ガチ百合ハーレム戦記

ナガハシ

再会、呪術士エイダ

 くうぅ……あふぅ……


 オオオ、イエース……


 ら、らめえぇぇ……




 ハーレムに入ってすぐ耳に入ってきたのは、女たちの喘ぎ声だった。


「なんだ……?」


 リーン達は、近くのベッドの影に隠れて様子を伺う。
 あちこちから、女のなまめかしい声が響いてくるが、そのような行為がなされている様子はどこにも無い。
 女達はみな、天蓋付きベッドの中で、きちんとシーツを被って横たわっているのだ。


「寝ているようで……?」
「寝ていないんだガル?」


 そっと覗き込んだベッドの中には、高貴な出自を思わせるブロンドの美女。
 何か悪い夢でも見ているように、びっしりと額に汗を浮かべ、切なげに喘いでいる。


「どこの方かしら?」
「金持ちんとこのお嬢様っぽいな……ちょっと調べてみるか」


 リーンはふところからレベルモノクルを取り出した。


 灰色魔術師 女
 Lv43 金属性


「……なっ?」


 予想外のレベルの高さに、リーンは思わず息を飲む。


「どうなの?」
「魔術師だ……。しかも灰色」
「ええ?」
「ゲンリ殿と同じガル?」


 ああん……ううん……


 三人は改めて、ベッドの上で喘いでいる女を見た。
 どうしてそんな高位の魔術師が、こんなところで寝ているのか。
 さっぱり見当がつかない。


「ほかのベッドも見てみよう」
「そうね」
「ガル」


 腰をかがめ、こそこそ這うように歩く。
 そして隣のベッドへと移る。


 ダークマージ 女
 Lv28 魔属性


「うほっ!?」
「これは見た目からしてもう……」
「魔物ガル……」


 それは濃灰色の肌を持つ、魔物の女だった。
 真っ白な髪の毛に、紫色の唇。
 恐ろしく巨大な乳房が、シーツの上に豊かな二つの山を作っている。


「こんな人間みてえな魔物、初めてみたぜ」
「私もよ、それにしても」
「でかいガル」


 三人は同時に自分の胸に手を当てた。
 そして大きさを確認するようにして、揉む。


「けしらんチチだなー」
「まったくね」
「なんだか悔しいんだガル」 


 そしてしばし、二つの豊満な山を眺めた。
 女の呼吸にあわせて、上下に動くそれは、仰向けに寝ているのに形がまったく崩れない。
 まさに理想郷のようなバストだった。


「いやまて、そんなことより」


 どうして魔物の女がこんなところに?
 三人はしばし首を傾げて考えるが、わかるはずもない。


「……つんつく」


 リーンはその女の胸をつついてみた。


 オーウ……、オーウイエー……


 魔物の女が身をよじってあえぐ。
 人間の胸と同じような柔らかさがあり、なおかつ敏感だった。
 ただし、サイズは魔物規格。
 まさに魔乳。


「飼料カボチャだってここまでデカくならねーぜ」
「国王の趣味なのかしら」
「あんまり良い趣味じゃないガル……」


 続いて、もう一つ隣のベッドに。


 暗黒祈祷師 女
 Lv50 魔属性


「なあ、ここ本当にハーレムか?」


 リーンがそう疑うのも無理はなかった。
 その女の肌は青白く、なおかつ無数の紋様が刻まれている。
 全身から、目に見える程の魔力が、陽炎のように立ち昇っている。


 フオオオオオ……。


「こっちも魔物なの……」
「しかも、ただの魔物じゃないガル」


 ランの背中の毛がビンビンに逆立っている。
 リーンは念のためにと、自分のレベルを確認してみた。
 もしかすると、レベルモノクルの調子が狂っているのかもしれない。


 勇者 女
 Lv36 炎属性


 前に調べたときより強くなっていた。
 ひとまずモノクルは正常に機能しているようだ。
 続いてメイリーとランのレベルも調べる。


 魔法忍者 女
 Lv25 水属性


 リバ族の守人 女
 Lv10 風属性 


 二人とも強くなっていた。
 ともに危険を乗り越えてきた経験が、早くもレベルに反映されている。
 肩書きも微妙に変わっている。


 ウフッ……ウフフフ……フアッ、フハハハハ。


 だが、いま目の前で怪しく喘いでいる女のレベルとは比較にならない。
 おそらく三人束になっても勝てないだろう。
 もし、いまこの魔物が目を覚ましたら……。
 想像しただけで背筋が凍りつく。


「起したらどうなるんだぜ?」
「考えたくもないわね」
「きっと、タダではすまないガル」


 三人はレベルモノクルを手に、ハーレムにいる女の素性を調べていった。




 * * *




 国王のハーレムと思しき場所には、計44台の天蓋付きベッドが置いてあり、そのうち43台に女が眠らされていた。
 その内訳は、人間の女が18人に、魔物の女が25人。
 彼女たちはみな、高い魔力をもった者達で、そのレベルは平均して40を超えていた。
 中にはゲンリのレベルモノクルでは計れないほど高レベルな者もいた。
 一台だけ空いているベッドには、まだ温もりが残っていて、シーツも乱れていた。
 つい先ほどまで、誰かが使用していたのだ。


