから、随分経ってるから」
「いいことじゃねーな」
「そうね。早くエイダに戻ってきてもらわないと」


 剣を抜こうとしたバルザーを制しつつ、リーンとメイリーが前に出る。


「空を飛ぶ魔物は苦手だろう?」
「ここは私達に任せて」


 バルザーは剣を収めて、エルレンとともに一歩下がる。


「では頼もう」
「ええ、まかせて」
「あんなのひと捻りだぜ!」


――キキキーッ!


 二人が前に出た所に、二体のダークエンピーが襲い掛かってきた。
 サルのような手の先についたカギ爪で、リーンとメイリーの体に組み付こうとしてくる。


「おっと!」
「そう簡単には掴まらないわ!」


 二人は素早く魔物の攻撃をかわすと、それぞれ魔法を唱えた。


『エンデ・アーテック!』
 -炎の飛礫-


『アクア・リューベ!』
 -水の飛矢-


 リーンの指先、メイリーの鉄扇。
 それぞれから火炎と水流が飛び出し、ダークエンピーの薄い翼を貫いた。


――クキャキャー!


 飛翔能力を失った魔物は、そのままバタバタと地に落ちた。


「その水どっから出てきたんだ?」
「女の子ならわかるでしょ?」
「あっ、そうか! ……って、わからねえよ!」


 メイリーは懐から短剣を取り出すと、二本の腕をジタバタさせて逃げようとする、魔物の元へと駆け寄った。


「どうするんだ?」
「魔物除けにするわ」


 と言って、一体の魔物の胸に短剣を突き刺す。


――ギャーー!


 そして詠唱。


『カルア・コルム』
 -氷柱-


 短剣を引き抜くと、そこに氷の柱が現れた。
 氷柱は魔物の体を貫いて、地表に突き刺さる。
 魔物はもちろん絶命する。


「釘付けにしておくのか」
「ええ、これでしばらく魔物は寄り付かないわ」


 そしてもう一体。


「悪く思わないでね」


 ダークエンビーは、まるで命乞いをするかのように、その黒くて丸い瞳をリーン達に向けている。
 だが、メイリーは容赦なくその胸に短剣を突き刺した。


――ギャ! ギャウウ……


 まるで観念したかような細い悲鳴を上げて、魔物は絶命する。
 そして速やかに地面に貼り付けられる。


「ううん……」


 リーンは、昨夜ヨアシュと話したことを思い出していた。
 なぜ魔物を退治しなければならないのか。
 そう自分自身に問いかけたことを。


「ダークエンピーは、この発達した腕で人間に組み付いて、その肉を食べようとするわ。そうすることで、少しでも人間に近づこうとするのね。子供が丸ごと連れ去られてしまうこともあるの。だからリーン、情けは無用なのよ」
「ああ、わかってるぜ」


 事が済んだのを見て、バルザーとエルレンが歩いてくる。


「うわぁ……」


 エルレンがはりつけにされた魔物を見て息を飲む。


「うわわぁ……」


 もう一体の方も見る。


「魔除けか。手馴れたものだな」
「まあね、スノーフルの人間なら誰でも心得ていることよ」


 そう言ってメイリーは、特に何の感慨もないと言った様子で街に向かって歩き出す。
 三人もそれ続く。


「でもリーン、ヨアシュには言わないでおいてね」
「ああ、わかってるぜメイリー」  


 リーンは一度だけ後ろを振り返って、魔物達の遺骸を見る。
 二組の死んだ目が、薄暗い空を見上げている。


「エイダがここの結界を張ったときには、千体の魔物を地に埋めたわ。結界は魔物の憎しみを根源にして生み出すの」
「人間が好きで寄ってくるんだもんな」
「ええ。いっそ敵意でもって近づいてくるのなら、良心の呵責もないのだけれど」
「まったくだな」


 エルレンとバルザーもまた、ついつい魔物の遺骸を振り向いてしまう。
 少年に至っては、ギュッと目をつぶって罪悪感に耐えているほどだ。


「すぐに馴れるわ、エルレン君」
「は、はい……」


 メイリーだけはけして振り返らなかった。













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