ガチ百合ハーレム戦記

ナガハシ

幻惑、暗闇の水路

 三人はハーレムの地下部分をぐるりと一周した。
 途中、幾つかのT字路と交差路があったが、全て無視して確実に戻ってこられる経路を歩く。


「オレンジの匂いガル」


 ランの鼻がひくひくと反応した。
 三人は手分けして通路に置いてあるはずの石を探った。


「あったぜ。丸い石だ」


 三人はちょうど「ロ」の字を書くように水路を歩いてきた。
 そしてその四隅にそれぞれ、丸、三角、四角、六角の石を置いた。
 この四点が、目くらましの迷宮を抜けるための基準になる。
 今リーン達がいるのは、「ロ」の字の左下の角だ。


「じゃあ今度は、最初のT差路を右に曲がるわ」
「おうっ」
「ついに本丸突入ガル」


 三人は最初のT差路を右に曲がり、そのまま真っ直ぐ歩いていった。
 途中で一箇所の交差路と、左側へと別れるT字路を見つけた。
 だが三人はそこを素通りし、真っ直ぐ「ロ」の字の右辺に向かって歩いた。


「むっ、なんか変だぜ」
「歩数からいって、もうとっくにこの通路を抜けているはずよね」
「ガル」


 結局三人は、予想していたよりも50歩ほど長い距離を歩いて交差路に出た。
 そこを右折し、「ロ」の字の右下角であるはずの場所に向かう。
 正しければ六角形の石を発見できるはずだ。


「あったぜ。六角形だ」
「どうやら、距離を狂わせる術がかかっていたようね」
「ガルッ? 人の気配ガル……!」


 三人は慌てて声を殺した。
 一つ向こうの通路を、何者かが歩いていく。
 照明などは持っておらず、真っ暗闇の中を気配だけが通り過ぎていく。
 侵入者に己の姿を見せないよう、徹底しているのだ。
 ほどなくして、彼らは遠くに去っていった。


「二人組みのようだったけど」
「衣擦れの音がしたガル、たぶん魔術師ガル」
「真っ暗なのに普通に歩いていったぜ?」
「相当歩き慣れてるのね。目を瞑っていてもわかるのよ」
「うへぇ、あんな仕事したくねー」


 次に三人は、そこから「ロ」の字の右上角に向かって歩いていった。
 そして最初の交差路を左に曲がる。
 先ほど通ってきた経路を逆に進む形だ。
 だが今度は、そこから最初のT字路を右に曲がる。
 そして「ロ」の字の上辺を目指して歩いていく。
 上辺に行き当たったら、さらに右に曲がって「ロ」の字の右上角を目指す。
 正しければ、そこに四角形の石を発見できるはずだ。


「あれ? これ違うぜ」


 リーンが掴んだのは六角形の石だった。
 右下角からハーレム下部の通路を通って右上角を目指したつもりが、実際にはもと居た場所に戻ってしまった。


「不思議ガル」
「これが目くらましの術ね。真っ直ぐ歩いたはずなのに曲がっていたり。右に曲がったはずなのに実は左に曲がっていたり、折り返していたり……」
「めんどくせーなっ」
「いまここに戻ってきた理由は、T字路を右に曲がった時に、実は180度折り返していたってことになる」
「どうすりゃいいんだよ。曲がらずに真っ直ぐ進めばいいのか?」
「それはやってみればわかるわ」


 三人はもう一度先ほどの経路を辿り、途中で右折することなく「ロ」の字の左下を目指して歩いた。


「丸い石ガル」
「ちゃんと来られたわね」
「うがー、なんなんだよー」


 三人はそこから、さらに同じ経路を「ロ」の字の右辺方向へと引き返し、その途中で、術がかけられていると思しきT字路を左折した。
 そして再び「ロ」の字の上辺に向かって歩き、突き当たりで右折して四角形の石のある角を目指した。


「オレンジの香りがしないガル」


 だが、そこに基準の石はなかった。


「もう一本先の交差路まで行ってみましょう。あのT字路にかけられているのが折り返しの術だとしたら、一本先で三角形の石が見つかるはずよ」
「頭が痛くなってきたぜ」


 三人は、その交差路を真っ直ぐ通り抜ける。
 そしてその先で、予想通り三角形の石を発見することが出来た。


「どうやらあの交差路は、絶対に曲がれないようになっているのね」
「これじゃ、どうしようもないぜ」
「うん、でもきっと方法があるはず。誰も通したくないなら、いっそ壁で塞いじゃえばいいんだから」
「確かにな。そうしないってことは、通れるようにしておく必要があるってことだ」
「そうね、どんな理由かは知らないけれど」
「秘密の抜け道とかじゃねーの? 非常用の脱出口とかさ」
「ともかく、ちゃんと通れるようになっているのは間違いないのよ」
「考えても埒があかないガル。真実は足を使って見つけるガル」