 はぁ……はぁ……はぁあああん
 あうっ、あうあう……うあー……
 ホゲラッ……ホゲラァーン……


「むせ返るようだな」
「眩暈がしてくるガル」
「一体何のためにこんな……」


 三人の背筋にムズムズと、怪しい衝動が駆け登る。
 室内に立ち込める、魔界の瘴気のような色香にあてられているのだ。
 とかくこの場所は、高い魔力を持つ女達に、淫靡な責め苦を与えるための場所であるらしい。


 その目的はわからない。
 単に国王の趣味なのだとしても、気味が悪いことこの上ない。


「俺は認めないぜ。こんな場所がハーレムだなんて」


 これではまるで、何かの実験みたいじゃないか、とリーンは思う。
 ハーレムというのはもっとこう……華やかで……楽しくて……幸福感に満ち溢れた場所であるべきだ。
 そう、強く思う。


「先に進もう。ここには絶対何かあるぞ」


 そしてリーンは、奥の部屋へと繋がる通路に足を踏み入れた。
 メイリーとランもそれに続く。
 その細長い通路を歩いていくと、程なく曲がり角に突き当たった。
 どこからともなく、水の流れ落ちる音が聞こえてくる。


「ガル?」


 ランが何かの気配に気付いてリーンの裾を引っ張った。


「……人がいるガルっ」


 三人は通路の壁に背をつけて、覗き込むようにして曲がり角の先を見た。
 遠くの壁にしつらえられた祭壇の上に、ザアザアと清水が流れ落ちている。
 先ほどからずっと聞こえている水の音は、そこから響いてきているのだ。


――うふふ、チェックよ?
――オオーウ、フーム……


 水音にまぎれて、人の話し声が聞こえてくる。
 目をらした先には、豪華な革張りの椅子がニ脚とチェスの台が一卓。
 そして、その椅子に座ってチェスを指しているのは、ローブをまとった二人の女だった。
 彼女らの周囲には、色とりどりの花が生けられた壷が並んでいる。
 その奥には、夥しい量の書物を収めた書架があった。


「……!?」


 メイリーが口元を手で覆った。
 その両目を大きく見開いて、彼女たちの姿を凝視する。
 一人は純白のローブを着た短い黒髪の女。
 もう一方のプラチナブロンドの黒衣の女は、恐らく魔の者。


「エイダ……?」


 メイリーはまるで引き寄せられるように、通路の先へと足を踏み出した。


「ちょ、まてっ、メイリー!」
「エイダ……エイダ!」


 だが彼女の耳にリーンの言葉は届かなかった。
 メイリーは脇目もふらずに、チェスを指している女たちの元に向かって走っていく。


「ランっ、追うぞ!」
「わかってるガル!」


 リーンとランも角から飛び出す。
 石畳の上を駆ける三人の足音が、通路にこだまする。
 チェスを指していた二人の女が、それに気付いてこちらを振り向いた。
 メイリーはそのまま通路を駆け抜け、彼女たちのいる部屋へと入って行った。
 リーンとランも、遅れて追いつく。


「はぁ……はぁ……」


 肩で息をするメイリー。
 突然彼女らの前に現れた三人だったが、その二人の女は、別段驚く様子も見せなかった。


「あらあら、こんなところまでよく来たわねっ。メイリーちゃん」


 純白のローブの女は、事も無げにそう言った。


「ワアォッ、ニンゲン、サン!」


 魔物の女は、嬉々とした表情でリーンを見つめてくる。
 そして何の躊躇もなく、リーンを抱きしめてきた。


「うおっ、うおおおおっ?!」
「ニンゲン、ニンゲン……!」


 リーンの頭は、あっというまにその魔乳の谷間に飲み込まれた。


「もがもが……うほほっ」
「あらあらっ、ルーザったら」


 純白のローブの女は、あどけない子供のような笑顔でその様子を見つめていた。
 両耳につけられた翡翠の耳飾りがキラリと光った。


「エイダ!」


 メイリーは、そう叫んで彼女に抱きつく。


「会いたかった! 無事だったのね!」
「うふふふ、まあね。こんなところに閉じ込められてはいたけれど」
「どうしてこんなことに?!」
「色々とね。とりあえず落ち着きましょ? そちらの方達もことも知りたいし」


 と言ってエイダは、リーンとランの方を向いた。
 そして、ルーザと呼ばれた魔物の女に目配せして、リーンを解放させた。


「初めまして。わたくし、スノーフルの呪術士、エイダと申します」


 そしてうやうやしくお辞儀をする。
 その端正な顔立ちはまるで人形のように可憐で、絶えず柔らかな笑顔によって彩られている。
 キラキラと輝く純白のローブとも相まって、まさに雪の精と例えるにふさわしい姿だった。


「俺はリーンだ。メイリーから話は聞いてるぜ」
「ランガル。メイリーにはいつもお世話になっているガル」


 エイダは二人に向かって手を差し出す。
 そして順番に握手をかわす。


「うふふふ、よろしくね、お二人ともっ」


 その屈託のない笑顔は、陰気な地下ハーレムに咲く、一輪の野花のようだった。













コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品