 その後、三人は四つ角に置いた石を頼りに、水路にかけられている術のしくみを調べていった。




 * * *




 地下運河を歩き回ることはや一刻。
 時は既に深夜を過ぎた。


「かなりわかってきたな」
「もう一息ガル」
「あとわからないのは、あの、折り返しの術に囲まれた交差路ね」


 メイリーが言ったのは「ロ」の字の中にある「井」の字状の水路、その右上の交差路のことだ。
 以下、地下運河の水路図。




 ■■■■■
 ―③―×―□―④―
 ■■■■■
 ―×~○―?―○■
 ■■☆■■
 ■―○―○~――
 ■■■■■■
 ―◎―――――⑥―
 ■■■■■


 ○ 曲がろうとすると折り返し
 ~ 距離が狂う通路
 × 左右反転 
 ? 不明
 □ 必ず直進
 ◎、③、④、⑥ 基準の石




 つまり?印の交差路のことである。
 リーン達は現在三角形の基準石の置かれた交差路にいる。


「ひとまず通り抜けてみるか」


 三人は「ロ」の字の左上の角から左下の角に向かって歩き、最初の交差路を右折した。
 左右反転の術がかかっているため、実際には左折することになる。
 そして折り返しの術がかかっている交差路を通り抜け、そのまま?印の交差路へと踏み込んだ。


「直進するぜ?」
「直進ね」
「ガルガル」


 そしてさらに歩くと、また交差路が見えてきた。


「曲がりましょう、どっちでもいいわ」
「んじゃ左で」
「なんだか嫌な予感がするガルよ」
「不吉なこというなよランー」
「でも嫌なものは嫌なんだガル」
「行ってみればわかるさ!」


 だが、ランの予感は見事に的中した。
 三人は完全に基準の石を見失ってしまった。


「ここはどこなんだっ」
「オレンジの匂いが完全に消えたガル!」
「お先真っ暗闇ね……」


 そして当て所なく彷徨うこと半刻。
 三人は四角形の石がある場所に、奇跡的に戻ってくることが出来た。


「なにか恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」
「たぶん私達は、内側から直進の術の交差路に突っ込んだのね。ということは……」
「謎の交差路では、真っ直ぐ進んだはずが左に曲がったってことか」
「そうなるガル」
「さしずめ、『必ず左折』の術ってとこかしら」
「まだ断定は出来ねえけどな」
「直進の術の交差路に、外側から入ってみればわかるわ。行きましょう」


 三人は「ロ」の字の外の通路を歩いて、外側から直進の交差路に入った。
 そして再び、謎の交差路。


「どうする。右か、左か、まっすぐか」
「『必ず左』ならどれを選んでも同じ結果が出るはずね。行き着く先はT字路よ」
「あのT字路は折り返しの術がかかっていたよな、確か」
「そうガル。必ずこっちに折り返してくることになるガル」
「そして必ず左折になって……おおう」
「いままでどうやっても行けなかった、あの通路に入ることになるわ」
「なんか……いよいよって感じじゃねえか?」
「通り抜けた先には何があるかしら。何もないとは思えないんだけど」
「でも行くっきゃねえだろ。どうだラン。嫌な予感はするか?」
「嫌な予感は半端ないガル。さっきから背中の毛が逆立ってるガル」
「そうか、へへへ。じゃあ大丈夫だな」
「意味がわからないガル」
「危ないことが危ないってわかってりゃ、大抵のことは危なくねえんだよ」
「すごい屁理屈!」
「リーンらしいガル」
「よし、行くぞ。右に曲がろう」


 そして三人は、謎の交差路に足を踏み入れた。
 その先に見えたものは。


「…………T字路だ」


 そしてそのT字路を右に曲がる。
 折り返しの魔法が効いて、三人は元来た道を戻っていく。


「十字路だ」


 三度、謎の交差路。


「なんだか頭の中がごちゃごちゃだな」
「眩暈がするガル」
「だれがこんなこと考えたのかしら」
「よっぽど暇な奴だったんだろうよ。よし、ここは左に曲がるぜ。最後くらい、曲がろうと思った方向に曲がりたいからな」
「まったくガル」
「二人とも、何が待ち構えているかわからないわ。気を引き締めて」


 リーンは額の汗をぬぐった。
 全身の毛が逆立つ思いがする。
 ここから先は本当にやばい。
 そんな予感が、通路の先からひしひしと伝わってくる。


 高鳴る鼓動を抑え、大きく息を吸う。
 そしてゆっくりと吐く。


「ふう……」


 呪われた剣を握りしめる。


「じゃ、行くぜ」


 そして三人は交差路を曲がり、未知の通路へと踏み込んでいく。













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